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レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした  作者: 桐山じゃろ
第四章

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19 やらかした

 ギロを連れて転移魔法で屋敷へ帰還した。


「おかえりなさいま……ギロ様っ!」

 出迎えてくれたサラミヤが、いつもの挨拶を途中で切り上げてギロに飛びついた。

「うわああああん!!」

「すみません、心配をかけましたね」

 ギロがサラミヤの背中を撫で擦るが、なかなか泣き止みそうにない。

「ギロ、しばらく部屋でゆっくりしてなよ。サラミヤもね」

「そうさせて頂きます」

 ギロは泣き過ぎてフラフラになりつつあるサラミヤをひょいと抱き上げて、ギロの部屋へ向かった。

「ご無事でよかったです、ギロ様。……って、色々言いそびれちゃいました」

 サラミヤと一緒に出迎えてくれたセーニョは軽口を叩きながら、目を潤ませている。

「本当、良かったわ。話が聞きたいけど、休むのが先よね」

 アイリも目元を袖で拭っている。


 ギロとは軽く話をしたが、何が起きたのか等、詳しいことはまだ聞けていない。

 ただ、いちばん重要なことだけは聞き出した。



 大魔王はどうやら、特殊な異空間に潜んでいるようだ。




 泣き疲れたサラミヤは、ギロの部屋のソファで眠ってしまった。

 ギロがサラミヤの部屋まで運び、僕とギロは夕食にした。

「二人の腕が上がってますね。もう私が作る必要、ないのでは」

「何を仰るんですかっ! 私またギロ様の料理が食べたいですっ!」

 サラミヤとセーニョによる料理を口にしたギロの衝撃発言に、セーニョが首をぶんぶんと横に振る。

 本気で慌てているセーニョを見て、ギロがくすりと笑った。

「冗談ですよ。明日からは私も厨房に入ります」

「はー、よかったぁ」

 一転して満面の笑みになるセーニョ。

 二人やアイリの料理も美味しかったが、ギロの料理がまた食べられるのは僕も嬉しい。



 夕食後、僕の書斎にギロとアイリが集まった。

「『特殊な異空間』って、どういうこと?」

 アイリにはまだ、ギロを見つけてから家に帰ってくる間に話したことは伝えていない。特殊な異空間、という単語に眉をひそめたが、黙って聞いている。

「ラウト様が創る異空間とは違い、……私も説明が難しいのですが、こことは全く異なる、時空軸の違う世界のことです」

 ん? 軸の違う世界?

