ふたたび王都へ
アレフ一行に助けてもらった私は、馬車でふたたび王都に戻ることになった。
王国軍にとって勇者は魔王軍に対抗する重要な戦力であるが、外部に対してのみ戦力を固めてしまうと、王国内部が手薄になってしまう。そこで、王国内部の法執行力を高めるために王国軍憲兵勇者隊を創設し、勇者の中でも特筆して強い者をそこへ引き入れた。
王国軍憲兵勇者隊隊長のアレフは、その中でも群を抜いて強いとされている。数十種類のチート能力をはじめ、剣術・魔法・体術についてもピカイチであった。
しかし、酒場で聞いた話によると、転生前のアレフはブラック企業の冴えないサラリーマンであったらしい。収入の少なさから彼女に見放され、激務によって鬱病を発症し、街を彷徨っていたところをトラックに轢かれてこの異世界に転生したという。転生後の人生は前と比べて充実しているという。
「ですが、なぜそこまで強いのに、魔王軍と戦わずに、王国軍憲兵勇者隊に入ったのですか?」
私は素朴な疑問からアレフに尋ねた。
「王国軍憲兵勇者隊に入った理由は簡単だ。ここでは死ぬことは無いのに金がたくさんもらえるからだ。」
続けて戦争についての持論を語った。
「魔王軍との戦闘は確率の問題と言ってもいい。たしかに自分が戦えば99%は勝つ。
でも、もしそれを100回繰り返したらどうなる?
100回繰り返して生きている確率は0.99の100乗でおおよそ37%しか生き残れない。
戦争では100回の戦闘では済まない。魔王軍とずっと戦っていたらいつかは俺も死ぬ。
だから、俺はとにかく武勲を立てることにした。武勲を立てれば、王国軍憲兵勇者隊に入隊出来て、王都に帰れるからだ。
そこで俺たちは死ぬ気で戦った。あらゆるチート能力を使って、2年かけて何とか魔王の幹部の七賢将の1人をなんとか打ち倒すことができた。
それは王国軍で今までに類を見ない偉業だった。だから俺はいま王国軍憲兵勇者隊の隊長をやらせてもらっている。」
「逆に、あんたはなんで何の能力も貰えずに転生させられたんだ?」
当然の疑問を向けられた。
私は、転生前は尊敬する人物のために汚れ仕事をやっていて、当時はそれが正しいことであったと信じて行っていたが、転生時に神らから否定され、無能力で転生することになったとアレフに話した。
アレフはどんな汚れ仕事なのかかなり興味を示していたが、そこは全力ではぐらかした。
しかし、アレフは私のことを気に入ってくれて、雑用をしてくれれば、しばらくの間面倒を見てくれるということだった。
私にはお金も力も何もないため、喜んで了承した。
すると、さっそく雑用をお願いされた。
憲兵勇者隊の同じ班(つまり、私が助けられた馬車の一行)の魔法使い、フレイヤが所望する魔導書を国立図書館から取り寄せてくるというものであった。
フレイヤと再会する。スライムから助けてもらった時から二度目の顔合わせになる。
フレイヤは20歳くらいの女性であり、オレンジ色の髪が特徴である。顔は美人な方であるが、少し性格がキツそうな顔をしており、実際性格は少し辛辣である。
転生者ではなく、アレフが仲間にした地元の魔法使いである。しかし、魔法使いとしては優秀であり、火属性だけでなく、水・氷・風・地属性などのあらゆる魔法が扱える。
「あの時は助けていただきありがとうございました。」と私が言うと、
「よくあることだから、別にいいのよ。」とお返しされた。
私を笑ったことに対しての謝罪は特に無かった。
私は魔導書の名前のメモを渡され、「3時間もあればできるよね。」と言われたので、3時間以内に魔導書を持ってくることになった。
王都の中を20分ほど歩くと、古いレンガ造りの建物の前に立った。門には国立図書館と彫られている。建造されてから数百年は経過していると思われるが、基礎がしっかりしているからか、倒壊しそうな感じはない。
中に入ると、図書館司書が暇そうに本を読んでいるので、魔導書のメモを渡して探してもらうように頼んだ。司書は面倒くさそうにしながら、今から探しますので待ってて下さいと言ってどこかへ歩いて行った。
自分は完全に暇になったので、図書館の本を眺めることにした。
本棚にある本はほとんどが魔導書であり、書いてある内容についてはさっぱりであった。
しばらく本棚を眺めて歩いていると、少し外装が新しい本があることに気が付いた。
その本を手に取る。本の題名は私の興味を引くものであった。
「魔物にも心はある。」




