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5:最強は国へと向かう

 朝日が登る。


 ラドルスは、陽の光と共に目を覚ました。


 猟師の活動時間は人それぞれである。


 それこそ、狙う獲物によって活動時間は変わる。

 ここらでいうと、ラビット系であれば昼、ウルフ系であれば朝、スネーク系は夜等、その生き物の生態に合わせた狩りをする。


 だが、その中でラドルスは不思議な狩りの仕方をしている。

 ラドルスは明るいうちに活動をしている。

 基本的に朝から昼にかけてのみ、活動をする。


 確かに、獲物に合わせて狩りの時間を変えるというのは理にかなっている、とラドルスは考える。

 だが、ラドルスから言わせれば、それは人間の利点を無視している、と考えている。


 人間は朝に起き、夜に眠る。

 それが、普通だ。


 確かにそれだけでは生きていくことができないこと、訓練をすれば夜に活動をするのが可能になるのは理解している。

 だが、それを加味してもラドルスは生きることを優先する。


 だからこそ、ラドルスの体は死んでさえいなければ、陽の光とともに起きる。


「あ」

「目覚めたか」


 そこで、ラドルスは不思議なものを目撃する。

 不思議なもの、とは言ってもそれは 決してドラゴンではない。


 確かにドラゴンも不思議なものとしてカウントはされるが、それにはもう慣れた。


「いつから起きていたのですか?」

「ラドルスより前だ」


 ラドルスの視線の先にいるゼンは、そう告げる。


 ラドルスのいう不思議なもの、とはゼンである。

 しかし、ゼンそのものに不思議さを感じているわけではなく、その行動の意味がわからなかった。


「何してるんですか?」

「修行だ」


 そう告げるゼンは、不思議な動きをしていた。

 まるで、そこだけ時が遅く流れているような、そんな動き。


 拳を出し、蹴りを放ち、移動する。

 ゼンの目の前には何も見えない。

 だけど、何かいるような動きをしている。


「修行……」

「そうだ」


 その言葉に、ラドルスは思考を辞めた。


 目の前の存在は、人間の形をして、コミュニケーションは取れるが、真面目に取り合ってはいけない。

 それこそ、魔術師の話していることがわからないのと同じだ。


 これを真面目に考えていても、自分が魔術を使えるようになるわけではない。

 それならば、思考を辞めてこれからの事を考えるべきだ。


「ふむ。

 それでは行くか」


 ラドルスはボケた頭を冷まし、一通り装備と周りを把握する。


 現在自分たちがいるのは河原だ。

 本来ならば動物たちが水を飲みに来るはずなのだが、動物の姿が見当たらない。


 いや、見当たらないのではなく、隠れているのだろう。


 その原因は理解できる。


 目の前にいる人物せいだ。


 先日とは違い、奇妙な布一枚のような服を身に着けている。

 少し大きいその服は、ゼンの体を隠すような大きさである。


 ゼンは、強い。

 それは戦わずして理解できる。

 人間である自分ですら理解できるのだ、動物が理解できないわけがない。


「えっと、荷物は?」

「荷物?」

「えぇ」


 ラドルスは、準備ができたと言わんばかりのゼンの様子に違和感を抱いた。

 いくら魔術師であろうと、荷物一つなし、というのは考えられない。


「基本的に食料は狩りをしている。

 更には故郷以外の人里に来るのも初めてだ」

「そうなんですね」


 ラドルスは理解した風にするが、その実全く理解できていない。

 手荷物が少ない少ないと猟師仲間からバカにされるラドルスですら、腰元には3つのポーチ。

 足には2つのポーチを持っている。


 そこには最低限の食料や、生きていくための武器、薬、毒を持っている。

 それを一つも持たないで生きている?


