39話
僕は冒険者ギルドの奥にあった部屋からアールさんの後について、受付や依頼の掲示板のあるホールまで戻って来ると、僕の試験結果を聞こうと待っていた大量の冒険者の人達の視線にさらされる。
「おい! 帰って来たぞ!」
「プレイだったよな⁉ ランクはどこまで上がったんだ⁉」
「筆記試験のできはどうだった⁉」
「昇級試験はまだ続くのか⁉」
僕を見つけた冒険者の人が押し寄せいろんな質問が飛んでくる。
「え、ええ⁉ ちょ、ちょっと待ってください! 順番に答えますんで!」
だけど、僕がそう言っても質問は止まらず、質問攻めにあって困っているとアールさんが助け舟を出してくれた。
「あなた達プレイさんが困っているでしょう? 興奮するのはわかりますが少し、彼の言葉を待ってあげなさい」
アールさんがそう言った途端、冒険者ギルドは一気に静まり返る。
冒険者の人達の質問攻めに、少し慌ててしまったけど、ギルドマスターの言葉を思す。
表に居る奴らにランクの事を聞かれたら、今は仮のCだと言っておけ。もし、理由を聞かれたらさっきの条件を教えてやれ。
「……仮のCランクです」
僕がそう答えると、ギルドのホールは驚きや嫉妬、喜びの声でが溢れかえる。
「おいおい! マジか⁉ 一気に四つも上がったのか⁉」
「Cランクって上がりすぎじゃねぇか⁉」
「冒険者になった遊び人が数時間で俺よりランクが高くなるだと⁉」
「そりゃ、あれだけすごけりゃあ頷ける」
たくさんの冒険者の人達が声を上げる中、その人達をかき分け、楽園のアダムさんがやって来る。
それに気づいた冒険者の人達が再び静かになり、アダムさんが僕の目の前にやって来ると拍手をしてくれた。
ぱちぱちぱちぱち
「プレイ、おめでとう……だが、俺の見立てではBランクに上がってもおかしくはないと思っていた。もしかして仮と言ったのはその辺りの理由か?」
アダムさんがそう言うとアールさんの方を見ると、アールさんが頷き質問に答える。
「さすがアダムさんですね……アダムさんの見立て通り、ギルドマスターもBランクでも良いと言っていました。ですがプレイさんには経験が不足しているとも言いました。高位の冒険者は護衛や盗賊退治の依頼を指名で受ける事もあるので、そこへの配慮です。なので一度づつそれらの依頼を受ければ、プレイさんはすぐにBランク冒険者になれます」
「なるほどな……プレイの様な将来有望な冒険者にはつまらない仕事で死んでほしくないと言うわけだな……」
アダムさんの言葉にアールさんが少し困った様子で頷く。
「まぁ、乱暴に言えばそんな感じですね」
アールさんがそう言った瞬間、静かにしていた冒険者の人達が我慢の限界に達した。
「おい! 聞いたか、護衛と盗賊討伐すればBランクらしいぞ!」
冒険者の人達のボルテージは最高潮に達したようで、先ほどに比にならないほどの声が上がる。
「冒険者ギルドの昇級が大幅に塗り替えられたぞ!」
「やったなプレイ!」
「すげぇな!」
先ほどとは違い、ネガティブな発言は聞こえてこない。
それどころか冒険者ギルドで働く人達も興奮気味に声を上げはじめた。
「あ、あの! プレイさん! すいません! 聞いてください!」
僕が集まって来た冒険者に質問攻めにあっていると、少し離れた場所から可愛らしい女性の声がする事に気づき、僕はその方向に顔を向ける。
すると、人の壁の向こう側でジャンプしているのか、人の影から手が生えたり消えたりしている。
気になった僕は、集まって来た冒険者の人達をかき分けて、その手の主の元に向かう。
「す、すいません! 通してください!」
手の主に向かう途中、冒険者の人達に肩を叩かれたり、頭をなでられたりしながら僕は進み、やっとの思いで人の壁を抜けると、そこにいたのは、冒険者ギルドではじめて僕の受け付けをしてくれた女性の職員さんだった。
