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16.推しを探して

昴はぼんやりと、階段の方向を見つめる。

今日は一人の相談室だ。

珍しいことでもないが、少し寂しさは感じてしまう。


ぼんやりしていると、階段の方から小さな足音が聞こえてきた。


「ようこそ、相談室へ」


「時間がないから単刀直入に依頼させてね」


紅く長い髪、真紅の瞳。

黒いワンピースがそれをさらに際立たせる。

アンタレスと似た特徴だが、その雰囲気など、アンタレスとは大きく違う。

特に輝きは小さかった。

なんというか、文学少女みたいな大人しそうな子。


「3週間後のこの時間に、あたしを呼んで欲しいんです」


呼んで欲しい。

おそらく星を見つけて呼ぶ、あれだろう。


「それはいいけど……僕は星に疎くてさ。

詳しい場所を教えてくれないかな」


「もちろん、準備してあります」


バッと机の上に天体図を広げる。


「ここに見えるのが、こぐま座。

空にちょうど見える、あれですね。

この時期一番見やすい星座です」


実際の空をペンライトで指しながら解説を始める。


「そこから少し西に大きく移るとペガスス座、あの四角形が特徴ですね。

そのちょうど中間に、あたしの星座ケフェウス座があります」


視線を今度は天体図へと向ける。


「このペン先のような形の、根元の方。

ここがあたしの星です」


再び空を見上げる。


「……うーん?

あまりよく見えないけど……」


「すいません、そこは時間無いので省略させてください。

ちょうどあの位置くらい。

望遠鏡を覗けばギリギリ見える5等星ほどの星があります」


目を細めても肉眼ではよく見えなかった。


「……すいません。

もう時間のようです」


少女の影がぼんやりと、ぼやけた気がした。

階段の方へスタスタと歩いていく。


「あ、ちょっと、名前は!?」


「あ、忘れてました。

ガーネット・スターと呼んでください」


それだけ言い残して、急いで去っていってしまった。


「ガーネット……スター……?」


言い間違えたのだろうか。

その名前はあまりにも。

ーー星らしくは無かった。






3週間後。

約束の時間。

幸いなことに、この日は晴天だった。


「えっと……あれが……こぐま座か?」


一つ一つ、ガーネット・スターの残した天体図と照らし合わせながら確認する。

昴はなんとかケフェウス座を発見する。


「ペン先の根元……あれ……かな?」


うっすら輝く赤い星。

……言われた名前に間違いは無かったのか。

昴にはそれが不安として残っていた。


「えっと……ガーネット・スター」


周囲に風が勢いよく吹いてきた。

途端、さっきまで空に輝いていた真紅の宝石が目の前にあった。

宝石から光が伸びて、影ができる。


長く綺麗な赤い髪。

透き通るような深紅の瞳。

あの少女が、目の前にいた。


「呼んでくれてありがとう!

さあ!時間もないし、早く行くわよ!」


「え!?行くってどこに!?

というか、キャラ違うくない!?」


「どうでもいいのよ、そんなこと!

決まってるでしょ!推しのライブよ!

お礼に連れて行ってあげる!」


そこには、あの文学少女の姿はない。

恋する乙女のような、ひたむきな少女がそこにいた。





「いやあ、悪かったわね昴」


電車に揺られながらライブ会場に向かっている。

それまでの間にお互い自己紹介を済ませていた。

ガーネット・スターは長いとのことで、短縮してガーネットと呼んでいる。


「いや、全然構わないよ。

こうしてガーネットみたいな星を呼ぶのも相談室の役割だと思うし。

……まあ、この状況は予想外だけど」


「あははー、ごめんねー。

こっちとしても、何かお礼はしたくてさ。

……布教できたら尚良し」


ポツリと聞こえた最後の言葉が本音なのだろう。

ガーネットは2枚チケットを取っていたようだ。


「今日は推しの誕生日ライブなの!

ほらみてみて!このチケット!

推しの誕生日に現地参戦!

それも最前ブロックから!」


渡されたチケットを見てみる。

昴も聞いたことのある、有名男性アイドルグループ。

昴は会場で浮いてしまわないか、それが心配だった。


「今回の整番は一桁代で……!

これほど幸運なことがあるでしょうか!

いや!ない!」


「……ほら、ガーネット、少し抑えて」


電車内ではしゃぐガーネット。

周りの乗客は少し迷惑そうに見ていた。

ガーネットは気づかなかったようで、すいませんと、周囲に軽く頭を下げる。


「でも、今日は行けるか分からなくて……。

あ、着きましたね、ここですよ、ここ」


何かを言いかけたところで、どうやら目的地に着いたようだ。

そこは天文台から大きく離れた場所にある、地元唯一のドームだった。





「キャー!マリン様ー!」


終始、ガーネットはこんな感じだった。


「推しが……推しが……目の前……!

昴!昴!今推しが……!

あー……語彙力がなくなる!」


その姿は天文台で見た時と星の輝きは同じなのに。


「今!今絶対にあたしを認知したよね!?

ね!?見てたよね!昴!?」


1等星に負けないくらい、輝いて見えた。


「あーしんどい!

推しが尊すぎてしんどい!

まじむり!むりむり!語彙力もむり!」


一方昴は。


「あれ、あのアイドル、星かな?

