三八話 邪神と救出と悪魔の罠
ちょろっとエマの姿絵描いてみたので愛でてくれれば!
私の脳内ではエマinミヨルはこんな感じ~!
マッシルド編、第一の佳境に、入ったかな…?(☆゜д゜)
――くぅ、ここまでは予想通り…。
『いえ、母上と父上の結婚記念日に良い贈り物をしたくて…』
『やだわ伯爵様、私、まだ16ですの。ちょっぴり背伸びしたいけれど、まだまだ弟が心配で』
前半…骨董品系が終わりかけるとそろそろ人が集まり始めたのである。…そりゃ勿論マハルのご子息様とそのご友人に、だ。
「(………………………しっしっ)
……ふむ、ブクオ君。そのまま反転して右ストレート」
渡された鍵が、ほぅ、と光り、情けない戸惑いの声とともにレンガの床を滑らかにターンして背後の貴族を殴り倒したブクオである。顎に入ったらしく、デブで豪奢なサイみたいな獣人がスキップ気味に後ろに転がって気絶する。おおぅ…何というスクリュー気味。
「君………いくら自分の御主人様のお尻がピンチだからってパンチはないだろうパンチは」
「だからブクオじゃねぇええ! い、っ、今のだってお前が…!」
あの獣人こともあろうにファンナの身体をさっきから人混みに紛れてちょんちょん触っていたのである。背中や腰までは許した。でもおしりはだめだ。治外法権だ。
『まぁ! なんて野蛮な奴隷でしょう…!』
「いえいえ、全く相手は貴族ですというのに勇気のある子で良かったですよマダム。貴族というものはほとほと本音が言いにくいものですから」
「言いますなぁ執事さん! なぁブックナー君、こちらの執事は実に優秀だな、…ウチに引き抜いても構わないかね? 何、マハルの家よりは劣るやもしれんがうちの屋敷もなかなかに潔白だぞ? ふふふ!」
シーダル伯爵がレンガの床に転がっている貴族を顎で示し、壁際の警備兵に、連れて行け、と命令する。俺が言う前にやってくれるとは気が利いてるなこの人。まさか外に放り出されることはあるまいが、
「(…ふぅんなるほど、…左の裏手入口の辺りに救護室を用意してる、か)」
つまり貴族用の救護のため、『整えられている』のだから、その分武装の数がステージ右より少ない。ここまでは予想通り。――避難用具入れに宝物やら奴隷やらがいる可能性がさらに高くなった。
――10分前――
「さっさと答えてくれ、あの中に奴隷がいるのか?」
「……………………………………」
シュワルツネッガ-みたいなグラサン兵士が去った後、俺達を遠巻きに見守っている貴族達を尻目に、俺はブクオの耳元で囁く。が、うんともすんともせず、俺の顔を見もしない…まるですねた子供だ、ええいこんな時に。
「あのな、お前が思ってるより俺達は必死なんだ。答えてくれ」
くそっ、ブックナーを見習えっての…! 癇に障ったかのように深紅の瞳が俺を睨み、
「他の奴がどうなろうと知った事じゃないぜ…」
「ほぉ? だとすると随分怖がってたじゃないか、ええ? お漏らし」
「…………………………………ッッ!!」
グッ…! と睨みあげてくるのを涼しい顔で受け流す俺。内心爆笑ものである。でも笑ってみせるともっとすねてしまうことは明は、
「(ぶはははははははは!!!! お前だっさいなー!)」
もたなかった。
「わ、笑うなよ!」
「(お…ッ。ぷふふふ…! お、おおお前の身の保障はしてやる。な? な? だっ…大丈夫だ、残り二人は多分知らないって! お前の尊厳は守られ…ぶふっ! うくくく!)」
「ヒカル兄さん何一人で爆笑してるんだ…ブクオの目がそっぽ向きながらも点になってる」
「え、ブックナーもブクオって呼ぶんだ? なら私もそうしようかなぁ…」
「や、やめてくれよっ! そんなバカの代名詞みたいな名前…! ネーミングセンスが疑われるぜ…」
「ふぅ、ふぅ……………………俺のネーミングセンスなんぞどうでも良いよ。この鍵で命令してやってもいいけど…しばらくの間だの主従だ、お前の気持ちを尊重してやる。過去の深くまでは詮索しない。
言わない理由、話してみろ。俺達の目的と合致するはずだ」
「黙ってなショタジジイ」
「鍵よ、こいつに自分で自分のアレを引きちぎらせ、…ぅ!!!! ぐむぅ、ファンナ離せ!! こ、ッ…! このチンパンジーに本当の恐怖という奴をだな…!!!! くそ、要するにお前がショタですらなくなれば良いんだろうが、ええ!?」
…ブックナーに背中から全身押し当てられるようにぷるぷる羽交い締めにされている最中にファンナがブクオを口説き落としていたのである。視線の先では、ちいさな炎に顔を照らされながら母親に叱られたように俯いてみせるブクオ。ええいいまいましい。ブックナーも密着しすぎだっ、離れろっ。
「…そっか、お姉ちゃんが、ね」
ファンナがまるで別人の肉を被ったかのように優しい笑みでブクオの髪を撫でる。羨ましい。別段ファンナに撫でられて良いことないが何かむかつく。そしてブクオ、おまえ男女差別する気かこの!
