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レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした  作者: 桐山じゃろ
後日譚

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呪いと希望

 ギロとサラミヤが結婚して一年後。

 僕とギロは、ギロの部屋でその時を待っていた。

「僕、割りとなんでもできるって自惚れてたけど、今ほど無力を感じたことはないよ」

「万能のラウト様に出来ないことなら、私だって無理です」

「言い過ぎてるよ、ギロ」

 朝からかれこれ五時間以上、男二人が青い顔で、こんな会話ばかり繰り返していた。


 隣の部屋――ギロとサラミヤの寝室から、産声が聞こえてきた。

 僕とギロが同時に立ち上がると、ややあってアイリが部屋の扉をバタンと開けた。

 アイリの表情は明るい。

ふたりとも(・・・・・)、無事よ。とても元気だわ」

「……!!」

 ギロが手で顔を覆って崩れ落ちた。

「おめでとう」

「……ありが、とう、ございます……」

 僕がギロの肩をぱしぱし叩きながら祝うと、ギロは涙声で応えた。


 更に小一時間ほどしてから、サラミヤのいる寝室にギロと二人で入った。

 サラミヤの腕の中には、お包みにくるまれた小さな赤子がいる。

 勿論、ギロとサラミヤの子だ。

 ギロと同じ金髪の男の子で、閉じた瞼の奥の瞳の色はまだわからない。

 アイリの言った通り、サラミヤは疲れこそ見えるものの、身体に異常はなさそうだ。

「サラミヤ、よく頑張ってくれました。ありがとうございます」

「はい。さあ、抱いてあげてください」

「えっ……は、はい。こうで、いいですか」

 ギロが恐る恐る、赤子を受け取る。

「小さいですね」

「今は当然よ。二人共大きいから、この子もきっと大きく育つわ」

 アイリが屋敷に来てくれた産婆さんを手伝って周囲を片付けながら、ギロに声をかける。

「皆様、ありがとうございました」

 ギロが頭を下げると、女性陣は笑顔で応えた。


「今日はお祝いですよー!」

 サラミヤの妊娠がわかってから、セーニョはほぼ一人で屋敷中の家事を取り仕切ってくれた。

 流石に僕も手伝うと言ったのだが「お屋敷の主にそんなことさせられません!」と頑固に断られてしまった。

 臨時で人を雇おうかという案もあったが、サラミヤが気にしてお産に障ってはいけないので、それもやめておいた。

 料理の方はギロが「やります。というか何かしていないと悪いことばかり考えてしまうのでやらせてください」と言うので好きにさせておいたが、今日ばかりは全てセーニョの料理だ。

