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レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした  作者: 桐山じゃろ
第四章

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27 攻防

*****




 ラウトはトーア大陸へ向かったが、アイリとギロは屋敷で留守番していた。

 本気を出したラウトについていくのはギロでも能力的に困難で、万が一大魔王に出くわした場合、確実に足を引っ張ってしまう。

 アイリは「ラウトのすぐ近くで魔王討伐を見届けなければ」という、自分でも不思議なまでの使命感があったが、大魔王相手には「ついていかない方がいい」と直感していた。


 ラウトがトーア大陸へ降り立ったのが昨日。魔物討伐は終わり、念のためにジュアル国城下町の宿で明日いっぱい様子を見る、と連絡を受け取っている。


 アイリは回復魔法使いの冒険者としてかなり優秀であると、他の冒険者達からも認められていた。

 回復魔法使いはパーティの後衛で仲間の傷を癒やすのが役目であり、自らが怪我をする場面はなるべく避けるようにするのが一般的だ。

 ところがアイリは、ラウトから体術、杖術を習い、自ら魔物を仕留めることもある。

 ラウトははじめ、前線に出たいというアイリの希望を止めたのだが、アイリにどうしてもと言われると逆らえなかった。


 アイリは回復魔法使いとしての立場からも、ラウトの妻であることからしても、ラウトに守られていて当然なのだが、本人はそれを良しとしなかった。

 己の無力が悔しかった。

 勇者として覚醒したラウトに敵う人間など存在しないが、一番近くにいる人間としてせめて、しっかり立っていられる程の力が欲しかった。


 ただ、現実としてラウトは緊急の魔物討伐要請に一人で行ってしまったし、アイリは「一緒に行く」と言えなかった。


 私の役目は終わったのかしら。

 アイリはそんな事を考えながら、広く冷たいベッドでシーツに包まっていた。




 衝撃音で飛び起きた。

 ギロがばたばたと外の様子を伺いに出る音がする。

 アイリも寝衣の上からローブを羽織り、杖を手に外へ出た。


 屋敷の敷地全体には、ラウトが厳重な防護結界を張っている。

 毎日、ラウト自身の莫大な魔力の一割も使って維持している結界は、屋敷の住人たちに悪意を向けるものを一切通さない。

 その結界をあろうことか、破ろうとする者が現れたのだ。

「アイリ様、家の中へ!」

「家の中にいたって衝撃が凄かったじゃない、どこにいても一緒よ」

「ですがっ!」

 衝撃音のたびに(たわ)む結界の外には、悍ましいものが浮かんでいた。

 顔と両手、両足は真っ白で陶器でできた人形のようになめらかな人の肌をしているのに、それ以外は様々な魔物を一度溶かして固めたような、ぐちゃぐちゃとした真っ黒な何かで形成されていた。

「あれ……大魔王!?」

 アイリも一度目にしている。再び目にしても、やはり恐ろしい。

「うふふ、うふふふふ」

 大魔王の磨り硝子の瞳は何も映していなかったが、アイリの方を向いて、不気味な笑みを浮かべた。

「見ぃつけた」

 より強い衝撃とともに、結界がさらに撓む。

 ラウトの結界とはいえ、あんな攻撃を何発も食らって、これ以上耐えられるかどうか疑問だ。

 ギロはアイリを庇って前に立っているが、身体が微かに震えている。

「ギロ……」

「アイリ様、どうか、ご自分が生き残ることだけ考えてください」

「何を言い出すの!?」

「貴女に何かあれば、ラウト様がどうなるか、想像もつきません」

 無理やり笑みを作ったギロが、結界の外へ出ようとした時だった。



「――ギロ、結界の中に戻れ」

 声色には余裕があるが、口調に余裕のない、でも安心する声がした。




*****




 僕の一撃で、大魔王の両腕を再び斬り落とした。

 全身を真っ二つにするつもりだったのに、避けられてしまった。

 腕はすぐに再生していて、ダメージが入った様子はない。

 能力値こそ僕のほうが上だが、大魔王自体が弱いわけではない。

「ううう、こんな……こんなっ」

 生えたばかりの両腕を撫でさする大魔王に、僕は三度斬りかかる。

 

