無表情娘の恋路を応援大作戦 2
「―――さて、今日集まってもらったのは他でもないわ」
と、食後のお茶を楽しんでいると、リーファがおもむろにそう言った。しかし、
「わたくしたち、大抵このグループで集まって昼食をとっておりますわよ」
俺がそう言うと、リーファは少し赤くなった顔で、
「―――さて、今日集まってもらったのは他でもないわ」
あくまでもその体裁は崩さないらしい。そしてヴァイトはそんなリーファを見て、なんというか、ほっこりした顔をしていた。
そして、リーファの要件とは、
「あんた達に、ターニャとグレイ先輩の仲を取り持つのを手伝ってほしいのよ」
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かくかくしかじか。
リーファの話を纏めてしまうと、事の発端は案の定、昨日のサーシャの愛ゆえの暴走によるものらしい。
事件をなあなあにするため、レオニスとサーシャの婚約式が大至急行われることになった。ガーヒリテア邸への道中で、ヴァイトが考えていた通りに。このタイミングで婚約式を行うことになれば、先日の事件はサーシャ嬢がマリッジブルー故に暴走した、と言い張れる。
なんだかんだ言ってこの辺り、社会は貴族令嬢に対して甘い。この世界が乙女ゲームを基にして作られたからという理由もあるかも知れない。
しかしながら、ここでレオニスとサーシャが婚約式を行うと、別の問題が発生する。正確に言えば、『レオニスとサーシャだけが婚約式を行うと』、だ。
この結婚に合わせゴルディフ卿、レオニスとリーファの父親が引退し、当主の座をレオニスに譲る。それは同時に、レオニスが騎士団長になることを意味するが、なにぶんレオニスはまだ学生だ。なので、しばらくは騎士団長の補佐という立場に回るらしい。
そう、レオニスが騎士団長になるのだ。アリスが公爵令嬢のキャバリエに任命される以上の事態である。
そしてここ、リントヴルム王立貴族学園は、貴族としての知識や常識を修めるほかに、もう一つ、重要な役目を持つ。端的に言えば『コネ作り』だ。
さて、学生でありながら、国王の次に権力を持つ騎士団長に就いた者がいる。それを知った学生たちがどう動くかなんて、考えるまでもなくわかるだろう。
加えて、レオニスが復縁し、ガーヒリテア家の当主になれば、陞爵することを国王が約束している。
……結論から言えば、貴族間のパワーバランスが崩れる。そりゃもう滅茶苦茶に。
では、この問題をどう解決するか。言葉にしてみれば簡単だ。
一ヶ所に集まり過ぎるのが問題なら、同じくらいに人を集められる『誰か』を、もう一つ二つ増やしてやればいい。
その『誰か』への白羽の矢が立ったのが、次期宰相として目されるヴァイトである。とは言え、このままでは分が悪い。レオニスが騎士団長になったのに対して、ヴァイトはまだ宰相の候補止まりだからだ。
なので、ヴァイトの『価値』を底上げする必要がある。その下駄役になるのが、レオニス騎士団長の妹、リーファだ。つまり、だ。
レオニスたちの婚約式に合わせて、ヴァイトとリーファの婚約式を同時に行うのだ。
しかし、これに待ったをかけた者がいた。他でもない、サーシャとリーファ本人たちによって。彼女たちの言い分は、こうだ。「ターニャの恋路が心配過ぎて、自分たちだけ先に婚約式なんて上げられない」と。
友達想いで涙が出るぜ。
以上の内容から、今回のミッションはこうだ。
『サーシャとリーファの婚約式までに、ターニャとグレイの仲を取り持ち、三組六名による同時婚約式を行え』
《感想:無理では?》
―――無理ですわね。
んなこと言うなよ。
なお、リギアはこの案件に乗り気である。なんでも、取り巻き三人のうち二人が先んじて婚約式を上げてしまえば、残された一人、つまりグレイに対して、女子たちによる熾烈な争奪戦が起きることを懸念しているらしい。加えて、「グレイが婚約者と不仲なのを前々から気にしていた」とも。他家の政略結婚にまで口を出すのはどうかと思っていたので、これまでは不干渉でいたのだが、そういうことなら是非とも手を貸したい、とも。
リギアがやるというのなら、俺がいつまでも渋っているわけにもいくまい。
かくして、第一王子預かりの元、『無表情娘の恋路を応援大作戦』が始まったのである。
《補足:なお、作戦命名者はマスターです。全員から不評でした》
余計なことは言わんでいい。
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とは言え、本人たちがいないのでは、出来ることがあまりに限られてしまう。
さすがの俺でも、ターニャ本人に無表情娘の恋路を応援大作戦を伝えるのがおかしいことくらいは分かる。
加えて、グレイに全部伝えるわけにもいかない。あいつは変なところで思い切りがいいので、「リギア様の命令ならば!」と辺に暴走しかねない。
ついでに、リーファからは「出来ればこう、政略結婚って背景を抜きにして、いい感じに仲を深めて欲しいのよ」と厄介な注文を出されている。
となると、俺たちに取れる手は一つだけだ。グレイをそれとなく誘導するのだ。というか他に思いつかない。
というわけで早速、放課後、戻ってきたグレイと騎乗士訓練場で落ち合った。グレイの他、この場にいるのは俺にリギアにアリス。そしてリアだ。相談を持ち掛けてきたリーファは、ヴァイト共々婚約式の準備があるので手伝いたくても手伝えないらしく、この場にはいなかった。
「グレイ様、単刀直入に聞きますが、昨日のターニャさんとの空中デートはどうでしたか?」
その言葉にグレイは破顔し、
「はい! さすがにお互い、顔が見えない状態では、ジェスチャーだけでコミュニケーションは取れませんからね、数年ぶりにターニャの声を聴きましたよ!」
「どんな内容かを聞いても?」
「『うん』と『違う』と!」
「……それだけですの?」
「はい!」
うんうん。そうかそうか。
「とりあえずグレイ様。罰として、訓練場の周囲を10週ほど走ってきていただけますか?」
グレイは、納得いかない顔で走り始めた。
「想定の数倍、酷かったですわね……」
「俺も、ここまで酷いとは思っていなかった」
なお、この場にいないリーファの証言によると、ターニャは口数こそ少ないものの、全く無言というわけではなく、必要最低限は口を開くらしい。
「ウチでも初対面で声を聴いたことあるっスよ。ていうか毎朝挨拶で聞いてるっス」
「グレイ様の友好度は、出会ったばかりのリア以下、と……」
《感想:これ本当に上手くいくんですか? 30万文字を超える長編小説になったりしません? 参考までに、去年の一年分だけで約20万文字ですよ》
さすがにそこまではならないだろ……。決着がつく前にこの話が完結しちまうわ。
―――というか、原作的に何か分かったりしませんの? ヴィネリア王女殿下と敵対するはずなのでしたら、何かそれなりの理由があるのでは?
