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7.涙を探して

ベガとアルタイルの相談で、楽しく秋祭りを散策していた昴たち。

しかし、天の川にも似た人の波にさらわれ、離れ離れになってしまう。

花火の時間までに、再会は出来るのだろうか。



***



「とりあえず、昴くん達を探さないと」


こうしたことを想定していなかった。

連絡手段が一切ない。


「それなら僕に任せてよ!

ベガの場所だったら、たとえ地球の裏側でも見つけ出せる!」


「えっと、それは……なんというか」


……少し怖い。

しかし、僥倖ではあった。

昴くんたちとはスムーズに合流することができる……だろうか。


「探してる間に聞くんだけどさ」


「……なぁに?」


真剣な面持ちで、アルタイルは私に質問してくる。


「彼、昴くんのこと、どう思ってる?」


「どうって……まぁ、助手……じゃないかな」


助手。

そう助手だ。

今までの感情の変化は、少し頼りにしてもいいんじゃないかって感情の表れでーー。


「おそらく、ナナさんは星と人だからって距離を保ってるんだと思うんだ」


「……それはそうだけど」


星と人は生きられる時間が違う。

時間の密度が、違うんだ。


「僕たちは星と星だから、難しいことは分からない。

そしてたぶん、今後も知ることはないけどさ」


秋祭りの途中。

確かにベガとアルタイルの関係が羨ましいと思った。

一度や二度だけじゃなく、何度も。

ただ、それは星と星の関係だから。

だから、昴とはーー。


「死んだら思い出って消えちゃうのかな。

全部ーー無駄なものになっちゃうのかなって」


何度も何度も考えた。

失礼だけども、今アルタイルが考えたであろうことは全部。

それで考え抜いたんだ。


この気持ちにーー名前を付けてはいけない。


「……あなた達、本当にラブラブだもんね。

星と星の関係かぁ。

私が惹かれたのは、人だったから、そんな関係が……」


ーー羨ましい。

その言葉を聞いて、アルタイルは少し笑った気がした。


「見つけたよ、それじゃあ行こうか」


「そうだね、行こっか」



***



「うわーん、アルタイルー!」


「落ち着いきましょ、ほら、ね?」


「まぁ、昴くんがいるなら問題ないわね」


「落ち着きが早い!?」


ナナとはぐれないように、しっかりと手をつないでおくべきだった。

スマホを取り出して気づく。

僕とナナに連絡手段は何もない。


「あぁ、連絡?

問題ないわよ、アルタイルは私のいる場所はどこでもすぐに分かっちゃうから」


「……まるでGPSですね」


下手なことできないわー、と楽しそうに笑う。


「さて、せっかくの秋祭りだし、楽しまないとね」


「それは賛成なんだが、先に合流を考えたほうがーー」


「今だからこそ、出来ることもあるのよ?」


シーッと唇に人差し指を添えた。


「昴くん、ナナちゃんのこと好きなんでしょ」


「そうですね」


「そこで即答してくれる男はモテるわよ!

でも距離感を掴めずに悩んでいる……!」


うんうん、と頷いている。

……人の恋愛を楽しんでないか、この人。


「だから私、考えたの」


「ーーはい???」


ズイッとその身体を寄せてきた。

それはナナの感触とは違っていて。

疑問くらいしか感じなかった。


「……少しくらいドキドキしてくれない?」


「……ごめん、ナナ以外にそれをされても」


怒られてしまった。

一体何を考えているのだろうか、この人は。


「まずは金魚すくいに行きましょうか」


「え?だから何を……」


強引に連れられて、金魚の入った水槽の前に座る。


「わーん、破れちゃったぁ」


……本当に何してるんだこの人は!?


