二一話 邪神と英雄と神のパティシエ (前)
「少女の幽霊にはどうやったら会える?」
「根気強く待つしかない。私とて会いたいときに会えるわけじゃないんだ」
ふむ。俺は店のカウンターに背中を預けるようにして通りを見た。盗賊の筋を警戒してか、ギルドで見た傭兵達も町を巡回しているらしい。
「そうだな…。あ、何か前の店のものをそのまま使ってる、とかないですか?
憑依霊の可能性があるので」
「まさか」
ブロンドの髪をいじりながらナーシャは鼻で笑う。まぁ、自分の菓子に自信を持ってるらしいナーシャに限って他人の物を使うなど有り得ないが。
「道具は私が選んだ物こそだ。たとえアルレーの使っていた物であっても私は使わん。他人にホッツの味を助けてもらっているみたいで気に入らない」
「そこまで言うかなー…あ、そう言えば俺の旅仲間がアルレフール買ってたんだけど、どこの店でも出してるの?」
ナツがエマのためにとか言って皿に盛っていたアレである。
「ああ、まぁ先人への礼儀だろう。アレを作ってない店など私の店くらいだ。ちなみにアルレフールだが店々で味や焼き加減が微妙に違う。特徴が分かって面白いぞ。一度食べ比べてみるといい。
…さて、仕事に戻るか」
ナーシャは腕まくりをして厨房を振り返った。ハルをたたき起こすべく、仰向けにダウンしている彼のすねを蹴り飛ばす。
「人通りがすくないな。
……………何とも張り合いのない」
若き女店長が侮蔑さえ含んだ瞳で、店の外を睨むのだった。
俺はその日の深夜、ホッツに張り込んだ。神殿結界で明るくした店内の片隅で、外と中とを交互に見ながら幽霊を待つ。
「エマ………どうしたもんかなぁ」
ナツがエマの手術をしてもらったと話してくれた。手術はナツが知らないだけでやっぱりあったようだ。さすがにお腹をかっさばくのは存在しないらしいが。まぁ虫歯を抜くのだって昔からあったんだから、目を切るのもあるだろう。外部器官だし。
やはり目の回復は絶望的だそうで、両目とも切除。せめてもの処置として化膿しないようにしてもらったらしい。詰め目の予備はさすがになかったらしい。マッシルドで探すことになりそうだ。商業都市だけに物にの有無には困らない場所らしい。お金貯めとかないとな。
エマが、呻くのだという。バウムが見に行けないこともあって、暴れるエマを医者と押さえるので必死だったそうだ。ミナがいたせいで何とかなったらしいが。
今夜もエマの元にはナツとミナ。バウムは一人で。シュト―リアは夜の町を回りながら星でも眺めているんだろうか。
外にはたまに傭兵達が巡回してるのを見かけた。
どうして白く光ってるのは彼らはしばらく店の前に留まって不思議そうだったが、すぐに散っていく。
「あ"」
ていうか、神殿結界内に現れられるのか? 仮にも幽霊だろう。神聖な物って嫌いかも知れない。
ナーシャの話をまとめると地縛霊のたぐいなのは間違いない。案外骨とか埋まってるかもな。はぁ……三六九と色々味わってきたせいで、こういう事ばかり詳しくなってるし。
シュト―リアでも呼ぼうか。夜のお菓子屋というのも悪くないし…。
「指先だけの神殿結界の明かりもあるけど…それも嫌いかもだな……よし、あの黒い宝刀試してみるか」
アフタの村で見つけた例の儀式用宝剣である。上空からおろしてくると窓外でキャッチして魔力を込めてみる。ただ魔力を込めるだけだと、黒剣の束や柄などについている六色の宝石が全灯するだけである。
ライターを意識して指先に集中してみると、何となく火がちらちらしているような感じに光った。おお。
イメージの仕方で宝石同士の光具合に差が出るみたいだ。これはいい。練習になるかもしれんし何よりわかりやすい。要するに他の色が光らずに一色だけ光ってれば良いわけだ。
「ようし…」
