聖島ロンゴミニアド 6
かなり間が空いたけど俺は悪くねえ!
十天衆の超越にバカみたいな量を要求してきたサイゲ○ムズってやつのせいなんだ!
あと今週末にはまた古戦場が始まってしまうけれども、みんな本戦には笑って参加しような!
「ただいまっス、カーチャン! これお土産っス!」
リアの声が、部屋の中に響いた。
王宮に到着後、俺たちを一人の老騎士が出迎えてくれた。その老騎士に案内された部屋では、質素ながら質のいい机に座り、その机の上にこれでもかと積まれた書類の山と格闘しているオバサンがいた。
そのオバサンをリアはカーチャンと呼んだ。まさかここにきて「ウチの友達のカレンっス! カーチャンって呼んでるっス!」なんてボケをかましてきたりはしないだろう。
「ヴィネリア、あなたね……。王女なんですから、もうちょっと王女らしくおしとやかには出来ないものなの?」
ため息一つ。
「その様子では、留学先でも好き放題にやっていたことでしょうね……。あら、美味しいわねこれ」
そう言いながら、リアから渡されたお土産を開封。お饅頭を一口食べてそう言った。
「陛下ぁーーー!!? またそんな無造作にものを口に運ばないでください!! 食べる前にせめて毒見を!!」
「細かいことはいいじゃない、ギーゼリット。ひのふの……16個もあるのよ、一個一個毒見するつもり? あなたも一つ食べる? あ、皆さんは座って待っててちょうだいね。今お茶を持ってこさせるから」
言われた通り、リアはソファに真っ先に腰かけた。俺とリギアもそれに倣って同じソファに座り、アリスだけは俺たちの後ろに立って待機する。
「……ところでヴィネリア殿下」
「なんスか急に改まって」
「ここが貴女のホームですから気を使っておりますのよ……! それで貴女、一体何を渡したんですの?」
「リントヴルムの王都名物、キャバリエ饅頭っス!」
何それ知らない。俺は無言でリギアを見た。
「ああ、うん、売ってるな。外貨獲得のために何代か前の王が始めたらしい。ところでヴィネリア王女、あれはどこで買ったものだ?」
「学園の売店っス」
「それなら安心だ。学園で売ってるキャバリエ饅頭は王宮から直に卸されているものだから、万一にも毒など入っていない」
「逆に入っていたら、大問題という言葉程度ではすみませんわよ……」
女王との問答中にも俺たちの会話に気を払っていたのか、ギーゼリットと呼ばれた老騎士が追及をやめた。ここでまだ追及するということは、ロンゴミニアド王家への不信を、よりにもよって王族の目の前で表明することに等しいからだ。
「……分かりました。それでは、私は失礼させていただきますが、―――陛下、殿下。くれぐれも失礼のないようにお願い申し上げますぞ」
この様子を見る限り、リアが自由奔放過ぎるのって遺伝なんじゃないかな。
あ、いや、でも『ヴィネリア』というキャラクターが生まれていないと、その母親も存在することがなかったわけだから、リアの母親の母親はリアだった……?
老騎士が退室した後、女王はおもむろに立ち上がり、
「さて、それじゃあお茶の準備をするから、ちょっと待ってちょうだいね」
と、自ら紅茶を淹れ始めた。
アリスが「これって手伝った方がいいんでしょうか……?」と言わんばかりの不安げな顔をこちらに向けてくるが、俺だってどうしたらいいのか分からない。いやだって、女王が手ずから動くとは思わねーじゃん。
俺とアリスは揃ってリアを見た。ちなみにリギアは偽王族として鍛え上げたポーカーフェイスを、今こそ使い時だと貫いているが、目が微妙に挙動不審気味だ。
「あー、放っといていいっスよ。カーチャンは自分で紅茶をいれるのが趣味なんス。たぶんあの饅頭に合うのを選んでるんだと思うっス」
待つことしばらく、俺たちの目の前に、一国の女王がティーカップを並べてくれた。
「お待たせしたわね、みなさん。わたしはロンゴミニアドの女王、メアリー・ロンゴミニアドよ」
《感想:アカンわこれ……!》
そしてなんかドライコインが壊れた。変な緊張で壊れそうなのはこっちなんだが? どちらも斜め45度で叩けば直るだろうか?
