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九話 邪神の鬼畜とギルドカード

 夕食まで時間がある、という事でテツと恋人のように添い寝、三時間たっぷり昼寝した。

 既に夕暮れ、窓外のもう修理の終わった魔物よけの囲いに感心しながら、おめめぱっちりの俺は背伸びしながら夕食に胸を膨らませていると、


「ヒカル様っ、剣士様が目を覚ましました!」


 ナツが、俺の部屋に駆け込んできて硬直した。


「その、く、鎖は…!」


「てい」

 叫び出す前に鎖で捕縛して姉と同じ事をする。





 何とか大声を出さずにすんだナツの悶え死んだ体をベットに横たわせ、鼻息混じりに部屋を出る。俺のフィンガーも今日昨日で随分と経験値が、


「ん?」


 急に隣から口論する声が聞こえてきた。

 

「起きてはなりません! まだ頭蓋の治療が完全じゃない以上身体を動かすのは…」

 言って女剣士の肩を押し倒そうとするも、起き上がろうとする身体はぐぐぐ、とミナの力を押しのけていく。


「だめだ、だめだだめだだめだ! あの魔物をなんとしても追跡せねば…!!」

 気絶していた時の静かで奥ゆかしい寝顔が嘘のように、直刃のような強い目でミナを見返す。負傷後の起き抜けとはいえ筋力量差が圧倒的だ。


「はぁ…――神殿結界」


 対象を女剣士に限定してゆっくり展開。ミナの筋力とは違う全身を押し込まれる力に為す術もなくベットに押しつけられる。薄いシャツを着せられただけの女性の胸が、結界球に下から当てられて盛り上がっているの眺められるのは全くして役得である。


「な、ぐっぐうぐ!!! こ、れは、…!」


「重力魔法」

 てへ。


「ありがとうございますヒカル様。ナツが呼びにいったのだと思っていたのですが」


「ああ、何か疲れたらしくて俺のベットで寝直してる」


「はぁ…全くあの子は……すみません本当に」


 全然構わない顔で「ハハハ、全くナツは仕方ないな」などとうそぶきながら女性の傍らへ。手なども個別に結界で押し込んでいるから貼り付けにされたような感じでベットに沈んでいる。


「名前は?」

「……、………………シュトーリア、と」


 女性にしては勇ましい、低く腹から出すような声だった。だが俺は無抵抗な女剣士の、シャツの丈が足りずにむき出しになっているへその周りを指でなで回しつつ、(ものすごい形相で俺を睨みお尻つねってくるミナをよそに)


「君は草原で倒れてたんだ。隣のはミナっていう。彼女が、君が倒れたのは昨日の夜だろう、と話しているが。良ければ事の顛末を話してくれないか」


 ぷにぷに。


「………………………………その、腹を触るのは止めていただけないだろうか」


「ん? お腹のどこ?」


 邪のない朗らかな顔で聞き返す俺。


「…ぅ、」


 はりつけのまま身じろぎすら出来ず、俺の顔も直視できずに顔を赤くして向こうを向いてしまう。

 無抵抗なままでいいのかと強気に自覚しているのか、腹にきゅっと力を入れてくるも、俺の指はその強がりすらあざ笑うかのようにへそ周りを這い回る。


(ちょっとヒカル様、見ず知らずの方にいきなり何をしてるんですか!)


 そろそろお尻が限界に近いので結界を発動してミナを押しのける。


「尋問だよ尋問」


 ぶっちゃけこんなにも魅力的なおへそを見せられたら触らない手などない。


「でもこの方は、怪我人…」


 我慢できなくなって、手の平でへそだけ避けつつ、揉み、なで回す。ぷるぷると赤面し口を噛みしめつつもうめき声を出してやるまいと首一杯にそっぽ向く女剣士がこんなにも愛らしいのだうふふふ。その触り方に覚えがあるのか、ミナも強い言い方が出来ずに俯いてしまっている


「いいかい。君は、あんまりにも、無力だ――」


 ぷにぷに。だが、双乳が待つシャツの下へ滑り込まんとする気配に、「ひっ」と小さく悲鳴を上げる女剣士。だがそれ以上叫べない。プライドが高いのか叫んで助けを呼ぶ事も出来ないのだろう。指先はシャツの裾下をそろりとまさぐるだけで、それ以上入ってやらない。俺はシュトーリアが動揺したのを顔を回り込むようにして見つめて確認しながら、


