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ほしししのほし

作者: 石原三日月
掲載日:2023/02/22

森でみんなと遊ぶのがつまらなかったので、

ルルはひとりでずんずん歩いていました。

みんなは森でかくれんぼだとか、秘密基地づくりをしたがるのだけど、

ルルはもっと違うことがしたかったからです。

草の葉の先がそよ風に揺れるところだとか、

空の雲が伸びて千切れて変形合体していくところだとか、

そういうのをぼんやり眺めていたかったのです。


ルルは草をかきわけながら、ずんずん歩いていきます。

午後の森の中は明るくて、ひとりでも怖くありません。

ずんずん歩いていきます。

森の木々は反対に、ルルの後ろへ消えていきます。


ルルが前にずんずん。

森が後ろへずんずん。


なんだかルルは自分が前に進んでいるのではなくて、

森が勝手に後ろへ動いているような気がしました。

面白くて、もっとずんずん歩きました。

森も、もっと後ろへずんずん動いていきました。

ずんずん、ずんずん、ずんずん、ずんずん。


突然、森が消えました。


びっくりして、ようやくルルは足を止めました。


目の前に、夜の草原が広がっていました。


見渡すかぎり、黒い草が揺れています。

その向こうには真っ青な宇宙が広がっていて、

数えきれない星々がまばゆい光を放っています。

ルルは口をぽかんと開いたまま、宙を見渡しました。

不思議と月は見えません。

ただひたすら、黒い草と白い星が見えるだけです。


いいえ、違いました。


よく見ると、草原の中になにか動くものがいます。

おとなの人のようでした。

けれど、着ている服がちょっと変わっていました。

白くてふわふわした不思議な服です。

もっとよく見ると、草原の中にはさらに別のものがいました。

大きな動物です。

暗くてよく見えないし、さわさわと揺れるその毛並みが草とそっくりなので、

最初はルルも気づかなかったのです。


よく見ようと思って、足を踏み出すと、

ルルはなにかにつまづいて転んでしまいました。


「だいじょうぶ?」


慌てて顔を上げると、冷たいものが顔に触れました。

大きな黒い鼻でした。

足元にも、あの大きな獣が寝そべっていたのです。

「だいじょうぶ?」

もう一度、言いました。ぽわぽわとした面白い声です。

「大丈夫だよ。君はだれ?」

ルルがたずねると、獣は答えました。

「わたしは、ほしししよ」

「え? なに?」

「ほししし」

「ほししし?」

そんな動物いたかなぁと、動物図鑑を思い浮かべました。

よく目を凝らして見てみると、星明かりのせいか、

この動物はきれいな青い毛並みをしているのです。

ルルはそんな動物を知りません。

それに大きな顔のまわりで小さな光が、ちかっちかっと光っています。

「どうして光っているの?」

「ほしししだからよ」

「近くで見てもいい?」

「いいわよ」

ルルは獣の首を顔を近づけました。

その途端、顔をもふもふしたものに包まれました。

もふもふしていて、ぬくぬくしています。

たてがみでした。

夜と同じ色をしていたので、ルルは気づかなかったのです。

そのまま顔を突っ込んでみると、

もふもふの奥に小さな光がたくさん散らばっていました。

まるで星空に顔を突っ込んだみたいです。


「そうか、ほしししって、星の獅子ってことなんだね」


たてがみから顔を出して言うと、

「だからそういってるのよ」

そう言ってから、少し困った声になりました。

「でもわたし、くせっ毛なのよ」

「それがどうしたの?」

「ほしが、たてがみにひっかかって、とれないのよ」

「取らなくていいじゃない」

「でも、あのひとがほしをとるのよ」

星獅子が見ているのは、あの白い服の人でした。

その人は草原を歩き回っていましたが、たまに足を止めて、

動物――獅子のたてがみから小さな光をつまみ出しています。

たぶん、光のひとつひとつが星なのでしょう。

そしてその星を、片手に持った袋に入れていくのです。

まるで野菜を収穫しているようでした。

「くせっ毛だから、ほしがひっかかって、いたいのよ」

ルルはもう一度、星獅子のたてがみに触りました。

確かに、もふもふでぬくぬくなだけではなくて、くるくるもしています。

「やめてって言えばいいじゃない」

「だめなのよ。あのひとは、ほしがないとこまるのよ」

「ふぅん。じゃあ逃げちゃえば」

ルルは自分のことを話しました。

みんなの遊びがつまらないから、ここへひとりで来たことを。

星獅子はじっとそれを聞いていましたが、やがて、

「そうするわよ」

立ち上がると、ルルについて歩き出しました。

ルルは白い服の人に気づかれないよう、さっき来たほうへ戻りました。

星獅子を連れて。


草原をずんずん歩いていると、すぐに森の中へと戻りました。

森の中はまだ夕方でした。

ルルは子供たちが近寄らない岩穴に星獅子を隠しました。

「また明日来るからね」

そう言って振り返ると、暗い岩穴の中で、

たてがみの星だけがちかちかと光って見えました。


次の日から、ルルは毎日、星獅子のいる岩穴へ通いました。

みんな、ルルがひとりで遊ぶのが好きだと知っているので、

誰もついて来たりはしませんでした。

ルルは毎日、星獅子のたてがみで星の観察をしました。

望遠鏡なんていりません。

もふもふの黒いたてがみに顔を突っ込めばいいのです。

はじめは小さなかけらのようだった星たちも、

日に日に大きく、強く輝くようになっていきました。

星の数も増えていき、たてがみの奥の奥まで星でいっぱいです。

「すごいね」

ルルがそう言うと、星獅子は、

「すごいのよ」

すこしだけ自慢げな、でもぽわんとした声で答えます。