《感想:当機の方はおやめください、マスター。当機は他の戦闘用機械仕掛けの神と違って精密機器なのです。余計な衝撃を与えるのは厳禁となっております》
―――貴方は無駄に頑丈そうですし、10発くらい自分で自分を叩くべきでは? ちょうどいい塩梅になると思いますわよ。
マリアが無駄に硬いのは原作設定通りなんだよなぁ……。
《感想:そういう意味ではないと思われます》
わかってるよんなことは。
とりあえず、今は目の前の女王陛下への対応が優先だ。
「この度は招待いただき感謝する。リントヴルム国王の名代、リギア・ロンゴミニアドだ。こちらは私の婚約者、マリア・フォン・ゴルディナー。後ろに控えているのは、彼女の親衛隊長だ」
「お目にかかれて光栄ですわ、女王陛下」
俺がカーテシーをするのに合わせて、アリスも同じように頭を下げる。
「あらまぁ。じゃあ貴方があの、箒職人さんなのね」
「ほ、箒……?」
「あー、隠語っス。こっちじゃ大っぴらにアレがアレするとは言えないので、まぁ言葉を濁してそんな感じに」
《感想:魔女の箒ということですね。飛行型騎乗士のことを言っているのでしょう》
「ウチの子が迷惑をかけたり……いえ、しているわね。間違いなく迷惑をかけているわ。手のかかる子でごめんなさいね」
「いいえ、そのようなことはございませんわ」
将軍の息子を電気ネットで捕縛したり、将軍に電流が流れる首輪を付けたり、王子の乳兄弟に盗聴器を付けてデートの様子を盗み聞きしたりはしていたけど、俺は直接迷惑を被ったことはないので嘘ではない。
「ヴィネリア殿下と一緒にいると、毎日のように新しい発見がありますの。我が国に留学していただいたこと、わたくしからも喜ばしいことです。そうですわ、わたくしからも贈り物がありますの」
俺の言葉に合わせ、アリスがテーブルの上に箱を、―――宝石箱を置いた。
「気に入っていただけるといいのですが」
その言葉と共にふたを開ければ、中に入っているのはネックレスだ。数は2つ。三日月状のラインには細かい宝石が輝き、中央には、大きさは異なるが形状が同じサファイアを嵌めてある。
「あらあら、これはこれは……」
メアリー女王が笑顔を浮かべた。狙い通りだ。光り物が嫌いなオバサンはいねえよなぁ!
「わたくしの生家が治めるゴルディナー領は、貴金属と宝石の産出地。心ばかりのものです。ヴィネリア殿下と共にお使いいただけますとうれしゅうございますわ」
リアと共に、というのが重要なポイントである。
つまり、リアを見限らない限りは、ゴルディナー家ともコネが作れるという言外のメッセージというわけだ。
《感想:端的に言えば賄賂ですね》
もうちょっとこう、オブラートに包むというか、なんというか……。
「ええ、それはもちろんよ。頭のおかしい開発娘と陰口を叩かれようと、私のかわいい娘ですもの。もうちょっと落ち着きと言葉遣いと淑女らしさをどうにかして欲しいとは思いますけれどね。このお饅頭だてそうよ、ヴィネリア。こういう時はマリアさんのように目立つものをメインに持ってきて、こういうものは目立たぬように忍ばせて渡すものです」
「カーチャン、カーチャン! 他国の貴族様との謁見中に娘に説教するのは王族的にダメなんじゃないっスか!?」
「何を言っているの、ヴィネリア。私は誰かしら?」
「この国の女王っスね」
「そうです。つまり私が法です。なので他国の貴族との会談中に娘を説教するのに何の問題もありません」
「い、言い切りやがったっス……!」
やはりこの娘にしてこの母ありなのでは?
