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第5話 決断

「はぁい、よちよち。ビデオ見て嫉妬しちゃったねぇ〜。もう1人の自分に、だぁいちゅきな恋人の、初恋人も、初体験も、開発も、子作りえっちも、初ビデオレター作りも、何もかも済まされちゃって、悲しくなっちゃいまちたねぇ〜? ぜんぶぜんぶぜーんぶ、えっちなことから目を背けて、もう1人の人格に押し付けて逃げてきた、火継(ひつぎ)くんのせいなんだよね〜。反省しよ〜ね〜」


ぐぅぅぅぅぅっっっ!

苦しい。悲しい。辛い。


雅恋(みやこ)さんには僕だけのことを愛していてほしかった。

いや、今でもそう願ってる。


でも、ここまで対話してきてわかった。

彼女の心には、僕だけじゃなく、アイツもしっかり根ざしてしまってる。


僕だけのものとして手に入れられる部分は、もう残ってない。

全部、アイツに奪われた。


せめて僕が寝取られ好きの変態性癖を持ってたら、この状況も楽しめたのにな。


悲しいけど。申し訳ないけど。それでも、やっぱりこれ以上付き合い続けるのは無理だ。

僕の心が保たない。


漢らしくない、女々しいやつだって自覚はある。

でも、我慢できないこと、超えられない一線ってのは、誰にでもあるだろ?


僕の場合は、ここが最後の一線だった。それだけなんだ。



「雅恋さんの全部は、僕じゃなくてアイツが奪っていったんですね。僕は全部全部、2番目の男だった、と。ははっ、なんですかそれ、僕はとんだピエロじゃないですか」


「そんなことないよ。私ね、火継くんを落とすまでは絶対に妊娠しないようにしようって気をつけてたの。だって、妊娠しちゃったら、火継くんはどこかに行っちゃうかもしれないじゃない?」


まぁ、そりゃあ、恋人が自分以外の男の子供を孕んだら、離れるだろうね。

いやまぁ、遺伝子的には、僕の子どもなんだけどさ。


っていうか、なんで今そんな話を?


「でもそのことはひーくんには伝えてないんだよ。私、ひーくんに内緒でこっそり避妊薬を飲んでるの。だからひーくんは、できるはずもない自分の子どもができるのを、今か今かと待ってるんだぁ。いつも「孕め孕め」って嬉しそうに叫びながら出すんだけど、それがまた可愛くってね?」


......もうほんと、なんの話なの......。



「あ、いけない、脱線しちゃった。それでね? 私の初めての妊娠は、火継くんに仕込んでもらおうって思ってるの。私の女としての人生のターニングポイントは、火継くんの手で、ね?」



それはひどく魅力的な提案だね。

雅恋さんのお腹を専有する権利を貰えるっていうのは、なんていうか、男冥利に尽きる、気がする。


......だけど、そんなのアイツので当たったのか、僕ので当たったのかわかんないじゃん。


DNA鑑定とかしたって、人格以外は同一人物の種なんだから。


雅恋さんは言葉の通り、僕とシたときにできた子ってわかるように調整してくれるつもりだろうけど......。



「............子どもなんて、ホントにデキたらどうするんですか。雅恋さんはまだ2年弱は大学生なんでしょ。僕は中卒だし」


「大丈夫、妊娠したら休学するし、お金は私の実家も頼ってもいいけど、火継くんの麻雀の腕だけでも食べていけるくらいには稼いでるでしょ? 私だって、それなりの腕だよ。知ってるでしょ? だから心配しなくても、私達ならしっかり育てていけるよっ!」



いやまぁ確かに金銭的には困らないかもしれないけどさぁ......。






うん、やっぱりだめだ。

一瞬絆されかけたけど、こんな爛れた関係を認めてこれからも付き合っていくわけには行かない。


けじめを、つけよう。



「............雅恋さん」


「なぁにぃ?」


ソファに座る僕の膝の上に乗って、対面座位になって首元に手を回してきながら、ニコニコとした表情で可愛らしく首をかしげる雅恋さんの姿に、また一瞬決意が揺らぎそうになる。

けど、彼女の股から滴り落ちる白い液体が僕のズボンに付着していて汚い、って感じることが、ギリギリ決意を繋いでくれた。



「僕はこういう関係には耐えられそうにありません。悪いですけど、僕とは別れんんむむっ!?!?!?!?!?」


言い切る前にキスされた。

()にとっては初めての雅恋さんとのキスは、僕を黙らせるために無理矢理奪われることになった。


急な出来事にしばらく放心する僕に対して、口の中を激しく蹂躙していく雅恋さん。

数分間に渡るフレンチキッスが終わり、2人の口元に唾液の橋が煌めいて............ソファに落ちる。


「わっ、汚っ!」


キスのことも大概びっくりしたけど、またしてもソファが汚れることに対する感情の方がデカかった。

僕の潔癖症もよっぽどだな。


「......ちょっと。私とのキスより、それなの? また火継くんに傷つけられちゃったよ。よよよ......」


下手な泣き真似を見せる雅恋さんだったけど、それも一瞬で、「まぁいいや」とひとりごちて、すぐに切り替える。


ただ、さっきまでの笑顔はそこにはなかった。

瞳に宿されていた妖艶な光すらもない。


何かをキメてしまってトランス状態に入ってるかのように、能面のように表情がない。


「今、私と別れたい、みたいなこと言おうとしたね? 何回も言ってるけど、許さないから。逃さないから。火継くんは私に赤ちゃん仕込むの」


雅恋さんはそういうと、僕の身体にさらに密着するように首に回していた手を抱きしめるように姿勢を変え......ガチャリ。


「え?」


ガシャガシャ。

腕を軽く動かしてみると、手首に金属の感触。


ま、まさか。


「手錠だよ。これから火継くんは汚れとか気にならなくなるまで、何時間でも、何日でも、何週間でも、私とシ続けるの。私達が心の底から愛を貪り合うようになるまで、ずっとね♡」


僕の意識は、この言葉が耳に届いたのを最後に、途絶えてしまった。

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