敵国に依頼されたスパイとして双子の王子達の従者になったのだが、二人の王子に求愛され過ぎて困っています
私の名前はユラーナ。
今、潜入している王国と敵対している国に依頼されたスパイだ。
王宮の従者として潜入し、徐々に信頼を積み重ねながら、双子の王子達の従者となることができた。
これで、この王国の情報を簡単に得ることができる、そう思っていたのに……
「ユラーナ、明日、僕とお出かけしないかい?」
「何言ってんだ、ラミル、お前はいつでも行けるだろ。俺はまた直ぐに戦場に行かないといけないんだから、俺を優先させろ」
金髪碧眼の王子ラミル様と、黒髪黒目の王子クーラス様。
何故か、私はこの二人に求愛されている。
『……僕はいつか、この国の王にならないといけない……。その時に、傍にいて欲しいのはユラーナ、君なんだ……』
『……俺は戦うことしかできないバカだ……。でも、俺は何があってもユラーナ、お前のことを一番に護りたいと思っている……』
……もしかすると、信頼を得ようと頑張り過ぎたのかもしれない……
スパイとして疑われないどころか、二人から告白されてしまった。
困った私は王妃に相談をしたのだが……
『ユラーナがどちらの息子を選んだとしても、王と私は何も言わないわ。それだけ、王も私もあなたのことを信頼しているから』
……まさか、王と王妃にまで、ここまで信頼されているとは……
スパイとしては、最高の褒め言葉なのだろうが、問題は何も解決していない。
このままでは任務に集中することができない……
幼少期からスパイとしての訓練は受けてきたが、恋愛をするための訓練は受けたことがなかった。
正直、王子達の求愛にどう答えることが正解なのか、私には分からなかった。
「……とりあえず、一緒にお出かけしませんか?」
「「まあ、ユラーナがそう言うなら……」」
王子達はそう言って、渋々(しぶしぶ)、納得してくれた。
◇
「わぁ、綺麗な海ですね」
私は景色を見るのが好きだ。
綺麗な景色を見ると、任務のことも忘れそうになるくらい心が洗われる。
「確かに、綺麗だね……。でも、君の方がもっと綺麗だよ、ユラーナ」
ボッ!
ラミル様は真っ直ぐな性格で、思ったことをそのまま口にしてしまう性格だ。
真剣に私の瞳を見つめながら、そう言われたので、私は顔を真っ赤にしてしまった。
ラミル様が優しい瞳で微笑んでいる。
「そ、そんなことありません」
「……じゃあ、僕がそう見えるのは、ユラーナのことが好き過ぎるからなのかな?」
「し、知りません!」
つい、大きな声を出してしまった。
……この人は……
恥ずかし気もなくそんなことを次々と……
でも、ラミル様の言葉に偽りはない。
それだけは分かっていた。
「……俺もいる前でイチャイチャするのは止めてくれ……。いや、いないところでするのも嫌だけど……」
ガシッ!
そう言って、クーラス様が私の手を掴んだ。
「じゃあ、次は俺の番だな」
「え?」
「一緒に馬に乗って草原を駆けてみないか?」
「キャッ!」
そう言って、私は急に持ち上げられて馬に乗せられた。
クラース様は鍛え上げられた体格をしているが、手を掴んだ時も、私を馬に乗せた時も、力任せな荒々(あらあら)しさを、私に全く感じさせなかった。
むしろ、クラース様の優しさが伝わってくる、そんな触れ方だった。
「では、行くぞ」
「はい」
ヒヒーーン!
馬が私達を乗せて、草原を走り出した。
風が気持ちいい……
馬の二人乗りなんて、本当は乗り心地が悪くて仕方がないはずなのだが、クラース様は乗馬の名手。
私一人で乗るよりも乗り心地はよかった。
「……早いのは苦手か?」
「いえ、どちらかというと好きです……」
「そうか、なら……」
クラース様が馬を加速させる。
ギュッ!
私は振り落とされないように、クラース様にしっかりとしがみついた。
「ユ、ユラーナ?!」
「どうかしましたか? クラース様?」
「いや、何でもない……」
クラース様が顔を赤らめているのを見て、私も顔が赤くなるのを感じていた。
◇
『これが最近の状況です』
通信魔法を使って、最近の様子を里長に報告した。
もちろん、王子達に求愛されているということは伝えていない。
『そうか、では引き続き、情報収集に務めるのだ』
『……分かりました……』
グッ!
通信魔法を終えた瞬間、胸に痛みが走って、私は思わず壁にもたれかかった。
……私は里も王子達も裏切っている……
良心の呵責で心が引き裂かれそうになる。
……いっそ、里を裏切って、このまま王子達と幸せに暮らせたら……
そんな思いが、一瞬、脳裏を過ぎる。
しかし、それは叶わない願い。
私の心臓には里長の魔法、死の契約魔法がかけられている。
もし、私が裏切った場合、里長は躊躇なく私を殺すだろう……
……でも、いつか私のせいで、王子達に死の危険が迫った時には……
………きっと、私は殺されることを選択する………
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