その日は一晩中念じて遊んでいた。幽霊も窓割りも来なかった。
「ふぁわああああ…」
結局朝帰りである。時間になるまで入り口が開放されないため、ぶらぶらとしてるのもなんだからギルドに行って周辺の掃討依頼をまとめて受け、三〇分後どさっと店前に置いた。 昨日より数か少ない。もうこの辺いないんじゃないだろうか。いくつかの依頼が完結できなくてちょっとショックだった。
銅や銀を銀、金にそれぞれ両替してもらって幾分か軽くなったポーチで道具屋、防具屋をあさった。
話の分かる防具屋と違い、道具屋の親父は呪いのアクセサリなんてないよとずいぶんおろおろしていたが、銀貨を握らせると「ほ、他の店には内緒にしてくれよな…」と奥に連れて行っててくれる。でも大したものはなかった。
「まぁ鎧は着なくとも盾は良いな!」
初の盾をちょっと格好よさげに構えてみる俺である。もちろん解呪済み。店主自身は幾十にもふきんを重ね、厚い手袋までしてきて持ってきたのに、それをいきなりがしっとつかみ取った俺にずいぶん驚いていたが、威勢の良いと感じたらしく負けてもらったのだ。いい人である。盾いいな盾。初めての盾の思い出にも満足である。
ちなみにこの盾は魔界の上級兵が使っているという一品だそうだ。
黒塗りで縁取り、復讐の呪文をその上に刻んでいて、真ん中は青色の宝珠が六芒星を描くように埋め込まれている。まだ未使用で傷もない。
物理衝撃のみ攻撃してきた武器に跳ね返すという、カウンターな一品である。思いっきり打ち込んできたら思いっきり跳ね返るという奴だ。さすが一〇〇〇〇シシリーをふっかけてきたことはある一品である。
呪いもしっかりあった。魔界ゆかりの者以外が持つと幻惑を見せるという。試しに持ってみたら店主が同じ服装のナツに見えた。ぶかぶかな服装に男言葉で話すナツをもうちょっとこのまま見ていたいな、と思ったくらいである。
例によってマッシルドのオークション予定だったらしい。
ふむ。
武器屋防具屋道具屋な商売にもそう言う面があるのか…と何となく暗部の存在に納得する俺だった。
「ヒカル様、昨夜は巡回お疲れ様です。ささ、こちらでお休みになってください。姉さんは町長さんの所に行って今いないんですよ」
何となくナツの顔が見たくて診療所に向かった俺を迎えるナツは開口そう言って俺を奥に連れて行く。一部屋二人の病室で、すでに左奥の方にはエマが寝かされていた。
「ふぁあああ…眠い…シュト―リアはいつ寝るつもりなんだか…」
いや昼に寝てるかも。俺がホッツで売り子やってる間にとかね。くそう、いまいましい。
「ナツはきちんと寝てる?」
ベッドの布団を持ち上げながら言う。医者にベッドを俺も使う了承を得てきたらしいナツに、戻ってきて早々聞いてみる。
「ええ、でもたまに私も一緒に寝ちゃうんですよ」
「え、いつもじゃない?」
「あぁー、ヒカル様までそんなこと言うんですかっ!? 姉様も…ひどいよぉ…」
俺は、すねた風なナツの頭を撫でつつ笑って誤魔化した。ナツは、ふんだ、とそっぽ向いてしまっている。
「昨日はどうだった?」
「昨日ですか? 大変だったですよ-、急にベッドで暴れて起き上がろうとするエマさんを私と姉様で押さえて…夜深かったかなぁ…」
ナツが思い出すように空を向いていると、エマが小さく呻きだした。
「――あんな調子です。しばらく静かだな、と思ったら、すぐに苦しそうに呻き出すんですよ。まるで悪夢を見ているみたいに」
「悪夢かー…まぁしかたないなぁ」
男子的な悪夢ってなんだろうとふと思った。
やっぱりあれかな。
切られることだろうか。
俺は布団をかぶると横になった。目を閉じようとすると、ナツが、あ、と間の抜けた声を上げて苦笑いしながら言った。
「最近は寝言を言うんですよねぇ。
おいしくない、まずい、まずい、って。
