結局のところ、コロニーの闇を司ることに――
結局のところ、コロニーの闇を司ることになる〈キツネとブドウ〉の運営は限られたリソースを管理することなのだ。
犬用ビスケット工場の運営と変わらない。資金があって、材料があって、ふりわける技術があって、初めて製品ができる。
犬用ビスケットと殺戮サイボーグの違いは犬用ビスケットは競合他社がいるからセールス部隊を編成して売り込む必要があるが、殺戮サイボーグは独占販売だから作るそばから売れていく。
そのくせ、資金繰りが難しい。コロニーが殺戮サイボーグを買い取る価格がべらぼうに安いからだ。
そんなわけで〈キツネとブドウ〉の資金管理には麻薬カルテルのドラッグ・マネーをきれいなものに洗いなおすとか二重帳簿で株主や会計士をだまし続けるとか、そのくらいの肝の座った人間が必要だった。
ターキー・アンダーセンはその条件に120%合致していた。ターキーは金をつくるのがうまく(あえて稼ぐとは言わないでおこう)、また損失をペーパーカンパニーに押しつけ本体の決算をきれいに見せるいわゆる〈飛ばし〉にかけては右に出るものはいなかった。
「会計不正ってのはいつ爆発するか分からねえガス爆弾の上に乗っかってるようなもんなんだよ」第一次〈キツネとブドウ〉が崩壊する三日前、泥酔したターキー・アンダーセンは同じくらい泥酔したアララギの部屋にやってきて、こんなことを言った。「簿外債務がどんどん重なってって、いつかバレることは分かってるのにやめられないんだよ。子どものおもちゃをつくる子会社にも大人のおもちゃをつくる子会社にも、もう飛ばせるだけの損失を飛ばして、これが破裂したら、もう財務官僚やら投資野郎やらからグチャグチャにされるのが分かってるのにやめられないんだ。あのハラハラドキドキはもうたまったもんじゃない。CEOのなかにはその簿外債務を何も知らない後任に押しつけるのがたまらんというけど、おれたちには後任なんていないだろ?」
この通り、モラルハザードの面でも文句はない。
とりあえず、ホテルの201号室に早速、第一ユニットを設置した。円柱型の培養槽と管理用のコンソール、生体維持プログラムと連動したパイプ管、エメラルドグリーンの培養液を貯めたタンクを取りつけ、総合ログ保存用の端末を壁に埋め込んだ。
しかし、ここで〈キツネとブドウ〉が空中分解しかねない重要な問題が発生した。というのも、生体維持プログラムと紐付ける形でビールサーバーを取りつけたが(ビールを最高の環境で保存するのにこのプログラムが応用できたのだ)、そのビールを白ビールにするかブルーリボン・ビールにするかでアララギとターキー・アンダーセンが口論した。仲裁に乗り出したダギーがふたりの意見のあいだをとって、温めたスタウトを出すように進言すると、仲裁と偽って、自分の要求を押し通さんとする悪意の企てだと糾弾し、201号室は禁酒法時代のシカゴみたいになった。
三人は決定を司令であるジェンキンスにゆだねたが、ジェンキンスはビールサーバーを廃棄する決定をしたので、三人は口をそろえて、ビールサーバーがいかに執行機体の生産に必要であるかを必死になって説得した(このときアララギは殺戮サイボーグではなく執行機体ときちんと呼んでいた)。
結局、それぞれの部屋にビールサーバーを取りつけるのは奢侈に溺れる原因であるから、一階のビリヤード台があるバーで三十種類のビールが出るようにすることで決着を見た。ついでに安物のポートワインや共産主義保存地区の配給ウォッカも蛇口から出るようにしたので、三人の〈キツネとブドウ〉に対する忠誠はより強固なものになった。