「でも、こんなに星がいっぱいで首は重くならないの?」

「おもくないけど、まぶしいのよ」

「そうだろうねぇ」

一週間も経つ頃には、星獅子のたてがみは星で埋めつくされて、

ルルが顔を突っ込む隙間もなくなりました。

星獅子の顔を真ん中にして円を描いた星たちの輪っかは、

もうただの星ではありませんでした。

「銀河になってる」

ルルのつぶやきに、星獅子は首を傾げました。

白く光る銀河も斜めに傾きました。


ある日、いつものように岩穴へ行くと、

そこにはあの白い服の人が立っていました。

星獅子は困ったように小さくおすわりしています。

白い服の人はルルに気がつくと、

「どうしてどうして、君がこんなことをするなんて」

と、つぶやきました。

ルルは怒られると思って、ぎゅっと唇をかみました。

でもよく考えたら、怒られるようなことはしていません。

「星獅子は星を取られるのが痛いんです」

思いきって言いました。

「だから可哀想だから逃がしてあげたんだ」

白い服の人は、ちょっとびっくりした顔をしました。

それから困ったように頭をぽりぽりとかきました。

とても長くて透き通った金色の髪をしています。

「僕が君に『どうして』と言ったのは、怒ったわけではないんだ」

それから手を伸ばして、星獅子の鼻先をなでました。

「人間の子の君が、どうして獅子ヶ原に入れたんだろうという意味さ」

その意味がわからずに、ルルが黙っていると、

「でもたまに君みたいな子もいる。久しぶりだけどね」

すっと手をこちらへ伸ばし、ルルの両目を塞ぎました。

ぱっとその手が離れると、

そこは――あの宇宙が広がる草原でした。


「ここは獅子ヶ原といってね、星獅子たちが棲む草原なんだ」


白い服の人が草をかきわけて歩いていきます。

ところどころに星獅子たちがゆったりと横たわっています。

どの星獅子も首のまわりに小さな星を光らせています。

白い服の人はそばにいる星獅子のたてがみから、星をひとつ摘みました。

その星獅子のたてがみはさらさらなので、星はするりと取れました。

「星はね、この星獅子のたてがみで育つんだ。

僕はそれを収穫して、夜空へ放つのが仕事なんだよ」

手にした星を夜空に向かって投げました。

星は流れ星の反対みたいになって、しゅるりしゅるりと飛んでいきました。

「ちゃんと収穫しないと、星たちはたてがみで育ちすぎてしまって……

銀河になってしまうんだ」

星獅子はすまなそうにうつむいています。

「それはいけないの?」

「銀河はね、ここから投げるだけでは駄目なんだ。

もっと遠い遠い、まだ星がいないところへ連れていかないとね。

でもそれは僕の仕事が増えるから、できればしたくないのさ。

まぁだけど、ここまで立派な銀河になってしまったのなら仕方がない」

白い服の人はそう言うと、両手で星獅子の銀河を掴みました。

星獅子はぎゅっと目をつむっています。

「やめて、星がからまって痛いんだって」

「大丈夫。ここまで立派に育ったら、もうたてがみは残ってないよ」

そう言って両手で銀河を掴み、すうっと上へ持ち上げました。

まるで首飾りを外すように、星獅子の首から銀河が離れていきます。

ルルはびっくりしました。星獅子も目を丸くしています。

「痛くないの?」

「ぜんぜんいたくないわよ」

首から銀河が完全に外されました。

星獅子からたてがみが消えて、なんだかちょっと変な顔です。

「大丈夫、たてがみはすぐに生えてくるから。

それじゃあ、ちょっとこれを夜空へ送り届けてくるよ。

悪いけれど、その間、ほかの星獅子たちの星を収穫しておいてくれ」

「ええっ」

それだけ言うと、白い服の人はさっさと背中を向けました。

すると背中に垂れた長い髪の間から、大きな白い翼があらわれたのです。

そしてまるで王冠を被るように、銀河を自分の頭の上に載せました。

手を離しても、光の輪っかは頭の上でふわりと浮いています。

「行って来るよ」

白い服の人は翼をばさばさと羽ばたかせると、宙へ舞い上がりました。

まるで流星の反対のように、見る間に姿が小さくなっていきます。

ルルと星獅子は口をぽかんと開けて、ただそれを眺めていました。


それから毎日、ルルは獅子ヶ原へ通っています。


もちろん頼まれた星の収穫のためでもあるのですが、

もうひとつ楽しいことを見つけたのです。

あの癖っ毛の星獅子にたてがみが生えて来て、

もふもふの毛の中にまた小さな星が生まれたのです。

その星が育っていくのを眺めているのが楽しいのです。

「ともだちとも、たまにはあそんだほうがいいわよ」

星獅子はぽわんとした声で、ちょっと照れたようにそう言っては、

たてがみの星を光らせるのでした。

その光はとてもぬくぬくな優しい光でした。




(了)


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― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルの不思議な響きに、どんなお話なんだろう……と想像を掻き立てられつつ拝読しました。 漢字変換が分かった時の「ああ!」という爽快感がすごくて、すっかりはまってしまいました。 研ぎ澄ま…
[良い点] 企画から参りました。 草原の中の大きな「ほししし」って何かなと思ったのですが、たてがみの中に星をいっぱい育てているんですね。 そんな星獅子たちが棲む草原、夜はきれいでしょうね。 銀河までも…
[良い点] 拝読しました! まるでジブリ映画を見ているかのような、そんな感覚を覚えた童話でしたね。頭の中できれいな星々が浮かんでくるような、ファンタジックなお話。 楽しかったです。 ルルさんも年齢…
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