「多分ヒカル兄さんが鍵持ってるからだと思う…」
ブックナーが上目遣いに言う。いつの間にか俺の手を握られていた。何、どうせ殴りかからないための防止だろう。
「…あ、なるほど」
絶対強者には刃向かうけど純粋な好意って分かると殊勝になる子っているよな。良く反抗期で見かけるタイプだ。
「…これだから子供はイヤなんだ、おつむはガキだわ体型はガキだわ…「ひ、ヒカル兄さん…?」…どうしたブックナー、青筋なんか立てて? あれ? あれれ?」
俺達の不思議な視線のやり合いとは別世界のごとくファンナとブクオは何だか親密になっていく。そばでは、そっかー、と微笑するファンナ。『じゃあその助けたい君のお姉ちゃんの名前、教えてくれないかな』と保母さんのような口調で言うのだった。
ブクオは、ちらちら俺やブックナーを気にしながらも、言った。
「――――………………………………エマ。
…エマっていう、優しい人だった」
「……エ、マ? もしかしてお前…アフタの?」
そんな、まさか…。でも、でもでも同名の奴がいたっておかしくない。そんな偶ぜ――、
(いや、男が趣味の人もいるか。とりあえず若い子が集められて、こいつが『あぶれた』って考えれば)
「え………!! お前、姉ちゃんを知ってるのか…!? 会ったことあるのか!? どこかで、見たとか――」
「会ったも何も、エマは俺の仲間だぞ。アフタで助けてから連れてきてる。…ああ、ほらブックナー、お菓子くれた女の子がいたじゃないか。あのポニテの子だよ」
暑苦しいから掴むな、と袖を払う。何だ。あいつ弟がいるなんて一言も。
――ああ、そういうことか。
「じゃ、じゃあ…姉ちゃんは生きてる、のか…」
包帯で顔を隠してしまってるけどな。
「………………………………まぁな。でもあまり会うのはお薦めしない」
「ヒカル兄さん、それはどうして? あんなに元気そうだったじゃないか。姉弟なら別に、」
「事情があるんだ。…ともかく、俺は止めておいたからな。後は勝手にしろ」
「何だか煮え切らないわね…あんた助けたんだったら、家族に会わせてあげても良いでしょうが。そこまで強制する権利ないでしょう?」
「いいよ。協力って何をすればいい?
姉ちゃんに会えるんだったら何だってするさ…!」
何だか意気込むブクオを見てると…今更止められるわけもないと後味が悪かった。あんな事があったんだ、会いたくて当然だろう。ブックナーも俺の態度に不信感をあらわにしたが言葉ごと忘れるように壁際の警備員の警戒に戻る。
俺は、ブクオの言葉にエマのことも考えたが…そのほかにも、脳裏を占める別のものがあった。
バウムの話からすると、『エマは拾われた』子だ。弟なんているはずがない。
盗賊団に襲われて、なぜエマがさらわれずブクオがさらわれたのか。エマほどの上玉をあんな場所で…まぁおそらく『お手つき』って奴だ。目が眩んだんだろう。これは特に疑問はない。
とすると、――盗賊団はあまり下の方までは統制が取れてないのか? って事になる。でも上はこんな貴族やら金持ちやらが集まる秘密のオークションを運営に関与するまでに至っている。それなりの人脈があるのだろう。
…分からん。アーラック盗賊団はシュト-リア達の話に寄れば悪名高い盗賊団らしいししっぽ切りも心得ているに違いない。でもアフタでバウムを襲っていたあの盗賊達の動きは、とても盗賊に身をやつすレベルとは思えなかった。普通にギルドやっていればそっちの方が儲かるに決まってる。
…そうそう、そうだ。マサドで賭けをしたことを思い出せ。
俺は銀貨1枚から、連勝して32枚にした。これで2枚(600シシリー)をポーチに使い、他を呪いの武器達を買って使い切った。この頃はまだお金の感覚を知らなかったが――、
『ヒカル。お前は金回りがどうしても良いから言っておくが、四〇〇〇シシリーっていうのは大金だ。五〇〇〇が普通市民の六ヶ月の給料だと考えていい』
1枚で1枚を得て、2枚。
2枚で2枚を得て、4枚。
4枚を4枚で得て、8枚。
8枚を8枚で得て、16枚。
16枚を16枚で得て、32枚。
最後の、『銀貨16枚』という数字は金額にして4800シシリー。シュト-リアの言う『普通市民の六ヶ月の給料』に相当する。たかが野試合でだぞ? …だから分かる。ギルドとは命の危険は伴うが、かなり羽振りの良い職業なのだ。
この事からも分かるように、近隣の国々、ギルドから追われる恐れのある盗賊団に与することにメリットはないはずだ。そして、ギルドの依頼に出されていたアーラック盗賊団討伐の依頼者を『ホッツのように住居を詳細されてないにもかかわらず』盗賊団に殺された、と言う事実――――――…………………ああ、
「(…………………………………なるほどね。
まずいな。やっぱり最初の見立てで間違ってなかったか)」
髪をがしがしやる手を、ファンナがペしりと叩いてきた。
「(ちょっと…あんたさっきから崩れてるわよ。執事らしくしないと。
私も顔が知られちゃってるから数人にバレそうになったわ。髪型だけじゃ騙しきれないかも)」
サイドポニーの先がさわさわ首筋に当たってすごく柔らかいのだ。きつめのスポーツブラ気味だからか胸も外向きに押しつけられてるわで強調されてて、いわゆるりんごをブラで押しつけたところで潰れるわけもないというか、少しはその桃な双丘を自重しろと言うことである。さっきからファンナに集中する視線は別に二スタリアン云々は関係ないと言い切れるくらいだ。でも言ったら負けなような気がするからホントもどかしい…。
「そのドレス、大変お似合いですよお嬢様。活動的で健康美で…身も蓋もなくおてんばで野性的でおしとやかさの欠片もないお嬢様に実にお似合いでふげッ!!??」
「まぁね…! 私もごてごてしたドレスより動きやすい方が好きだし。よく見てるじゃない…ッ!」
「(お、女の子が胸を押しつけてヘッドロックなんかするなよっ!! ぅあ、柔ら…、)」
暗闇の中で首をキメられながらもステージをチラ見する。グラサンの司会者は直径20センチくらいの微光するダークレッドの宝石球を紹介しているところだ。事実上俺達は暗闇の中とはいえ油断は出来ない。
数十秒あまりの地獄と快楽から解放されてから皆を収集する。
「…!? おま、え」
「ヒカル兄さん、首が曲がってる…」
ブクオとブックナーが顔を青くしてるので触ってみると…おおっ、45度ほど右に曲がってた。物が見えなかったから分からなかっ「はいな(ゴキッ)」うぎゃあああああああああああああファンナ勢いよくやっちゃだめ…!
