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南一局・南二局

南一局俺の親番。

俺とタカさんの財布は同じだから、どちらかがトップをとればいい。

逆にどちらもトップをとれないとまずい、かなりまずい。所持金的に。

この親では是が非でもあがって、トップ目である対面の男との差を縮めたい。

現在の点数状況は、

俺27,400 ばあさん13,600 男45,500 タカさん13,500

全然逆転も狙える点差だ。

ここまであまりゲームに参加できていないが、そのおかげでこの位置につけている。

配牌はまあ悪くない、三色を狙える手だ。リーチを打てばマンガンが見込める。

下家のばあさんは配牌が悪いようだ。一打目から中張牌を並べている。

国士無双狙いだろう。

タカさんは染め手に向かっているのだろうか、ソウズとマンズばかりを切っている。

男は手なりに進めているようだ。目立った切りはない。


8巡目、5ソウを引いてきた。手牌にはマンズとピンズで678のメンツがある。

ソウズは6と8をもっており、7が来れば三色ができる。しかし肝心の7ソウは、ばあさんの河に2枚、タカさんの河に1枚切られており、あと1枚しかない。

ここは三色はあきらめよう。8ソウを切って受け入れを最大限に広げよう。

泣く泣く8ソウを切る。

その4巡後、対面の男からリーチがかかった。

タバコに火をつけてからリーチ。これがこいつのルーティーンか。

一発目には8ソウをつかんだ。

223の形からリーチの現物である2マンを切る。

その次巡、1マンを引いた。テンパイだ。

男の2巡目に9ソウ、6巡目に5ソウが切られている。

8ソウはほぼ通るだろう。リーチをかける前に待ちの確認を行う。

4-7ソウだ。4ソウは3枚、7ソウは2枚見えていない。山に最大5枚眠っている。いい待ちだ。

リーチ棒を取り出そうと点箱に手を伸ばした。

その時、体が止まった。

……ん?なんだ?

……7ソウは2枚?

そうだったか?

数巡前に俺は7ソウの残り枚数をかぞえて泣く泣く三色を諦め、8ソウを切ったはずだ。

そのときはたしか見えている7ソウはタカさんの河に1枚、ばあさんの河に2枚の計3枚、つまり山には最大でも1枚しか眠っていないと考えた。

ばあさんの河に目をやる。7ソウが1枚しか切られていない。

やられた。


そういうことだったのか。

これまでの男のあがりのからくりがわかった。

いわゆる河拾いだ。

河が三段目、つまり13巡目以降、河に十分に情報が並んだとき、河の牌を手牌とすり替える。そうして、その場でもっとも出あがりがしやすい待ちを作っていたんだ。

男の手組みが不自然に見えたのはこれが理由だ。

今、男が7ソウをすり替えたとすると、最も狙われやすいのはこの8ソウだろう。

いかにも通りそうに見えるが故にそれを狙うわけだ。

ならばこれは切れない。

今は現物の5ソウを切るしかない。待ちは薄くなるが、これでも三色テンパイだ。

しかし、わからない。

ヤツはどうやって河をすり替えた?手口はなんだ?