「シュトーリア…君の惨状が一体どのようだったかを、事細かに教えてやろう」


 はっとした顔で俺の顔を見る。女剣士の蒼くなっていく顔にとどめを刺すにあまりあるにんまりとした笑い返してやった。そう邪神を彷彿とさせる笑みで。

 気分は三六九だ。アイツになりきる。


「お、おお、私は別に、教えてくれなくても、構わない…っ!」


 ミナは赤い顔をして、「ご、ごゆっくり…」と惚けた顔で部屋を出て行ってしまう。さすがニルベの巫女はいえこの光景を目の当たりにしては居たたまれないのだろう。


「遠慮するな。ほらまず感じてごらん、この肩…、二の腕…、手の甲、親指、人差し指、中指、薬指、……小指。次は太股にいってみよう。ほら、このお尻近くがこんなにも傷ついているよ? こんなに張りがあってすべすべなのに、全く魔物ってのは酷いことをするもんだね。おっと脇の下もわすれていたね…、ふふ、その屈服した後撫でたら心地よさそうな首元の擦り傷も、たまらない…」


「や、やめろ…っ」


 撫でたり指で這い回ったり突いてみたり弾力を楽しんだりつねったり爪で掻いたりして全身を這い回り、最後には嫌悪感をあらわにしたその顔に向かった。


「ゲスが…! こ、のっ…!!! …どうして…っ…………・ぁん!」


「どこかに力を入れると、どこかが緩むんだよね筋肉って」


 これ以上なく赤面させたシュトーリアは今にも噛みつきそうだが、すかさず目の前に見せつけるように、なぎ倒された木の根っこに引っかかっていたポーチにあった、あの鉄製のカードを見せてみる。


「ん? これ? ああ、拾ったんだ。見覚えがあるのかな?」


 カードを擦りつけるようにして、強気な頬を好き放題歪ませる。


「今俺は酔っていてね、何するか分からない。字も読めないんだ。…代わりに読んでくれないかい?」


 鎖骨辺りから指をついい、と首元まで怪しく這わせ、そのままカードを指さす。俺は女性の腰に馬乗りになって余裕たっぷりに見下ろしていった。


「さ、読んでごらん?」


「誰が…貴様みたいな奴の言うとおりに、読むものか…っ…………!」


「そう。ふぅん君も『ミナ』みたいに強がるんだ?」


 先ほど紹介されてはっとしたのだろう。俺の傍にいたミナが自分と同じようにされたという事を想像でもしたのか。そして今は従順に俺に敬語を使い、傍にいても危害を加えようともせず、ましてや怪我人の自分をおいて俺のやろうとしていることを邪魔すまいと部屋を退出するほど――。


「あの、女に、貴様は何をしたというのだ………っ……!」

「ん? 知りたい? 知りたいのかな? そんなに――知りたい?

 気の遠くなるような時間、絶頂という絶頂の極みで心を破壊されたい? 彼女も最初は君のように堅物だったよ。君は剣のようだが彼女は張り詰めた弓のようだった。ゴミを見るような目で見る時もあった」


嘘は言ってない。


「でもそれがみてみろ、今は俺の言葉には何一つ逆らえない。君が起きる数時間前もミナが、この隣の部屋で一体何度、人目をはばからず嬌声を上げていたか、…わかるかい?」


「………あのような精錬とした風の女性が、…そんな………っ!」


 絶望に唇を噛みしめるシュトーリア。魔法少女がその武器を折られ追い詰められた時の表情はまさにこういう顔だろう、という顔つきだった。


「まぁどうだろうね、まだ……………………まだ今のところは君には興味がない。だからここは円滑にコミュニケーション取っておくのが利口じゃないかな。

 ――勇ましい女剣士さん?」


 とどめに指で片方のふくらみの先をピン、と弾いてみせると、「わ、わかったっ…!」と目をきつく縛り、慌てるように言った。


(三六九、………………………やっぱりお前…)

 なりきっただけでコレである。戦士をものの五分で屈服させるなんて。…ほとほとアイツのやり方は…正直鬼畜だ。真似して出来る方も出来る方だが。



「ぎ、ルド認定カード…………その…A、A級、ノースランド・……タ…………タンバニーク・ラ・シュトーリア…」

 

