聖島ロンゴミニアド 4
蒼の映える晴天の日、俺は―――
『オーホホホホホホ!! お待ちになってぇー!!!』
「ひいいいいいい!!!??」「おいやめろこっちにくるな!!」「追いかけるならあっちにしろ馬鹿!」「ふざけんな手前が追いかけられろこの馬鹿!」
薔薇獅子を爆走させながら、薄汚れた格好の生身の人間を、というか盗賊たちを追いかけまわしていた。俺だけではなく、三々五々に逃げだした連中を、各機で手分けして捕縛して回っている。
というのも、街道を歩くこと約3時間。途中で6機の人型兵器に襲われたのだ。
そしてお互いがお互いを認識した瞬間、何故か盗賊は一斉に逃げ出した。なので俺たちは背中から敵機を襲ったというわけである。
追いかけっこに参加していないのは、盗賊が持ち出した人型兵器だったものに銃口を突き付けている始硬剣・束くらいだ。
そしてその残骸、というか手足を砕かれて、操縦席の納められた胴体部分だけを一か所に集められた達磨軍団からも、
『おーいお前ら。もう面倒だからさっさと捕まれや』『お前らが捕まってくれないと俺たちここから出してもらえないんだけど?』『つーか俺たち人質なんだけど? 人質の意味理解してるか低能どもー?』
などと間延びした声が聞こえてくる。
「ざっけんなこのクソ上司!」「自分たちが逃げられないからって俺たちまで巻き込もうったってそうはいかねえぞ!」「あることないこと上に言いつけてやるからな!」
うーん、醜い。
―――普通の戦闘とは、別の意味で五月蠅いですわねぇ……。
あー、騎乗士どうしの戦闘だと、敵機が外部スピーカーをオンにしていない限りは操縦者の声は聞こえないからなぁ。常時オンにしていると味方との通信会話が敵相手にも丸聞こえになるし。だから断末魔ではなく、機体が砕かれる音ばかりを聞くことになる。ロボットアニメと違い、敵対相手の生身の声を聴くというのは、現実では結構なレアケースだった。
ちなみに今回、盗賊は全員生け捕りコースである。珍しいことに。
《感想:マスターは見つけたらとりま殺すが基本スタンスですからね……》
それというのも、ここが権力的にかなり好き勝手出来るリントヴルムではなく、他国のロンゴミニアドであるからだ。
盗賊と言っても一応は国民であり、その国民を勝手に殺したらさすがに不味いだろう、ということで、他の皆にも生け捕りにするように伝えてある。
……嘘である。全て生け捕りさせるための方便だ。
何故なら俺は、この盗賊どもの正体を知っている。こいつらがロンゴミニアドの人間ではないことを、最初に敵機体を視認した瞬間から気付いている。
よく見知った機体だったからだ。
あの機体はロンゴミニアドで運用されている人型兵器、竜護騎などではない。かと言って騎乗士でもないし、ル・ペイジヴォントで使われている騎操剣とも違う。
俺たちが遭遇した機体こそ、本来の歴史であれば来年に戦うことになっていたマリウス教の戦闘用ゴーレム、聖機士と呼ばれる兵器の一つであったからだ。
つまり俺たちが追いかけているのはロンゴミニアドの国民が盗賊に成り下がった存在などではなく、ル・ペイジヴォントの破壊工作員などでもない。
マリウス教の特殊任務実働部隊である。
と、正体が分かっているのはいいのだが。、問題はこいつらがそうであると、どうやって突き付けてやるかなんだよな。
というのも、聖機士はこれまで、一度たりとも遭遇していない機種である。下手にあの残骸が聖機士だと指摘してしまうと、どうして知っているんだと突っ込まれかねない。ニオスがいれば俺の代わりに指摘してくれたかもしれないが、今回のメンバーには含まれていないし。どうしたもんかなー。