男の所作は手慣れており、無駄がなかった。

怪しい動きもなかったはずだ。

イカサマを捕らえるには現行犯が鉄則だ。

牌山を崩した後に何を言ってもしょうがない。言いがかりだと一蹴されてしまうだろう。

そのために、まさにイカサマをしている最中にとっ捕まえる必要がある。

手口がわからないままではそれも難しいだろうが......。


男はその2巡後に8ソウでツモあがった。待ちはカン8ソウ。

「ツモ。リーヅモドラ。1000-2000」

やっぱりだ。俺の予想は的中していた。

この男は確実にイカサマをしている。

もう一度男の方を見る。

男の表情は常に一定だ。動揺は見られない。

なんとしても突破口を見つけなければ。

このままではなすすべもないままやられてしまう。


南二局の配牌を取る最中、俺は馬車の御者のじいさんから聞いた話を思い出していた。

2週間ほど前、作業場へ向かう道中の事だった。

「転位魔法?」

「ああ。2つの物の位置を入れ替える魔法じゃ」

じいさんは慣れた手つきで馬を操っていた。熟練の技だろう。

細い目で行く先を見つめたままゆっくりと話す。

「最近、魔法学の研究に大きな進歩があったそうじゃ。

転位魔法は古くからある魔法じゃが、目標地点に正確に転位させることは難しいそうじゃ。

目標地点から離れた位置に転位してしまい、事故死した者もいたそうじゃ」

この世界には魔法が学問として存在する。

皆が魔法を使えるわけではない。高度な教育機関で魔法学を習熟した者のみが、魔法を使うことができる。

一般人には到底扱うことができない代物だ。

「しかし、最近の研究でようやくそれを安定させることができたそうじゃ。

奴らはその転位魔法を使って、人やモノの転送サービスを始めおった」

心なしか、じいさんが手綱を握る手に力が入ったように見えた。

「そんなもの始められたら、わしらは廃業じゃよ。

わしには馬を操る以外能がない。

あんたらと同じように日雇いでなんとか生き永らえるしかないのかのう」


あのじいさんは道中の世間話のつもりで話しただけだろうが、記憶に濃く残っていた。

じいさんは日雇いの俺たちをみじめだと思っていて、自分はそうはなりたくない、といった嫌味に聞こえたからだ。

あの日は後味の悪い中、馬車を降り、作業場に入ったことを覚えている。


配牌を取り終え、ばあさんが第一打を切る。

南2局が始まった。


男のイカサマは魔法によるものなのだろうか?

もしも魔法だとしたら、対処手段はあるのだろうか?

俺は男の様子を注意深く観察しながら、考えた。


魔法を使うには魔法陣と詠唱が必要になるらしい。

前にインチキ臭い露店商が大声で唱っていた。

「これがあればあなたもすぐに魔法使い!!

西の国から仕入れた高品質の絹糸で織られた布には、超熟練魔法使いが描いた魔法陣!

こっちの手帳には選りすぐりの便利魔法の詠唱呪文がずらり!

魔法使いになるための必須アイテムが全てそろってこのお値段!!

安いよ~!早いもの勝ちだよ~!」

その露店商曰く、魔法使いたちは魔法陣の書かれた紙や布を携帯したり、即席の魔法陣をその場で書けるように筆とインクなどを持ち歩くそうだ。

また、高度な魔法使いは詠唱呪文を短縮できる。しかし、そうなるためにはかなりの修練が必要で、詠唱呪文が書かれた手帳を持ち歩くのが一般的だそうだ。


今一度、男の周囲を見渡す。

魔法陣らしきものは見当たらない。

ではやはり、ヤツのイカサマは魔法とは関係ないのだろうか?


6巡目、上家のタカさんが4マンを345でチーした。

捨て牌には幺九牌ばかりが並ぶ。自分の目からは役牌もほぼ全て見えている。

タンヤオの仕掛けだろう。

14巡目。

「リーチ」

男からリーチが入った。

これまで通り、タバコに火をつけてからのリーチ。

男のイカサマの種が分からない現状で、さらに加点をさせるわけにはいかない。

俺はソウズのホンイツに向かっていたが、未だ形の苦しいイーシャンテン。

厳しい状況だ。

リーチ宣言牌は7ピン。

タカさんはそれをポンした。そして現物の2ソウを切る。

そして俺に目で合図した。

なるほど。差し込めということか。

タカさんもこの状況はまずいと考えているのだろう。

ドラは1ソウであるためタンヤオでは使えない。

赤は俺の手に1枚、ばあさんの河に1枚切られている。

タカさんの手が安いことは明白だ。

男にあがられるくらいなら、タカさんに差し込んだほうがましだ。

どの牌で差し込むか。

タカさんは大胆なヒントを示してくれていた。

タカさんは7ピンをポンした際に手牌の右から3番目と4番目の牌で鳴いていた。

そして2ソウは手牌の左から2番目の牌を切った。

これが分かりやすいように、あえて手牌の隙間を埋めていない。

つまり、7以上のピンズを2枚、2以下のソウズを1枚もっている。

ここから考えられる待ちはーーーカン3ソウ。

おっさん、やるじゃねえか。

その提案、乗った。

俺は3ソウを力強く切った。

「ロン。タンヤオのみ、1000点」

タカさんが点数申告の後、ニヤリとしながら俺を見た。

多少汚いやり方ではあったが、致し方ない。

俺は、コクッと小さく頷き返す。


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