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十五話 邪神と盗賊と獣の魔術士

 ――――侵略、とはこのようなことを言うのだろう。


 ロールケーキのように作られた円上の家並みに、まるでアリが群がるよう。

 ニルベ村でもあったタイプのコテージ状の家屋が半壊し火を噴き、窓の内側に、絵の具をぶちまけたように人の血液がしぶいている。


 煙の大本は村長宅に投げ込まれた、残留性の高い火炎魔法だ。絨毯や、この村の村長の趣味だった人形作りの材料が無残に焼けていく。その中には村長の身体が焼ける臭いも交ざっている。



 さらわれる者。



 犯されて殺されている金髪の少女。



 人体収集家に売りつけるべく目や耳や舌、性器をくりぬかれて奪われた中年男性。



 逃げる後ろ姿を遊びの的に使われてナイフを刺され矢で打ち抜かれ、中身を引きずり出され、ピンク色をした臓物がまだどくどくと息づいたままになっている老人もいる。



 傭兵らしき五〇人あまりの集団がひとくくりに集められ、それぞれの首が飛ばされてて壁に立てかけられていた。頭部が、首から上を失った身体のすぐ前でまさに今焼け、黒ずんだ煙を上げている。



 腐臭だ。焼けるモノの臭いと、焼けてないモノの臭い。



「――ア、あああ…!」


 ナツが鼻と口を押さえて腰を抜かした。まるで蛇口を捻ったかのように涙があふれ出し、うずくまって嘔吐し出す。


 走りかけていたミナがナツを光景から庇うように頭を抱き、背中をさすって介抱しながら、


「すみませんシュトーリア、ヒカル様をお願いします」


「何という事を…!」


 ミナに頷いた俺とシュトーリアはそれぞれ武装して街になだれ込む。


「シュトーリア、こっち」


 シュトーリアを抱きよせるように家の影に隠れる俺は、


「あいつら、か…! …いや、」









「いや、な、ななな何でもするから、妹なんかより私の方がずっ、と、い、いやいやいやいやいやぁああああああああああああ、 ――――」



 ドサ。

 目の前で、裸に剥かれていた赤毛の少女の首が、あっけなく落ちた。


 約七キロの重りがなくなり軽くなったというのに、少女の身体はまるで糸を失った人形のように地面に倒れ伏せる。

 涙と死に際の恐怖で歪んだまま地面の砂でその顔を汚し、切り落とした男に蹴られて民家の壁にぶつかって鈍い音を立てた。


「おいおい、あんなに言ってたんだから持って帰れば良かったじゃんかよー」


「ばかいえ、一回使ったらもうクズだ。買い換えなんだよ」


「買ったこと一度もないクセによく言うぜ…」



「く、盗賊めが――ッ…………………!!!」


「おさえろシュトーリアッ! こういう場合出ていったらダメなんだ!」


 俺の経験上。

 助けたくても、もう助からない人間を助けることは出来ない――。


「だからといってヒカル! このまま見過ごすのか!!」


「見過ごさないさ」


 シュトーリアが盗賊達に向き直ると、そこには立ったままの状態でプレス機で押しつぶされて地面にバラを咲かせている盗賊達の死体があった。


「今は出ていく必要がなかっただけで」


 シュトーリアに譲る余裕もないくらい、ヒカルも気が立っていたのだった。






 盗賊達は街のそれぞれにいて、侵略行為を終え、引き上げる段階だった。


 俺とシュトーリアが二手に分かれる。


 大通りを神殿結界で独走しミュルーズ・アーツと目視する度に圧死させる俺。


 身体強化をかけた身体で蹴り飛ばし薙ぎ飛ばし剣のサビにしていくシュトーリア。


「ちっ…」


 …あん時と同じだ。


 末期だった。荒れ果てた町、臭い、盗賊や生きている住民の姿が見られない。きっとさらわれ、奪われ、もう引き上げる最中なんだろう。

 

 盗賊はその性質上、必要以上の戦闘を取らない。


 町は、既に助からない。もうとっくに何もかもが奪われた後だ。荒れ果て壁が落ち炎ががなり、けれどなぜか静かに感じてしまう時、…大抵がそうだ。


 こうして惨状の中を生存者を捜して走り回る経験をまた味わうハメになるとは。俺もつくづくついてない。

 せめて、せめてその死を看取ることさえしてやることができない。三六九はあの時も俺の顔を殴って目を覚まさせてくれたっけ。


 角から出てきた盗賊を壁に打ち付け、ミュルーズ・アーツで身体を『破壊』する。


 覗き込んでみると、服を引きちぎられ、顔を粘液でべとべとに汚して生気を失った目をした緑髪のポニーテールの女の子がいた。ナツより少し背が高いくらいの、気の強そうな顔立ちだったが、それも汚される前の話。俺はすぐさまポーチから布を取り出すと、粘りけの強いつんとした臭いのそれをふきとってやる。と、


