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レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした  作者: 桐山じゃろ
第四章

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25 影響

 今から行く、と言ったくせに、その後十日経っても大魔王は現れるどころか、気配のかけらも感知できなかった。

「時空軸の違う世界にいると、数秒が年単位のズレになることもあるニャ」

 とのこと。

 この世界への出現は精霊たちが察知できるらしいので、僕はいつでも転移魔法を使えるよう、気を張って過ごしていた。

 とはいえ、本当に年単位でのズレが生じたら、待つ身としてはそんなに長い時間気を張ったままではいられない。

 結局、待機五日目あたりから、いつも通り過ごすことにした。


 魔物の勢いは相変わらずだが、大魔王がくるとなってから、少しだけ弱まった気がする。

 連日大量の魔物を討伐してきた冒険者たちのレベルが劇的に上がり、討伐が素早くなったせいもあるが、魔物自体も再出現の頻度が減り、全体的な難易度も下がっている。

 冒険者ギルドへ行くと、以前より表情の明るくなった冒険者たちが、今日の戦果を報告しあっている。

 各大陸からも、魔物が減ってきているという情報が次々公表されている。


 皆、希望を見出している。


 そんな中、トーア大陸のジュアル国から、救援要請があった。

 魔王の現れなかった大陸のうちの一つであるトーア大陸では、冒険者や魔物と戦える人の数が、他の大陸に比べて少なかった。そのため、人側のレベルアップや能力値上昇よりも、魔物が変わらぬ勢いで襲ってくる威力のほうが勝り続け、人側の戦力が足りなくなりつつあるようだ。

 僕がトーア大陸に行ったことをジュアル国は知らないはずだけど、「勇者は船を魔法でかっ飛ばして大陸間を行き来している」という話は聞きつけていた。

 その力をもってなんとかしてください、という、無茶振りと下手に出るをごちゃまぜにしたような要請だった。


「すぐ行けますが、でも……」

 僕の心配は大魔王のことと、このエート大陸のことだ。

 大魔王がどこに現れようとも転移魔法ですぐ近くへ飛べる。

 しかし、自惚れを承知で言うが、この大陸の魔物討伐の(かなめ)は僕だ。

「ラウト、心配いらん。俺たちだってレベル九十を超えて、能力値もかなり上がってる」

 冒険者ギルドの会議室にて設けられた話し合いの席にはヤトガやクレレ他、顔なじみの冒険者が集まっていた。

 元々冒険者としてベテランの域に入っていたヤトガ達は、率先して討伐し続けてレベルを上げ、それに勇者の加護が加わって、目覚ましい活躍をしていた。

「ギロもいるだろう。あんな逸材が不遇な目に遭っていたことが残念でならない」

 ギロは数日置きに僕とパーティを組んで高難易度の魔物を討伐する姿を、他の冒険者たちから目撃されていた。

 そんなギロは、今日は家にいる日だ。今の時間だと買い出しに行っているかもしれない。

「家にいるメイド達が心配だと聞いているが、安心してくれ。あの辺りや彼女らの行き先の衛兵を増やすことにした」

 ここまでしてもらっておいて、僕がトーア大陸に行かない理由はない。

「わかりました。ご配慮に感謝します。じゃあ早速……」

「待て待て待て。物資くらい持っていけ」

 ギルドの会議室から出ようとした僕を、皆して引き止めてきた。

 そしてギルドの備蓄庫をひっくり返したんじゃないかというぐらいの物資を持たされそうになり「一人で行くから」と一人分に絞ってからマジックバッグに詰め、改めて出発した。




