表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

テクノロジー犯罪


ターゲットに対する思考盗聴を集団ストーカーに組み込んでから一ヵ月が経過した。

つまり集団ストーカー八十一日目になる。

思考盗聴をはじめとする数々の”いやがらせ”は順調にグリニフェス卿の精神を蝕んでいった。それに対して、グリニフェス卿が行うことができる反撃は、依然として停車している馬車の識別番号をメモする事だけであった。

そして、グリニフェス卿の精神に異常があるという噂も順調に拡散しており、魔王軍七賢将の耳にも水面下で届き始めていた。


ここで、王国の王宮とニューマン将軍との間で会議が開かれた。

議題は「グリニフェス卿に対してテクノロジー犯罪を実行するか否か」である。

テクノロジー犯罪とは軍事用などによって開発された最新の遠隔身体攻撃兵器を用いたいやがらせのことである。具体例としてはアクティブ・ディナイアル・システムなどの指向性エネルギー兵器が挙げられる。これはアメリカ軍が暴徒鎮圧用に開発された対人兵器システムであり、ミリ波の電磁波を対象の人間に照射することによって、誘電加熱を引き起こし、皮膚の表面温度を上昇させることによって、対象に火傷を負ったような錯覚に陥らせる効果がある。このシステムは450m離れた対象にも効果があるが、数十mの範囲の対象に絞ることによって、手で運べるほどに小型化した装置も存在する。この装置を用いて、在宅中や外出中のターゲットに向かってミリ波を照射することによって、ターゲットにピリッとした刺激を与えるいやがらせを行うことができる。この装置の優秀な点は、ターゲットに明確な負傷を与えない点である。そのため、医療機関に相談しても、被害が発見されることはない。


しかし、テクノロジー犯罪にも欠点がある。

テクノロジー犯罪では強力な電磁波を用いるため、電磁波計などの計測器を用いて観測することができる。したがって、専門的な知識があるターゲットに対してテクノロジー犯罪を行うと、証拠が残る可能性があるのである。常に部屋の中を監視しているため、そのような動作があれば、実行部隊に連絡を入れればよいのだが、監視も完全ではないため、リスクはなるべく減らしておきたい。


テクノロジー犯罪と言っているが、もちろん、転生後のこの世界にはそんな最先端の装置があるわけない。そのため、テクノロジー犯罪と同等の効果のある魔法によっていやがらせを行う。しかし、ターゲットは魔法に最も精通していると考えられる魔王軍七賢将 魔導求道者 グリニフェス卿である。テクノロジー犯罪を行う魔法が解析され、証拠として残されると、こちらとしてはまずい。そのため、実行の可否を審議するために、今回王宮側とニューマン将軍側とで会議を行う運びとなった。


私としては発覚につながる行動は避け、安定行動を繰り返し、時間をかける戦法を支持していたため、テクノロジー犯罪の導入には反対の立場であった。しかし、ニューマン将軍としては、自身の出世がかかっているため、なるべく短期間で目的を達成したいという思惑があった。そして、集団ストーカーの実行部隊を有しているのはニューマン将軍であり、会議のイニシアチブを持っているのは明らかにニューマン将軍側であった。


会議の結果、グリニフェス卿に対してテクノロジー犯罪を実行することが決定した。しかし、こちら側としても、その手法の中に発覚を防ぐための最大限の譲歩をしてもらった。まず、テクノロジー犯罪の魔法を用いるのは、グリニフェス卿が魔法に対して無防備な状態であることを確認した場合に限ることとなった。そして、テクノロジー犯罪の魔法の実行者は目標を達成したら、すぐにその場から離脱する。その一方で、テクノロジー犯罪がターゲットに対して意図的に行われたことを、ターゲット自身に理解させるために、テクノロジー犯罪後にアンカリングを行う代役(エキストラ)を下級魔物(モンスター)から選出する。これによって、テクノロジー犯罪の被害によるターゲットの敵意(ヘイト)の矛先を実行者から代役(エキストラ)へ移す事ができる。代役(エキストラ)はテクノロジー犯罪とは表面上無関係であるため、追及を行っても無駄であり、代わりもたくさんいる。この方法によって、テクノロジー犯罪の発覚をなるべく避けつつ、テクノロジー犯罪を実行することになった。


