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召喚されたのは…まさかの…でした…!

 私の聖女の力を使って行われた、異世界から聖女様を召喚する儀式。眩すぎるほどの光が少しずつ収まってくる中、私達は確かに人影を認めましたが…


「な…何だ、貴様は!!!」


 戸惑う私たちの耳に、殿下の大きな声が鳴り響きました。ホールの構造上、音が響きやすくなっているので、大きな声を出すのはやめて欲しいのですが。何が起きたのかと、何とか顔を上げて魔法陣の方に視線を向けると…


 そこには確かに、この世界の人ではない不思議な衣装を着た方がいました。その方は、確かに高貴そうな雰囲気を纏い、美しいお姿をしていましたが…


(ええっ?ど、どうして…?)


「何だ、貴様は?!!!ど、どうして男が!!!」


 そうです、殿下よりもずっと豪奢な黄金の髪を持つ男性が、片膝をついて円の中心にいたのです。頭に手を添えているところからも、召喚で身体がふらついたか何かした、のでしょうか…


「…ここは…?どうして…召喚術が…」


 ゆっくりと男性が目を開くと…そこにはエメラルドが煌めいていました。この世界でこの様な色の目を持つ人は珍しいでしょう。元より緑色の目が珍しいのですから。

 そして…手が離れると…そのお顔が露になりました。歳は…二十代前半から中頃…でしょうか…意志の強そうなきりっとした眉に、切れ長でありながらも柔和な目元、スッと通った鼻筋に薄い唇、そして…パーツの配置も完璧…ではないでしょうか…そう、簡単に言ってこれまでに見たどの男性よりも綺麗…です。


「ここはどこだ?お前達は一体…」

「無礼な!こちらの御方は王子殿下、そしてこちらは大神官長様である」

「…人を一方的に呼び出したのは…そちらだろう」

「何?」

「これは召喚術だろう?しかもとんでもなく強制力の高い。私が拒否出来なかったという事は相当なものの筈だよ。知らない筈はないだろう?」

「何だと…?」


 男性は動揺しているように見えますが、慌ててはいませんでした。何と言うか…殿下や大神官長様よりも落ち着いているようにも見えます。あの方こそ、突然こんなところに飛ばされて驚いているでしょうに…それに…ご自身に起きた事を理解しているようにも見えます。もしかして、召喚術をご存じなのでしょうか…


「とにかく、私をここに呼んだのはそちらだよ。一体どういう理由で私を呼び出したんだ?」

「な…お、お前のような男を呼び出した覚えはない!」

「…ほぉ…では、貴殿らが呼び出したのは誰だと?」


 そう殿下が叫びましたが、呼び出しておいてお前じゃないなんて、随分と相手に失礼ではないでしょうか?それに…殿下達が呼んだのは、結界の維持のためでもあります。いくら思っていたのと違うと言っても…その態度はいかがなものかと思いますが…もし結界の維持を断られたら、困るのはこちらでしょうに…

 男性も、殿下の横柄な物言いに機嫌を害されたのを感じました。


「俺が呼んだのは、高貴で身目麗しく強い聖女の力を持った若い女性だ。男など呼んだ覚えはない!」

「…でも、現に呼ばれたのは私だよ。ならば術式が間違っていたのだろうね」

「何だと…!」

「召喚術は、魔術とは魔法陣に書かれている事象を実行するもの。条件にちゃんと女性だと書いておいたのかい?」

「え?」

「召喚術は非常に高度でリスクが高いものだ。条件をより具体的に記載する必要があるが…」

「何だと…」

「どうやらその様子では…そんな事すら知らなかったようだね」


 男性はやれやれと呆れた表情を浮かべました。どうやら召喚術にお詳しいようです。


「どうやら君たちの術式が間違っていたようだね。それなら、さっさと元の世界に戻して貰おうか。私はこれでも王族に連なる者でね。多忙なのだよ」

「…な…」

「どうした?召喚術を使ったのだろう?だったら万が一のために帰る手はずも整えるのは当然だろう?」


 暗に返すのは当然だという男性に対して、殿下も大神官長様も表情を強張らせています。もしかして…返す方法を知らない、なんて事は…ないですよ、ね?


「まさかとは思うが、帰せない、なんて言わないよね?」


 男性がにっこりと、それはそれは魅惑的な笑みを浮かべました。何という眼福な笑顔でしょうか…殿下ですらも顔を赤らめています。


「…だ、大神官長!返す方法は…っ!」

「…そ、そんな殿下…私は…」

「お前は大神官長だろう?それくらいの事は…」

「しょ、召喚の儀は王家の秘法でございます。私が知る筈などございませんでしょう?」

「何だと…」

「殿下こそ、召喚の儀が失敗した時の対処法が記された文献をご存じなのでは?」

「そ…そんなものは知らん!」

「…何だって?」


 殿下と大神官長様のやり取りを聞いていた男性が、低い声で唸る様に尋ねてきて、その声色に殿下と大神官長様がビクッと身体を震わせました。


「どういう事だ?まさか、後の事を考えずに召喚術を使ったのか?」

「…な…そ、それは…」

「人の人生を何だと思っている!」

「ヒッ!」


 先ほどまで柔らかい態度だった男性ですが、とうとう大きな声を出されて、大神官長様が短い悲鳴を上げました。殿下も顔色を青ざめさせています。今になって召喚の儀が失敗して、自分がやった事がまずい事だと気が付かれたのでしょうか…


「…ッ!き、騎士ども、こいつを捕らえろ!不審者だ!」

「「「ハッ!」」」


 殿下の命令に、その場にいた騎士が剣を抜いて男性に迫りました。


(殿下、なんて酷い事を…!)


 一方的に呼び出して、自分の意に添わないからと捕らえようだなんて、あんまりです。殿下のこういうところが私は苦手なのです。何とか男性を助けなければと思いますが、聖力を使い果たしたせいか身体に力が入らず、立ち上がる事も出来ません。


(ごめんなさい、巻き込んでしまって…)


 全ては私が孤児で平民なのに、恐れ多くも聖女になってしまったせいなのでしょう。もし聖女になったのが貴族の令嬢だったら、殿下が新たな聖女を召喚しようなどとは思わなかったでしょうし、この男性が巻き込まれる事もなかったでしょうに…

 私が自責の念に包まれている間にも、騎士が男性を捕らえようと襲い掛かりましたが…


「なぁっ!」

「うわぁあ!」


 何と、騎士達があと数歩で男性に…というところで、いきなり男性を囲むように炎の輪が男性を囲みました。


「うわぁああ!」

「あ、熱い!」


 突然の炎の壁を前に騎士達が、熱さに悲鳴を上げ始めました。


「な、な、な…」

「これは…」


 一方の殿下は、思いがけない展開に思考が止まってしまったのでしょうか、なという言葉以外が口から出てきません。


「私の身を害するというのであれば…容赦はしないよ?」


 炎を操りながらも優しく諭すかのようにそう告げる男性は、まるで天から舞い降りた大天使の様でした。




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