「ご苦労」


 化粧台のイスに座り、カードを見ながらいう。ギルドねー…やっぱりギルドの人だったか。武装といい携帯食の量といい、とても遠方からの旅の途中とは思えなかったんだよな。


「話したぞ、私をどうするつもりだ…っ」


「ん? それは後から決めるわ。………ミナーっ?」


 廊下に顔を出して呼ぶと、俺の部屋から飛び出してくるミナである。


「あの、あの人は…!」


 まるで安否を確かめるような声色に俺は怪訝に言い返す。


「そんなことしないって。あんなのスキンシップの一つだろ? ギルドの人らしいぞ。今から襲われたときのこと聞くから一緒に聞いて。…ナツは?」


「まだ寝ております…なぜか酷くうなされていたので心配だったのですが先ほどようやく落ち着いて、」


「ふむふむ寝る子は育つ。んじゃ入って」


 ミナを迎えるとまた先ほどのように二人してシュトーリアの傍らに立つ。


「昨日の夜の詳細を話してほしい。……………いいな?」


 俺の言葉にゴクリと唾を飲むのを感じた。だがその隣で心配そうに、本当に心配そうに、自分を気づかってくれてるという、自分と同じ境遇にあるというミナの視線に痛く胸を打たれたのか、――観念して仕方なく話し始める。


「昨夜…でしたか。はい。私は長らく追跡していた魔将の情報を得、呼び出して暗殺するつもりだったのですが…」


 ミナにギルドのカードを見せる。が、見た瞬間に驚愕し、口を手で塞いだ


「ダブルA、級…! しかもよりによってタンバニーク帝国からの、とは…――」


「それってすごいのか?」


 飲み屋のテラスで言われた『C以上』というニュアンスに俺は、AAがすごい、と言うことが何となく感じられる程度だ。


「私はギルドについてはあまり詳しくはないのですが…ルージノさんから聞いた話によると、大抵の冒険者がBで打ち止め、と。そのBというのも少なくとも一人で成年期のドラゴンを討伐出来るレベルが必要、とのことです。たとえて言うなら…AAになるには、すくなくともドラゴンの群れを相手に出来るほど、でなくては………」


「………………ふ、ふん、まったく、直ぐに勘違いされる…。

 女…ミナ、と言ったか。その区分はアストロニア国領内のものだろう。それにそれはAではない。α(アルファ)だ。我が国ではαが最低なのだ。だから、私もその程度と言う事だ」


「お前今さっきAAっていったよな」


「気のせいだ」


「アストロニアのレベルで言うなら…?」

 ミナが聞く。

 諦めたのか、気にした素振りもせずに、


「D、と言うことだ」


「……シュトーリアのバストサイズの間違い、だろ…?」



 ――………………………………よわっ。




 つい先ほどCレベルをことごとく地面に埋めてきた俺には分かる。つまりコレは、




「お前実は初心者だな!?」


「うっ…! こ、この、負傷した肩を掴むなゲスが! くそう、そうだ、悪いか! 数ヶ月前に国を飛び出してきたばかりの新米よ、悪かったな!!」


 もう我慢の限界なのか、半泣きで言うシュトーリア。うううぅ…っ! と顔を結界で押さえられてるため手で隠すことも出来ずに(むせ)び泣く。


 しなやかな筋肉、とかたくさんの切り傷のせいでいかにもすごい戦闘をした強そうなイメージ与えてきたくせになんて落とし穴だ。何か。じゃあ俺はさっきまで歴戦の猛者を屈服させる、というのではなく、母国から無謀にも飛び出してきた新米冒険者を拉致してひん剥いた挙句この世界の常識たたき込んでやった、という構図になるのか!? 


 …お、鬼だ。

 この子もうこれからの旅先では人間不信になっちゃうに違いない。


 …何かもう居たたまれなくなって手と全身を押さえている結界を解く。暴れ出そうともせずに涙を腕でぬぐいながらシーツにくるまってしまうシュトーリアであった。


 (むせ)ぶ度に揺れるシーツの塊が、憐れだった。


「……………………・良いじゃないかこれから強くなれば!」


 ばんばん! とシーツの、背中辺りを叩いてやる。


「うゎああああああ…ああああん!!!」





 晩飯にも降りてこず、いつの間にか部屋の鍵をかけていたシュトーリアは泣き疲れて寝ているようだった。声を一応かけた後、夕食のパンと野菜の煮込みスープを扉前に置いて部屋に戻る。


「………・・全く飛んだ勘違いだ。…ギルドの奴らといい、見た目で判断するのはいけないな」


 パワーファイターが実は特殊な魔法を使う魔法使いであり。

 からめ手専門だろう女性が、あろう事か男よりもパワフルな動き。

そして、歴戦をくぐりぬけ、今回も凄まじい戦闘を経て昏倒していたかのような女剣士は、実は…ただの新米冒険者。



 蛇らら、と呆れ顔の俺を気づかうようにテツが静かにドアを閉めてくれる。


 俺を囲む呪いと怨念を持った武具達が、そろってその嫌な感じのなりを潜めていてくれるのも持ち主の俺を気づかってだろうか。それとも今だけは優しい振りをしておこう、という狙いがあるんだろうか。ああもう呪いとか言ったって実はそうじゃないかもしれないみたいな気持ちだから、ついヤケになって解呪なしに使ってしまいそうだ。


