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孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?  作者: 灰銀猫


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20/71

これからの事

 セレン様の離宮に引っ越してからの私は、これまでになく穏やかで楽しいと思える日々を過ごしていました。

 聖女としての祈りをする必要がなくなったせいか、セレン様の魔力を受け入れているせいか、体調が凄くいいのです。ずっと続いていた怠さや頭痛、軽いめまいはすっかり鳴りを潜め、朝からご飯が美味しいのが幸せです。

 しかも午前と午後に一回ずつお茶の時間があって、その時には今まで食べた事がないお菓子が出るのです。それを更に美味しくしてくれるのは、セレン様の存在でした。

 聖女になってからはずっと、一人でただ黙々と食事をするだけだった私。あの頃はレリアとは不仲を装っていたし、他の侍女は平民出の私に眉を顰めていたので、誰かとお喋り…なんて事は夢のまた夢でした。

 でも今は、セレン様とお喋りをしながらご飯を食べています。これだけで美味しさが五割は増しているようで、今はその時間が楽しみです。


「そう言えば、あれから体調はどうだい?」


 お茶の時間。いつものように隣にくっ付いで座っているセレン様が、私に声を掛けました。今日もククルは私の膝の上で、すっかり定位置となっています。


「今のところ、特に問題ありませんわ」

「そうか、よかった…魔力も相性があってね。場合によっては魔力酔いを起こす事もあるから心配していたんだ」

「魔力酔い、ですか?」

「ああ。私くらいの力になると知らない間に相手に干渉してしまうらしくてね。相性が悪いと気分が悪くなったりするんだ」

「そうなのですか。でも大丈夫ですわ」


 私がそう返すと、セレン様はよかった、と安堵の笑みを浮かべられました。何と言いますか、麗しいお顔で甘く感じる笑みを向けられて、心拍数が上がってしまいます…私はセレン様を直視できず、膝の上で昼寝を始めたククルの背を撫でて誤魔化しました。


「そうか、よかったよ。少なめの量で様子を見ていたけど、これで魔力酔いを起こすなら無理だと心配していたんだ」

「少め?」

「ああ。ルネの魔力の器や質にもよるからね。問題がなければ少しずつ増やしていきたいと思っているよ」


 セレン様の言葉に私はびっくりでした。あれで少しの量…ですか。長い時間くっ付いているので、結構な量だと思っていましたが…


「気が付いていないみたいだけど、ルネの器の大きさはかなりのものだよ。だからそこは心配していなかったのだけど、相性ばかりはどうしようもないからね」

「そうだったのですか」


 正直、自分の聖力の器など気にした事もなかったのですが、セレン様曰く、向こうの世界では質や器の大きさは重要視され、数値化もされているのだそうです。私の場合、はっきり測ったわけではありませんが、かなりの器の大きさだそうです。だからこそ、セレン様の魔力の中和にも向いているのだとか。向こうの世界はこちらにはない知識がたくさんありそうですね。一体どんな世界なのでしょうか…


「ルネはこれからどうしたい?」

「え?」


 セレン様の世界に想いを馳せながらクルルの毛並みの良さを堪能していた私は、急にかけられた言葉の意図が直ぐにはわかりませんでした。これからどうしたいかって…今から、という意味でしょうか。私は特に予定もありませんが…


「ああ、私の魔力の中和はお願いするけれど、それだけという訳にもいかないだろう?」

「え?ええ、そうですわね」

「聖女を辞めたんだ。何か…やりたい事はないの?」

「やりたい事、ですか?」

「ああ。こうなりたいって夢があるだろう?これからはルネがやりたい事を目指してもいいからね」

「やりたい事…」


 そんな風に言われましたが…私は何も思い浮かびませんでした。物心ついた時から神殿で聖女になるために育ち、十五歳で聖女になってセザール殿下と婚約して、聖女の力が衰えたら殿下の子を産み王子妃として生きる―それが私に定められた道でしたから。


「あの…」

「何?」

「申しわけありませんが…私…今まで聖女になる以外の事を考えた事がなくて…」

「考えた事も?」

「ええ。ずっと聖女になるのが私の使命だと言われて…聖女の修行と王子妃になるための勉強の毎日だったんです。だから…」


 情けない事に、私は自分のしたい事すらわからないようです。聖女になれなければ神殿に仕えていたと思いますが、それが私のしたかった事かと言われると…違うように思います。それしか知らなかった、が正しいでしょうか…


「そうか。ルネはずっと聖女になるんだと言われて育ったんだね」

「ええ、そうですね」

「じゃ、これから探そうか?」

「え?」

「これから探して見つければいいんだよ。何なら旅にでも出てみようか?外に出てみれば何か見つかるかもしれないよ」

「旅に、ですか?」


 それは暗に、ある程度魔力を中和したら私はいらないから出て行けと言う事でしょうか?確かに私は平民ですし、聖女でなくなったらここにいる理由もありませんが…


「ふふ、二人旅というのも面白そうだよ。私もこの世界の事を知らないからね。色んな発見がありそうだ」

「ええ?!セレン様も行くんですか?」

「当たり前だろう?ルネと離れたら魔力の中和が出来ないじゃないか。それは私に死ねというも同じだよ」

「死ぬって…まさか…」

「そのまさかだよ。勿論、ちょっとの期間離れるくらいなら大丈夫だけど、長期となると辛いな。前にも言っただろう?ルネは私の救世主だと。君がいないと私は自分の魔力に殺されてしまうんだよ」


 悲壮感の欠片もなく、甘い笑顔でそう言われると大した事ではないように聞こえますが…何だかすごい事をさらっと仰いましたよね?


「ルネこそ、私が側に居るのは嫌じゃない?」

「まさか!その様な事は…」

「そう?だったらいいけど。でも、嫌だと思う事があったら、些細な事でも言って欲しい。君には嫌われたくないからね」

「いえ、とんでもございません。私の方こそお側に仕えて大丈夫なのでしょうか?」

「全く問題ないよ。むしろルネでよかったと思っているからね」


 そう言ってセレン様はまた優しい笑みを浮かべられました。そこには嘘やお世辞はないように見えます。


 でも…私のやりたい事、ですか。そんな事を考えた事はありませんが、聖女でなくなったのなら、今後の事を考えなきゃいけませんね。今まではそんな事を考えるのはいけない事だと言われましたが…


 そんな事を考えていたせいか、私は大事な事をすっかり忘れていました。


(そう言えば…セレン様、旅に出るって言ってたけど…結界はどうするのかしら…)


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