『とっとと捕まれバーカバーカ!!』「うっせーとっとと殺されろアーホアーホ!!」
―――その特殊任務実働部隊、子供の喧嘩みたいな低レベルの言い争いをしておりますわよ。
うーん、醜い。
●
とりあえず、多分全員捕まえた。
《報告:遭遇時に当機が認識した人数は26人。捕縛した人数と差異はありません。他に隠れている人員がいる可能性は残っていますが》
伏兵の存在はどちらにせよ注意する必要はあるし、とりま逃げた連中は全員捕縛できたってことにしておくか。
6個の達磨、その一つをお嬢様の我儘の穂先で叩き、中から操縦者を出させた。それに合わせて、残る5つからも同じように薄汚れた男たちが出てくる。
ざっと見た感じ、構成員は全員男だ。年は10代半ば辺りから50代くらいまでと幅広い。聖機士を操縦していたのは、全員が年を食っている側だった。そしておそらくは部隊長だろう、一番の年長者が、
「くっ、殺せ……!」
「「「ブーブー!ブーブー!!」」」
「手前一人だけ殺されてろや!」「姐さん方! どうかここは頭と幹部連中の首だけで勘弁してもらえやせんか!」「僕たちこいつらに無理矢理従わされてただけなんです……!」「ぶっ殺すぞ手前ら!!!」
『……盗賊ってこんなんだったっけ? 久々に見たけど、なんか記憶と随分と違いがあるんだけど』
『奇遇ですね坊ちゃま。私もここまでイキのいいのを見るのは初めてです。鉄板の上に乗せたらきっと愉快な踊りを見せてくれると思いますよ』
エミリアの言葉を聞いて、盗賊たちの罵詈雑言がさらに五月蠅くなる。その内容は相変わらず、トップ連中だけに責任を負わせようとする多数と、全員を巻き込ませようとする幹部たちの言葉の応酬だ。
『あー……、もう面倒なので単刀直入に指摘いたしますけれど、貴方たち、マリウス教の人間ですわよね?』
ピタリ、と罵倒合戦が止んだ。
『マリア、何故そう思う?』
『歯が綺麗過ぎます』
『歯? ……成程、そういうことか』
『あのー、二人だけで納得してないで、こっちにも説明して欲しいんスけどー』
『そうですわね。先ほどから彼らの口、歯を注視していたのですけれど、どなたも綺麗な白色をしておられますのよね』
『……それって、普通のことじゃないっスか?』
『貴族や王族ならそうですわね。ですが、平民はそうではない。そもそも歯を磨くという文化自体、平民には馴染みの薄いものです。平民の歯は自然、色が沈着するのが普通ですわ』
俺がこんな指摘をするのも、現実、俺が元居た世界で常々思っていた、ある事が理由だ。時代劇や歴史のドラマである。江戸時代だったり昔の中国だったりと、舞台の時代はさておき、見ていて酷く違和感を覚える部分が俺にはあったのだ。
歯が、綺麗すぎると。
いわゆる主役やメインキャラクターの歯が白いのは、俳優の顔で売るって側面もあるから、まぁ仕方ないだろう。
しかし、そこら辺のモブキャラ、農民とか盗賊とか山賊なんかまで、揃いも揃って全員から白い歯を見せられてしまうと、なんだかそれが無性に気になってしまうのだ。リアリティねえなーと。
同僚にこのことを話したら「細かい粗を探しすぎじゃない?」なんて言われてしまったが、俺からすれば、戦国時代の戦いに西洋甲冑を着て無双する大名が出てくるような違和感なのだ。
というかこの世界、元は乙女ゲームなせいか、学園にいる連中はどいつもこいつもホワイトニングでもしてんのかよってくらい歯が白い。笑顔を見せるとそれが物理法則であるかのように口がキラッと光るくらいに。
ゴルディナー家の騎乗士工場でガンさんたちの黄ばんだ歯を確認していなかったら、この世界は平民でもシャイニングトゥースなのだと思ったまま過ごすところであった。
ちなみにアリスは元平民だが、綺麗で整った白い歯をしていた。サンキュー主人公補正。