「ふぅふぅ、ふぅ…も、もげるかと思った…!(生きてるかどうか手を握ったり開いたりして神経が通ってる感触に涙しながら)
ええと……あー何だっけ。そうそう、作戦話すんだった。よし、もう一回地図を見るぞ」
マッシルド東部水路略図
↓渡し橋
~~~~~~| |~~~~~■~~~~~~~~~~~~~~~
| | 第三二番大水道
~~~~~~| |~~~~~~~~~~~■~~~~~~~~~
==================D====||
|↑|―――――| |――――――||=D||
|① \_/ ||避難||
| ↑ @ ||用具||
| ③ ↑ ||入れ||
| 現在地 ||__||
| ②→D__各ホテル、宿へ続く通路
|_D________D____|
| | | |
| | | |
| | | |
~ ~
各ホテル、宿へ続く通路
■ → 階段
D → 鉄の分厚いドア
- → 厚さ1メートル以下
= → 厚さ1.1メートル以上
①ブックナー
②ファンナ+ブクオ
③ヒカル
「(す…っ、すげぇ…! 昼間みたいだ)」
ダガーに触れさせたブクオが言う。
「(いいからこっち見る。
いいか? 陽動、突入、逃走経路確保の3組に分かれる。ファンナはブクオを連れて逃走経路確保に回れ。ブックナーは陽動だ。実質あの鉄の厚い壁を破壊できるのは俺だけだろうから俺が突入する)」
ダガーのおかげでお互いの顔が見られるので、全員の顔を見回しながら言った。
「(ああ、パパの知り合いに頼んで逃走確保用に数人ほど傭兵を滑り込ませてるけど…)」
「(ファンナ、今回に限っては出来るだけ少人数がいい。悪いが見ててもらおう。
まず破り方の手順だ。最初にブックナーがステージ左の裏手入口布巾で暴れてもらう。さっき倒れて運ばれた貴族を人質に取るみたいな感じでも良い。
戦力がブックナーに集中したところでその隙に俺がステージに一気に突入。
裏の厚い鉄扉を一気に破壊して中に押し入り奴隷達を確保した後、壁を壊して脱出する。見てみろ、避難用具入れの奥は通路と繋がっていて、しかも壁が薄いだろうが)」
とんとん、と薄い壁の部分を指で叩く。別に会場側…避難用具入れの横っ腹からそのまま突入しても良いが、ファンナの話によると地上の街を支えるために重要な壁だという。何よりこのやり方じゃ会場内のガードマンの介入を受けやすいし、この壁近くにいるかも知れない奴隷を巻き添えにする可能性がある。きちんとした入口ならこの危険がない。
「この鉄のドアな、通路側の方に鍵があるんだ。だから俺が避難用具入れの奥から壁を破ってここを守っている奴を無力化すれば鉄扉を開くことは出来ないはず。
ファンナはブックナーが暴れ始めた時点で扉近くのガードマンを落としてもらう。これはもしかするとここのガードマンが内側から開ける方法を知ってるかも知れないからだ。ブクオはファンナを邪魔しないように二人で打ち合わせしといてくれ。それで倒したガードマンはテーブル下でも良いから見つかりにくくすること。ドア近くに誰もいなくなったら、俺の通った道…ステージから入って、避難用具入れの鉄扉の道を通り、他の囚われてる人を確保しつつ通路に出る」
鉄扉の中で待機させられていたブクオの話で、中に他の奴隷がいることが確認されている。こいつが囚われてる中にエマがいないと知っているのはそのためだ。
「わかった」
「良い返事だ。武器は…そうだな、これ使え」
袖に隠していた警棒を渡す。見た目よりずっしりと重い3キロほど。40センチもない、そば打ち棒程度の太さだ。細かい彫りが施されているそれは振れば刀身が飛び出す仕組みになっている。
「アニウェの首狩り剣って奴だ…呪いの品だけど解呪してある。見た目は警棒だけど、刀身部分は何にどう当たっても刃面になる変な品でね。レアらしいから壊すなよ。
ファンナにはこのダガーを渡す。ファンナがステージに向かうときはおそらく会場内が混乱してて道が選びにくいはずだ」
「俺はこの姉ちゃんについていくだけでいいのか?」
ブクオが殊勝に言う。俺達の邪魔にはなるまいという気概も感じられるからこいつについてはそんなに心配しなくて良いだろう。ファンナにまかせよう。
「分かったわ…。
でも、ちょ、ちょっと…これじゃあブックナーが危険じゃない。囲まれたらどうやって、」
ブックナーも口を濁しながらファンナに続き、
「そうだな…突破くらいなら出来るかも知れないが、それでも追手がすぐ来てしまう事になる。二スタリアンの卒業生でも混じっていればヒカル兄さんが障壁で足止めしたとしてもすぐに破られるぞ」
