コリジョン(衝突)キャンペーン
集団ストーカー三十三日目、相変わらず馬車を停車させるアンカリングと咳払いのアンカリングを継続して行っている。加えて三十日より、新たなアンカリングを追加した。グリニフェス卿が自宅へ帰る道中に必ず一体、水晶玉を覗き込みながら佇んでいる魔物を配置した。まだ、ターゲットからの反応は薄いが、継続して効果が出るタイプのアプローチであるため、続けている。
集団ストーカー三十五日目、ターゲットに対するアンカリングの効果が明確に確認できた。ターゲットであるグリニフェス卿が停車している馬車の識別番号をメモするようになったのである。魔王軍の馬車には識別番号が振られており、その番号より所有者を特定できる。その制度を理解しているターゲットは識別番号をメモすることによって、アンカリングを行っている犯人を特定しようとしているのである。
このままでは、アンカリングの犯人が特定されてしまい、集団ストーカー作戦が失敗してしまう。どうすればいいだろうか?
と普通の人は思うだろう。
何十人ものターゲットを葬った私から言わせれば、好都合である。と言わざるを得ない。
まず、識別番号から所有者の特定ができるというが、それにはそれ相応の理由が必要になる。自動車のナンバーが分かったからと言って、その自動車の所有者を照会するためには、駐車違反などのそれ相応の理由が必要になるのと同じである。アンカリングでは自宅の周囲に松明を灯した馬車を停車させているだけであり、識別番号を照会されるような行為は一切していない。第一、もし、識別番号を照会されたとしても、毎日異なる識別番号の馬車をアンカリングに使用しているため、問題ない。実のところ、識別番号を発行している機関にニューマン将軍の部下が所属しており、使い捨ての識別番号をいくらでも入手できるのである。したがって、識別番号をメモされても何の問題もない。
次に、識別番号をメモしている事に対する利点を挙げる。
一つ目として、ターゲットが何に対して心理的ダメージを受けているかを判断する基準になる点である。ターゲットが識別番号をメモするということは、その対象の馬車に心理的ダメージを受けたということを表す。その馬車は私たちがアンカリングで用いた物も含まれるが、全く無関係の馬車に対してもターゲットは識別番号をメモすることがある。そのため、メモされた識別番号には本当に何の意味もないものになるのだが、こちらとしては、無関係の馬車がいかにしてターゲットに心理的ダメージを与えたかを考察するヒントになる。そして、その考察から、効率的にターゲットに心理的ダメージを与える攻撃を開発し、集団ストーカーに取り入れることで、より洗練された”打撃”を与えることができる。
二つ目として、見かけた馬車の識別番号をいちいちメモしている行動は、傍から見れば常軌を逸している。そのため、その行動を理由として、ターゲットを異常者に仕立て上げることによって、ターゲットをさらに孤立させることができる。また、今後行う”ほのめかし”の口実にもなる。
以上のことより、ターゲットが馬車の識別番号をメモするという行為は、こちらには利点しかない。
しかし、ターゲットには識別番号をメモするという行為が、集団ストーカー側にとって不利益であると思わせたい。そして、それと同時に「常にお前を監視しているぞ」とターゲットに思わせる行動があれば理想である。
そして、その理想的な行動は存在する。
それは、衝突キャンペーンである。
衝突キャンペーンとは、ターゲットに人、自転車、車などが衝突ギリギリで停車するなどの通行妨害を行うことによって、ターゲットに対して行動を常に監視していることを示唆する行動である。これらの通行妨害を繰り返すことによって、不快感を蓄積させ、ターゲットを怒りやすくする効果がある。
今回の場合、ターゲットが停車している馬車の識別番号をメモしようとした時に、馬車を衝突ギリギリで停車させる。それによって、ターゲットは恐怖感を感じるとともに、相手は常に自分を監視しており、識別番号をメモするというような不利益な行動をしたため、このような脅しをしたと今回の行為をとらえる。したがって、ターゲットは衝突キャンペーンを受けると、脅しに屈してあらゆる行動を控えるようになる陰性状態になるか、相手にとって不都合ならばこの反撃は効果的であると判断し、ひたすら識別番号をメモし続ける陽性状態になるかのどちらかである。そして、陰性状態・陽性状態どちらの状態になっても、こちらとしては都合が良い。
そうと決まれば、ニューマン将軍に衝突キャンペーンを行うように指示を出した。
集団ストーカー三十六日目、ターゲットが自宅前に停車している馬車の識別番号をメモしようとしたときに、一台の馬車がターゲット正面から衝突直前で停車した。その後10秒間ターゲットは衝突しそうだった馬車を睨んでいたが、10秒後その馬車がそのまま発車しターゲット後方に去っていくと、ターゲットは少し笑みを見せ、停車している馬車の識別番号のメモを続けた。
どうやら、今回のターゲットは”陽性状態”であったようだ。