表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした  作者: 桐山じゃろ
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/127

16 諦めない

*****




 ――十三日前。


 サラミヤは、家の中にラウトが突然現れるのには慣れていた。

 ラウトは転移魔法が使える稀有な人で、時折自室やエントランスへ直に転移魔法で飛んでくるのだ。

 しかし、今回ばかりは様子が違った。

 エントランスに現れたのは、ぐったりとしたラウトを抱えるアイリだった。

「おかえりなさいませ……どうなさいました!?」

 セーニョもサラミヤと同じく、この家の主が突然現れるのに既に慣れている。

 ただしそれは、ラウト達がいつも無事で帰ってきていたからだ。

 セーニョはラウトが意識のない状態と見るや、慌てふためきながら駆け寄った。

「すぐにベッドへ寝かせるわ。手伝って頂戴」

「はいっ」

 ラウトは細身だが、冒険者で男性だ。背丈があり、筋肉もしっかりついているため、女手には重い。

 三人でどうにかラウトの自室まで運び、ベッドへ寝かせることに成功した。

 すぐに、アイリが回復魔法を掛け始める。

 それは意外なほど早く終わった。

「アイリ様、ラウト様はどうされたのですか。それに、ギロ様は?」

「……詳しく話すわ」


 アイリの口から語られたのは、にわかに信じがたい出来事だった。

 最強無敵を誇るラウトが大魔王なる存在に全く敵わず、ギロが精霊に命じてラウトとアイリを逃したというのだ。

 ラウトが昏睡しているのは、大魔王の一撃を防ぐために限界以上の力を放出した結果であった。

「ぎ、ギロ様は、それでは……」

「……わからないわ。ただ一つ言えるのは、ギロが私達を守ってくれているということだけ」

 ラウトですら対抗できなかった大魔王を相手に、ギロが無事でいるとは考え難い。

「サラミヤっ!」

 セーニョが気付いて声を掛けてきたが、サラミヤの意識は暗転した。


 それから五日ほど、サラミヤは記憶が曖昧だ。

 眠っていたのか起きていたのか。食事や排泄は行ったのか。

 体調自体は悪くなく、身体も綺麗なところを見ると、セーニョか、あるいはアイリが世話をしてくれたのだろう。

 起き上がろうとするが、最悪の想像が頭をよぎり、全身が強ばる。

 何度その考えを追いやろうとしても、ここにギロがいないという事実が胸を締め付ける。


 サラミヤはラウト達に会う以前、魔族に囚われていた。

 サラミヤを直接的に救ってくれたのはラウトだが、悪夢から起こしてくれたのはギロだった。

「私は、元人間の魔族ですよ」

 ギロが異形の姿を晒しながら悲しげに口にした告白を、サラミヤは自分でも驚くほど、あっさりと受け入れた。

「ギロ様は命の恩人です。魔族かどうかなんて、気にしません」

 魔物や魔族は例外なく人の敵だが、ギロは別だ。今現在魔族という存在にさせられてしまっただけの、被害者だ。

「……ありがとうございます」

 サラミヤの素直な気持ちを伝えると、何故かギロからお礼を言われてしまった。

 ギロはラウト達以外からはじめて、魔族としてのギロをまるごと受け入れられたのだ。

 お互いがお互いを救う存在という関係性の二人であった。



 ラウト達が帰ってきて十日後、ラウトがようやく目覚めた。

 魔力の完全枯渇という状況に対し、アイリが生命力の譲渡という究極の最終手段を行使してラウトを救ったという。

 ギロの不在に心が潰れていたサラミヤは、セーニョづてにそのことを聞き、自分自身を恥じた。


 アイリ様は、ラウト様がどんな状況でも身を挺して救う方だ。

 それに比べて自分はどうだろう。

 ギロ様を信じ切っていなかった。

 私が信じなくて、どうするの。


 それから三日かけて、サラミヤは自分の意志で起き上がった。

 食事を摂り、身支度をし、部屋の中で身体を動かして、体調を整えた。

 そうして、国が執り行った勇者凱旋パレードから早々に帰宅したラウトに、ようやく挨拶ができたのだった。


 ギロのことを信じていることも、伝えることが出来た。




*****




 エターニャが連れて行ってくれる異空間は、こちらの世界の五分が一時間になるところだと判明した。

 つまりあちらで丸一日、二十四時間過ごしても、こちらの世界では二時間しか経過しない。