「ひっ! ひぃぃ……ひひひひひ」

 大魔王はギリギリで回避し、僕から距離を取って、不気味に笑いはじめた。

「うふふ、はじめて会ったとき、隣りにいた人はどうしてるの?」


 僕は自分の家の敷地に、僕たちに悪意を向ける人や特定の人が入れないような結界を張っている。

 結界維持のために、魔力の一割は常に結界に流れている。

 だからこそ、結界に何かあれば、すぐに分かる。


 結界を何者かが攻撃している。

「私の分身は、私と違って何かを壊すのに躊躇はないの。だけど、私の機嫌をとれば、やめてあげるわよ?」

 大魔王がなにか言っていたが、僕はまるっと無視した。

「エターニャ、あいつを例の異空間に閉じ込めておけるか?」

「おまかせあれニャ!」

 大魔王を異空間へ放り込み、僕は転移魔法を発動させた。




 屋敷の上空へ飛ぶと、大魔王そっくりなやつが結界を攻撃していた。

 ギロとアイリが外へ出てきていて、ギロがアイリを庇うように立っている。

 二人は何事か会話した後、ギロが結界の外へ出てしまった。


「ギロ、結界の中へ戻れ」

 ギロは僕の従者で執事で、大事な仲間だ。ギロは「是非そのように扱ってください」と言うが、僕はギロにあまり強制的な命令というのはしたくない。

 今は別だ。

 僕の声を聞いたギロは、僕の方を見て、すぐに結界の中へ戻ってくれた。

 結界に魔力をもう一割流すと、結界は大魔王の分身の攻撃に対して微動だにしなくなった。

 屋敷の窓からは、サラミヤとセーニョが恐る恐る外の様子を伺っている。

 僕は二人に「大丈夫」という意味で頷いてみせた。


「うふふ……? うふ?」

 分身は攻撃が結界に何も響かないことにようやく気づいたらしい。それでも、結界とその中のものを壊そうと、攻撃の手を緩めない。

「お前、いい加減にしろよ」

 僕は分身の背後に周り、頭をぶん殴った。

「ギョッ!?」

 分身は結界にぶち当たり、口から黒い液体を吹き出してずるずると落ちていった。

 黒い液体は穢らわしいので、ウンディーヌとナーイアスに洗浄と浄化を頼んだ。

 地面に落ちた分身は、全身が粉々に砕けていて動けないようだ。

「うー、うー!」

 唸り声を上げるそいつの首根っこを掴んで、転移魔法でトーア大陸の大魔王のところへ戻った。




「ちょっとっ! 何よここっ! 出られないわ!」

「出さないようにしたんだから当然だろう」

 大魔王の前に分身をぽいっと投げ捨てた。

「え? あ、あら、まぁ……。ふふ、わざわざ持ってきてくれたのね」

 大魔王は分身を無造作につまみ上げると、小さな口をぱかりと開いた。

 そこへ、分身が液状になってぞろぞろと吸い込まれていく。

「これで……ここを出るくらいはできるわっ!」

 大魔王が力を解放した。

 草原がびりびりと震え、僕のところにも衝撃波が襲いかかってくる。

 しかし、空間自体は微動だにせず、僕もなんともない。

「あれ? 何なのよ、ここ」

 ここは精霊王が創り上げた、異空間の中でも特殊な場所だ。

 この異空間に干渉する権限は僕と精霊王しか持たないため、僕より力の劣る存在であれば、この空間を壊したり勝手に出たりすることはできない。


 そんなことを大魔王に説明するつもりはない。


 僕の大切な人達を、アイリを攻撃しようとしたこいつは、徹底的に滅する。



 呆然としている大魔王に近づき、その喉笛を左手で掴んだ。

「かっ……!!」

 右手の剣で全身を端から、再生が追いつかない早さで斬り刻んだ。

 胴体の黒いごちゃごちゃとした部分まで抉ると、再生が遅くなるようだ。

 肩口と腹から下を斬り落として、草原の上に転がした。

 サラマンダの炎で囲み、肉体再生を阻害する。

「んがっ、お、お前の、ちからっ、どうして人間のままで、いられるのっ」

 大魔王が妙なことを口走るので、思わず手を止めてしまった。

「どういう意味だ」

 大魔王は瞳を爛々と輝かせた。

「わたし、も、勇者だった……力が、つよすぎて、ま、魔王の核に封印、されたのよ」


 思わず見つめてしまった大魔王の瞳から、大魔王が人間だった頃の記憶が流れ込んできた。


 数千年前に勇者と認定されたこいつは、強すぎる力でもって、生きたいように生きていた。

 本人は順風満帆に感じていただろうが、我儘が通らなければ平気で町一つを滅ぼすようなこいつに振り回された周囲の人はたまったものではなかっただろう。

 こいつは罠に嵌められ、殺されかけたが、あまりの強さに殺しきれなかった。

 そこで、当時の魔王を倒して入手した核を四分割し、別の勇者が精霊の力を借りて封じたのだった。

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