「確かに。アンタ、ブックナーにも破られてるじゃない。さっきも大注目の中で神殿障壁使えるって事見せちゃったし、…当然危険人物としてマークもされてるでしょ。最悪なところ、対策立てられてるんじゃないの?」
二人の不安な言い方にブクオすら視線を細めるのを受けながら、俺は頬を緩めた。
「まぁ、俺が通路を確保するのはこれがあるけど…」
胸の内側のポケットから鉄扇を取り出し、見せる。反射的に、これのすさまじさを味わったことのあるファンナやブックナーが苦い笑みを浮かべた。
「まぁ、ホントの切り札はこっちだ。ブックナー、ちょっと後ろ向いて」
「あ、ああ…」
歯切れの悪い声で俺に背を向けるブックナー。俺は何の前触れもなく赤スーツの上着をぺろんとまくり上げる。
「(ひゃあ!!!??? …な、何するんだッ!?)」
「どいてヒカル、私がやる…!」
「だー、いいから二人とも大人しくしてろって! シャツもぺろーんとな。
…?」
…サラシ? へ? へぇ、サラシって文化がここにもあるんだ…まぁいいや。
「や、…っ、早くしろッ! そ、それ以上めくるなよ…!」
男が恥ずかしがるなよ、とからかいながら背中のサラシの上を指で突いてみせる。
「分かってる分かってる。――でだ、
これがその理由。ブックナーを一番出口から遠いところで暴れさせてやれる根拠だ」
ブックナーが何だか可愛い声を上げて身を縮めるも、止める間も与えずにサラシを押し上げて、見せる。
――それは呪紋だった。
俺がシュト-リアやエマにかけている物と同様の、契約の紋章である。
「し…………………………神、獣召喚の魔法陣…!? な、んで…?」
「え? ええ? ファン姉、今なんて言ったの?」
絶句するファンナに戸惑うように聞くブックナーは俺を見上げて、どうして? と促してくる。俺は満面の笑みで、
「実はブックナーが寝てる間に契約しちゃってたり」
「な、何て事を…! ああ私のブックナーが、そんな…!」
先を越された、とか妙な呟きが聞こえたが多分気のせいだろう。
「…ファン姉、契約ってどういうこと?」
「ようするにね、ブックナー。貴方、この男のペットになったって事」
「なるほど。
ペットか。
…ってえええええええええええええええええええええええええええ!!?????」
がしいぃッ!! と血走った目で襟首を掴んでぎったんばったんしてくるがHAHAHAと笑い返すばかりの俺にブックナーは開いた口が塞がらないようだ。
「ぺぺぺ、…ペットっってええええ!!?? 待ってよヒカル兄さん、ちょっとぉ!?」
「大丈夫だ、男には興味ない」
ファンナの手前、そんなことしたら殺られるわマジで。
「当たりまっ…………………………い、いや困るよそれでも!!」
なぜだか余計にヒートアップしたブックナーをヘッドロックでなだめた後(ちょっとだけ上手くなってる不思議)、ファンナにこの召喚紋が役に立つ訳を説明する。白目を剥いてよだれを垂らしてるブックナーだが、まぁ後でファンナが心配ないって言えば万事オーケーだろう。
「ブックナーの背中にあるアレは契約獣側の物だ。契約者は俺だから、俺がこの紋章を発動させた時、どこにいたとしても俺の傍に呼び寄せられる」
金髪碧眼少女を探す時に取った集団召喚の話を聞かせるとファンナは納得顔になった。
「女の子達の右腕の奴、あんたのだったのね」
…ファンナもあの失踪少女について調べてたらしい。聞けば、ファンナもが金髪で碧眼のせいで度々間違われたんだとか。お気の毒だなぁとからから笑うと「アンタが言うかアンタが」と悪者を見るような目で言うのだ。俺何もしてないのに。
ともあれ、作戦説明は終わり。
――「ファンナが愛してるブックナーは強いんだろ? なら心配ないじゃないか」――
まぁ、それがとどめになったような気がしないでもないが。
ギルドで掃討依頼の魔物の一部を換金したシュト-リアはその場で分け前の銭袋を二人に渡しつつ言った。
「ギリリー殿、アグネ殿、この度は世話になった。お互いコロシアムでいい所までいければいいな」
シュト-リアが胸に手を置いて礼をすると面食らったかのように巨漢と妙齢の女性が目を丸くした。黒髪のウェーブが見目美しく垂れ下がりたとえ鎧を着てなくともその風格は騎士のそれである。見た二人は大きく笑い、
「いやいや、嬢ちゃんもなかなかだ! いやぁ、今年のコロシアムはレベルが高いとは聞いていたが…こりゃ予選突破も難しそうだな、あのヒカル様も出場するとなるとなぁ!
