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思考盗聴

※注意:この小説はフィクションです。


馬車の待ち伏せのアンカリングに咳払いのアンカリング、それにほのめかしを行い、ターゲットが反撃に出たら衝突(コリジョン)キャンペーンを行う。ただ、それを飽きずに機械的に繰り返し行う。それが集団ストーカーの基本である。実行部隊はうまく稼働しており、定型作業に慣れた結果、以前よりもそれぞれの行動が洗練されていった。


集団ストーカー四十九日目、ターゲットの監視を行っている情報部隊から連絡があった。連絡の内容としては、最近、監視しているターゲットに対して行っている読心魔法の感度が高くなっているというものであった。読心魔法は相手の思っていることを読み取ることができる便利な魔法である。しかし、制約があり、読心が可能なのはターゲットから25m以内の範囲に限られており、肝心の読心も”相手が心の中でつぶやいた言葉”のみ読み取ることができる。


今、私は読心魔法についての話をしたが、”相手が心の中でつぶやいた言葉”を読み取ることは、実は現実世界でも可能である。2025年4月にカリフォルニア大学バークレー校とサンフランシスコ校の研究チームによって、発話障害をもつ女性の脳信号からリアルタイムで音声を発声する技術が発表された。これは、外部の電極から脳信号を読み取るだけで、”考えた言葉”を出力できることを表している。アカデミアの領域における研究では最近開発された技術であるが、CIAでは2000年代に既に技術として確立されていた。CIAによる研究はさらに進んでおり、脳のどの部分に電極を埋め込めば読心が可能かも詳細に調べられており、数本のマイクロ電極を脳に差し込むことで、無線通信によってターゲットの読心が可能になっている。CIAと関係のある創値学会もこの技術を継承しており、専用のアプリをスマートフォンにダウンロードすれば、マイクロ電極が差し込まれたターゲットの25m以内にいることで、”心の中でつぶやいた言葉”をスマートフォンの画面に表示させることができる。


技術としては既に確立されている思考盗聴だが、その存在は完全に秘密にされてきた。思考盗聴は一見すると不可能に思える技術である。そして、思考盗聴を指摘する人物を異常者と見せかけるために、CIAは思考盗聴の被害者を自称する工作員を雇い、その工作員に支離滅裂な主張を展開させるキャンペーンを行った。このキャンペーンのおかげで思考盗聴の被害者は皆、異常者のレッテルが貼られることになり、真の被害者の言葉は、他の支離滅裂な主張に紛れて発掘されることはなかった。日本においても創値学会がCIAと同様のキャンペーンを展開することによって、思考盗聴の被害者にとって不利な状況を作成することに成功した。


しかし、夢のような技術である思考盗聴だが、欠点がある。

それは、”心の中でつぶやいた言葉”しか読み取ることができないことである。基本的に、普通に生活する人間は、心の中でつぶやくという行動をほとんどしない。行ったとしても、一日に数回であり、監視する手間に対して得られる情報が少なすぎる。一方で、思考盗聴によってターゲットから得られる情報を増やす方法がある。それは、ターゲットに対して、比較的大きな心理的ストレスを与えることである。心理的ストレスを抱えた対象は、そのストレスを吐き出すための行動を取りやすくなる。その一つが、”心の中で不満をつぶやく”という行動になる。この行動は周囲に人がいても行えるストレス解消の手段であり、心理的ストレスを与えられたターゲットが初期に行う傾向がある。心理的ストレスが高まっていくと、心理的ストレスを感じた行動毎に”心の中で不満をつぶやく”ようになり、さらにストレスをかけると、実際に口からつぶやくようになる。


集団ストーカー四十九日目に受けた、ターゲットへの読心魔法の感度が高くなっているという報告は、これまでターゲットが受けたアンカリングなどの精神攻撃で心理的ストレスが高まることによって、ターゲットがストレスを受けた行動毎に”心の中で不満をつぶやく”ようになっていることを表している。そして、読心魔法で読み取った心のつぶやきは基本的に以下のようなものであった。


(この低能が!)

(魔法も使えない分際で馬鹿にしやがって!)

(同族加害禁止令が無ければ、爆破魔法で消し飛ばしてやる!)


これはかなり良い傾向である。


ターゲットはかなり心理的ダメージを受けており、他人に対して攻撃的な反応を示している。魔法の天才であるため、プライドが高いことも今回の結果のではプラスに働いているとみることができる。今のところ集団ストーカーは成功している。


今回の結果より、明日からの集団ストーカーに次の条件を追加した。

ターゲットが”心の中で不満をつぶやく”動作をした後、実行部隊に笑い声を上げるように指示した。これは、周りから見れば不規則に笑い声が上がっているように感じられるが、ターゲット本人にのみ自分が笑われていると自覚させることができ、心理的ストレスをかけることができる。

また、ほのめかしを行う際に、「低能」、「魔法も使えない」というワードを追加するようにも指示を出した。これにより、本人にのみ自分が思考盗聴されているという印象を植え付けることができる。


集団ストーカー五十日目、ターゲットのグリニフェス卿とすれ違った実行部隊の下級魔物(モンスター)2匹が咳払いのアンカリングを行った。すると、グリニフェス卿は


(低能が!)


と心の中でつぶやいた。

すると、その直後にすれ違った下級魔物(モンスター)たちから笑い声が上がった。

グリニフェス卿が後ろを振り返るが、下級魔物(モンスター)たちはそのまま歩いて行った。

そして、その下級魔物(モンスター)たちとは異なる、建物の死角から声が聞こえた。


「低能でーす。」


グリニフェス卿が恐怖を感じたのは間違いないだろう。


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