笑うだけで、救えるんですか?
無機質な蛍光灯の下、点滴の滴る音だけが響く病室。
赤城翔太は、ベッドの上でゆっくりと目を開けた。
「……ここは」
かすれた声。でも、ちゃんと意識は戻ってるようだ。
「気がついたか、赤城」
椅子から立ち上がって、俺はベッドのそばへ歩み寄った。
「……僕、どうなったんだ」
「スキルが暴走しかけてた。お前自身を飲み込もうとしてたんだ。……たぶん、お前の思いに、アプリが強く反応したんだと思う」
赤城の目に、一瞬だけ迷いが浮かぶ。
「……あれ?」
赤城が、自分のスマホの画面をじっと見つめている。
「どうした?」
そう聞きながら俺も覗き込んだ。
赤城が指差していたのは、ホーム画面の一角――アプリの並びの中に、ぽっかりと空いたスペースがあった。
「前まで、ここにアプリがあったんだ。確かに……《SkillStock》ってやつが」
(あのアプリ……。一つしかスキルを持てないうえに、暴走までするなんて危険すぎる)
(いったい誰が、こんなもんを入れたんだ? 他にもあのアプリを持つ奴がいるのか?)
(まさか……俺と同じように、“女神”とか、そういう存在がいるのか)
考えたくはなかった。けど、いろんな可能性が頭をよぎる。
《SkillStock》が、誰かに――“仕組まれた”ものだとしたら。
まだこれからもアプリの暴走は続くかもしれない。
けど今は――こいつが助かったことを、素直に喜びたいと思った。
「……なくなってるな。それ、きっと消えて正解だ」
俺はうなずいて、軽く笑った。
「もう、お前が消えることはない。
これからは――俺と、友達ってことでいいよな」
赤城は一瞬、驚いたように目を見開いてから、小さく呟いた。
「……ありがとう」
ふと、ポケットの中でスマホが震えた。
ディスプレイをのぞくと、そこには――
【ミッション通知】
《Re:quest》
【新ミッションが発生しました】
《赤城翔太を笑わせろ》
・制限時間:10分以内
・場所:病室
・報酬:10pt(+赤城の精神安定ボーナスあり)
※ただし、失敗時ペナルティ:
【あなたが笑わせられるまで帰れません】
「……マジかよ、これ」
俺はスマホを見て頭を抱える。
「何、今の通知?」
ベッドから赤城が小首をかしげる。
「えーと、ちょっとだけ笑ってくれたら助かる」
「え?」
赤城がポカンとしてる中、俺は意を決して――
「ええい! 最終奥義ッ、中谷先生のモノマネ!!」
謎の構えをとりながら、
「俺はー、みんなのことをー、信じてるんやけどー、念のためなー、念のためだぞー全員顔を伏せてくれ!」
全力でやった。
静まり返る病室――
そして、
「……ぷっ」
赤城が、吹いた。
ポケットの中でまたスマホが震えた。
《ミッション達成しました!》
――病室に、微かな笑い声が響く。
それは、赤城が“ここにいる”っていう証だった。
これで1章が終わりになります。
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「スキル《魔力レンタル》!借りた魔力で召喚した最強守護獣と成り上がる!」を同時に投稿しています。