「ぁっ――いや、いやぁあ…け、えうぇああええあえが、あうあっ…!!!」


目が、壊れていた。俺が、さっき出てきたあの盗賊と同じに見えるのか。


 半裸のままゴミ箱やバケツをひっくり返すようにして路地に俺から後退り、バリバリと自分の肩を力のままに掻きむしって血と皮膚でボロボロにする。その血で汚れた手のまま自分の目まで、


「お、おい…!」


「痛い痛いいたいいたいや、めて、やめていたいいたいいたいいアガ…ぃたいいたいいたいの……・・!!」


「頼む、テツ!」


 ポンチョの右袖から俺の相棒がその鎖を黒く発光させながら飛び出して少女を縛り付ける。俺はそのままポンチョで女の子を風呂敷で包むようにくるむと、神殿結界で一〇〇メートルほど上空に避難させておく。


 少女の気が狂った叫び声がまだ耳に残っていた。


 こういう何もかもが終わった後を対処するのは、いつも胸が張り裂けそうになる。

 





 ドォン…!!!






 遠くで爆発音がしたのを聞きつけて大通りに出た俺は、ちょうど出てきたシュトーリアと合流した。

 返り血を頬に浴びていたシュトーリアはそれをぬぐいながら、


「おそらくこの先だ、ヒカル。…エノート」


 青い魔法陣、マサドのギルド傭兵アグネも使っていた身体強化の一種、高速化の呪文である。

 二回ジャンプして感覚を掴んだ俺は、シュトーリアと同じ豹のようなスピードで大通りを駆け抜ける。


「そっちの首尾はどうたった?」


 シュトーリアは首を振り、


「…最悪だ。一人も、…」


 その先は口を閉ざして続けなかった。まだかすかに生きていても内臓だけとかね。


「私の回復呪文が、他者に向けての効果が高ければ…!」


「しかたないだろ。持ち合わせが合わない時ってのはいつものことだし」


 話ながらも残党を駆逐しながら進んでいくと、


 ビュウ! 


「あ、れ」

 足が止まる。いつの間にか隣にシュトーリアの姿が――、


「ヒカル、前だ!!!」


 後ろで、足を地面に凍り付かせたシュトーリアが顔をしかめてうずくまっていた。


 パァン! と俺の結界に当たって炸裂する氷魔法が、水に氷を放り込んだ時のひび割れるような音を立てて結界ごと凍り付かせていく。


「神殿結界を…!?」


 凍り付いた部分を地面に押しつぶす。開けた視界の先には、燃える広場の中央で、七人の盗賊達に囲まれて戦っている魔術士の姿があった。


「シュトーリア、『こい』!」


 氷から抜けだし俺の傍に召喚されて倒れ込んだシュトーリア。


「すまないヒカル。…アレは…」


 ドンドンドン…!とものの三〇メートル先で行なわれている戦闘。ニルベの村に来た盗賊同様、例のごとく音がとても少ない。


「盗賊達だろう。だけど、」


 七、八人の盗賊がそれぞれ魔法陣を開き、誰一人止まらずに縦横無尽に跳ね回り、その中心にいる赤いローブの魔法使いを責め立てている。だが魔法使いが張っている青や黄土の、三、四の色違いの障壁がその攻撃のことごとくを阻んだ。

 時折ひび割れて散っていくが魔法使いの魔力ですぐに復元する。黄色の雷弾が盗賊達の隙を突いて打ち出され、一人ずつ、だが確実に打ち落としていく。おそらくシュトーリアも盗賊の一人と間違われたのだろう。


 盗賊達の動きは身軽でも戦士のそれだ。体格は小さくともその一つ一つの攻撃はマサドの傭兵に匹敵する。魔術によって強化された一撃は障壁を砕き、そのたびに魔法使いの肌を掠った。


 だが、それでも1対8で均衡してみせる戦い方。

 傍から見ればただ追い詰められているだけの戦闘が、技術と魔力、何よりその戦術によって狩人が鳥を打ち落とすがごとき光景と錯覚する。


 ミナが言ってたっけ。

 魔法使いとは、障壁が全ての基本なのです、と。


 タン、と後ろ飛びする赤ローブの魔法使い。魔力で強化されているのか、その軽い踏みしめのわりに素早く後退し、無詠唱の雷弾を三方向に見舞う。避けた盗賊達が魔法使いに上下左右からそれぞれのタイミングで飛びかかるが、魔法使いがその時には八節の詠唱を完了させ体中から溢れるようにして発動した雷系全体魔法で、うち二人を打ち落とす。