「……ほら、アルタイルならどうすると思う?」


なんとなく、その意図が掴めてきた。

デートの練習をさせたいのだろう。


「ほら、ベガ。

僕のポイを使いなよ。

こういうのは、水圧をポイの縁で受け流すんだ。

ほら、こうして……」


僕のポイを渡し、後ろからベガの手を掴みながらアシストする。


「できたー!さすがね昴くん!」


「こういうのも物理現象だからね」


「……31点」


僕の何気ない一言は、赤点スレスレだった。


「次はあそこに行きましょう!」


金魚は屋台のおっちゃんに返して、また連れられてきたのは小物を売ってる屋台だった。


「どれがいいかしら。

迷うわね」


「そうだね……これとか似合うんじゃないか」


桜色の指輪。

隣の蒼色の指輪とセットのようだ。

ベガとアルタイルのイメージ的にも良さそうだと思う。


「なかなかいいセンスしてるじゃないの」


ベガはそれを買って、後で渡すんだーと舞い上がっている。

僕はその中の赤い髪飾りが、少し光って見えた。


「これも、お願いします」


ナナによく似合いそうだ。

僕がその髪飾りを買ってる時、隣でニヤニヤしてるベガを僕は見逃さなかった。


次に連れられてきたのは射的だ。


「ねー、昴くーん、あのぬいぐるみが欲しいのー」


指さしたのは小さなクマのぬいぐるみ。

射的はあまり得意ではなかったが、言われたからにはやらざるを得ない。


「昴くん、こういう時は言い訳のために一緒にやろうと言うのよ」


「なるほど、それで出来なかった時の逃げ道を作るわけか」


そろそろ僕も少し楽しくなってきた。


「それじゃ、一緒にやりましょうか」


「うん、やるー!」


2人で一つの銃を構える。


「もう少し右じゃない?」


「いや、額を狙うならもう少し上」


楽しくなっていて、気づかなかった。

後ろから近づいてきてる足音に。


「ーー何、してるの?」



***



「あー、これは、その、あれだ。

えっと……」


昴が必死に言い訳を考えていると、ベガが銃を手放し、何も言わずにアルタイルの方へと歩いていく。

その途中、ナナの横を通り過ぎる。


「大丈夫よ、とったりしないから」


ナナ以外、誰にも聞こえないようにそう耳打ちをした。


「アルタイルー!会いたかったー!」


ナナの横を通り過ぎたら、いつものベガに戻っていた。

ナナは昴の方へと歩いていく。


「昴くん……」


「は、はい!」


昴の背筋が、自然とピンと伸びる。


「射的、一緒にやろうよ」


「う、うん」


ナナは銃を構える。

しかし、なかなか打つ気配がない。


「……早くしてよ、昴くん」


「あ、あぁ……」


ナナは少し怒ってるみたいだった。

さっきベガとやってたみたいにして欲しいっていうことなんだろうと、昴は理解する。


「もっと右、当たらない」


「はっ、はい!」


そんなぎこちない2人を、ベガとアルタイルは後ろから眺めていた。



***



あの後、花火まで見に行くと思っていた。


「花火の時は2人で浸らせてくれよー」


「さすがに恥ずかしいもの、ねー」


「ねー」


こんな調子で、4人の秋祭り散策はお開きになった。


「ねぇ、昴くん」


あの後、ナナは僕の服の裾をギュッと握りしめていた。


「花火、どうしようか」


「まぁ、せっかくだし、見ていこう」


僕がそう言うと、ナナは少し難しい顔をした。

それが何を意味しているのか、昴には理解できなかった。


花火大会の会場はものすごい混んでいたため、僕たちは場所を移した。

スマホの地図アプリから、花火が綺麗に見えそうな場所を探し、見つけた。


少し離れた橋の上。

花火がよく見えて、水面にも花火が映る絶好のスポットだった。

人もまばらで、ちょうどいい。


「まだ少し時間があるね」


「そうだな」


昴はふと、あの髪留めを思い出した。


「なぁ、ナナ、これ……。

良かったら受け取ってくれないかな」


買ってきた髪留めを手渡す。

赤色のガラス玉がほのかに光る髪留め。

それをナナは受け取ることなく、川の方に向いてしまう。


「やっぱり、受け取ってはーー」


「……早くつけてよ。

髪留めのプレゼントの仕方、ベガに教わらなかったの?」


ドキドキしながら、昴はナナの髪を結った。

ナナはそれを軽く撫でる。


「……髪を結うのは、まだ下手だね」


「仕方ないだろ、やったことないんだから」


そんなことを言って、笑いあう。


「ーーありがとうね。一生、大事にするよ」


ナナはまた、髪留めを軽く撫でた。


ドンドンと、次々に花火が打ち上がる。

水面にも映る花火は、いつも見てる星の輝きに負けず劣らず輝いていた。


「……これだと、星が見えないね」


「そうかな。

僕にはまだ、ハッキリと見えるけどね」


……目がいいのね。

ナナは、昴の言葉の意味を理解しないようにしていた。

ドンと一際大きな花火が上がる。


「ナナ、たぶんキミは嫌がるだろうけど、やっぱり言うよ」


ナナはその続きを、黙って聞いている。


「僕はやっぱり、キミのことが」


ドンと、最後の花火が上がり、散っていく。


「ーー好きなんだ」


ナナは顔を真っ赤にして、伏せた。

昴のあげた髪留めが、花火の光を受けてキラキラと光る。

決心したのか、ナナはゆっくりと顔を上げた。


「ーーごめんね、よくーー聞こえなかった」


花火は確かに終わっていた。

人々の歓声も、大きなものではなかった。

聞こえなかったなら、もう一度言って欲しいと言うだろう。

しかし、その言葉も無かった。

昴もまた、もう一度言うことを躊躇った。


ーーナナの目には、はちきれそうなほどに涙がたまっていた。

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