集団ストーカー八十七日目、テクノロジー犯罪がターゲットに対して初めて実行された。実行はターゲットのグリニフェス卿が自宅の集合型住宅に在宅し、趣味の魔導書の読書中に行われた。趣味の時間を妨害をすることが、ターゲットに対して効果的に心理的ストレスを与えられるためである。テクノロジー犯罪と同様に強力な電磁波を発生させる魔法を習得したニューマン将軍の兵士を、ターゲットの居住している真下の部屋に待機させる。そして、テクノロジー犯罪後にアンカリングを行う代役(エキストラ)をターゲットの右隣の部屋に待機させた。


情報部の合図と同時に下階の兵士が魔法で強力な電磁波を発生させる。発生した電磁波は天井を通過し、ターゲットに直撃した。ターゲットは突如、ピリッとした違和感を覚える。それと同時に右隣の部屋から大きな笑い声が聞こえた。グリニフェス卿としては、今味わった違和感は、右隣の部屋の相手が関与しているに違いないと考える。しかし、右隣の部屋は壁があって確認できない。確認するには透視魔法を使う必要があった。グリニフェス卿は透視魔法など簡単に使うことができたが、透視魔法はプライバシーの観点から無暗に使うことが魔王によって禁止されていた。しかし、笑い声の主は明らかに下級魔物(モンスター)である。どうせ透視魔法を行っても相手は気付かないだろうとグリニフェス卿は考えた。そして1分ほど悩んだ後、グリニフェス卿は透視魔法を使った。


壁が徐々に透けていく、右隣の部屋には予想通り下級魔物(モンスター)が2体向かい合って座っているのが確認できた。周囲に杖などはなく、魔法を使った形跡はない。第一、あったとしても下級魔物(モンスター)には魔法が使えるはずない。つまり、今回の透視魔法の使用は無駄足であった。しかし、せっかく透視魔法を使ったので周囲をさらに見回してみる。左隣と上の部屋には普通に魔物(モンスター)が生活している。下の部屋には誰もいない。(もちろん、テクノロジー犯罪の実行部隊は既に撤退させてある。)周囲に異常は見られなかった。


そのとき、廊下を上級魔物(モンスター)が通り過ぎるのが見えた。甲冑をまとったリザードマンであることからニューマン将軍の部下であると推察される。上級魔物(モンスター)であれば、魔法を習得している可能性があり、自分が透視魔法を使っていることがバレる可能性がある。一瞬、緊張が走ったが、ニューマン将軍の部下はそのまま廊下を通り過ぎて行った。グリニフェス卿は安堵した。


もちろん、透視魔法を使ったことはニューマン将軍の部下にバレている。しかし、一回の透視魔法の使用を(とが)めても、あまり効果はなく、逆にこちらが透視魔法をターゲットが使うのを待ち伏せていたことが疑われてしまうリスクがある。そのため、今回透視魔法を使ったことは、記録を取り保管することにした。一度使用して問題ないと判断したグリニフェス卿は、また同様の被害を受けたら、透視魔法を日常的に使うだろう。それを全て記録することによって、ターゲットが異常な行動を行っていることを統計的に示すことができる。今回の記録はその布石である。


これで、集団ストーカーを行うためのカードがおおよそ揃った。細かく言えば、他にもレパートリーはあるのだが、今回の案件では今まで紹介した手法で十分と判断した。あとは今まで紹介した手法、アンカリング、衝突(コリジョン)キャンペーン、ほのめかし、思考盗聴、テクノロジー犯罪の組み合わせを機械的に繰り返し、ターゲットの精神が”破産”するのを待つだけである。焦る必要はない。


十数年集団ストーカーを行った実績のある自分の感覚では、グリニフェス卿は”もって一年”だろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