いや、光ってるのはライトで照らされているから?

あのアイドルを星に例えると……ベテルギウスとかかな!」


昴なりに楽しんでいた。






「あー、満足……供給過多でした……。

お腹いっぱい……」


「まだ何も食べてないだろ」


帰り道に夕飯だけ買って、天文台へと戻ってきた。

帰り道はなんだかんだオタク談義が盛り上がった。

昴は名前こそ覚えられなかったが、あの星みたいなのでガーネットには伝わったらしい。


「本当に、今日はありがとうね。昴」


口調もだいぶ砕けていた。


「見て!これ!銀テ!

いやあ、推しグッズも大量だけど、やっぱりこの現地参戦したぞー!って感じがいいのよ」


「おお!すごい!

あれなかなか飛んでこなくて苦労しただろ」


ぶい、とガーネットはピースサインをする。

銀テを頬ずりしながら。


「ホント、ありがとね。

もし呼んでくれなかったら、これも無かった」


ガーネットは少し、瞳を涙で滲ませる。


「……そういえば、色々と聞きたいことがあるんだ。いいかな?」


「いいよ、なにかな」


彼女の行動には、分からないことが大きく2つあった。


「ガーネット・スターって名前。

星らしくないなと思ったんだ。

呼ぶ時は共通認識の名前でないといけない。

でも、キミは呼べた。

……なんでなのかな」


「それは、その名前があたしだからよ」


ケフェウス座μ星。

それが、彼女本来の名前だった。


「もう1つの質問はきっと、なんで呼ばないとダメだったか。

そうでしょう?」


「そうだよ。よく分かったね」


ふふ、とイタズラっぽく笑う。


「昔も同じことしたら、同じこと聞かれたからね。

もちろん、答えてあげるよ。

あたし、ケフェウス座μ星、通称ガーネット・スターは変光星なの」


「……変光星?」


「そう、星の輝きが時期によって変わる星。

それが変光星」


聞いたことがある。

会ったことがある。


「アルゴルみたいな星のことか?

いやでも、アルゴルは食連星、だったか」


「すごいね昴。

変光星、知ってるんだ。

そうだよ、昴の言う通り食連星も変光星の一つ」


ただ少し仕組みが違うんだけどね、と補足する。


「あたし達変光星は、輝きがとても不安定でさ。

こっちに来るためのエネルギーがある時と無い時でハッキリ分かれている」


確か、ノワールとか6等星は来ることもギリギリだと言っていた。


「だから来れたとしても短時間しか身体を保てなかったり、そもそも来れない時期もある。

ホント、オタクに不向きな性質だよ」


だから憧れたのかもね。

ガーネットは今日の戦利品をじっと見つめる。


「でも、呼んでもらえば、例え不安定でも来れるんだよ。

呼ばれれば、エネルギーを使わずに来ることが出来るんだ。

ほら、携帯電話とか、かける方にしか電話代かからないでしょ?」


「そこを電話代で例えるか……?」


ファンタジーなど、あったものじゃない。


「あは、でも分かりやすいでしょ。

だからあたしは考えた。

どうすれば呼ばれやすいか。

どうしたら呼んでもらえるか。

考えていたらさ、思いついたの。

呼びやすい名前を広めようって」


それは変光星ならではの考え。

名前のない星がこっちは来るためには相応のエネルギーがいる。

しかし、変光星なら元気な時期にならばいくらでも活動できるから。


……少し、昴の中で何かが引っかかる。

とても大事な、何かが。


「だから二等星くらいの時期を使って広めたんだ。

ガーネット・スターの名前を。

ダメ元だったけどねぇ。

でも、思った以上に広まった。

あたしに、通称が付いたんだ」


それは今までの星とも違う。

名前を自分で獲得したんだ。


「でも、あたしはまたいつか消える。

だから、呼んでくれる人を探さなきゃなんだよね」


「だったら、いつでもここを頼ってよ。

星と星をつなげるのが相談室だ。

呼ぶくらい、造作もないよ」


その言葉を期待しているかのように、チラチラとこちらを見ていた。

期待通り、昴はそう返答する。


昴の言葉に、ガーネットはほんの僅か、息を呑んだように見えた。

期待していた言葉なのに、あり得ないとでも言いたげに視線を揺らし。

ーーふっと笑った。


「あはは!昴ってホントいいやつだね!

ーーありがとう、また、頼らせてもらうね」


「もちろん、ただ、もう1つだけ。

ーー質問に答えて欲しいんだ」



***



夜空を見上げる。

変光星。

それは昴にとって、新しい発見だった。

そして、星を呼ぶということについても。


そしてそれは、昴にとって大きすぎる前進だった。


「……ノワール、もうすぐ、探せそうだよ」


それは、最後の質問。




「じゃあ……。

変光星って、こっちの姿でも、見た目は変わるの……?」


それは、昴の中でトゲとなり引っかかっていた。

さっきの彼女の姿にーー既視感を覚えていた。

ガーネットは何食わぬ顔で答える。


「うーん、大きくは変わらないかな。

ただ、明らかに輝きは変わるね」


「輝きが、減っていくと……」


「それはもちろん」


こっちに来られなくなるだろうね。

ーー誰かが呼ばない限り。

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