スケープゴート
集団ストーカー百三十三日目、グリニフェス卿 (愛称:グリやん)は、度重なる集団ストーカーによって、精神が完全に疲弊していた。もはや、ターゲットのグリニフェス卿が問題を起こし、七賢将の座を追われるのは時間の問題となっていた。
ここで、私としては今行っている集団ストーカーにさらにアレンジを加えたいと考えている。このまま行けば、間違いなくターゲットは自殺、または他者を殺害し処分されるだろう。そうすれば、七賢将の席が一つ空く。しかし、その空いた席にニューマン将軍などの、自分の息のかかった人物が就くとは限らない。そのため、なるべく多くの七賢将の席を空けておきたい。
そのためにはどうすればよいか?
それは簡単である。ターゲットに他の七賢将を殺させればよいのである。そうすれば、殺された七賢将と殺したターゲットの二つの席が空く。
一度の集団ストーカーによって、二倍の成果を上げることができるのである。
ターゲットに他の七賢将を殺させる方法は既に決まっている。それは、ターゲットに今まで行ってきた集団ストーカーの黒幕が、他の七賢将であると信じ込ませればよいのである。実際には他の七賢将が集団ストーカー部隊に指示を出しているということはない。しかし、あたかもそうであるように集団ストーカー側が振舞うことによって、ターゲットに他の七賢将がその黒幕であると信じ込ませるのである。
今回、スケープゴートに選んだ七賢将は友愛者 アミシティアである。選んだ理由としては、まずアミティシアはニューマン将軍の上司であるため、ターゲットがニューマン将軍を疑っている今の状態で”黒幕”として筋が通る。また、ニューマン将軍はアミティシアの部下であるため、もし、アミティシアの席が空けば、ニューマン将軍がそのまま七賢将に選ばれる可能性が高い。そして、何よりもアミティシアは友愛者という性格上、集団ストーカーという行為を許容しないだろう。そのため、こちら側に取り込むことはできないと踏んでいる。さらに、交友関係があまりに広いため、七賢将で最も集団ストーカーを行うのが難しい。したがって、グリニフェス卿に始末してもらうのが最もスマートな解法だった。
集団ストーカー百三十四日目、グリニフェス卿が魔宮の中を歩いている。下級魔物2体にすれ違い様に大笑いするアンカリングを行わせた。ターゲットは背後で笑われて苛立ちを隠せないでいる。そのとき、笑い声が”プツッ”と途切れた。グリニフェス卿が後ろを振り返ると、さっきまで笑っていた下級魔物2体が緊張した様子をしている。そのとき、声を掛けられる。
「先週は余計な追及をしてしまい、申し訳ありませんでした。」
友愛者 アミティシアが謝罪してきた。
「いや、私こそ会議中に取り乱してしまい、申し訳なかった。」
グリニフェス卿が謝罪した。
「何かありましたら、相談に乗りますので、よろしくお願いします。」
アミティシアはそう言うと去っていった。
アミティシアが去ると、下級魔物の緊張が解けたようで、会話を始め去っていった。その様子にグリニフェス卿は不自然さを感じながら魔宮を後にした。
もちろん、この下級魔物の振る舞いはアミティシアを”黒幕”に思わせる”演技”である。いや、厳密には演技ではない。この下級魔物たちは本当にアミティシアが”黒幕”だと信じ込んでいる。集団ストーカーの情報部隊が実行部隊の下級魔物に対してそのように伝えたのである。末端の実行部隊が本当のことを知っている必要はない。むしろ、アミティシアを本当に”黒幕”だと信じ込んでいる方が、自然な振る舞いとなり、信憑性が高くなることで、ターゲットを騙しやすくなる。
その後もアミティシアを”黒幕”と思わせる作戦をひたすら繰り返した。
具体的には、アミティシアがターゲットと同じ空間に居るときは、一切アンカリングなどの集団ストーカーと思われる行為を行わなかった。これは一見、”黒幕”と思わせるのには逆効果に思えるかもしれない。しかし、ここまで様々な集団ストーカーを受けた被害者としては、集団ストーカー行為が一切行われないという状況に、逆に強い違和感を感じるようになる。そして、その違和感が布石となるのである。
最後に、仕上げを行う。
集団ストーカー百六十七日目の夜、在宅し魔法の研究をしているターゲットに対して、右隣の部屋に”特別な”下級魔物を配置し、会話をさせた。
「もう”集団ストーカー”するの疲れたよ。」
グリニフェス卿が右隣の部屋の会話に集中する。
“集団ストーカー”という単語をグリニフェス卿は今初めて聞いたが、それが自分に対して行われている監視・いやがらせであることを瞬時に理解した。
「おい、そんなこと言うなよ。あとちょっとじゃんか。」
「早く集団ストーカーをやめたいよ。でも”あのお方”がやれっていうから。」
「“あのお方”のためなんだから仕方ないだろう。」
「アミティシア様・・・あっ」
「おい!名前を言うな!」
名前を聞いた瞬間にグリニフェス卿の頭の中で全て繋がる。
1:ニューマン将軍だけで集団ストーカーという大それたことができるのか?
2:アミティシアはニューマン将軍の上司だ。
3:アミティシアがニューマン将軍に命令して集団ストーカーを行うことは可能だ。
4:今までいやがらせを行ってきた下級魔物がアミティシアの前では何もしなかった。
5:それはアミティシアが黒幕であることを発覚させないための配慮だったのではないか?
6:アミティシアが黒幕なら集団ストーカーの全容を知っていてもおかしくない。
7:アミティシアが会議でニューマン将軍を疑う理由を追及したのは、自分が透視魔法を使っており、それが口外できないことを理解していたからではないか?
8:自分に対して謝罪してきたのも、自分が黒幕であることを隠すための行為だったのではないか?
9:今まで築いてきた交友関係も集団ストーカーによって築かれたのではないか?
10:だとしたら、これは魔王軍最大の危機である。
「フッフッフ・・」
グリニフェス卿が静かに笑う。
「アミティシア、友愛者の肩書がありながら、陰でこんなことをしているとは・・・」
「魔王軍の平和のために、この命に代えても消えてもらうぞ。」
仕上げは無事に完了した。