「まぁ、基本的には人から拝借している。

 その者たちの安全と引き換えに」


 ラドルスはそこで納得する。

 確かに、荷物を持たないで移動するのは危険極まりない。

 しかし、それ以上に利点も大きい。


 狙われにくい。

 荷物は持てば持つほど狙われる。

 それこそ、商人には護衛が着くのは一般的だ。


 襲われる最大の要因を避けることができる。


 それに、この人の強さならば、そこらの魔物程度は歯がたたないはずだ。


 それに薬草に関する知識があれば、生きてはいける。

 そして、武力を提供する代わりに必要なものを提供してもらっているのならば、それこそ実力さえあれば生きていける、というものだ。


「よほど、お強いんですね」

「どうかな」


 ゼンはどこか遠くを見つめ、返答した。


「そう言えば、移動はどうするんですか?」

「もちろん、足だ」

「……走る、ということですか?」

「もちろんだ」


 ラドルスは脳内で地図を広げる。

 ここから国までは2日はかかる。

 その間を走っていく?


「一度、俺の拠点に戻ったほうが……」

「遅いな」

「へ?」

「考えてみろ。

 今日一日は大丈夫だったが、このドラゴンは何故発生した。

 このドラゴンの発生は確実に緊急を要するものであろう?」


 確かに。

 ラドルスはドラゴンの死骸を見上げる。

 自身の身長よりも遥かに大きい体。


 ゼンが言うには、血抜きをしているというが、この肉をくらいに来る魔物も少なくはないだろう。

 それに、こんなドラゴンの出現の報告は聞いたことはない。


 自分の聞き逃しの可能性がないとは言い切れないが、普段猟師として生きてきて、これほどの大きな情報を逃すわけがない。


「……そうですね」

「ラドルス」

「はい」

「お前、走れるだろう?」


 ゼンの頭の中には、この国周辺の地図は入っている。

 正直、これがあっていればたどり着けるのだが、これが嘘である可能性は否定できないし、国に入るために必要なものは知らない。

 だからこそ、ラドルスを連れて行く。


 だが、ゼンも人に自身と同じ働きを強いる人間ではない。

 そいつができるかどうかを判断する能力は十分にある。


 それを以て、ゼンはラドルスが国まで走りきれる断定した。


「足の筋肉の付き方、呼吸器の発達具合。

 それを鑑みるに、ラドルス。

 お前はこの程度の距離ならば走りきれるはずだが?」


 ラドルスは、まるで親に宿題を隠していたときのような表情をする。


 そう、その通りだ。

 ラドルスの体力は、普通の猟師よりも多い。

 それこそ、自身が生き残るための努力をするラドルスが、逃げ足を鍛えないのはおかしな話であろう。


「……わかりました。

 国までご一緒します」

「ならば」

「待ってください」

「なんだ」


 ラドルスは、腰元のポーチから妙な石を出す。

 青く透けていて、何かの文様が彫られている石。

 ゼンの知識の中にないものだ。


「これを使います」

「待っていよう」


 ゼンは追求することはない。

 しかし、ラドルスを観察する。

 使い方、効果。

 それらは前の知らないものだ。


 ラドルスは、石を取り出してから、一言呟く。


「――――――」


 それはまるで神の名前のような、不思議な発音だった。

 真似はできるが、ゼンは余計なことはしない。


 次の瞬間、石は光る。

 ラドルスの手のひらの飢えに置かれていた石は、その光を上空に打ち上げる。


 それを、三度。


 繰り返した所で、ラドルスは二枚のガラスを取り出す。

 それを前後に配置し、遠くを見ている。


 望遠鏡か。

 ゼンはひとりでに納得する。

 望遠鏡の原理として、虫眼鏡を二枚使うことによって見る方法がある。

 緻密な倍率の設定や、正確性はないが、


「終わりました」


 ラドルスの見た方角は、国の存在する方角。

 おそらくはそこでも何らかのアクションを行ったのであろうと、ゼンは理解する。


 実際にはその通りであり、国と遠距離での通信を図る時は、このようにして魔術信号弾の回数で通信をする。

 また、返答に際しても同様の手段が取られ、それに関しては大きい魔術信号弾を活用せず、今のような遠距離を見るすべを持ってギリギリ見える程度の魔術信号弾を上げる。


 ゼンの位置からは木々が障壁になって見えなかったが、ラドルスの望遠鏡ではしっかりと反応が見られた。


 行った通信は、下記の通り。

 『連絡を要する事項あり、帰還』

 『了解』


「行くぞ」

「はい」


 そうして、1人の最強と、1人の猟師はステイル国へと足を伸ばす。

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