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敵は公爵令嬢にあり?・改 5

評価(アセスメント):54点》


 か、辛口評価……!


感想(レビュー):後ろに回り込むまではよかったですが、その後、肩への斬撃は0.8秒速く行えたはずです。三ヶ月のブランクで鈍りましたか、マスター》


 それだけでこんなに点数減るぅ!?


 ―――ところで、どうして剣が生やせましたの?


 ああ、そういや作ってた頃はお嬢様は精神的引き込もりをしてたっけ。いや単純な話で、操作レバーにボタン追加しただけだよ。


 ―――え、それだけ?


 それだけ。


《感想:人の固定観念というのは凄まじい強度を誇りますからね。機体を操作するにはイメージを送るしかないと思っているので、それ以外に操縦を補佐出来るという発想を起こすこと自体が困難なのです》


 実際、ガンさんたちも拒否反応凄かったからね。長年やってきたことを変えたくないって言う怠慢根性もあるんだろうけど。


《感想:改善のための努力は拒否するのに、改善を拒否するための努力は惜しまない。人間の合理性は不可解ですね》


 ううむ、合理性の塊であるAIに不合理と言われると全く否定できんな……。


 話を戻すけど、原作ゲームで主人公が様々なアイディアを思いつくのは、固定観念、つまり常識を知らないって部分が大きいって設定だ。ついでに攻略対象達が「平民の考えることは独特だなぁ」って感じで面白半分で試し始める環境があったのも追い風になった。


 ちょうどいいや。この話が出たついでに、原作ゲームでの本来の流れを説明しておくか。


 第一話、『敵は公爵令嬢にあり?』の2度目の戦闘フェーズは、悪役令嬢が攻略対象達に決闘を挑まれることで始まる。名目は『公爵家令嬢が中心となり行っている主人公へのいじめをやめさせるため』だ。


 この時、悪役令嬢、というか取り巻き令嬢は「そちらはその6名。ですがこれでは、私たちの数が足りません。6人まで補充することを許していただけますか?」と聞いて了承を得る。


 そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()、合計21人での団体戦となるんだ。


 『6人まで補充する』としか言ってないので、『取り決めの通り1人ずつ、それぞれで6人を補充しただけですわ』って理屈で。


 ―――わ、わたくしの友人たちながら姑息……!


 でも負けるんだよね、当然ながら。攻略対象達は訓練機相手なら、1人でも5機くらいまでなら余裕で相手出来るから。


 そして悪役令嬢以外が全滅して、残った悪役令嬢だけは訓練機ではなく専用機なんだけど、ゲームだと乗ってるのは雌型だから攻撃力もしょぼくて、まぁやっぱり6人にリンチされてしまうんだよな。


 ついでに言えば、戦いの前に攻略対象達は「一番撃墜数が多かった奴が主人公とひと夏を過ごすことにしよう」って取り決めて、ここでの撃墜数で夏休みのイベント内容が変わってくるぞ。


質問(クエスチョン):同数の場合はどうなるのでしょうか?》


 その場合は選択肢が出て一人だけ選ぶ。全員同数にしてハーレムルート狙いとかは出来ない。そもそもハーレムルートは実装してないけど。


 そしてこの後、さっき言ってた主人公のアイディアの話が出てくる。


 攻略対象達と違い、面白半分で改造した主人公の操る訓練機が攻略対象達の軍用機張りに活躍する。たとえ主人公機を一度も戦闘させていなくてもこの流れになるけど、これはゲームなので目をつぶって欲しい。


 それで攻略対象達は、こいつは何かとんでもないものを生み出すんじゃないかと考えて、主人公から他に何かないかと様々なアイディアを聞いて、夏休みの間は地元で聞いた内容を試すんだ。


 ここが、()()()()()()()()()()()()


 当然だが、俺たちはこういう流れにはなっていない。つまり、このままでは騎乗士の劇的な性能向上が起きない。一方で、2年後の戦争はここでブレイクスルーが発生した前提での難易度だ。


 つまり、この夏に仕込んでおかないと、戦争に負ける可能性が高い。


 ついでに大変言い辛いんだけど、主人公が出すアイディア、実は俺が入学前の準備期間で全部出してるんだよね。……多分全部出してるはず。いやスマン何か忘れてるかもしれない。流石に20年も昔だと細かい部分は曖昧だわ。


 ともかく、ルートによっては開発されない機能があったり、でもそれを主人公に思いつけってやるのも無理だし、となると俺が案を出すしかなくね?


