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 息が苦しい。

 酸素が足りない。

 足の感覚が鈍くて重たい。

 僕は昔から運の良い人間ではなかった。ただ、今となってはここまで生きれたのなら運の良い人間だったんだなと皮肉にも自分の命がかかってから実感している。

 映画なら主人公ではないけど、なんとなく傍で彩を添える添え合わせの野菜のようなものだろうか。たとえるならブロッコリーとでもいおうか。

 自分がブロッコリーなら追いかけている奴らが滑稽だなと思うと、そんな場合ではないのに笑ってしまい酸素を無駄にする。ゾンビと呼ばれたり感染者と呼ばれたりもする人を食べることしか興味のない奴らへの仲間入りも、もうすぐだ。

「おい!走れ!」

 唐突に声をかけられる。

 もう走っていると言い返したいが口から出るのは荒い息だけだ。

 前を見れば50メートル先の停車中の車の傍に立つ青年が大きく手を振って叫んでいる。

 その隣には私立の制服を着た女子高生が青年の服を引っ張り、車に乗り込もうとしている。

 青年には申し訳ないがそこまでたどり着くだけの力がもう残っていない。

 緩く首を振りながら地面に倒れこむ。空を見上げながら自業自得だなと自嘲する。

 こんな羽目になったのも僕のいた小学校の避難所内に感染症キャリアが潜り込み発症してしまったからだ。感染者は食料調達チームのメンバーだった。

 僕はたまたまチームが帰ってきたときに検品当番だった。食料調達後には感染していた場合を考えて3日間は別室で隔離期間が設けられている。

 その期間をスキップする方法が全裸での負傷確認だ。大体の人が全裸になるくらいなら隔離されている期間のんびりと休める方を選ぶが、彼は負傷確認を求めていた。その時点で嫌な予感はしていたが、個室で彼と二人きりになったとたん彼は土下座をして頼み込んできた。傷を確認すると歯型のついた腕に血が滲んでいる程度でもあったし、まぁいいかと見逃してあげたのだ。

 その結果、彼は2日後の夜に彼のパートナーたちと共にゾンビ化し避難所内を崩壊させた。

 ゾンビは単体なら知能もないし落ち着けば対処できる。ただ彼は非常に女性から人気もあり本人もそれに応えていたようで、何人もの女性と性行為をしていた。彼にとってラッキーだったのは関係性が公になったところですでにゾンビとなっていたことだろう。避難民にとっては不幸であるが。

 崩壊した避難所から命からがら逃げだしたところでゾンビに見つかってしまい、必死に走ったものの僕もこれまでか。

 ゾンビの気配が近くまできて目を閉じかけたところで、こっちへ走ってくる足音が聞こえる。

「えっ」

 間の抜けた顔で目を見開くと、空を青年が飛んでいた。その勢いで僕を噛もうとしていたゾンビの頭を蹴り飛ばし、青年は空中で体勢を整えて着地する。

「大丈夫ですか?」

 顔を見れば青年ではなく高校生くらいだろうか、利発そうな顔立ちで年下だというのに僕は安心してそのまま気を失ってしまったのだった。

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