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レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした  作者: 桐山じゃろ
第四章

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20 伝説をつくるもの

 空気が凍ったかと思うほどの寒気がして、咄嗟に防護魔法結界を張り巡らせた。

 範囲は、オルガノの町全体。

「あれ、ちょっと見ない間に随分強くなったね」

 エターニャが作ったガラス玉から、大魔王の軽薄な声がする。

「んー、今ちょっとこっちが楽しいから……そっちには魔物送っとくね。程よく壊れてくれるといいなぁ」

 オルガノの町の周辺に、難易度A以上の魔物の気配が大量に出現した。

 ここだけじゃなく、大陸中に、今までの十数倍の魔物が現れたようだ。

「何をしたっ!」

 ガラス玉に問いかけてみるが、大魔王は返事をしなかった。


 この夜から、世界中に高難易度の魔物が溢れてしまった。




 冒険者ギルドに、僕のせいで魔物が多くなったことを報告した翌日、ミューズ城に呼ばれた。

 今度の呼び出し相手は、国王陛下だ。

 今の僕は勇者ではない。陛下との謁見ならば冒険者の装備では拙いだろうと、正装で城へ行った。

 謁見の間へ入って跪くと、陛下は「ああ、そうだったな」と呟いた。

「すまぬな。愚息が勝手なことをした。楽にしてくれ」

 国王陛下が第一声から謝罪するなんて。

 僕が固まっていると、陛下が話を続けた。

「勇者称号の剥奪は撤回、いや、そもそもあれのしたことは無効じゃ。そなたははじめに勇者の称号を授けたときから、変わらず勇者じゃ」

 なんだ、結局勇者なのは変わりないのか。

 とりあえず僕は跪くのをやめて、立ち上がった。

「承知しました」

 僕が返事をすると、陛下は一つ頷いた。

「冒険者ギルドから魔物の件を聞いた。既に各大陸の各国と連絡を取り合っておる。勇者ラウト、そなたはこのエート大陸の魔物討伐に従事してもらう」

「しかし、それでは他の大陸は……」

 僕は全ての大陸に転移魔法で移動できる。それを使って、溢れた魔物は全て討伐するつもりだった。

「案ずるな。まあ確かにそなたが行けば早いかもしれぬが。そなたのお陰で各地の冒険者や騎士、兵士……つまり、魔物と戦える者たちが奮起しておる。彼らに任せておけ」

 僕の魔王討伐の旅は、色々なところに影響を与えていたらしい。




*****




 ラーマ大陸のナリオ国では、第二王子のレオが自ら騎士となり、第一騎士団を率いて各地の魔物討伐をしていた。

 レオは元々剣術を得意としていたが、ラウトが魔王を討伐する剣技を目の当たりにし、少しでも近づかんと鍛錬に励んだ結果、実力で第一騎士団の新団長の座をもぎ取ったのだ。前団長は部下たちの失態の責を引き受けるという名目で、第一線から身を引いている。

 ラウトが二人の王子を救出する前にあった、レオの「王位簒奪の意志あり」という疑いは第一王子であり王太子でもある兄フィオの証言と、第二王子の誠意ある行動を見届けた王によって、晴れていた。

「なんだか力が湧いてくるのですよ」

 十日に渡る遠征討伐を終えて帰還したレオは、王太子のフィオの私室で興奮気味に切り出した。

 フィオはそんな弟を宥めて座らせ、お茶と菓子を用意させた侍女を下がらせた。

「あの時のラウト殿のようにはいきませんが、難易度Aの魔物をこう、一刀両断にできました」

「それは凄いな。お前が騎士になると言い出したときは心配したが、ここまで強くなるとは」

 レオに『勇者の加護』は働いていない。ラウトはレオの存在を認識しているが、まさか王族が自ら魔物討伐に乗り出すなど想定外で、「魔物を討伐する仲間」であるとは考えていないためだ。