 が、障壁を破壊される。


 復元が間に合わずフードが切断されてその顔が露わになった。






「き、つね…!?」


「あれは獣人…だ。

 でも本来魔力に恵まれない獣人にあれほどの使い手がいようとは…!」




「ぬぅっ…!」


 袖からその『前足』を露わにすると、雷弾。盗賊がまた一人ひざを打ち抜かれて昏倒する。

 飛びかかってくる二人の盗賊。狐の男は後ろに飛び、障壁を解除、落ちてきた二人を地面から生えてくる土の手で捕縛する。魔力が集中するふさふさのそのしっぽの先、圧縮された中級魔法が二人の胴体をなぎ払っていく。



 そして、狐人間と、残り三人の盗賊とに距離が出来た。



「ようやく止まってくれたか」



 超・圧縮。

 狐人間が驚いて身構えている前で、ぶちぶちべきごきんぶちぼきっ、ぶちびちびちびち…っとそれぞれ体液と臓物とに帰っていく盗賊達。


「な、あ…………………・・!?」


「大丈夫だった?」






 獣人は警戒し、唯一の人影を睨んだ。何の魔術の発動も察知できずに、自分を囲っていた盗賊達が急に押しつぶされたのである。次に自分に来ない道理がない。


「新手か…!」


 だが少年のその傍らには、先ほど地面に縫い付けたはずの女剣士がこちらを警戒している。


 無詠唱の雷撃。六力中最速のそれは隙を突かれた女剣士を壁に叩きつける。


「シュトーリア!」


「ヒカル、前を!!」


 既にその身は発光し回復呪文を発動していた女剣士。

 銀鉄の鎧か、魔力を分散された…!?


「おいキツネ、俺達は別に――!」


 聞く耳持たず。

 さきほどの圧死もこの魔術士のものだろう。

 青の神服に身を包んだ少年の躯に、身体の後ろで最大魔力の半分の蓄積を完了していたしっぽが、大通りを飲み込むほどの雷撃砲を放つ――――!!


「ヒカ、」


 女剣士の目の前で、少年の身体は圧倒的な雷撃の濁流に呑み込まれていった。


 


バリバリバリバリバリバリバリバリ――――!!!!!!!!!!!!!!!


 魔力が霧散した。電光が飛び散り残鳴を上げた。


 紫がかった雷光砲は通りを突き抜け町を破壊しどこまでも伸びていく。町の外で待機していたミナ達がからがらその直撃をさけた。だが天幕車がモホモスとその積み荷ごと蒸発し、遠く砂漠と草原の境目に消えていく。

 シュトーリアは永遠かと思える五秒を目の当たりにした。

 赤ローブのキツネの魔法使いはその一撃にこの村の苦しい戦いに終止符を打つべく魔力を込めたのである。


 詠唱破棄。


 詠唱や魔法陣形成を必要としない代わりに、魔力をその数倍消費して行なう高速化の魔術。本来ならばその酷使は魔力孔を傷つけ、魔法使いとしてのその出力を貶める原因にもなるドーピングなのだ。


 雷撃の光りの蹂躙が、終わった。


「――な、ぁ…!?」


「うー、む。なるほど、こういう場合は辛いな。対策がいるわ」


 傷一つ、髪一つ乱れずに、そのかざしていた手を下ろす少年がいた。

 







「なるほどね」


 再度俺は頷くと、上空から武器三〇もの武器を落下させてきた。うち一つを手に取りその他を滞空させる。


(シュトーリアに黙ったままだと、迂闊に障壁も使えないってか)


 あの雷撃は凄まじかった。正面や外の景色が見えなくなるほどで、障壁で受けるべき大きさがわからないものだったのである。魔物掃討戦のように拡大ドームにするのが一番だったのだが、そんなものが重力魔法にあるはずがない。


 神殿障壁が使えるらしいシュトーリアだから、ただの魔法使いが馬鹿でかい神殿障壁を構築できるのか、と疑問にも感じられてしまうだろう。

 だから受けきることしかできなかった。

 俺の黄金殺法は、そうやすやすと使えるものではなくなったらしい――。


「…何という。呪われた武具を使うとは…!」


「おっさん酷いな。人が話し合いで解決しようぜって時に、こんな、」


 ドスドスドスドス! 獣人が反応できない速度で、雷剣その他でそのローブを壁に串刺しにする。


「こんな、」


 縫い込まれながらも魔力を練り上げて障壁発動してくるも、音速に近い速度で投擲されたブルブムアックスが抵抗なくたたき割る。


 ドン、と獣人の頭直ぐ上をミュルーズ・アーツの魔力矢が貫通した。


「――こんなことをするなんて、ついつい乱暴になっちゃうね俺も。

 …次はないぞ」


 まるで――悪魔だ。


呪いの武具が密接することで魔力が奪われる。


 魔法使いバウムは、自身の魔力が底をついたことを悟り、苦々しく瞳を閉じた。



 




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