《感想:制作中も思ったのですが、操作方法がイメージを送るというオカルティズムなわりに、この世界に魔法はないのですね》


 ないよ。そんなものはない。


 ―――オカルト、と言われましても、わたくしたちにとってはそれが当たり前なので何がオカルトなのかが分かりませんわ。


 魔法(オカルト)ついでにビームもないんで、実は皆で仲良く実体武器オンリーだったりする。質量を上げて物理で殴ればいいがジャスティス。


 あとほら、イメージでも機体が動かせるって部分は、魔法がないガ(ピー)ダムでもやってるし。あっちとちがってこっちにはビームもないけど。


《質問:ビーム兵器がないのは何故でしょうか?》


 いや、流石にビームは学生の頭じゃ開発できないでしょ……。開発が始まったころはビーム兵器案もあったんだけど、主人公が脈絡もなくビームを思いついて無双し始めるのはちょっとどうよ、ってことでボツになったんだよね。というか俺もこの世界でどうやってビーム兵器を開発したらいいのかは思いつかない。


《感想:軍艦を飛ばすのと同じように、何らかの鉱石を用いればビーム兵器は開発できるかもしれません。まだその鉱石が見つかっていないというだけで》


 ―――そう言えば、わたくし船が空を飛ぶ仕組みを知りませんわ。どうやってあんな金属の塊が空を飛んでるんでしょう。


《評価:良い質問です、ミス・マリア。当機に付与されている乙ポイント38点から、1点を譲渡させていただきます》


 ―――いりませんわぁーーー!


 勝手に譲渡しないで欲しいんだが……。


《感想:どうせ使い道もないので。先の質問に答えますが、軍艦、金属の塊が浮くのは、言葉の通りに()()()()()()()()()です》


 ―――……謎かけか何かですの?


否定(ネガティブ):とある貴金属ですが、これに電気を流すと浮力が発生することがこの世界の住民には既に知られています。その貴金属を艦の材料に使用する事で飛行能力を獲得します》


 というかその金属、便宜上飛行石って呼ぶが、ゴルディナー家(うち)の特産品だぞ……。家名だって金を始めとした貴金属が大量に取れるのが由来だし。ちなみにこの飛行石、現時点で国内で発掘できるのは、親父の領地内でだけだ。


《感想:どうして知らないのですかこのお嬢様は》


 ―――しょ、しょうがないでしょう! 公爵家令嬢ともなれば色々と忙しいんですのよ!? それに我が家の女は金属ではなく宝石を担当するから、そちらは知らなくても致し方ありませんわ!


 まぁ確かに、王子と婚約してるなら男親の家業について詳しく知らないのはおかしいことではないか……。


 ドライコインの言う通り、ビーム兵器を開発できそうな金属を探すのはありかもなぁ。原作ゲームでは最後まで出ることがなかったので望み薄ではあるけど。


 次の対戦相手が出てくるまで暇だったんで色々とくっちゃべってたが、要は技術力の格差を見せつけるため、俺はこの薔薇獅子(ローズ・ローヴェ)で攻略対象達を相手に圧勝しなればならないってわけだ。


 まぁぶっちゃけ余裕で勝てる。5機を同時にやっても勝てる。なんせ攻略対象達の機体は全部ゲーム序盤の性能に対して、こちらの機体は終盤のスペックだからね。


 ―――あら、やっと出てきましたわね。青い機体ということはヴァイトのクソ野郎ですわ。


悲報(オーマイガッ):ミス・マリアにマスターの言葉遣いが移ってきています》


 ―――これは口調が移っているのではなく厳然たる事実を言っただけなのでノーカウントですわー!


『随分と遅かったですわね。作戦会議は終わりましたかしら? それともグレイ様への叱責にお時間をかけていたのですか?』


『僕はあなたと違い、友を徒に諌めることに悦びを得る人間ではありません』


 確かにその自己認識は正しい。こいつは他人を罠にはめて、もがき苦しむ様を見るのに愉悦を感じる奴だから。まぁ上手くいくことは殆どないんだが。


『随分と()()()()()ようですが、それも近付かなければいいだけのこと』


 ―――何言ってますのこいつ?


 うん? ……あーなるほど、さっきグレイの機体を切ったのは、俺がアイツの腰に付けてた剣を()()()使ったって思ったのか。そういう考えはなかった。


《感想:経験の及ばない事態に直面すれば、自分で理解できる範囲で、辻褄が合う空想を仕立て上げる。人間心理上、こうなるのは仕方がありません》


『まぁ! そのようなことはしておりませんわ。それにしても、またもや自分の妄想をさも現実であるかのように錯覚するとは。このような事態を引き起こしておきながら、貴方は何も反省しておられませんようですわね』


『では、どうやって切ったと?』


『オッホホホ、情報収集が熱心なのはよろしいことですが、わたくし、貴方と違って敵を前にしてお伝えするほど愚かではありませんわよ』


《質問:ところでマスター、敵機の装備をご覧ください。どう思いますか?》


 すごく……バズーカです。


 見えてはいたけど現実を見たくはなかった。いや、競技場(こんなところ)であんなもんを持ちだすか? 下手な方向に撃ったら観客にも被害が出るぞ。


 わざと当たるか? 耐えられるかなぁ?


返答(アンサー):余裕で耐えますが、一部の機能において今後の戦闘に支障をきたす可能性があります》


 ならしょうがない。ちょっと早いが、アレ以外はこいつで全部見せるか。


『ですが、観客の皆様方もお気になさっておられるご様子。ですので、貴方を倒した後にでも、この子のプレゼンテーションをさせていただきますわ。どうもそちらは準備にお時間がかかるようですし、皆様のお暇つぶしにもなりましょう』


『あなたはここで負けるのですから、そんなことは出来ませんよ!』


 戦闘開始の合図すら待たず、ヴァイトがバズーカをぶっ放してくる。右腕からブレードを展開、切り落としてバックステッポゥ!