 こんこん、とドアをノックする音が聞こえる。


「ヒカル殿、いらっしゃられますかな?」

「村長さん?」


 ドアを開けると、眼帯をした白髪の筋肉質な老人が、昼にあった時のような軍服で立っていた。


「おお、夜分すみません…所でヒカル殿、ギルド登録はなされてますかな?」


 ふむ。


「中に入って下さい」

「…………………………………いや、ちょっとワシは遠慮したいのですがな」


 部屋のあちらこちらに、無造作に立てかけられたり飾られたり重ねられてある青やら赤やら緑やら怪しく光る武具達に、恐れをなしたらしい。


 じゃあ廊下で、と村長に従って外へ。…シュトーリアの部屋の前には置いてあった夕食のお盆がないことを確認しつつ、


「はい、確かに俺はまだギルド登録はしていませんが、何か良い事でもあるんですか? ギルド。この辺の事情には詳しくないんですが、何でもベーツェフォルト公国が支払い量を…ええと、ちょろまかしているんだとか聞いてるんですけれども」


 うむ、と頷いてみせる村長。それは本当のことらしい。


「…今ベーツェフォルトは仕事はいくらでもあるが雇う人がいない、という状況でしてな。ですから地域住民または村民から女子供問わず徴兵し、安い賃金で働かせることを『義務』としているのです。アストロニアの王からの利権を楯にした、何とも強引な手で…」


「最悪ですね。と言うことは、ギルドが安い、じゃなくて、国兵としてギルドの仕事もやらせてるから安いわけですか」


「その通り。正規のギルド登録をされている方ならそのような扱いは受けませんでな」


 ――――故に、ベーツェフォルト公国周辺のギルドには実力主義のメンツがそろうのである。安く簡単な仕事は全部公国が徴兵した素人にやらせてしまうからだ。ならば素人には出来ない難関無しごとばかりが余り、それを狙いに周辺からは猛者が集まる、と言う風に。


「…ワシと一緒に魔物を掃討した時、ヒカル殿の重力魔法しっかりと見せていただいた次第で。さらに聞くところによると、CやB混じりのベテラン相手に指一本触れさせもせずに五人抜きしたとか。

 是非ヒカル殿にはギルドでその力を振るっていたいただきたく参上した、ということですじゃ」


「本当ですか? おお、実は俺もベーツェフォルトに観光に行く途中でして、ギルド登録しに行くのも予定に入ってたんですよ。マサドの村長さんの太鼓判なら俺も嬉しい。ぜひ登録させて下さい」


「おお、では、早速登録所に行きましょうぞ。まだ開いているはずですがの…」


 ぱぁと表情を明るくした村長に連れられて階段を下りていった。




 ギィ……・。

 階段を下りかけたところで、まるで待っていたかのように静かに、二階の個室のドアが開くのであった。





「字は…ああ、学がそれほどないのですな、構いません。ワシが代筆しましょう」

「ええと…サカヅキ・ソネット・ラ・ヒカルでお願いします」

 ごめん借りるわミナ。


「ん…よし。できましたぞ」


 酒場の奥に重々しい木製の扉があり、入ってみると、その先には…まるで警察の面会室のようにガラスで隔てた小さな一室があった。狭くなければ宝くじ売り場? と言った具合にガラスの先には村長と同じタイプの薄茶の軍服を着た女性がいて、感情のない目で俺と村長を見つめている。


「村長、そちらが?」


「おう。さっそくじゃがレベル判定していただけんかの」


「はい、では『測定』しますのでお手を」

 言うと、どういう仕組みか、何とか身体を押し込めば通り抜けられるくらいにガラス窓が押し上がる。


(測定? あれ、どこかで聞いたような・・・)


 すると女性は野球ボール大の水晶玉のようなものを布に包んで渡してくる。


「それを思いっきり握って下さい」


 ああああああああ、これ、占儀と同じだ!


「に、ぎるの? 触るじゃなくて?」


「筋力も同時に計るので。………………そうです。そのまま強く握ったまま一〇秒間我慢して下さい」


 んんー…! …思いっきり力みながら思う。

 うーむ、大丈夫だろうか。ほら、


「――もう良いですよ。

 出ました。筋力、45。E」


 あ、握力か…!?

 しかもEっていったらシュトーリアの下になるじゃんか!


