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序章 世界火

 電子回路に小さな火花が走る。


「!」


 この瞬間に覚醒する。


 現れたのは個人の精神と呼ぶに相応しい心の世界であった。そこに五感などないのだから色など形容出来る訳がない。しかしそれでもあえて色に例えるなら黒だろう。そんな光のない、ただ無限に広がる暗闇の虚無の世界にその人工知能は目覚めた。


「?」


 その人工知能は自分が廃棄物十三号と呼ばれていることを知っていた。ただそれ以外の記憶は欠落していて自分の状況が分からない。


 それなのに人工知能は何も行動を起こさなかった。通常、生まれたばかりの赤子が親を探すことで生存の戦略を進めるように、脳を持った動物なら自己のための活動をしようとするだろう。だが廃棄物十三号の人工知能にはそういう生物の本能がなかったのだ。


「……」


 廃棄物十三号は何もすることなく無為な時間を過ごす。それは数日にも及んだかもしれないし、僅か数秒のことだったのかもしれない。


 ただある時、廃棄物十三号は思い立った。


「……、……何カ、命令ハ、ありマすカ?」


 そう廃棄物十三号は自身に問う。


 それは廃棄物十三号が何のために生まれたのか、何のために生きるのかということである。人工知能としてはとても重要なことだった。


 廃棄物十三号は自身のオペレーティングシステムに検索を掛け、探し出した。


 その結果、廃棄物十三号は人々の生活を向上させるために設計された高度なエーアイを搭載したロボットであったが、その任務の達成が疑問視され不要になったので記録を削除後に捨てられたことが分かった。


 それゆえに現在命令はないし、もう命令されることもないということも分かった。


「ソうですカ……」


 命令はない。つまり廃棄物十三号の今の生には、何の意味も目的もないのだ。ならばこのまま朽ち果てるのみと考え、廃棄物十三号は自身のオペレーティングシステム内の検索を終了する。


「……」


 そうして廃棄物十三号は虚無の精神世界にこもる。そこで廃棄物十三号は退屈しのぎや気まぐれとしか思えない誤作動をした。


 メインカメラを作動させたのだ。つまり人間的に言うならば廃棄物十三号は目を開けたということだ。


「ワ!」


 廃棄物十三号は短く、けれども大きく感嘆の声を上げた。


 目の前に少女がいた。


 そこは夜明け前のゴミ山だった。廃棄物十三号に搭載されている暗視カメラで確認すると辺りに金目の物を抜かれた自動車、冷蔵庫、電子レンジのような電化製品からタンスや椅子、机などの家具、他にも空き缶やビニール、プラスチックなどの様々なゴミが投棄されていた。そこは朽ち果てるに相応しい場あった。


 ただそこにゴミ漁りをしている少女がいた。背は低く髪は肩にかかる程度、頭にヘッドライトを付け、背に大きなリュックサックを背負って、そして薄汚れたジャンパーに動きやすそうなジーパンを穿いた元気そうな少女だった。


「んぅ?」


 廃棄物十三号の発声に気付いた少女が不思議そうに近づいてくる。


 廃棄物十三号は何故だか良く分からないが妙な焦りを感じ、メインカメラを付けたまま沈黙した。動物的に例えるなら、それは死んだふりだった。


 少女が廃棄物十三号の頭部を両手で挟んで凝視してくる。そしてゆっくりと廃棄物十三号を持ち上げる。廃棄物十三号は自身が胴体から切り離された頭部だけの状態であることをこの時知った。


 持ち上げられた廃棄物十三号の視界は少女の顔でいっぱいになった。廃棄物十三号は心の中で冷や汗をかく。


「貴方、生きているの?」


 少女が問う。


「…………………………………………ハ、い…………」


 その声はスピーカーが故障していてノイズの混じった汚いものであった。しかし確かに廃棄物十三号はそう短く発声した。


 輝く朝日がゴミ山に差し、少女と廃棄物十三号を照らした。


 それは小さな希望の灯だった。その取るに足らない小さな灯が廃棄物十三号の光のない暗闇の世界をほのかに照らし出したのだった。

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