そしてその女性は僕に向かってカードを渡して来る。
「あの、これをプレイさんに渡しておくように言われました」
彼女が持っていたのは冒険者カードだった。
「ありがとうございます!」
僕はそれを受け取ると、直ぐになくさない様に懐にしまう。
ギルドの受付をしてくれた女性はは僕が冒険者カードを懐にしまうのを確認すると、笑顔で話しかけてくる。
「おめでとうございます! プレイさん! でも凄いですね、先ほど冒険者カードを預かる時にギルドマスターに聞いたんですが、冒険者ギルドの昇級記録を大幅に更新したと言っていました。もし、何かわからない事があったら私達に何でも聞いてください! 私も含めギルドの職員はプレイさんに期待しています!」
そう言って頬を赤らめた彼女は、ギルドの受付に戻っていった。
僕は彼女が受付に入るのを見届け振り返ると、先ほどまで僕に温かい声をかけてくれた冒険者の人達の表情が嫉妬のこもったものになっていた。
「「俺達のリィセちゃんが!」」
そう言って男性冒険者のほとんど地面に這いつくばりながら、声を上げはじめた。
「あ、あの一体皆さんどうしたんですか?」
僕がそう声をかけても返事は帰ってこない。
僕が困っていると、突然肩を組まれる。
僕は驚いて思わず肩を組んできた人の方に顔を向けたけど、知らない綺麗な女性だった。
その女性は鎧を着ていて、前衛職なのか僕より背が高く、僕の肩に腕をまわして僕を見下ろしてくる。
それにしても、か、顔が近い、し、しかもなんかいい匂いがしてくる。
僕が知らない女性に肩を組まれて、焦っているとその女性が話しはじめる。
「プレイだっけ? こいつ等もてない野郎どもは、さっきギルドの受付嬢のリィセにあこがれているだよ。冒険者ギルドの受付嬢は皆に平等に接してくれるからね。普段優しくされない強面の冒険者達はそれでコロッとやられるんだ。ところでプレイあんたは恋人はいるの?」
そう言って肩を組んできた女性はじっと僕の目を見てくる。
「えっと……特に恋人はいませんが……」
そう言って僕は目線を外す様に顔を横に向けようとする。
だけど、それを両手で止められ顔を戻される。
「へぇ~恋人はいないんだ? ならあたしなんてどうかな?」
「いや、あの、それは……」
僕がしどろもどろになっていると、今度はお腹のあたりに衝撃を受ける。
僕が視線を降ろすと、そこにはいかにも魔法使いが好むとんがり帽子をかぶった小さな女性がいた。
その小さな女性はまるで子供が抱っこをせがむ様に僕の腰に腕を回している。
「それなら、私も立候補する。プレイさんが私と付き合ってくれるなら頑張って黄金郷の入団試験に受かって見せる。大丈夫、私はどこのクランにも所属せずにずっと臨時で依頼をうけているから問題ない」
小さな魔法使いの女性はそう言って見上げてくる。
「いや、僕は……」
「おや、プレイは前衛の筋肉ゴリラ女や魔法使いの少女は好みじゃないみたいね」
そう言って今度は肩を組んだ女性の反対がわから手が伸びてきて、僕の顔を自分の方に向ける女性がいた。
そこには、踊り子の服に身を包んだ女性がいた。
「私と一緒に踊りながら歌を歌って愛を語り合わない?」
女性はそう言うと顔をはさんでいた手をそのまま滑らせて、僕の顔から首筋、胸へとを指先でなぞってくる。
そして、指先で僕の胸に触れると、妖艶な表情をして囁く様につぶやいてくる。
「あれだけ動けたからやっぱり鍛えているんのね」
「うううう……」
僕がなんて言えば良いのか、わからずそれでも距離を詰めようとしてくる彼女達に困って唸り声を上げていると、大きな声を上げながら僕達の方へ歩いてくる人がいる。
「どきな! あんたらうちのプレイに何色目を使っているんだい!」
それは、眉を吊り上げ冷たい目をしたミアさんだった。