「……ああ、そうですわ、女王陛下。御息女との歓談中に申し訳ないのですけれど」
「あら、なにかしら?」
「別にそんな和気あいあいと話してなかったっスよ」
母が娘の耳を引っ張った。
「痛い痛い痛いっス~~~!」
「こちらに伺う最中のことですが、とある集団と遭遇いたしまして」
「とある集団?」
「はい。メアリー陛下のお耳に入れておきたいと思いまして。彼らは自らをこう名乗りました。マリウス教改革派、『ノイエ・マリウス』、と」
「なるほど……。我が国での、マリウス教の状況についてはご存知?」
「ヴィネリア殿下の親衛隊長から、大まかには聞いておりますわ」
「そうですか。それでは、お聞かせ願えるかしら? 彼らが、今更ロンゴミニアド王国に何の用があるのかを」
●
女王との話が終わり、退室した俺たちは廊下を歩いていた。先導するのは、何故かメイド服を着ているカヴァス親衛隊のヒラ隊員、マギナだ。
「普段みんなは、ウチの身の回りの世話もしてくれてるんスよ」
聞く前にリアが答えてくれた。
そういやさっき、なんかドライコインの様子がおかしかったのはなんだったんだ?
《返答:そうですね。すでに手遅れと言えますが、一応説明しておきましょう。メアリー一世。マスターが元居た世界において、実在したイギリスの女王です。当時はイギリスではなくイングランドと呼ばれていましたが。ともあれ、ロンゴミニアド女王メアリーのオリジン、……モデルになった人物は、このイングランドの女王、メアリー一世だと推測されます。彼女は1516年生まれの1558年死亡ですので、今この瞬間に生きているのは、史実の通りと言えるでしょう》
ほむほむ、なるほどなるほど。
あれ? つーことはあと数年で死ぬんか?
……それで、そのイングランドさんちのメアリー一世さんが、ロンゴミニアドさんちのメアリーさんだと何がアカンの?
《感想:その様子だと、マスターはメアリー一世の二つ名も、彼女の政策方針もご存知ないようですね》
あー、そうだなぁ。イギリスは作中の舞台にしたことがなかったから、シナリオライターとかはともかく、俺の方はそんなに詳しくは調べてないんだよな。
にしても二つ名て(笑) いや二つ名て(笑)(笑)(笑)
普通に生きてて二つ名付けられることとかある???
―――貴方もあの男から『薔薇の聖女』とか呼ばれてたじゃありませんの。
アーアー聞こえない聞こえなーい!
まぁ確かにね、ロボットモノだとかっこつけとかで二つ名が付けられることはあるよ。そういう意味では俺に二つ名が付けられることは、まぁそんなにおかしなことじゃあないさ。
でもさ、現実で二つ名が付けられるなんて、よっぽどのことをしでかさない限りなくない?
《肯定:そう、その通りです。彼女は、その『よっぽどのこと』をしでかしました》
……ん?
《補足:メアリー一世。彼女の二つ名は『血まみれメアリー』》
……『血まみれ』?
《感想:はい。『血まみれ』》
……それはまた、大層な二つ名がついておりますね。しょっちゅう鼻血を噴いてたとかかな?
《否定:彼女は女王に就くまでの人生経験により、極度の反プロテスタントでした》
反プロテスタント。
『プロテスタント』と言われて俺の脳裏に浮かんだのは、昨日出会った頭(仮)たちの顔だった。
《感想:彼女が行ったのは、反プロテスタントの大量粛清。……わずか2年足らずで、実に300人のプロテスタントを処刑しています》
2日に1人ペース!!!
アカンわこれ。
いやドライコインがそう思ったのも頷けるというものだ。アカンわこれ。
いや、まぁ、紹介してくれと言ったのは向こうだから俺は何も悪くないと思うし、メアリー女王がメアリー一世と同じことをするとは限らないんだけど、それでも一応、言っておこうと思う。
ごめんね頭(仮)たち。君たち、生きてこの島を出られないかも知れない。




