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異世界で「勇者」になるまで


異世界に転生して私はヨナン修道院に拾われた。

話によると、転生者は両親から生まれるのではなく、赤子の状態で町中に突如出現するらしい。そのため、ほとんどの転生者は修道院に引き取られるという。


ヨナン修道院のある村は王都からそれほど離れておらず、治安も比較的良い環境であった。

私はそこで「ルーク」と名付けられ、他の転生者たちと一緒に育てられた。

転生者はヨナン修道院だけでも30人程度いた。

食事の際には、転生したときに自分はどんなスキルを貰ったかという話で皆盛り上がっていた。逆に転生前の生活を聞くことはタブーになっており、誰もその話をしようとはしなかった。


ヨナン修道院では、まず転生者は異世界の言語や歴史の教育を受けさせられた。

この講義でこの異世界が、中世ヨーロッパに近い文化を持っていることを知ることができた。

その後は、魔法の素養がある者は魔術の講義を受け、それ以外の者はひたすら剣術の訓練をやらされた。


修道院はただ善意によって転生者を引き取って育てているのではない。

転生者を「勇者」に育て上げ、「魔王」討伐隊として送り出すためにコストを支払っているのである。


私はその修道院の落ちこぼれになっていた。


無能力で転生したのだから無理もない。他の転生者は魔法で爆発を起こしたり、剣を振った衝撃波で木を切り落としたりしている中で、自分ができるのはせいぜい剣を振って木に傷をつける程度である。それでも修道士たちからは剣術の練習を続けるように言われた。


そんな中でも私には心の支えがあった。

同じ転生者の友人の「グレゴリー」である。

グレゴリーも私と同様に特殊能力を渡されずに転生させられた人間であり、年も私とほとんど変わらなかった。しかし、グレゴリーはその現状を受け入れ、落ち着いていた。


他の転生者たちに見下され、馬鹿にされることが何度もあったが、その度にグレゴリーと私はお互いを慰めあった。グレゴリーがいてくれたから今までやっていけたといっても過言ではなかった。


しかし、私が13歳になったとき、そんな日々にも終わりが来た。

グレゴリーが勇者にならず、この村の農民になることになった。

それは、本人の希望であった。


転生者が勇者にならず、農民や商人になることはこの王国の法律で認められていた。しかし、それは極めて稀なケースであり、ほとんどの転生者は勇者になり魔王に立ち向かう定めとなっていた。そもそも、生まれたばかりの転生者を修道院で育てるための費用は、王国の税金によって賄われている。勇者として送り出すために貴重な血税を費やしたのに、農民になったとなれば、王国民から反感を買うのは必至である。


それでも、グレゴリーは農民になることを望んだ。

その理由を尋ねてみたが、答えてはくれなかった。


グレゴリーはあっという間に修道院から去っていった。


それから先も私は無能力であるのに剣術の訓練という、勇者になるための気休めでしかない無駄な作業を繰り返していた。


そんなことを繰り返すうちに、私は16歳になった。

16歳は修道院の転生者を勇者として王都へ送り出す年齢であった。

この年まで剣術の訓練をした甲斐もあって、剣の扱いには少し慣れたが、他のチート級の能力を持つ転生者と戦闘力を比べたら、月とスッポンである。


そして、そんなチート級の能力を持つ転生者が何人も勇者として送り出されているのに、魔王が討伐されたという報告は一向に挙がってこない。つまり、そのチート級の転生者ですら魔王には敵わないのである。


なにが言いたいかといえば、もし、私が勇者になった場合、確実な死が待っているということである。


しかし、今さら農民や商人になるかと言えば、それも難しかった。

グレゴリーが農民になってからの噂は修道院にいる全員が知っていた。

農機具を隠されることは日常茶飯事であり、井戸の水もほとんど使わせてもらえず、日常的に転生者のくせに勇者にならなかった臆病者と笑われていた。


私に残された選択肢は、勇者になって死ぬか、農民になって村人の精神的なサンドバッグになるかであった。


「転生したからと言って、何かをしなければいけないわけではありません。新しい人生を謳歌してください。」


転生の際に部長のような男が答えた言葉が今思い出された。初めは応援の言葉であると思っていたが、今になって考えると皮肉にしか聞こえなかった。


しかし、転生先でも尊厳を踏みにじられ続けるつもりは私にはなかった。


「ルーク、お前は勇者になるのか?」


修道士が私に尋ねた。


「はい。今まで育てていただいた御恩に応えられるよう務めを果たします。」


そう答えると修道士は安心した様子だった。転生者が勇者にならないと困るのは本人だけではなく、輩出した修道院も名誉に傷がつくのである。勇者になったら無能力の私が真っ先に死ぬであろうことを修道士も理解しているが、勇者として送り出した後のことは修道院の責任ではないのである。


「よくぞ言ってくれた! みな!ルークに拍手を!」


修道院にいた修道士、転生者から拍手が送られた。

太平洋戦争の特攻隊になった気分であった。


その日に私は馬車で王都へ送られた。


王都では私のような勇者になるために集められた転生者が300人ほどいた。

転生者は王宮の中央ホールに集められた。


中央ホールは2000人ほどが収容できるほどの大きさであり、舞台の中央には玉座があり、国王が座っている。国王が合図をすると、担当の大臣が玉座の前に立ち、こちらを向いて声を張り上げた。


「転生者の諸君。よくぞ来てくれた。

 現在、王国は魔王軍との戦争状態にある。

 

 かつて王国軍は魔王軍に対して、極めて劣勢を強いられてきた。

 国境周辺の村々は次々に占領され、王国の強固な砦も攻略されていった。

 王国の領土は急速に縮小し、食料の調達も困難になった。


 しかし、神は我々を見捨てていなかった。

 諸君らのような転生者が現れたのである。

 転生者は皆、特殊な能力を持っており、戦闘となれば一騎当千、次々と占領された領土を取り返していった。

 我々は、彼らのことを「勇者」と呼んだ。


 しかし、対抗する魔王軍の数もはかり知れず、多勢に無勢、勇者たちも次々と命を落としていった。

 君らの中にも、魔王軍との戦いによって死ぬ者が必ず現れるであろう。

 

 しかし、魔王が打ち倒されない限り、この王国に平和は訪れない。

 どうか、勇者諸君よ、魔王を倒してくれ。」


演説が終わると、ホールの横から従者たちが現れ、転生者1人1人に鋼の剣、青い勇者の服と王国軍の徽章を手渡した。

転生者は皆、勇者の服に着替え、王国軍の徽章を胸に取り付けた。勇者の服の肌触りは良く、製造に金がかかっていることが感じられた。


青い勇者の服を着た人間が300人いる光景は、少し滑稽であったが、その後のことを考えると、笑っていることもできなかった。

300人の勇者たちはお互い特に会話をすることなく、バラバラと王宮の外へ出て行った。


こうして、私は「勇者」になった。


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