お菓子の町なのに可哀想だね…って姉様と話してました。早く元気になって欲しいです」
その日俺は、ホッツの営業後の深夜、呻くエマをナツやミナ、ナーシャの了承の元、厨房のテーブルに寝かせた。
厨房には俺一人。
何があっても良いように俺の周りにはテツを含め、呪いの武具数本が待機している。
外にはシュト―リアとミナ、バウム、ナツが四方を固め、遠目でそんな俺達を心配そうに眺めているナーシャの姿があった。
絶対来る。自信があった。
どうして気づかなかったんだろうと自分が不思議だった。ナツの話を聞いて飛び起き、じゃあ窓が割られる前の日途中で寝てしまってないか、と聞くとしばらく言わなかったが、俺があまりに必死なので、恥ずかしそうに、実は寝てしまったことを教えてくれた。
霊という奴はとにかく未練が全てだ、と、昔会った陰陽師の卵…戸泉小町が言ってたことを思い出す。
霊は身体を探す。これは霊なりの性質、生者で言えば本能のようなものだ。三大欲求を振り切ることが出来ない人間と同じように、地縛霊や憑依霊と化した意志ある何かは自由に動かせる四肢を渇望する。
今回の霊も例外ではない。
『おいしくない』
つまり味覚…向こうの意志はどうあれ、生者にしか味わえない五感を求めていることの示唆だ。
何より自傷し自分を無にしようとしている、空洞になろうとしているエマは、まさに幽霊にとっては格好のよりしろである。
「ヒカル! 本当に来るのか!?」
「魔法だ魔物だ魔王だ、そういうものと違って幽霊とかのオカルトの方が、なじみが深いんでね! 少なくとも理解に苦しむことはないんだ。…油断するなよーっ」
未練により発生するなら、幽霊退治の基本は『理由探し』と定石で決まっているからだ。
だが、その理由はいくつか候補があって絞れない。何より少女の正体が分からない。
なら、本人に聞くのが一番だろう。
「う、ぅく、ぅあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――っ」
びりびり、と窓が震える。がちゃがちゃとボウルやら調理器具が地震の最中のように振動し出す。即座に俺は薄色で神殿結界を張り、不意打ちに備えた。
ポルターガイスト現象…久しぶりに見た。三年ぶりかな。
透き見の杖を空中からつかみ、言った。
「エマに憑依している者を示してくれ」
『…………………完了。
対象名 ミネア・アルレー・ラ・ミヨル
属性 冥界第三部指定下級霊
憑依濃度 70.459222パーセント
能力 四肢の動作、触覚をのぞく五感の送受、言語の使用』
「ミネア…………ナーシャ! ミネアって…どこかで…!」
「ああ!! ミネアはあのパティシェ、アルレーの、姓だ!」
とうとうの内部だけがマグニチュード六を超える大地震になっていった。神殿障壁で切り離してみている俺には、夜だからか、まるで残像を残して世界が揺れているようにも見えた。がくがくとエマの身体が地震によって上下に跳ね、
「なんつー…! こんなのが下級…!?」
これが中級や上級になるとどんな事態になるのかと一瞬考えてぞっとした。たしかに人など楽にくびり殺せるはずだ。
まっすぐ、正面から目を離すわけにはいかない。
腕や足を変な風に跳ねさせてどんどんテーブルの向こう側にいってしまうエマの身体。
俺が目視している透き見の杖の憑依数値がどんどん上昇していく。まるで火にかけた鍋の水の温度のように当然かの如くエマの意識の残滓を食いつぶしていく。舌で唇を濡らした時にはもう九〇を突破した。
振動に戸棚で踊っていた瓶達が次々に落下して割れ出す。
この店の持ち主の前で、愛着あるだろう調理器具が落下していく。窓にひびが入り、破裂するように割れ散っていく。
なおも、地震は止まらない…!!!
「ちぃ……………!!