…マサドの事件でもアンタがいてくれればもっと楽になったろう」
「そうさね、あたしも生まれ変わったらアンタみたいな正道の剣士も悪くないって思ったよ。アンタほど鎧の似合う女も珍しいね。まぁ、後は色遣いも覚えなくちゃぁね…アハハ!」
この棍棒の魔法使いと女鉄球使いはマサドの傭兵らしいのだ。自分がそこで介抱されていたこともあってかすぐに打ち解け、二スタリアン3位という女弓使いも組み入れて短期だがパーティを組んだのである。
本当なら森の主のドラゴンも四人で山分けだったのだが、とどめを刺したのがシュト-リアだと言うことで彼女にドラゴンの全取りもさせるほど気っぷも良い。シュト-リアは案の定バカ正直に山分けすべきだと主張したが、そこはプライドもある傭兵達である。
『一番活躍した奴がもらって当然だろう?』
その一点張りで…なかなか認めないシュト-リアにファンナが、
「ま、もらっておきなさい」
と、一言。それで折れてしまったシュト-リアはその日のうちにCから二階級越えしてBクラス入りすることになった。…受付の話によると随分とこの地域を悩ませていたAランクの魔物だったらしい。Bクラスになって12年のギリリーとアグネ、またヒカルの掃討をもってしても未だBであるところを見ると、ここからが長いのだとみるシュト-リアである。
「ありがとう。
…私はこれからパーティの皆の所に戻ろうと思う。街もどうやら祭りの浮かれた空気に混じって何やら不穏だ。…そうだ、二人ともアーラック盗賊団について情報は持ってないか?」
大会まで残り5日あまりという状況になると、往来から殺気を察するのも難しい。傭兵狩りにミナ達が巻き込まれる恐れがあるし、何より今彼女らのそばにヒカルがいない。最初こそ別行動したいというヒカルの大会への意気込みを快く思ってしまっていたが、どちらかがミナ達を守るべく一緒に行動しておくべきだった、と今さらながらに反省し、歯噛みする。
「あたしゃ聞かないが…ギリリー、アンタはどうだい」
「いや、ねぇな。アフタが襲われたとは聞いたが、俺たちゃ依頼ついでにピレット運河沿いに来たんだぜ。この町にも東大門から入ってな。
マキシベーの兵が入口で関所してたのは目に入ったが」
確かに、と、シュトーリアが小さく頷く。
「ああ。私は直接お会いしてないが、ヒカルがお会いしたと言っている。何でも秘密の任務を頼まれたとかで」
「ああ、金髪の少女をさがせって奴だろ? ハハハ、あんなの真面目にやる奴なんざ俺の知り合いにはいねぇ」
Bランクの二人もヒカルと同じくラクソン公…二人の場合は秘書だったらしいが…その依頼を受け、返事はしておいたらしい。協力する姿勢だけ見せておけばいいという二人の考え方は少々小ずるい感じはするが、逆に自由な傭兵らしい、とシュト-リアも頬を緩めた。
「…あんた、今ヒカルって…。
ヒカル様もこの町にいるのかい…!?」
突然だった。アグネが目の色を変えてシュト-リアの両肩を掴んだ。
「様…?
ああ、ヒカルも私と同じく別行動で、」
「何でそれを早く言わなかったんだいッ!!
ギリリー、ちょっとわたしゃ失礼するよ!」
それまでの玄人然とした成りを放り出して、焦り気味に人混みに消えていくアグネだった。俺の事もよろしくなぁ! とその背中に声を投げるギリリーを見ながら、彼女の鉄球が人の顔に当たらなければいいが…とシュト-リアは眉を細めた。
「彼女は何を?」
剣の大道芸に目を惹かれそうになるが、人混みからギリリーに視線を戻しながら言う。
「ああ、ヒカル様にご挨拶しに行くんだろ。マサドの事件では世話になったからなぁ…あいつも自分の知り合いの命を救ってもらったからって心酔しててよ。
マサドにいる時は目覚めないそいつのそばにずっとつきっきりで挨拶にいけなかったって、あれでもすごく気落ちしてたんだぜ? ……まぁ俺も不信心ってもんだ。会ったときに拝むくらいしておかねぇと」
「拝む? ヒカルにか? …って、おい」
じゃあな、とシュト-リアに背を向けて歩き出すギリリーに、さっきのアグネのこともあってか追う一歩が踏み出せないのだった。目を丸くして思わず出した手が空中を彷徨い、落ちる。
「(マサドの事件…? ああ、あの魔物の大群の事か?)」
…数日アグネ達と行動を共にした身であるシュト-リアだが、言動や考え方、ドラゴンの分け前のこともあるように、掃討のプロでありプライドがありサバサバしているのがギリリー達だと認識している。が、先のアグネの慌てようといいギリリーの言葉の選び方といい。二人ともミナのように様付けだし、畏怖すら感じる。ヒカルが売った恩というのはよっぽどの物なんだろう。果てしなく強いが、どこか突拍子がなく何するにしても遊び心があり、強引で節操がなくて、でも無防備によだれを垂らして寝ているヒカルを思い返してみて……あそこまで感謝されるヒカルの姿を素直には信じられない。
「…まぁ、あの反則めいたヒカルのことだ。考えても仕方がない、か」
馬車で手綱を握っていた時もそうだった。
馬車に飽き、自分に付き合って隣を走っている時もそうだった。
夜番で遅く目が覚めた時も…傍らでお気に入りの剣を磨きながら。
そこには強くもなくふざけてもいないヒカルの、どこかを真っ直ぐに見つめる横顔があった。今度は何を言い出すのか、と、いつの間にか期待してしまっている自分がいた。
(ミナの方が、その、触り心地はいいだろうに……って、ああ、だめだだめだっ…)
首を振って邪な考えを放棄する。ヒカルの事を考えるといつもそうだ。ヒカル達と離れたここ数日は特に顕著で、夜も宿で気配もないのに振り返ってしまったりと手に負えない。
「おい、ちょっとどいてくれ」
「む、…あ、すまない」
知らず、酒場の入口に棒立ちになっていたらしい。頭の中の整理がつかないのでそのまま店のテラスの席に腰を下ろす。
(……………いつだってそうだ。急に現われたかと思えば問答無用で組み伏せてくるし…。手足の絡まり方が巧妙で引きはがすことも出来ない。言葉遣いも恥ずかしいし、…しかも組み伏せ方が何だか上手くなってきている気がする、ような……っっ、ああ、また)
ふるふるふるっ! と煩悩に顔を真っ赤にして頭を振るシュト-リアだった。
溜め息の後、何か仕切り直す話題はないか、と惚けた顔で空の雲の分け目を見つめる。
「…アグネ殿はヒカルに会えるだろうか。
そういえば妙な少年をそばに連れていたな…ブックナー……うむ、どこかで」
少年というところがヒカルのことを考えると妙に信じにくいが、声こそ高いものの、口調は少年のそれだった。でも…ラクソン公のことといい、妙な既視感がある。
ラクソン公。
金髪の……少女…………………………………………………………………ッ!!??