大変残念ながら、原作ゲームでターニャが敵対するのは『仲のいいリーファとサーシャが敵視しているから』という、恋愛的要素がかすりもしない理由による。加えて、無口キャラということで、ターニャの婚約者とリアとの仲に文句を言うのは、ターニャではなくリーファとサーシャの役目なのだ。なので原作ゲーム『貫いて、マキャヴェリズム』においても、ターニャが今だ名前すら出てきていない本来の婚約者のことをどう思っていたのかは分からなかったりする。
おファッキンッ! なんで過去の俺たちはこんな七面倒くさいキャラにしちまったんだ!! こんなことなら担当ライターともっと打ち合わせをしておくべきだった!
―――あとの祭りというやつですわね……。
余談だが、婚約者に執着している様子が見られなかったせいか俺の嫁扱いするユーザーが多く、当時の無口無表情白髪系キャラ流行の背景もあり、人気投票では主人公のリアを差し置いて堂々一位の座を獲得していたりする。
《感想:本当に何の役にも立たない余談ですね》
「不幸中の幸いというべきでしょうか。グレイ様の様子を見る限り、ターニャさんに対して悪い感情は持っていないようですわね」
「ああ、グレイを誘導するのはそこまで難しいことではないだろう。しかし、それでもどうする? 事態は急を要するぞ」
そうなんだよなー。
例えば、グレイに「ちょっとデートしてこい」というのは簡単だ。しかしその場合、当然だが『何故デートをしてこいという命令をされたか』と考えて、俺たちの考えを読んでくる可能性が高い。
グレイに真実を悟られることなく、ターニャと仲を深めさせる妙案は何かないものか。そう、例えば、強制的に二人きりにしてしまい、なおかつ仲を深めなければそこから出ることが出来ないような……、
「そう、セ○クスしないと出られない部屋……!」
「いきなり何を言い出すんだ……?」
と、リギアはあきれ顔になったが、俺はこれを天啓だと思った。
「ですから、セ○クスしないと出られない部屋ですわよ! お二人を適当な部屋に閉じ込めて、出口の上に『セ○クスしないと出られない部屋』と書いたプレートを設置するんですわ!」
「んで俺たちはどっかでそれを監視するのか? さすがに嫌だぞ、あいつらがセ○クスするのを隠れて見守るのなんて……」
「ふむ、いきなりセ○クスは一足飛び過ぎましたわね……。まずはもっと難易度を下げて、『手を繋がないと出られない部屋』、『ハグをしないと出られない部屋』、『膝枕をしないと出られない部屋』といった順でだんだんと、ステップアップをするようにいたしましょうか」
「順当だな……。そのあとは、そうだな。『あ~んをしないと出られない部屋』とか、『ポ○キーゲームをしないと出られない部屋』とか」
《感想:この世界にあるんですね、ポ○キーとポ○キーゲーム》
―――チョコレートを使ったお菓子は高級品ですので、それなりに裕福な家の者でないと食べたことすらありませんでしょうけれどね。
「ポ○キーゲームまでやってしまえば、あとは流れで『キスをしないと出られない部屋』で二人は幸せなキスをして終了―――。これですわ……!」
そうして画策している俺たちを、リアが白けた目で見ていた。
「盛り上がってるところ悪いっスけど、絶対失敗すると思うっス」
アリスも一つ頷き、
「リアちゃんに同感ですねー。……うん、ひとつ、あたしに考えがあるんで、ここは任せてもらってもいいですか?」
「アリスがそういうのでしたら、わたくしは任せますわ」
ゲーム主人公だからな。攻略対象たちの心を動かすには、俺がやるより適任だろう。
……まぁ、心を動かしすぎて、グレイに惚れられたりしなければいいが。
「マリアがキャバリエ・アリスに任せるのなら、俺もそれに追従しよう」
リギアがそう言い、残るリアは、
「ククク……ちからが欲しいっスか……?」
「うん、いらない」
と、取り付く島もなく断られていた。
「あー、みなさんがいるとあたしの作戦的に不味いので、どこかで適当に時間を潰しておいてください」
アリスはそう言って、グレイが走っていったのと逆向きに走り去った。
ちょうどいい機会だし、リアを大食蜂鳥まで連れて行くとしよう。