「それ、もしかして……エターニャ、いい?」

「おまかせニャ」

 僕の体から真っ白な猫の姿をした精霊、エターニャが姿を見せる。

「新しい精霊ですか?」

「うん。精霊王なんだって。今、他の精霊は療養中なんだ。エターニャ、今の話は聞いてた?」

 僕の問いかけに、エターニャは頷いた。

「異空間の話ニャね。私が送れる異空間とはまた別の場所だと思うニャ。大魔王がいる世界は……探そうと思えば探せるニャ。でも時間がかかるニャ」

「エターニャが送れる異空間? 精霊王? あの、ちょっとお話が難しくて……」

「そういえば、ギロに聞くばっかりでこっちの話はしてなかったね」

 僕はギロと離れ離れになってから今までのことを、かいつまんで話した。

「そのようなことが……」

「ねえ、私はギロが私達を逃してからの話を聞いてないわ」

「そうでした。ご説明しますね」




*****




 ギロは精霊との盟約を使ってラウトたちを逃した後、大魔王と一騎打ちをした。

 当時のラウトが怯えて絶望するほどの強さの大魔王を相手に、ギロに勝ち筋はなかった。

 大魔王が軽く手を振るだけで、ギロの四肢は簡単に破壊された。

「勇者ちゃんの方がマシねぇ。でも、君もなかなか面白いわぁ。私の下僕になりなさい」

 魔族の力の全てを「生き残ること」に注いでいたギロは、大魔王の隷属魔法に為す術もなく囚われた。

 しかし、ギロはしぶとく抵抗した。

 大魔王といえど、ギロほど力のある魔族から全力で抵抗されては、完全に隷属させることは難しかった。

 大魔王は魔法を掛けるだけ掛けて、「ちゃんと下僕になれたら迎えに来てあげる」と、トーア大陸の山頂に置き去りにしたのだった。

「暇だから別の世界で遊んでるね。まったねー」

 隷属されかけていたギロの脳裏には、大魔王の行き先が「この世界とは時空軸の違う特殊な異空間」であると、大魔王の考えが流れ込んできた。

 そして、その先で大魔王が、その世界を蹂躙していく光景も。




*****




「えっと、じゃあ今こうしている間にも、大魔王に滅ぼされてる世界があるってこと……?」

 アイリが恐る恐る、最悪の想像を口にする。

「どこの世界にも勇者は存在するようです。滅ぼされるようなことはないと思いたいですが」

 大魔王は自分の楽しみのためだけに、複数の世界に渡って破壊を続けているということか。

「止めなくちゃ」

 今の僕なら、あの時よりまともに大魔王とやりあえるだろう。

「ええ。しかしその前に、大魔王のいる世界を特定しなくては」

 僕たちの視線はエターニャに集まった。

 エターニャは後ろ足で器用に立ち、目を閉じて両前足を耳にあてて、うーん、と唸っている。

 注目されていることに気づき、前足を下ろした。

「まだわからないニャ。ラウト、他の精霊を起こして欲しいニャ」

「起こすって、どうやって?」

「精霊たちに魔力を分けてあげるのニャ」

「いや、待って。精霊たちがどこにいるかも分からないんだよ」

「あの遺跡ニャ」

「遺跡って、テアト大陸の?」

「そうニャ」

「わかった。行ってくる」

 夜遅かったが、大魔王絡みなら一刻を争う。僕は一人で転移魔法を使って遺跡へ向かった。




 遺跡は以前来た時のまま、相変わらず朽ちて崩壊していた。

 指先に明かり代わりの炎を灯して、周囲をぐるりと一周する。

 精霊の気配はあるが、姿はない。

「魔力の送り方をもっと詳しく聞くべきだったな……。ええい、いいや」

 気配のあるところを中心に、辺り一帯に魔力を解き放った。

 すると、精霊の気配のある部分にだけ魔力の道が通り、そこへ魔力をぐいぐい吸われた。

 だいたい四分の一くらい持っていかれただろうか。

「レプ……」

 最初にレプラコーンが姿を現し、僕の前に静かに歩み寄ってきた。目がとろんとしていて眠たそうだ。

「久しぶり。無理やり起こしてごめんよ。エターニャが用があるんだって」

「精霊王サマが……お呼びレプか」

 レプラコーンが呟くと、他の精霊たちが続々と集まってきた。

「ふわあ、おはようネナ。おやすみネナ」

「寝ちゃ駄目ノム」

「んむむ~、精霊王サマがお呼びならいかなければンダ~」

 全員眠たそうだ。

「もっと魔力いる?」

 僕が提案すると、精霊たちはお互いに顔を見合わせた。

「ラウトは大丈夫なのスプー?」

「まだ四分の三くらい残ってるから平気。あげるよ」

 今度は無作為に魔力を放つ必要もないから、もう四分の一を精霊たちに直接流し込んだ。すると、全員目がぱっちり開いた。

「ラウト、強くなったヌゥ!」

「すごいルー! あと百年は寝なきゃ回復しないと思ってたルー!」

「……ヴォ」

 精霊たちが僕の周りをくるくると飛び回る。

「よし。じゃあ早速帰ろう。……って、そういえば僕、エターニャと契約してるんだけど、皆もまだ僕と契約してることになってる?」

「精霊の契約はどちらかがいなくなるまで続くノム」

「よかった。じゃあ身体に入って」

 精霊たちを身体に受け入れると、全身がぽかぽか温まるような感覚がした。

 心地よい。今度こそ、手放したくないな。



「おかえり」

「おかえりなさいませ」

「ただいま……って、まだ起きてたの? 先に寝ててもよかったのに」

「そういうわけには参りません」

 ギロとアイリは深夜にも関わらず、僕の書斎でお茶を飲みながら待ってくれていた。

「エターニャは眠くないの?」

「平気ニャ」

 エターニャが返事をすると、僕の身体から精霊たちが出てきた。

 全員がアイリとギロの前に出てくるのは初めてかもしれない。

 アイリは全員をモフりたそうに、ギロは興味深そうに精霊たちを見ているが、精霊たちはエターニャの前に整列し、神妙に頭を垂れてお座りしている。

「くるしゅうないニャ。同じ契約者を持つ精霊として、頼みがあるニャ。力を貸して欲しいニャ」

 エターニャが右前足を精霊たちの前に掲げると、精霊たちも仕草を真似た。

 エターニャと精霊たちの中心に魔力が集まり、透明なガラス玉のようなものが出来上がった。

 それからしばらく、エターニャたちは何かしていたらしいが、見ている側としては猫たちがガラス玉に片前足を掲げているだけにしか見えない。


 待つこと十数分。エターニャがぱたり、と上げていた前足を落とした。

 精霊たちも前足を下ろし、エターニャに困惑顔を向けている。

 エターニャが僕の方を向いた。申し訳無さそうな顔だ。

「ごめんニャ、ラウト。大魔王に先に気づかれたニャ……」


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― 新着の感想 ―
[良い点] サラミヤの安堵。 精霊達の帰還。 [一言] 更新ありがとうございます。 ギロはそろそろサラミヤとくっついて欲しい。ラウトとアイリがくっついた今、一番ジリジリするのがこの二人(^^) 精…
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