『待てイーリッヒ! まだ合図を出していない!』


『構いませんことよ! 殿方が()()()なのに目をつぶるのが出来た令嬢と言うものですわ!』


 ―――わたくしの身体で破廉恥な言葉を使わないでくださいましーーー!!


『妙な風評を大声で垂れ流すなぁーーー!!』


 二連射してきた。左腕からもブレードを展開、二発とも切ってその場から離脱! 弾速が遅いので余裕で対処できるが、厄介なのは爆炎で視界が遮られることだ。切るたびに離れる必要が出てくるのが面倒くさい。


提案(サジェクション):マスター、あの兵装は当機のデータベースに該当するものがあります。装弾数5発。あと2発で弾切れですが、予備弾薬が左腰にマウントされています》


 オーケィ、そのタイミングでバズーカを壊してケリを付ける。


 先ほどの焼き直しだ。また二連射してきたのを同じように切り落とす。こちらの対応中に、青い騎乗士は弾薬装を装填しようとしていた。剣で切りつけたいが、流石に距離が離れすぎている。


 なので、右腕の操作を半自動モードに切り替え。攻撃目標をバズーカに設定!


 トリガーを引けば、バズーカへ向けて真っ直ぐに向けられた右腕から銃弾がばら撒かれた。

 右腕に4つ設置されたコンテナ、そのうちの両サイドにある2つから発射されたものだ。二連装サブマシンガンなので連射速度はかなりのものだが、なにぶん内蔵式。残念ながら雄型の装甲を抜けるほどの威力はない。


 だがそれでも、バズーカ程度なら穴をあけて使用不可にすることは造作もない。おまけに取り付けようとしていた弾倉にも着弾し、青い騎乗士の胸元で派手に誘爆した。


『な……! 整備不良!?』


 まぁ飛び道具持ってないって思ってたら、そう考えるよなぁ。


 ―――そう思われることを見越して、無手で出ましたの?


《否定:いえ、普通に手持ち武器の開発が間に合わなかっただけです》


 機体とコンテナに時間かけちゃったから仕方ないね!


『違いますわ。御自分のお手元ばかり見て、相手を見ないからそうなりますのよ』


 バズーカ弾5発分の爆炎を吹き飛ばすように接近し、展開したままだった両腕のブレードで両肩を切り落とした。


『装填くらい、手元を見なくても出来るようになっておきなさいませ。練度不足ですことよ』


 終わったな。あ、武装あと1個つかってねーわ。


否定(ネガティブ):まだです》


『まだだ! まだ終われない!!』


 両腕を失っているが両足は健在だ。その足で体当たりを仕掛けてくる。が、


『見苦しいこと。終わりですわよ』


 機体長が違いすぎる。首をつかんでそのまま持ち上げた。こちらの機体は8メートル。ヴァイトの機体は6メートル。身長2メートルの人間が150センチの相手をつかみ上げるようなものだ。余裕で脚が地面から離れる。足をばたつかせるので、もう片方の手で適当にあしらっておく。


 ちょうどいい。最後の一つをぶち込んでやろう。


『あなたは分かっていないのだ! 殿下を戦わせるということがどういう意味か!』


『知っててやっているのですわよ、お・馬・鹿・さん』


 その言葉と共に、最後のコンテナを()()させる。右腕が(フレーム)を軸にして90度回転。首をつかんでいる都合上、このままでは空を打つはずであった掌側のコンテナが、小指側にあったコンテナの位置へと移動した。


報告(リポート):解析完了。コクピット上部に着弾、パイロットへ直撃はしません。衝撃波で気絶する可能性はありますが》


 位置ヨシ! 発射ぁ!!


 トリガーを引けば、そのコンテナに内蔵されていた武装が首の真下へとぶち込まれ、破砕を巻き起こす。


 その正体は……パイルバンカーだ!


《感想:正直、頭の悪い武装だと思っていましたが、実際に使ってみると侮れない性能ですね》


 パイルバンカーが嫌いな男の子なんていませんよ!


 胸部が吹き飛べば、当然ながら首と胴が別離する。そして本体から茫然とした顔のヴァイトの姿が晒されながら、地面へと落下した。


 トイコニーとグレイは、バズーカに続けて本体も整備不良なのかと頭を抱えた。


 レオニスは、医務室まで伝わった轟音で気絶から覚めた。


 ニオスは、次にあれと戦うのかと顔を青くしていた。


 そして、リギアの「あれ、いいなぁ」という呟きは誰にも聴き取られることは無かった。


 コクピットに収まりながら肉眼で空が見えるようになったヴァイトは、


『先ほどは降参の声が良く聞こえませんでしたわね。風通りもよくなりましたし、もう一度お伝えしていただけるかしら』


 という言葉に、今度こそ敗北を認める声を上げることしか出来なかった。

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