 更に、僕がどれだけ力を解放しても、一面草原の景色は一切揺らがないほど頑丈だ。

「まだまだニャ! まだ出せるニャ!」

 何故か鬼指導者と化したエターニャが、僕の力の扱いについて厳しく指摘してくれる。

「え、えっと、こう? ……うおお!?」

 僕は全力全開で力を解放しているつもりなのに、エターニャは納得してくれない。

 でも、確かに僕の中にはまだまだ力が眠っていた。

 眠っていたというか、これまで自分でその力が怖くて、無意識に封じていたのだ。

 自分の力だとか、大魔王だとか、怒ったアイリとか……勇者のくせに怖いものが多いのは自分もどうかと思う。


 僕は異空間では自分の力を抑える膜を張るのをやめた。

 すると、三日目には出っ放しだった力が自然と身体に留まるようになり、五日目にはその力を自在に出し入れ可能になった。

「まー、あの世界は脆いからニャ。膜を張ってたのは間違いじゃなかったニャ。だけどラウトは力を抑え込みすぎてたニャ。身体に良くないニャ」

 エターニャは色々なことを惜しみなく教えてくれる。というか、よく喋る。

「精霊同士は意思疎通で会話するから、こうやって声に出して喋るのが楽しいのニャ」

 力が物理的に他のものへ干渉できるようになった僕は、エターニャを空中でぽんぽんと弾ませている。

 ここには草と土以外、本当になにもない。せめて岩でも転がっていないかと探したのだが、エターニャが自分から「私を使えニャ」と申し出てくれたのだ。


 異空間で十日、こちらの世界で二十時間過ごして自宅へと戻った。

 睡眠や食事も異空間で取っているから、僕は全く無理をしていない。

 ……と言っているのに、アイリは納得しなかった。

「向こうへはベッドや寝袋なんて持ち込んでなかったわよね? だったらどこで寝たの? 草の上? それでよく睡眠って言えるわね。食事だって携帯食料しか持ち込まなかったじゃない!」

「アイリが怒るときって、僕のためなんだね」

 突然閃いたことが勝手に口から滑り出てきた。

 そして自分の声を聞いて、納得する。

 アイリは怒りながら、僕を心配してくれているのだ。

「当たり前でしょ! サラミヤとセーニョが食事作ってくれてあるわ。食べて」

「うん、頂く。二人は?」

「今何時だと思ってるの。もうとっくに寝……」

「おかえりなさいませ、ラウト様!」

 時刻は深夜三時。サラミヤとセーニョは揃ってお仕着せを着て、僕の前でカーテシーした。

「どうして起きてるの。寝てなさいって言ったのに」

「お屋敷の主様たちに給仕させるわけにはまいりませんから」

「私たちはちゃんとお昼に仮眠しましたよ。アイリ様こそ寝てないではありませんか」

「アイリ寝てないの!?」

「私は何もしてないから起きてても平気で……」

「僕には散々、睡眠と食事の重要性を説いてたのに」

 僕は問答無用でアイリを抱き上げて寝室に運び、ベッドへ寝かせた。

「うう、大丈夫だって……」

「寝なさい」

「……はぁい」

 アイリは大人しく目を瞑ると、すぐに寝息を立て始めた。もともと寝付きが良いことに加えて、やはりアイリも無理をしていたのだろう。

 アイリの額にそっと口づけてから、部屋を出た。


 サラミヤとセーニョが作ったという料理は、ギロの料理の味にそっくりだった。

「美味しかった。ごちそうさまでした」

 携帯食料で食事を済ませたときより、心が充実する。

 心が充実すると、頭もすっきりした。久しぶりに考えをちゃんとまとめることができそうだ。

 そのまま食卓の椅子に深く腰掛けて、目を閉じた。


 異空間での十日間で、僕はかなり力をつけた。

 ただ、大魔王の気配を読まなかったので、相手の力がどれほどのものか、予測がつかない。

 それでもまずはギロを助けなければ。

 助けるためには居場所を特定して……。

「ラウト様、ラウト様」

「んあ?」

 セーニョに声を掛けられて目を開けたが、間の抜けた返事をしてしまった。

「こんなところで寝てはいけませんよ」

「え、僕寝てた?」

「はい。あの、お口元に……」

 目を閉じて考え事をしていただけのつもりが、いつの間にか眠りに入っていたようだ。

 しかも口の端から涎が垂れていた。そっと袖で拭っておく。

「起こしてくれてありがとう。僕も、ちゃんとベッドで寝なくちゃだめだね」

「そうしてくださいませ」


 体感的には十日ぶりの自室で、寝る前に気配察知を展開させた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