僕は、はじめて見るミアさんの冷たい目にぞっとする。
それはあからさまに敵を見る様な目で殺意までこもっていた。
ぞっとした僕とは違い、僕にすり寄ってきた三人の女性は、ミアさんと視線が合っても臆した様子もなく言い返す。
「良いじゃない。プレイには恋人がいない様だし、私達がプレイの恋人になろうとしたって」
「うん、そこは私も同意見」
「ええ、そうよね。そこはプレイさんの個人的な話だし、彼が誰と恋人になろうがクランの仲間でも口出しするのはマナー違反じゃない?」
彼女達は自分達は何も間違った事をしていないと、自信満々でミアさんに言う。
「ちっ! わからない小娘どもだねぇ!」
だけど、そんな彼女達の言葉にミアさんは頭をかきながら、真直ぐに僕の元に歩いてきて、彼女達から僕を引き離すと僕の手を掴み自分の腰にまわさせて、もう片方の手で僕の顔を引き寄せると僕の頬にキスをした。
「「⁉」」
「これぐらいすれば、わかるかい?」
すると、それまで自信満々にミアさんに視線を向けていた三人は、悔しそうにミアさんを睨むが、動じないミアさんに直ぐに悔しそうな顔をして離れていく。
それを確認したミアさんは、僕から離れ背中を向けたまま肩越しに僕を見ると口を開く。
「プレイ、あんたはリサの事が好きなんじゃないかい?」
「えっと……それは……」
「あの子の気持ちはあの態度を見ればあんたもはわかるだろう? なら、あの子を大事にしてやんな。さっきみたいな輩は、きちん拒否しないといつまでも近づいて来るよ。もし、それをリサが見れば悲しむのは目に見えている」
「すいません……」
「私に謝っても意味がないよ。今後さっきみたいな輩が来た時はきっちり断るんだよ!」
「はい、わかりました」
僕は思わずミアさんに頭を下げる。
だよね、きっとリサも僕の事を……きっとこれは、自惚れじゃないと思う。
なら、さっきみたいな人達はきっちりと断らないと。
そう思って頭を上げると、さっき離れたはずのミアさんがいつの間にか僕の隣にいて、そっと耳打ちしてくる。
「まぁ、私は二番目でも気にしないからね」
「うわっ!」
そう言って耳に息を吹きかけられた僕は思わず声をあげてしまった。
ミアさんを見ると、少しうれしそうにスキップをしながらアールさん達の方に向かっていく。
僕がアールさん達に視線を移すと、それまでのやり取りを見ていたのか、アールさんはあきれた表情でミアさんを見て、ガーディーさんは僕の方を見てニヤニヤと笑っていた。
そして、チューンさんは苦笑いをしていたが、リングさんは少し冷たい目で僕を見ていた。
絶対見られていたよね……みんなの元に戻るのが気まずすぎる。
でも、そろそろみんなでクランに帰らないと……。
そう思って、みんなの方に歩ていくと腕をつかまれる。
僕の腕をつかんだ人を見ると、それは楽園のアダムさんだった。
僕は何だろうと思いアダムさんの目を見ると、アダムさんが不思議そうに口を開く。
「今日の主役がどこにいく?」
「え? 今日の主役?」
不思議そうにしているアダムさんに僕は首をひねり聞き返す。
「ああ、推薦で昇級試験に合格した冒険者が居た場合。それを見届けた奴らは合格者に祝いをするルールがある」
そこで僕はアールさんの言葉を思い出した。
では、今日は帰りましょうか。まぁ、プレイさんは真っすぐ帰れなさそうですが。
「俺にも祝いをさせてくれ」
そう言ってアダムさんは僕を冒険者ギルド内に併設されている酒場に引きずっていく。
「アダムさん! そんなお祝いなんて大丈夫ですから!」
「「いやダメだ! 今日は朝まで返さない!」」
その声は僕の背中から聞こえて、思わず僕が振り返るとそこにいたのは、さっきまで地面に這いつくばりながら声を上げていた男性冒険者の人達だった。