「ば、ばかな!!??」
勢いよく立ち上がったせいで、イスを後ろに倒してしまうがそれどころではなかった。どうして気付かなかったかが不思議だ。姿ばかり気にしていた。万人といる人に同名もいるだろうと気にも留めなかった。だが、…!
(見たことがあるのは当然だッ…!
マキシベーの剣術少年大会で表彰して下さったのは…王族代表が、確か…確か…!)
「…………………あ、兄が不在で、私にメダルをかけて下さったのは、
……………………………――アミル、王女」
茶髪だった…!? 元が金であれ、そんな物染めてしまえばどうとでもなる。目も瞳色を変える薬や魔道具くらい、この大天街と呼ばれるマッシルドならば探せばあるだろう。…ブックナー王子は前妻の子であるというのは有名な話だ。二スタリアンの卒業生であり親衛隊となった…後に後妻となるアモリアータ王妃の子、それがアミル王女。
――シュト-リアがタンバニークでまだ騎士ではなく貴族の娘であった時の話だ。父の知り合いが催したパーティで知り合った女の子達の輪に遠巻きながらも自分もいて、年が2つ離れている、と話していた事を唐突に思い出した。いや覚えていた。決して驕らないが、シュト-リアは本来頭が良く、記憶したことは早々忘れない。
3年前に臣下のマハル家に嫁いだという話も、もちろん頭にある。だから元王女、か。
「なぜラクソン公が、アミル姫を追っている…!?
なぜアミル姫がブックナー王子を名乗っている…!?」
そして。
そして。
そして、そばにはヒカルがいた。
何か起こらないはずがない。
「…、こうしてはいられない…っ!」
人混みに駆け出す。レイピアが鞘から飛び出ないよう抑えつつ、通りへ飛び出す。
こんな所で油を売っている暇はなかった。合流する必要がある。…ヒカル達…叶わなければミナ達で構わない…!
シュト-リアはきびすを返し、ギリリーが消えていった方向に消えていった。
「たッ、たすけてくれっ!!!」
さすが変装屋の一品だ。赤スーツも裏返せば茶のコートである。ズボンも裾のボタンを外し、上布を腰に入れ込めば目立たない褐色になった。ブックナーは伸ばした警棒剣の柄を首筋に当て、突然の叫び声に動揺しガードマンすらも容易に近づけない。
ヒカルが指定したのは、競りの候補者が絞られ、脇の入口からステージに上がる瞬間だった。誰よりも先に入口に飛び込み警棒剣を神聖仮装で光らせて辺りを確認、突然の乱入者に反応が遅れた4人のスタッフをすかさず切り倒す。足の太股という傷つけられれば容易に体勢の取り戻しづらい部分への攻撃だ。倒れたところをすかさず蹴り倒し気絶させる。二スタリアンの五位と言えど、戦士としては一級品だ。身体が小さいこともあって、要事の時にしか動かない警備兵ごときに後れを取るはずもない。
入口より左奥に明かりの灯ったテントを発見し、中で介抱…もとい、機嫌直しのために少女の奴隷に『慰められている』デブのサイ獣人貴族を発見すると、侮蔑の表情で蹴り倒し、首根っこを掴んで引きずってテント外へ。
「(…外はもう占拠されてるみたいだ)」
気絶させたガードマンを積み重ねて通りにくくはしてあるが、いつ突破されるとも限らない。口を唾液とアンモニアに汚した奴隷の少女に避難用具入れに戻るように叫び、追い立てるように背中を蹴り、急がせる。
ブックナーはステージの松明でギリギリ見える少女の必死の後ろ姿を見届けると、後を追わず、意識を集中させる。
気絶した人間という障害物があるというのにドアから入ろうとする気配。
そしてステージから上がってきてブックナーの逃げ道を塞ぐマニュアル的な体制。
「お前、もっと叫ぶんだ。もっと声が響くように」
暗がりで助かった、と安堵する。今もしもダガーに触れている時のように明るかったならこの貴族の露わになっている一物にただでさえ悪い気分をさらに悪くしていただろう。
(集中しろ――お前なら朝飯前だろう? ブックナー。
…ここからが本番だ)
少しでも、敵を引きつけるために。
貴族の恐怖の叫び声がステージ左手より響くと、どよめき、人々が返すように恐怖の声を各所からあげる。
『何だッ今の叫び声は――!』
『人質よ! 人質を取ってるんだわ!』
『け、警備は何をしているッ! 何とか、しろ――!』
――計ったようなタイミングでステージ上にあった金のツボが障壁により破裂した。限りなく無色のそれは司会者ですら障壁と見抜けずに新手と考え、動揺する貴族達を見回しその魔力の元を捜した。しかし魔法使用待機を始めているガードマンや貴族が多すぎてその場所がつかめない…!
