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ほのめかし


こちらのアンカリングの”打撃”に対して、ターゲットのグリニフェス卿が停車している馬車の識別番号をメモするという”反撃”に出たことによって、こちらとしては集団ストーカーの次の段階の準備が可能になった。


次の段階で用いる手法は”噂”である。


今までの集団ストーカーはニューマン将軍の部下などの協力者によってのみ行われてきた。しかし、これからは協力者とは無関係の立場の者を集団ストーカーに巻き込んでいく。


集団ストーカー三十七日目、実行部隊の十数名に今回の集団ストーカー作戦とは無関係の一般魔物(モンスター)に対して以下のような噂を流す。


「グリニフェス卿は最近、精神に異常をきたしているようだ。その証拠として、道端に停まっている馬車の識別番号をいちいちメモしている。もしかすると、魔王様に危害を加えるかもしれない。だから、グリニフェス卿を見かけたら、その挙動を監視してほしい。」


噂を聞いた彼らは集団ストーカーの実行部隊と同等の働きをする。しかし、彼らは集団ストーカーの計画とは無関係の無実の存在である。そのため、彼らがもし追及されたとしても、噂があったという情報で止まるため、集団ストーカーが発覚する可能性は低い。第一、彼らを追求しようとすれば、ターゲットが精神に異常をきたしているという噂の信憑性が上がり、ターゲットはより不利な立場に置かれることになる。


今後は、このような集団ストーカーの”ダミー”になる存在を徐々に増やしていく。しかし、数を増やしすぎてもいけない。この噂がターゲット本人に流れないように、噂を流す相手に対しては細心の注意を払う必要がある。幸い、グリニフェス卿は魔王以外と交友関係がほとんど無かったため、噂が流れていることを本人に報告してくれる人物がおらず、リスクなく噂を流すことができた。


噂を流すことと同じくして、実行部隊の下級魔物(モンスター)に”ほのめかし”を行うように指示した。


ほのめかしとは尾行・盗聴・盗撮を含む監視行為で本人しか知りえない情報を入手し、それをターゲットに対して、わざと聞こえるようなひそひそ話やターゲットの行動を真似することによって間接的にほのめかし、精神的ダメージを与える方法である。


ほのめかしの内容としては、ターゲットが先日どの店に寄ったかや、夕食の献立、読んでいる本などについて触れたうえで、相手に聞こえるように人格を否定するというものである。例えば、


「あの人、爆発魔法の魔導書を読んでいるらしいよ。やっぱり爆破テロを起こそうとしている危険人物だったんだ。」


というようなものである。


他にも会話の中で相手が気にしているであろう単語を強調するなどのほのめかしも行った。

「一人」、「孤独」、「監視」、「馬車」、「咳」などの単語である。


ほのめかしも、以前から行っているアンカリングも、一つ一つの行為によって与える精神的ダメージは小さい。しかし、それを何度も行うことによって、ターゲットに深刻な精神的ダメージを与えることができる。


例えるなら、ほのめかしやアンカリングといった行為は”ターゲットから100円盗む”という行為に例えることができる。100円を盗まれたからといって、多くの人は盗んだ人間を追いかけて捕まえようとはしないだろう。少し不快であるが、大した損失ではないし、無視することだろう。普通の人物であれば、この対応で全く問題ない。


しかし、集団ストーカー被害者ではそうはいかない。集団ストーカー被害者は一日に100回、100円を盗まれるのである。そして、それが毎日続く。100日経てば100万円の損失である。そして、いつか集団ストーカー被害者は”破産”する。


“破産”した集団ストーカー被害者が行う行動は主に二通りである。自ら命を絶つか、最後に100円を盗んだ者に対して、今まで奪われた全額を”弁償”させるかである。最近ニュースで見かける、統合失調症の様な人物が見ず知らずの人物に対して危害を加える事件はまさにこの”弁償”を行った事例とみて良いだろう。しかし、100円を奪った人物に対して、今まで奪われた数百万円分の負債を弁償させるのは過剰である。第一、100円奪われたというのも例えであり、無実の人間に対して精神的ダメージを受けてしまったため、何の落ち度もない相手に対して危害を加えた可能性もある。そのため、この”弁償”という行為は「精神異常者が無実の人間にいきなり深刻な危害を加えた。」という形で社会では処理される。


したがって、集団ストーカー側としては集団ストーカー被害者側が”破産”した時点で目的が完了される。そのため、いかにしてターゲットを”破産”に追い込むかが重要になってくる。その際、実行部隊には”弁償”を受けるリスクがあるが、実行者自身としては自分が被害を受ける確率は非常に小さく、逆にスリルが得られるということで好評であった。アンカリングやほのめかしを行う実行部隊は、まるで”黒ひげ危機一髪”をリアルで遊んでいる気分なのである。


集団ストーカー四十一日目、ターゲットとすれ違い様に咳払いのアンカリングを行ったところ、ターゲットが舌打ちをした。徐々にではあるが、グリニフェス卿も”破産”に近づいている。


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