召喚は、新たなカオスの始まりですか?
学校から帰宅して、制服のままベッドに突っ伏していた俺は、スマホの通知に顔をしかめた。
【累積ポイント:575pt】
【次の機能が開放可能です】
▶パートナー召喚
「……召喚?」
いつも通り、唐突すぎる《Re:quest》の提案。
画面にはやたらファンタジーめいたボタンが光っている。
試しにポチッと押してみると、画面がぐらぐら揺れた。
「うわっ……ま、またバグか?」
眩しい光がスマホから弾けて――
どこからともなく、“ふわっ”と白い猫?のような物体が降ってきた。
「ジャジャーン! やっと出られたぜ!」
そいつは、ふにっとベッドの上に着地すると、大きく伸びをした。
真っ白な毛並みに、うさぎと猫の中間みたいな耳。短い手足。
背中には小さな羽。目元はちょっと眠たそうで、どこか偉そうな雰囲気。
首元にある赤いチョーカーには変なマークがついている。
「……ぬいぐるみ?」
「誰がぬいぐるみだ、バカ人間。ナビ獣様だ、ナビ獣様。
今日からお前のナビをしてやる。“リック”って呼びな」
「いや、いやいやいや。いきなりすぎない!? 召喚とか聞いてないし!」
「は? 説明ちゃんと読んでなかったのか?
あー……まあ、お前なら読み飛ばしてても納得だな。見た目からして頭悪そうだ」
毒舌……。ひどい言い草だ。
俺はおそるおそるスマホを確認する。
《累積ポイント:0 》
※パートナー召喚に必要な初期ポイントはすべて消費されました
「……いや待て。俺、さっきまで575ポイントあったよな?」
「うむ、召喚料に全部使った。おめでとう、貯金ゼロだな」
ドヤ顔で胸を張る白い猫っぽいやつ。
「返せーーーーー!! 俺の努力の結晶を返せぇぇ!!」
「無理。召喚ってそういうもんだ。キャンセル不可、返却不可、泣き寝入り可」
崩れ落ちる俺をよそに、リックはふよふよと空中に浮かびながら部屋を見回した。
「ふーん、現代の人間って意外とせまいところで生活してるんだな。魔力感知できる機器もねぇし」
「お前は……何者なんだ?」
「繰り返すが、俺はナビ獣のリック。正式名称は“Request Interface Core Keeper”。略してリック。……ま、正式名称で呼ぶやつはいねーけどな」
どことなく得意げに喋る姿に、俺はほんの少しだけ笑ってしまった。
「なにを笑っているんだよ」
「いや……なんか、堅そうな名前のわりに見た目かわいいなって」
「かわいくない! 俺ほど“威厳”があるやつはいないだろ!」
ぷいっと横を向く仕草が、どう見てもモフモフで可愛さのかたまりだ。
「とにかく、俺はこれからお前のスキル管理とサポートをする。
まあ、簡単に言えば“ナビアプリがしゃべるようになった”って思え」
「……ほんとに、しゃべってんだよなぁ」
リックは空中でくるんと一回転して、俺の肩にふわっと乗る。
「さて――まずは、これからのミッションの確認をするぞ。ちゃんとうまく使えよ、俺のこと」
「ああ……よろしく、リック」
「ふん、やっと言ったな。……よろしく頼むぞ」
その瞬間、画面の隅にひっそりと表示された。
《隠れミッション達成:新たなる相棒》
▶報酬:パートナーナビ機能 解放
そして俺はまだ知らなかった。
この白い毛玉が、やがて俺の人生を、とんでもない方向にぶっ飛ばしてくれる存在になるということを――