『全員綺麗に口を閉じちゃってるんで、誰のも確認出来ないっスねー』
『となれば彼らは平民ではない。しかし貴族が盗賊に落ちたともなれば、ロンゴミニアドの王宮から情報の一つでも送られてくるはずでしょう。それもなかったとなれば、彼らは貴族でも平民でもない。つまり、ロンゴミニアドの人間ではないと考えられます』
「……ロンゴミニアドの人間ではないと仮定したとして、それでマリウス教につなげるのは短慮というものだろう?」
一番老いた男、と言うか面倒なんで今後は頭(仮)で通すことにするけど、頭(仮)がそう指摘した。先ほどまで仲間と頭の悪い会話の応酬をしていたのと同一人物だとは思えないような、理性的な表情だ。
『ここが大陸の中にある国家であれば、その指摘も一考する価値があったでしょう。ですが、ここロンゴミニアドは島国。人員だけをこっそりと送り込むならまだしも、そのゴーレムまで運び込むのは容易なことではないはずです。加えて、貴方たちは海岸付近ではなく、街道まで出て行動している。……おそらくですが、普通に港から入国し、人員や資材の一部を少しずつ国内に残していたのではないでしょうか。それに、マリウス教にも歯を磨く習慣があると聞いておりますわ』
「……次からは、歯を汚くするようにして来るよ」
頭(仮)が肩をすくめてそう言った。
『分からないのは、貴方たちの目的ですわね。ここは王都と軍港をつなぐ街道。盗賊などが現れたとなれば即座に対応されます。しかし、そうされていないということは、ロンゴミニアド軍がよほどの無能か、貴方たちは滅多に行動を起こさないか、そのどちらかでしょう』
『襲った相手を一度も逃がさなかったって線はないんスか?』
『その場合、到着する予定の人が来なかったという話が出てきます。マリウス教の人間が、こうして暗躍する以上、その辺の平民を襲うのが目的というのは考えにくいでしょう。自然、重要な役割の人間を襲うはず。ですがそうなれば、当然ですが調査の目が入りますわ』
『その点だが、気になっていることがある』
『なんでしょうか、リギア様?』
『彼らがマリウス教の人間なら、機体にレーダー探知機が搭載されているはず。つまり彼らは、マリウス・ジェネレーターが搭載されている機体が近付いているというのを認識したうえで襲ってきたということだ』
『そう言えば、出会って早々に逃げだしましたわね。……つまり、襲う相手を間違えた?』
「降参だ。アンタの言う通りだから、そのあたりで勘弁してくれ。『薔薇の聖女』マリア・フォン・ゴルディナーさんよ」
『……わたくし、名乗りましたかしら?』
「獅子の顔を持つ赤薔薇色の戦闘用ゴーレム、そんなもんに乗ってりゃ一目瞭然さ。アンタの勇名はマリウス教にも知れ渡っているよ。そもそも俺たちが逃げ出したのは、その機体を見てすぐにアンタだって分かったからだからな」
「お頭、いいんですかい?」
「こうなっちまった以上、協力してもらった方がいい。……ああ、そうだ。アンタらの予想通りだよ。俺たちは、襲う相手を間違えた」
『では、どなたを襲うおつもりでしたの?』
「―――マリウス教徒」
『……はい? 何故マリウス教徒が同じ教徒を襲うんですの?』
「同じじゃあねえのさ、これがなぁ……」
頭(仮)がニヤリと笑う。
「改めて挨拶させてもらおう。我々は『ノイエ・マリウス』。改革派っつーか、新派って言った方が分かりやすいか? まぁ単純に言えば、アンタらを敵視しているマリウス教の一派、つまり旧派と敵対している派閥ってわけよ」
……『プロテスタント』か!
「敵の敵は味方って言うだろ。だからまぁ、仲良くしようぜ、『薔薇の聖女』さんよぉ?」




