幸せ者
三題噺もどき―ひゃくきゅうじゅうきゅう。
※GLです。事後のつもりなので、R-15。※
お題:髪を梳く・日差し・堕ちる
「……ん、」
カーテンの隙間から貫いてくる日差しで、目が覚めた。
少し冷え込むようになってきた今日このころ。暖かな布団の中に居るはずなのに。なんとなく、ふるりと体が震える。
「……」
さて、今は何時だろうと。
頭の上に置いているはずの、携帯を探す。腕だけを出して、ごそごそと。
「……?」
しかし、うまく探りきれず。
肩から上を布団からだし、肘をついた状態で体を起こす。
「……さむ…」
布団にできた隙間から、冷たい空気が入り込む。
―あぁ、そりゃあ寒いはずだ。
よく見れば、下着しか身に着けていない。きょろと周囲を見渡すと、パジャマ類は布団の横に落ちていた。その上、私は髪を短くしているので、首もがら空きなのだ。
「……」
ようやく見つけた携帯は、そのパジャマと同じところに落ちていた。
ついでに上着だけでもひっかけようと、寒さに耐えながら、上半身をすべて布団の外へと露出させる。
肩にかかった細い紐が、片方ずるりと落ちたが。まぁ、気にすることでもない。
「……」
―隣で眠る、彼女を起こさぬよう。
「……」
手を伸ばし、携帯を手に取る。
その次に上着。
彼女をまたぐ形でとったから、布が当たるかとも思いはしたが。頭からすっぽりと布団の中に潜り込んでいるから、関係なかった。
「……」
あれ、これ。
適当に手に取った上着は、彼女のものだった。
少々大きいのが、なんだかムカつく。同じ人間として、なんだか。んー。気に入らないわけではないが。この体格さがちょうどいい時だってある。嬉しい時も。それでも、ちょっと妬いてしまうのは許してほしい。
「……」
少し大きめのそれを、肩にかけたまま。壁に寄りかかる。
下半身はなんとか、布団の中に収めている。足先が冷え始めている気がするが。まぁいいか。
「……」
時間を確認してみると、丁度いいぐらいの時間。
―この時間を丁度いいかどうかは、人それぞれなところはあるが。朝9時過ぎ。
んん、よく考えれば少し遅いか?ま、今日は二人とも休みだし、時間はさして気にしなくてもいいか。
「……」
それは、それとして。
お腹が空いてきた…。
まぁ、昨夜散々運動したから、腹は減って当然。それに少し喉も乾いてきた。あと、さすがに寒すぎる…。
―そろそろ彼女も起きるだろうし、お湯でも沸かしながら、何か食べられるものでも作ろう。
「……」
そろりと、足を布団から抜き出し、できた空洞をつぶす。彼女が少々寒がりなので、そのうち起きるにしても、冷やしてしまってはあれだろう。―の割には、彼女も下着しか身に着けていないあたり、昨日はなんか、なぁなぁに処理をしたなこれ。
「……」
抜き足差しあし。
狭いアパートなので、キッチンは割とすぐそこにある。
上着が落ちないように袖を通し、濡れないよう軽くまくってから、ケトルに水を入れる。そのまま、台の上にセットし、放置。
「……」
何か食べられるもの…と思い、冷蔵庫を開ける。
が、何もなかった。
そうだ、今日買い物行こうと思ってたから…仕方ないか…。
「……」
とりあえず、マグカップを取り出し、中にコーヒーの粉を適当に入れる。彼女はココアだ。
そのまま、お湯が沸くのを待ちながら携帯をいじる。
「―――ぁむい…」
「ゎ、おはよう」
「…ぁよう、」
いつの間に起きたのか、彼女が後ろから抱き着いてきた。
相当寒かったのか、布団を引きずってきている。
「―なにしてるの…」
「お湯沸かしてるの、ココア呑む?」
「……ん」
くるりと、彼女と向き合えるように立ちなおす。
長い髪をぼさぼさにしたまま、まだ眠そうにしている姿は、なんだかとても可愛らしい。
「……のむ…」
「ん、じゃもうちょっと待って」
腰にだらりと巻き付いてきて、頭を肩に預けてくる。まるで猫のようだと。思ったりもして。
まだ寝ぼけ頭の彼女が、力を抜いてそうやって、身を預けてくるから。少し重い。
―幸せだなぁ。
「…なぁに?」
「ん?なんでもない、」
まだぼんやりとした顔で、にこりと笑う彼女。
「…さむい…」
「はいはい、服着て待ってて」
「――がきてる、」
「ぁ、そうだった、」
くすくすと、そんな他愛のない会話をして。
こんなに幸せでいいのかと思ってしまう程に。
彼女といられる、それだけで。
私はこんなにも幸せに包まれる。
ここまで、共に堕ちてくれた彼女。
私たちの関係は、けして歓迎されやすいモノではない。
それでも共に在ってくれる彼女。
それだけで、私は。