「よ、っと」
タン、と。
あまりにも自然な着地と声に、司会者の男は反射的に火炎玉を放ち、止められ、一瞬で炎が圧死した。
割れた金のツボのすぐ側。ヒカルはまたもや無色の神殿障壁で球の階段を作りステージ上に来ていたのである。ステージ下が騒がしすぎること。ステージより右手の人質事件に気を取られていたこと、ヒカルに殺気がなかったことにより接近に気がつけなかった…!
「じゃあ、老後のひとっ飛びごちそうしてやるよ」
構える右手には赤く魔力が蠢いてすらいる鉄扇であった。万作の武器武具を壇上で見てきた観察眼で即座に中レベルの呪いの武器であると見切った老紳士は、火炎を右手に集中させると同時に、ほとんど条件反射でその扇の詳細が脳裏を走り、
「(呪いの武器を持って正常でいられるわけが――!!!)」
当たり前の常識が、あだになった。
ワンテンポ反応が遅れた隙を狙われ、扇は振り切られた。
魔力が周囲の空気を唸らせ、金切り声をあげ、
「壁にチューしてくるんだなっ!!」
手加減なしの、爆風のごとき熱風だった。
ステージ近くの貴族もろとも司会者を、会場最奥の壁に無失速の勢いで吹き飛ばす――!!
海辺の鳥の首を数千羽纏めて叩ききったような空気の叫びが、火傷すらしそうな熱風とともにステージへの道をテーブルごとガラ空きにした。
「す、すげぇ…!!」
「そうね、デタラメよあんなの…!」
…恐ろしいことに蒸気すら発生していた。ヒカルの放った熱風が直撃したらしいステージ前の地面には、零れたらしい酒や氷が水玉となって跳ね回り、熱気と変わっている。本気でやれば溶岩にすら変えてしまうかも知れない一撃に会場の占める恐怖とは別の恐れに、二スタリアン3位とあろうものが身を震わせた。魔法を詳しく知らないブクオですらそのありえなさとすさまじさを肌で感じていた。
ガードマンは抑える必要すらなかった。元々人質の叫び、ツボが割れたことで貴族達は入口に殺到した。
――ドアを開かなければ逃亡できない。犯人すらも。
『扉守はそのまま待機せよ! 賊は包囲した! 繰り返す! 賊は包うわああああああああああああッ!!!???』
これはヒカルが読み逃したことでもあったが、黙秘の香があれば会場内の犯罪行為すら外に露見できない。つまり、閉じたことにより犯人に殺されようとその行為を咎めることが出来ないのである。ならば、千金になる商品を盗まれ、犯人を逃がしてしまう恐れの方が優先される。ゆえに、中が騒がしくなろうと、ドアの外に待機する警備は『何があっても開けない』事が仕事になる。
壁際のガードマンもあまりの人の勢いに飲まれ踏まれ行動不能に近い状況に陥っていた。ファンナはすぐさまブクオの手を引き、
「アつっ…!!!」
蒸気をはね除けつつ、手を引いてステージに向かう途中ブクオの足が止まる。
「靴履いてないのね…! いいわ、ちょっと動かないで」
ファンナは気合いにサイドポニーに止めていた髪止めを外し、投げ捨てる。そのまましゃがむとブクオを一気にお姫様だっこにしてステージへ走り抜ける。
「ヒカル! どう!? 今こっち手が塞がってるの!」
――声を上げるまでもなかった。ステージの右側に詰めていた警備兵、商品を守る門番もろとも壁に背を預けてノックダウンしていたのだった。それぞれ魔力発動した痕跡は見られるが残らず壁に押しやられている。
暗がりから顔を出してきたのは警戒するまでもなく、
「おうよ。今から鉄扉壊すところ。
そうだ、もう二、三回あおいどこうかな」
「大丈夫よ! というかこれ以上やったら他の貴族達の命が危ないってば!」
ブックナーのこともある。背中では剣戟が始まった。ブックナ-の威勢の良い声が壁に叩きつける音とともに会場に響き渡る。
「急ぎましょう! あの子がやるべき事をやってる今、私達もやるべき事をしないと」
「だな。おっけ、ついてきて」
ファンナの腕を取るとそのまま暗がりに消えていく。
「おおおおおおおォッ!!!!!」
神聖仮装された剣戟は三次元の質量や体積を無視して振り切られる一撃である。迫ってくる槍や楯を纏めてふきとばし、足で立とうとする貴族の腰を蹴り下ろして地面を舐めさせる。地面のレンガが魔力によって土になり、貴族の四肢を地面に磔にする。
「さぁ次は誰だ!」
投擲されてくる円盤形の剣を気配だけで察知して避けつつテントを引きちぎり、ガードマン達に投げつける。暗がりで見えないのは向こうも同じだ。突然顔にぶつかってきた物に驚かないわけがない。はね除けると――剣戟が迫っていた。
魔力全開で切っ先には自身が込められる最高魔力で暴れるブックナーである。普段の生徒同士の訓練ならいつも避けられる運命にある風の弾丸も狭い空間では猛威を振るう。避けることも出来ず、障壁を作れば隣の兵士が巻き添えを食う集団戦においてブックナーの戦術は圧倒的だった。
そして、待ち受けていた白い一撃を迎合する。
「ぬぁああああああ!!」
ガードマン達のひしめきが計ったように割れ、そこから弾丸ごとく飛び出してくる兵士である。剣が白く光る…自分と同じ神聖仮装された剣戟であった。返す刃。つばぜりあい、お互いを弾きあう。必殺級の足払いを飛んで避けられ、上からしなりをつけて打ち込んでくる一撃に足がレンガを砕き、めり込んだ。この技量、間違いなく二スタリアンだ…!