 レオが強くなったのは、王族という立場を良い意味で有効活用して優秀な騎士や冒険者に教えを乞うことができたという理由もあるが、偏に本人の努力の結果である。

 力が湧いてくるというのは、レベルアップに伴う能力値上昇によるものだ。

「だが無理はするなよ。お前は父上や俺にもしものことがあったら、王になる身だ」

「わかっておりますよ、兄上」

 兄のいつもの心配の言葉に、弟はいつもの言葉で返した。


 冒険者ギルド経由で、魔物の勢いが活性化したという一報は、このあとすぐ届いた。

 レオは早速騎士団を動かし、ナリオ国周辺を中心に、隣国の手伝いも積極的に行った。

 第二王子であるレオの勇姿に感銘を受けた国内外の冒険者や騎士たち魔物と戦える人間の士気は、うなぎ登りであった。

 だが、レオは魔物討伐のお礼や賛辞を受ける度に、こう繰り返した。


「勇者が私の手本だ」


 ラウト本人の預かり知らぬ所で、『勇者』の人気もまた高まっていた。



「オークキング、難易度Sが少なくとも十はおります。如何しますか」

 ナリオ国の北方の山村付近で、レオはこれまでで一番手強い魔物を相手しようとしていた。

 斥候からの連絡を受けたレオは、落ち着いて指示を出す。

「いつも通りだ。私と部隊長たちが斬り込むから、他は補助を頼む」

 魔物は群れることはあっても、基本的に統率はとれていない。

 人を見るや手当たり次第に襲いかかってくる。

 冒険者たちはそれを逆手に取り、囮役、補助役、止め役等と役割分担を決めて討伐するのが常識だった。

 レオ率いる第一騎士団は魔物討伐を繰り返すうちに練度を上げており、今やレオの簡単な指示で、完璧な連携ができるようになっていた。


 オークキングを視界に入れた五分後にはレオと部隊長がそれぞれ一、二体のオークキングを仕留め、戦いは呆気ないほど簡単に終わった。

「こんな人里近くに難易度Sか……」

 魔物は死ねば魔物の核以外の痕跡を残さず消えるため、剣に血糊等は付着しないのだが、第一部隊長は剣を布で拭ってから鞘に収めた。気分的な問題から、同じ行動をするものは多い。

「近くの村の様子は?」

「直接的な被害はない様子ですが、最近、定期的にやってきていた行商人が来なくなったそうです」

「……周辺を少し探っておこう。各部隊それぞれ斥候を出し、残りはここで待機だ」

 果たして残念なことに、魔物に食い荒らされた哀れな行商人の遺体が見つかった。

 見つけた部隊は行商人をその場で弔い、レオに報告した。

「魔物は荷には興味を示さなかったようで、これらが現場に散らばっておりました」

 行商人の着替えや野営道具、それと、商品であろう薬草の束。薬草は、この辺りには生息しないものばかりだ。

「村に行商人と懇意にしていた者がいるだろう。薬草と一緒に村へ届けておいてくれ」

「はい!」

 行商人の遺品と薬草は、第五部隊の手で近くの村へと送り届けられた。

 しかし、少し遅かった。

 行商人の薬草があれば助かるはずだった病に冒された子供が、間に合わずに息を引き取っていた。


「もっと早く動いていれば……騎士団員が多ければ……」

 レオは己の無力を嘆いて、拳を握りしめた。

「ラウト殿なら、どうしていたかな」

 ラウトの名前を出したのは、第一騎士団の中で最も信頼を置いている第一部隊長の前だ。

 勇者の本名は一応秘されているが、部隊長クラスには公然の秘密として知れ渡っていた。

「ラウト殿は身一つです。我が騎士団よりも更に遅きに失し、行商人の遺体を見つけることもできなかったやもしれません」

 これはラウトに対する批判ではなく、事実を述べたまでだ。

 正確には、ラウトにはアイリやギロがいるのだが、数百人が在籍する騎士団とは調査能力において比ぶべくもない。

 ラウトは魔物を倒すことに特化しているし、それに専念する他なく、周囲の村の事情を調べたり、調べた情報を元にフォローするような行動は、物理的に不可能だ。

 実際にこの状況にラウトが直面した場合、オークキング十体を一人で瞬殺できても、その後騎士団と同じことはできない。

「それもそうか……。私が悩みすぎていたよ。気づかせてくれてありがとう」

 実力で騎士団長に登りつめたとはいえ、王族という身分であるということは先入観が先立つものだが、レオに対しては皆、同じ騎士またはごく普通の上司として適切に接していた。

 その理由が、レオのこの素直さにある。

 礼を言われた方の第一部隊長は、レオの実直な性格に最近ようやく慣れてきたところだ。

 勿体ないお言葉、と返したいのをどうにか堪えた。

「どういたしまして」

「よし。今日はこれで引き上げよう」

 レオが決定すると、騎士団は速やかに撤退の準備をはじめた。



 この後、レオは十八年に渡って第一騎士団長の座に着き続けた。実力は当然のことながら人柄もよく、騎士をはじめ民衆からも支持され、後に「伝説の騎士団長」と呼ばれるようになるのであった。

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