杖!
教えろ!
『あれ』は呪いか!?」
『否定。
霊体は呪詛ではなく、指向性を持った意識体』
呪いじゃないなら解呪できない…!
「くそっつ!」
俺の見ている先では、エマにすらガラス片が飛び、その肌を傷つけているのが分かった。包帯を巻いた頭がすっと見えなくなると、…いつの間にか振動で奥まで動いていたらしく、そのままテーブルの向こう側に落下していった。
「エマ!!!」
「バウム、厨房には入るな!!」
――――まるで、俺の叫びに呼応するように止まる振動。
音が奪われたみたいに、ホッツの半壊の厨房が夜の静寂に落ちた。
俺の見ている光景は写真に閉じ込められてしまったのだ、と錯覚するほどに
『憑依濃度 99.9999981パーセント』
バリ、ジャリッ…――、
ただのガラス片が割れる音だ。なのにまるで、スピーカーでも使ったかのように厨房中に響いて聞こえた。
バリン。――ザリッ…――、
『そこ』にあるのは『人』の気配だけだ。なのに無味無臭のお菓子のように生気の感じられない雰囲気を醸し出す物音が、銀鉄製の調理台の向こうから響く。
オーブンの火炎魔法をかける加熱棒を、ガシッ、と女の子の手がつかんだ。
釣り糸に引かれるように持ち上がる体。なのに、その握りに万力じみた握力を感じたのはなぜだろう。
「え、マ…? ……意識あるなら返事はしてくれよ?」
緑色のポニーテールが、重力いっぱいに、その長い尾を地に垂らす。
包帯でその目を巻いていながら、まっすぐと俺を向いていた。
が、予兆もなくその身体がカウンターに向かう。
「おいしいの、おいしいの、」
俺達の視線と意識が集中する中で、焼きプレンディッツの箱をむんずとつかむとばりばり包装紙を破き始めた。
「お、おい…エマ……………?」
口元を汚すのも気にせずに、クリームやら糖蜜やらで手をべとべとにしながら両手で口に押し込んでいくエマ。ぼろぼろと真っ白な病人用のワンピースを伝って厨房の床を散らかしていく。すでに瓶や窓のガラス片で一杯だったそこのわずかな隙間を埋めるかのように。
「まずい、まずいよう、だめだ、こんなのじゃだめだ」
「おい…! エマ! 聞こえるなら――…!」
呼び止める俺の声も聞かず、割れた窓から外に出て行くエマ。まるで夢遊病のようだ。目的の意志も感じられずに、ただ言われたことを無気力にやろうとする死者のそれだ。
「ちょ、っと………………ぉあんたぁっ!!!!!!」
そこには、なんて間が悪い――自分の店を破壊され業を煮やしたナーシャが、エマに肩を怒らせて近づいていっている光景だった。
「シュト―リア! すぐにナーシャをエマから引き離せッ!!!!!」
「分かっているッ!!!」
言いながらシュト―リアが弾丸のように飛び出るも、すでにお互いに歩み寄る形だった二人だ、間に合わない。
「このぉおお!!!」
視界を包帯で覆い端から見れば棒立ちのエマに対して、血あざすら残しそうな張り手を見舞うべくナーシャが勢いつけて振りかぶったその瞬間、
シュト―リアが俺を流し目で見た。
間に合わない。
顔を引きつらせて、目で訴えてくる。
高速発動に右手がじんと痛む。魔力をぶち込んで、普段でさえ一秒足らずの発光で発動するそれをガンマンの早撃ちのように発動させる。
呼応して疾走するシュト―リアをピンク色の発光が包み、
エマが『押す』。
バキバキバキバキバキバキバキバキ――――ッッ!!!!!!