再び踏み込んでくる兵士に対して一撃必殺の袈裟切りを構えた刹那。
あ、と。
ブックナーは足が動かないことに気付く。
反射的に下を向くと、地面に伏していた貴族が左足を掴んで離さない…!!!
「(ヤバ…………!!!)」
判断が遅れ、警棒剣が弾かれ宙を舞う。返す刃が真っ直ぐに胴を狙い。ブックナーは空いてる足で貴族の腕を思い切り踏み砕くと後ろ飛びしたが、
「(だめだ、避けれない!!)」
真っ直ぐに、首を一刀両断する勢いで神聖仮装された一撃が腹に吸い込まれ、
『な、なんだ!!!!!!!!!!!!』
――猛烈なピンク色の閃光が、死に際のブックナーを空間から連れ去った。
「わぁッ!?」
どさ、とレンガに身体が落ちる。大通りを一回り細くしたような幅の部屋である。ランプがあって明るく、辺りには金銀や赤青黄、不吉な匂いを漂わせる武器や鎧、聖なる属性の一品さえある空間であった。城の宝物庫でも見たことがない光景にブックナーは息を呑んだ。
「おつかれ。ブックナー、一気に行くぞ。奴隷達の足と手の鎖を切っていってくれ。
首輪の鍵は全部ここにあるみたいだ。外で落ち着いてから外そう」
宝物の一帯を抜けると今度はまるで兵士の用具入れのようなあまりに小さい牢屋があり、その一室一室で囚われて着飾らされている少女、または少年達が眼をきらめかせてブックナーを見つめていた。ヒカルは小さな障壁で手際よく少女達の鎖を切断していく。剣を置いてきてしまったブックナーは、ヒカルが切り落とした牢屋の鉄の棒の切っ先を神聖仮装して切断していく。
厚い鉄扉があったはずの入口は空間がねじ切られたように大穴が開いていて何もなく、そこに居座るように白色結界がピッタリはまって鎮座している。その向こう側ではガードマン達が集まっているらしいが、障壁が圧倒的すぎてびくともしない。
「宝物はどうする…!? あんた好みの名剣の類もあるみたいよ!」
「今回は奴隷達が優先だ!! 俺も速いとこ逃げ出したいんだよ! …よし!
ブクオは解放した奴隷達を一カ所に集めて!
いくぞ、」
避難用具入れ最奥に手を触れる。いくら薄いとはいえ、それでも一メートル以下だ。ブックナーやファンナでは頑張っても数分を要するところを、
フォン――。
突如手を押し当てている壁に白色の手の平サイズの玉がレンガを侵食し、現われ、
「…僕、初めて見たよ」
「私もよ」
本来なら最強の防壁として使われている最硬の楯が竜巻のように回転して拡大しレンガをねじ切り、押しやり、問答無用にヒビを入れて破砕させていく様だった。ヒカルはそのまま空いた穴に突っ込む。ドム、と潰れる衝撃。――おそらくアレがヒカルの言う『重力魔法』だろう、と、二人は仲間ながらに汗を握った。
「ファンナが先頭でみんなを連れて行って! 俺とブックナーがしんがりでいく!」
「わかったわ! じゃあ後頼んだから!」
ダガーを構え、ブクオ達を引き連れてガレキの向こうに消えていくファンナを見送る。さぁ彼女に続いて、と振り返った。いける。このまま一気に全逃亡して、街に潜む場所を見つけてそれで
「…え?
…………ぶ、ブックナー…。
お前何倒れてるんだよ」
入口に集まろうとする奴隷達に埋もれていた姿が露わになった。
頭部に一撃。仰向けに倒れて、ぴくぴくと下半身をもぎ取られたアリのようにけいれんしている。
抑えきれない血が地面に流れ始め、溜まり始めていた。
「――…………………まさ、か――!!!!!!!!!!!!!!」
俺の傍を通り抜けていくはずの奴隷が、俺の両腕を虚ろな瞳で握りしめた。奴隷達の間から、おもちゃのように着飾った奴隷の少女がまたもや生気のない眼で牢屋をねじ切った際の鉄の棒を三、四本握りしめて引きずっている。
その先の血で、レンガの床に蛇を描いていた。
――そうだよ、簡単な事じゃないか。
何で気付かなかった…!
甘かった…! 向こうは一国を揺るがしかねない権力らを抱き込むっていう悪党なんだぞ…!?
考えが、甘すぎた…!!
鍵という、奴隷を支配する証を与えたからといって、
『その他の要因で奴隷の意志を支配する呪いの類がない』
とは、限らないんだ…ッ!!!
「にいさ、……逃、げて、…………………お、願い、逃げ、て………!」
頭蓋がその形を保っているかも危うい怪我を負っていてなお、顔を上げ、血で滲んだ顔で俺を見上げた。
「ファンナッッ!!!!!!!!
絶対に、
絶対に振り返るなぁああああああああああああ!!!!!!!!!」
目の前の、鉄の棒を持った少女の先を越すように俺の首を一閃した硬い感触に、俺は刈り取られるように意識を、手放した――。
何か書くことないかなと探してみたら、アクセス数云々があったね!
PVが150マーンッ!! ユニークが12マーンッッ!!
というわけでお祭りじゃわいのわいのwwwwwwwwwwwww
(●´∀`)ノ+゜*。゜喜+゜。*゜+