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お弁当で仲良くなれますか?

昼休みのチャイムが鳴った。


(さて……)


ポケットのスマホが震える。

画面をつけると、やっぱり《Re:quest》の通知が来ていた。


【ミッション:女子と一緒に昼食を取れ】


報酬:スキル≪影魔法≫の獲得 (自分の影を自在に操ることができる)

獲得ポイント:80

ペナルティ:耳元で知らないおじさんのそしゃく音が流れます(10分間)



(またきっついのが来たな……)


「なあ、優斗〜。メシ、行こうぜー」


タカが声をかけてきたけど「ごめん、今日はちょっと……」、と言って断る。


(さて……どうするか)


視線を教室中心に向けると、幼馴染の白石彩音が、数人の女子と楽しそうに机を囲んでいた。


話しかけづらい雰囲気。無理だな、これは。


ため息をついたそのとき。

ふと、教室のドアのほうで一人の女子が出ていくのが目に入った。


(……綾瀬、さん?)


今朝、少しだけ関係が近くなった気がする女の子。


彼女は静かに、でもどこか慣れた様子で弁当を持って教室を出ていく。


(まさか……一人で食べるのか?)


数秒迷ってから、俺も席を立つ。距離を取りながら、こっそりあとを追った。


彼女の足取りは、階段を上へと向かう。


三階──四階──そして、屋上のほうへ。


屋上のドアの前。その手前、狭い踊り場に彼女は腰を下ろした。


綾瀬さんが眼鏡を外した瞬間、息をのんだ。


髪を束ねた横顔に屋上の窓から差し込む光。そこにいたのは、教室で静かに過ごしていた彼女とはまるで違う――


思わず見惚れてしまうほど、美しい女の子だった。


(……めちゃくちゃ、美人じゃん)


知らなかった。こんなに綺麗だったんだ、彼女。

見惚れていると、ふと、綾瀬さんがこちらに気づいた。


「……日向君?」


「え、あ、その、たまたま通りかかって……」


「ここで食べてたのバレちゃった。 ……誰にも言わないでくれるなら、隣、いいよ?」 


彼女が照れたように笑う。か、かわいい。


「……マジで? ありがとう」


俺は少し照れながら、彼女の隣に座った。


屋上のドアのガラスから光が注ぐ中、ふたり並んで弁当を広げる。


ミッションのためだったはずなのに。

なぜだろう、今はそれを忘れている──


それほど横にいる綾瀬凛という女性に心を奪われていたのかもしれない。


 最初は気まずさもあったけど、少しずつ他愛ない会話を交わすうち、なんとなく空気が和らいでいく。


 ――ふと、俺は思いきって聞いてみた。


「なあ、綾瀬さんって……もしかして、わざと地味にしてる?」


 綾瀬さんは箸を止めて、ぽかんとした顔をする。


「……どうして、そう思うの?」


「いや、……眼鏡外したら、すごい綺麗だったから。なんか……教室のときと雰囲気ぜんぜん違うし」


「あっ、べ、別に普段がキレイじゃないとかそういうこと言ってるわけじゃないから」


 綾瀬さんは少しだけ視線をそらして、苦笑いを浮かべた。


「……そっか、やっぱり気づかれちゃうか」


「気づかれたくなかったってこと?」


「うん。でも、わざとっていうより……その、なるべく目立たないようにしてるんだ。……あんまり、知られたくない事情があって」


彼女の言葉には、少しだけ戸惑いがにじんでいた。

でも、それがかえって――飾らない素の彼女が見えた気がして、俺はちょっと嬉しかった。


そっか。


教室で見せる静かな綾瀬さんも、今ここで見せてる素顔も――どっちも、ちゃんと彼女なんだ。


「俺は、普段と今、どっちの綾瀬さんもいいなって思うけど」


 言ってから気づいた。これ、思いっきり告白みたいじゃねぇか。


「えっ……」


「いや、ちが、今のはそういう意味じゃなくて、その、えっと……!」


 綾瀬さんは、一瞬きょとんとしたあと――小さく、笑った。


「ふふっ、ありがとう。ちょっとドキッとしちゃった。」


(――これは、やばいかも)


心臓がバクバクして、弁当の味なんて、まったく覚えていない。


ピコン――画面の隅に表示された《ミッション達成》の文字。


 今の空気を壊したくなくて、俺はすぐに通知を閉じた。



♢♢♢



放課後。


 家に帰るや否や、俺は制服のままベッドにダイブした。


 「うわああああああああ!!!!!」


 顔を枕に押し付けて絶叫。


 叫ばずにはいられなかった。あんなの、どう考えても告白じゃん。自爆じゃん。


 「どっちの綾瀬さんもいいな」とか、何言ってんだ俺!! バカか!!!」


 「うわああああああ!! 死ぬぅぅぅぅ!!!!!」


 そのとき――


 「お兄ちゃんうるさい!!! こっちは宿題中なんだけど!!!」


 妹・菜摘の怒声が飛んできた。


 ドアも開けず、向こうの部屋から声量だけでぶん殴ってくるとは……相変わらずの破壊力。


 「す、すまん……」


思えば、朝に話したときから――綾瀬さんに“ドキッとした”のは、ただの気のせいじゃなかったんだ。

 

 「…………」


 枕に顔を埋めたまま、あの昼の光景を思い出す。


 静かな踊り場。綾瀬さんの笑顔。


 ――そして、ピコンと鳴った“ミッション達成”の通知。


 (……やばい。完全に惚れてる)


 自分の中に芽生えた感情が、もう自分の中で抑えきれなくなって、

 俺は再び、どこかのラノベ主人公のように枕に向かって叫んだ。


 「うわあああああああああ!!!」


 「うるさいっつってんでしょおおおおお!!!」



ここまで読んで頂きありがとうございます。

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