 ギロの料理に心酔するあまり、完璧にギロの味を再現したセーニョの料理は今日も美味しい。

「ご馳走様。美味しかったよ」

「光栄です」

 僕がセーニョにお礼を言うと、ギロもお礼を言って立ち上がった。

「片付けは手伝いますよ」

「とんでもない! サラミヤの傍にいてあげてください」

「今は二人共ぐっすり眠ってますよ。それに、なにかしていないと落ち着かなくて」

「そういうことでしたら、お願いします」



 サラミヤの妊娠発覚以降、僕の家はサラミヤを中心に回っていたが、この日からはサラミヤと赤子を中心に回りだした。

「名を『リュート』としたいのですが、宜しいでしょうか」

 書斎でギロに話があると言われて訊いてみれば、赤子の名前についてだった。

「どうして僕に聞くの?」

「ラウト様の名にあやかりましたので」

「……いいのかな、それ」

「これ以上無い良い名だと自負しております」

「ギロとサラミヤがいいなら、僕は構わないよ」

「ありがとうございます!」

 ギロは嬉しそうに書斎から出ていき、入れ替わりにアイリが入ってきた。

「ギロ、何の話だったの?」

「名前のことだよ」

「……ラウトの名前をね。ギロ、気遣ってくれてるのかしら」

 先に結婚した僕たちには、まだ子供がいない。


 理由に、心当たりはある。




 三年前。僕とアイリの結婚式を目前に控えたある日、ユジカル国王から僕に話があると、ユジカル城の一室に呼び出された。


「ラウト殿。そなたの家は男爵家だったな。その歴史について、話せるか」

 僕は家で習った家の歴史について、ユジカル国王に話した。小さい頃から何度も聞かされていた内容だから、特に漏れや間違いもなく話せたと思う。

「……して、そなたの血筋は、過去の勇者との繋がりはあるか?」

「いいえ、そのような話は聞いたことがありません」

「であろうな。我が国の秘宝で、勇者の過去を視たであろう。辛い記憶だろうが、今思い出してみよ。勇者たちの末路を」

 先代……四代目の勇者は、魔王と戦ったときの怪我が元で、若くして亡くなっている。

 その前の勇者たちも、魔王と相討ちになったり、病に冒されて寝たきりのまま生涯を閉じたりしている。

「僕も、そうなるということですか」

 今現在、僕に病気らしいものはない。健康そのものだ。怪我はナーイアスやアイリが即座に治してくれる。

 どうしようもない天変地異でも起きない限り、寿命以外で死ぬ気がしない。

「そうではない。……勇者はなぜか、子孫を残しておらぬのだ」

 言われてようやく気づいた。

 今の世の中に、勇者を先祖に持つという人がいないのだ。

 何千年も続く王家があるくらいなのに、勇者の血筋が千年のうちに途絶えたというのは不自然に思える。

 もしかしたら本人も知らないだけで実は勇者の子孫、なんてことも考えにくい。なにせ、世界中の国から優遇、保護されるのが勇者というものだ。その子孫ともなれば手厚く扱われるだろう。

「下世話な話ですまぬが、奥方とは仲が良いのだろう?」

「はい」

「ならば、今の話しを踏まえて、覚悟はしておくことだ」

「……はい」



 ユジカル国王との話の内容は、帰宅してすぐアイリに包み隠さず話した。

「ふぅん」

 アイリの反応はものすごく薄かった。

「アイリは、その、子供欲しくないの?」

「ラウトの子ならきっと可愛いから、是非欲しいわ」

 書斎のソファーの隣に座っていたアイリは、手にしていたお茶入りのカップをソーサーに置き、僕に身体をぴたりと寄せた。

「でも、こればかりは仕方のないことよね。できないならできないで、受け止める」

「……ごめん」

「なんで謝るの?」

「できなかったらきっと、僕のせいだから」

 勇者は子孫を残せないなんて、魔王の呪いだろうか。

「でもラウトは魔王を相手に大した怪我もしなかったし、大魔王まで倒したじゃない。病気は、今後わからないけど見たところラウトは健康そのものよ。今までの勇者がたまたま、子孫を残せない状況に陥ってただけかもしれないわ」

 アイリが言うと、本当のことに思えてくる。

「それに……ねえ、勇者たちに家族はいたのかどうかっていう記憶はある?」

「え? えーっと……うん、ある」

「兄弟がいた勇者は?」

「いないね。見事に一人っ子ばかりだ」

「勇者の血筋が残せないなら、ラウトのお兄さん達やレベッカにも影響が出るのじゃない?」

「あっ」

 長兄のフィドラは先年めでたくシャルマイさんと結ばれた。シャルマイさんは後に、元気な男の子を産んでいる。

「そっか……。でも、直系は駄目かもしれないよ」

「だから、その時はその時よ」

「……うん」




 そんな会話をして三年。僕とアイリはそれはもう仲良く過ごしているわけだけど、アイリに兆候は見られない。

 事情はギロ達にも話してある。

 だから、サラミヤの懐妊が判明した時は、ギロに申し訳無さそうな顔をさせてしまった。

 僕とアイリは本当に気にしていなかった。というより、ギロとサラミヤの子が楽しみで仕方なかった。


 無事、生まれてきてくれて本当に良かった。




「ラウト様、さすがにそれは過保護すぎです……」

「え、でもだって、心配だし」

 リュートの小さな右手の人差し指に、レプラコーンが創った指輪を贈った。

 リュートの成長に合わせて大きさが変化するものだから、サイズは問題ない。それに、ある程度成長したら自然消滅する。

 その指輪に、防護結界、攻撃魔法反射、補助魔法強化、迷子防止に居場所がわかる目印等など、思いつく限りの保護魔法をかけてある。

 ……と説明したら、サラミヤが何故かドン引きしたのだ。

「駄目?」

 隣で苦笑しながら控えていたギロにも尋ねると、ギロは「ご厚意は受け取っておきましょう、サラミヤ」と、サラミヤを納得させてくれた。

 リュートは指輪を気にすることなく、すやすや寝ている。


 健やかに育ってほしいと、心から願う。

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― 新着の感想 ―
[良い点] > ギロが手で顔を覆って崩れ落ちた。 > 「おめでとう」 > 「……ありが、とう、ございます……」 崩れ落ちるギロがいい。 特にお礼の言葉の途切れ具合にウルっときてしまう。 [一言] 更…
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