ただそれだけで、二人の身体は、正面の店にまるで弾丸になったかのように突っ込んでいった。板やガラスをぶち破っていく音が、夜のアルレーの町を支配する。
「シュト―リアッ!!??」
「だ、大丈夫………………だッ、回復魔法をかけておいた、から……………っ
ゲホッ! …ヒカルはエマを何と、か…しろぉッ…っ」
シュト―リアがナーシャを後ろから抱えるようにして後ろ飛びしたため、衝撃の大半を請け負ったらしくナーシャは死にはしなかったようだ。が、右腕がまるでもう一つ関節が増えたように不気味に折れ曲がっている。
押したのだ。ただ。まるで幼い子供が親に離してと胸を押す風に。
「みんな近づくなよ!?」
自分の感触に違和感があったのか首をかしげる風なエマは、表に出てきていた俺の存在に気づいたらしく向き直り、
――ものすごい早さで殴りかかってきた。
「し、神殿障壁ッ!!」
ガン! と有り得ないことに急速拡大する障壁を拳で『殴って見せた』のである。
今まで感じたことのない感覚に冷や汗混じりに後ろに飛んだ。拳と言っても、まるで子供がじゃれるような握りの甘いものだったはずなのに。高速で半径5メートルほどに拡大してその勢いでエマの身体を吹き飛ばす。
「ヒカル様! 今のは一体…!」
「分からん!! 魔法ならミナの方が詳しいだろ!?」
どうしてだろう、俺にはただの女の子にしか見えない少女が、神殿障壁をただの拡大する壁として干渉してきたのだ。
ごくりと、喉を鳴らすことさえ出来なかった。
――神殿障壁。
思えば俺が最初に覚えた魔法で、同時に神聖魔法最強の守りだった。
行使者の意に反する全ての物に対して無敵を誇る、聖域を守る白色の城壁を発生させる大魔法の一。
わずかな使用でさえ、シュト―リアクラスの大貯蔵魔法使いの魔力を枯渇させうる、人には過ぎた魔法の一つだ。
最強の守りであり、俺にとっては、神域から干渉する暴力でもあった。魔物達や物理攻撃をその質量や威力、鋭さ、付与されている魔力など関係なく、その障壁の前には『押し戻されてしまう』。まるで自分が押し戻されるのが自分の意志であるかのように、込めた力は失わずに攻撃が無に帰す――。
それを、殴った――?
「ヒカル殿――ッ!」
呆然として足を一歩また後ろに運んでいた俺を、正気に戻させてくれた声は、バウムの物だった。
「驚くなヒカル殿!
今のエマは……………ミネア嬢は元は生体であり霊体なのだぞ! 同じ上位階層同士が干渉しあうのは当然だろう…ッ!!」
「ヒカル様!! 先ほどの一撃も、ヒカル様の神殿障壁と理屈は同じです! 神殿障壁で他の神殿障壁の座標を奪い合おうとする事と同義なのですから!
その危険です、距離を早く取ってください!!!」
ミナの声が続く。いつの間にかエマを中心において全員で囲むような陣になっている。
ようやく理解できてきた俺だが、
「じゃあどうする!?
これ、つまり身体は生きてるのに込める力だけ霊体って事か!?」
呪いの武具を向けているのは、ただの人間だ。シュト―リア達を、まるで中級魔法の一撃を放ったかのように店に突っ込ませ、神殿障壁をただの壁のように殴っておいて、その身体はただの人間!?
とにかく急きょ捕まえるしかない。エマを封じるべく、魔物のギルド用掃討に使っているやり方で、まずエマを神殿障壁に取り込、
「――、は、や」
早い!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
神殿障壁の展開より早い。その一瞬でエマの身体から人間らしさが消え、彼女のあらゆる器官を破壊しながら一個の弾丸となる。
早すぎる。
憑依霊だからこそ出来る、宿主の身を顧みない筋肉のリミッター外し――!!
とっさに身を転がして避けるも、まるでエマは俺を目的としていなかったかのように俺の上を飛び――陣の外へ着地した。
さっきまでの子供がじゃれるような動きではなく、シュト―リアのように軽やかだ。
でもその動きはシュト―リアをも遙かにしのぐ、歴戦のそれだった。
「やら、れた――…………………………!!!」
その手に、滞空させていた俺の呪いつきの一本を携えて――――。