*****




 ヤトガ達が見守る中、ラウトは転移魔法でその場から消えた。

「何度見ても不思議な魔法だよなぁ、転移って」

 誰かのつぶやきに、その場の全員が唸ったり頷いたりして肯定する。

 転移魔法は空間属性の魔法と考えられているが、実現できる者は複数属性持ち且つ魔力量の多いものに限られてくるため、世界でも数えるほどしかいない。

 大陸間を移動できるものはラウトくらいなのである。

「さて、ラウトに宣言した手前、頑張らないとな」

 クレレが両手を組んでぐぐっと前へ伸ばす。他の冒険者も、各々の武器を確かめたり、自分の魔力の調子を見たりと準備を整えはじめた。



 クレレ、ブズーキ、ヘーケ、サウンの四人は元々全員が同じパーティのメンバーではなかった。

 オルガノの町付近で魔族が魔物の分布を偏らせた事件で、実力を買われてそれぞれ別のパーティから招集され、その後紆余曲折を経て現在は四人でパーティを組んでいる。

 最初はラウトがリーダーの臨時パーティが切掛だったが、今のパーティリーダーはクレレだ。

 元いたパーティでもリーダーだったため、他の三人からも「リーダーをやってくれ」と頼まれ、引き受けた。


 その日何十体目かの魔物を両断し、辺りには静寂が戻ってきた。

「皆無事か?」

「ああ、無傷だ」

「問題ないわ」

「こっちも」

 クレレ以外の三人は魔法使いだ。各々杖を仕舞い込み、クレレの周りに集まる。回復魔法使いのサウンがクレレの腕の傷を回復魔法で癒やした。腕の傷は魔物に直接付けられたものではない。クレレ自身が魔物を叩き切った勢いで、ちょうどその真下に地面に埋まっていた岩を割ってしまい、その破片で傷ついたものだ。

「ありがとう」

「どういたしまして。馬鹿力も考えものだな」

 冗談を交えたやり取りを終え、周囲を見回す。

 近くに魔物の気配は無いようだ。

「今日はここで野営だな」

「あっちに良さそうな木陰があったぞ」

「じゃあそこへ行こう」


 日暮れの少し前に焚き火を熾し、料理当番のヘーケが、マジックバッグから鍋を取り出し、手近な石で簡易的な竈を作ってその上に載せた。

「ねえ、ヤトガが言ってたギロって誰?」

 ヘーケが鍋に食材を入れて混ぜながら、クレレに尋ねる。

「ラウトの家で執事やってる、背の高い男だよ。金髪で目の細い」

「ああ、あの人」

「何度も会ってるし名前も聞いてるだろう。どうして覚えてないんだ」

「元々人の顔と名前覚えるの苦手だし、ラウトが会う度に雰囲気変わってるから他の人が印象に残らなくて」

「あー、まぁ確かに」

 尚、ヘーケはアイリのことすら曖昧にしか覚えていない。ラウトとセットで会えば名前は言えるが、町中ですれ違っても気づかない程だ。

「でも、あの人確か、結構前からラウトと一緒にいたわよね。どうして今頃冒険者になったのかしら」

「色々事情があるんだろうよ」

 雑談をしつつも、各々与えられた役割をてきぱきとこなし、ちょっとした木陰はすぐに簡易的な屋根までついた野営地となった。

 ヘーケによる夕食を全員で食べた後、コイントスで不寝番の順番を決めて、交代で眠りについた。


 毛布を被って一時間ほど経った頃、クレレは魔物の気配を察知した。慌てず騒がず、まるで時間が来たから起きたとばかりにゆっくりと身体を起こし、寝ている他の仲間も起こした。

「どうした?」

 真っ先に声を掛けてきたのは、不寝番で起きていた攻撃魔法使いのブズーキだ。

「魔物だ」

「やっぱりそうだよな。俺一人でやれると思うが」

 ブズーキはマントの下で静かに魔力を溜めていた。魔力は光り輝くものだが、それすらも制御しているため、ブズーキはただ座っているだけにしか見えない。

「念のためだよ」

「そうだな」

 ゆるい空気をまとったまま、眠れない人間同士が夜の時間をつぶすだけの会話をしているようだったブズーキが、ごく僅かな予備動作のみで魔法を放った。

「ブギャッ」

 少し離れた場所に攻撃魔法が着弾すると、そこから鼻が潰れたような悲鳴がした。

 ブズーキは素早く立ち上がると、最初に魔法を放った場所へ次々と攻撃魔法を繰り出した。

 魔法は無詠唱で計六発放たれ、着弾するたびに似たような悲鳴が上がった。

「もういないと思うが、クレレはどう思う?」

「俺も魔物はもういないと思う」

 二人が気配察知を習得したのは、つい最近だ。まだ精度に自信がないため、こうしてお互いに確認し合うことにしている。

「偵察と回収してくるわ」

 自身に補助魔法をかけたヘーケが素晴らしい速さで魔法着弾地点へ向かい、すぐに戻ってきた。仲間たちの前に差し出された手には親指大の魔物の核が六つ乗っている。

「小さいな。ゴブリンか何かだったかな」

「それでも夜襲を掛けられてたら厄介だったわ。お手柄ね、ブズーキ」

「大袈裟だ。クレレも気づいてたしな」

「気配察知だけはなかなか覚えられないぞ。俺が不寝番してて二人が熟睡してたら、どうなってたか考えたくもない」

 サウンが肩を竦めながらおどけた口調で言うと、他の仲間から小さく笑いが漏れた。

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