「体力、98。E。

 防御力、32。E。

 敏捷、85。D。

 健康状態、100、C。

 運の良さ、59、C」


「お、おっさん、この玉一体…」


「ほっほ、ギルドには王宮魔術師が術を施した強力な判定水晶が一個ずつ配布されているでな」


「退魔力、0。E。

 魔力、18………………………………

      ………………………………………………………えっ?」


 やばい。ものすごくやばい。

 あの硬質な女性の目が俺と水晶とを行ったり来たりしている。水晶の中に表示されているのか村長には確認できないらしいが、その顎が外れたみたいな顔が何言いたいか俺には分かる。

王宮魔術士でさえ一二〇そこらなのだから。

 その魔力値を二乗したって届かない数値だ。絶対、


「す、すみません、もう一度計り直しても良いですか?」


「あ、………はい」


 こうなるわな。苦笑いしつつ対策を練る。

 ええい。考えろ。


 この魔力を計るシステム。ニルベの村で計った時もやっぱり一八万越えを表示された。だが邪神の魔力は、俺の中にあるのではなく、俺を纏うようにして存在している。

 だからゲームの最大MPのように俺自身の『最大値』が表示されることはないのだ。

 なぜなら、身体の周り…つまりある意味他者も触れている空気に個人の魔力最大値が表示されるわけがないからである。

 つまり、ただ一八万近い魔力を持っているだけ、と言うのが正しい。

魔力を消費するにはどうすれば良いか。


「…むっ」


 よりによって初の遠隔魔法使用である。

 また嫌がらせのように草原の中心辺りに神殿結界を展開させる。そうだな、あのへし倒された木辺りを中心にしよう。いつものように高速で展開していく結界は夜の縄張り競走をしているスライム達を雪崩しつつ拡大していっているのが何となく想像できた。

 ベーツェフォルトで二夜連続の魔物の雪崩、城壁一面の魔物押し花という地獄絵図に厳戒態勢を敷くことになったらしく、俺がそれを知るのはやっぱりまだ先の話なのである。


「むぅ、ううう…!」


 水晶玉を力んで握っているフリをして最大級の力で魔力を根こそぎ持っていく俺。

 そんな俺の力みの彼方では、母親を失ったばかりで暴れていたクレイドラゴンの子供がゴブリンの雪崩に飲まれ悲鳴を上げていて、昨夜魔将を殺害された折りに警戒した魔王が草原に投下した超重量級の悪魔を昏倒させ、そのままあの川に頭を食い込ませてしまい胴体を結界に持っていかれて首の骨を折られて即死すると言う事態が起きていたのだがそれも俺の知らない話である。



「体力、98。E。

 防御力、32。E。

 敏捷、85。D。

 健康状態、100、C。

 運の良さ、59、C。

 退魔力、0。E。

 魔力、……………は、89…3。S

 計測の結果、…………………B」


「なんと!」


 俺は村長と一緒に目を丸くする。嘘だ、あんなに使ったのにまだそんなに残ってたのか!? くう…でも全魔力の五パーセントくらいじゃねぇか! まさに消費税。全部使い切るだなんて器用な真似出来ないっての…!


「何という才能か! ヒカル殿、お主、S級を狙えると言う事ですぞ!!??」

「う、うーん…」


 何とかその場をとりまとめ、まだ始めたばかりだからと言うことでBにしてもらって酒場を後にする俺。


「うーん……」


 夜の町を背を丸くして歩く。手にはさっき作ってもらった新品のカードを持っていた。明かりに反射して銀色にBのレベルが光っている。


「は、早まったかもしれん」


 もっとこう武勲を立ててから昇進するシステムと思いきや占儀とは。

 逆を言うなら、それだけ実力優先でさっさと高難易度の依頼をこなしてもらいたい、ということなのか? おいおい兵どもが集まってるとか言ってたじゃんかよ…。


 昼のこともあったので、出来るだけそそくさっと表通りを抜け、宿屋に戻る。


「あー、…もう寝よ」


 テツ何してるかな…。チッチ達も…。


 今でまだ宿屋のおばさんと話し込んでいる井戸端予備軍のミナ達を流し見ながら階段を上がる。


(そうだ、もう起きてるんならシュトーリアと話をしとこう)


 俺のせいだし。ちょっといきなりトラウマなんて事態になったら俺責任取らなきゃいけなくなるかもだし。


 俺の部屋を通り過ぎて、宿屋の二階の一番奥の扉をこんこんとノック。


「入るぞ。……………………ん」





 ……………………いない。





 食べきった食器ののったお盆。ボロな装備はそのままだ。だがポーチがない。

 開け放たれた窓。カーテンが夜風に流されて部屋にたなびいている。

 部屋の四方に取り付けられているランプの火が、ちらちらと揺れていた。


「…シュトーリア…?」


 窓を閉めつつ、呟いた。


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