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獅子の尾を踏む 5

 勝ったッ! 第3部、完!


報告(リポート):あ、今は3部ではなく4話です》


 勝ったッ! 第4話、完!


 ―――いや何も終わっていませんわよ!?


 城壁の外側には、大量の残骸が散らばっていた。その全ては、かつて敵機だったものだ。


 ス(ピー)ロボでいうところの、気力稼ぎ用の雑魚敵だったな。


 原作ゲームには気力に関するシステムはなかったし、ゲームと違って撃墜しても資金になるわけじゃないし、ぶっちゃけ邪魔者以外の何者でもない。


『では皆さん、王都に突入いたしますわよ』


 という俺の指示で、城壁を飛び越えた。


 城門は放置したままだ。


 単純に罠が仕掛けられている可能性もあるし、もし外から敵の増援が来たとしても、城門が開いていなければ多少なりとも足止めに使えるからだ。


 空から見る街の中は、茶色が多い。レンガによるものだ。


 多種多様な形状の、しかしてどれも似通った色合いの建物が、所狭しと並んでいた。


 外の戦闘の音で、住民はすっかり目が覚めていたのだろう。その窓は開け放たれ、避難を行っている者たちの姿が多数見受けられた。


 そして茶色塗れの建築物の中、一つだけ、異質なものがある。


 王都の中央にそびえる白磁の巨大な城。つまりは本丸であるグリプス王城だ。


『隣国の蛮族どもは、どうにも礼儀を知らんと見える』


 そして、街の中から声が聞こえてきた。街中に設置された多数のスピーカーによるものだ。


『新年早々、アポイントも無しに騎乗士(キャバリエ)で王都に乗り込んでくるとはな』


『あら、わたくしたちが蛮族だというのなら、クリスマスの日に宣戦布告をしたそちらはサル山の王様ですわよ。棒切れの扱い方くらいはご存知あそばせ?』


『無礼な!』


『なんだ、こっちの声も聞こえてるなら話は早いわ。クソ兄貴、クソ親父……国王はどこ? ぶっ殺してやるからさっさと出しなさい』


『……まさか、フラウか? 生きていたのか?』


『ええ、そうよ。アンタらが殺したはずの、フラウ・グリプスよ!』


 そう言ったフラウは、薔薇燕・改(ノイエ・シュヴァルベ)を一段高い位置へと昇らせ、手に持つ長剣を高らかに天へと向けた。


『聞きなさい、王都に住まう民たちよ!! 第三王女、フラウ・グリプス! リントヴルムと友誼を結び、新たなる王となるために凱旋したわ! ここにいるアンタたち、その全てが生き証人よ!!』


 その言葉を聞いた避難中の人々が、逃げることも忘れ、周囲の人々と話し出した。


 だが、それに待ったをかける声がある。


『駄目ではないか、フラウ。お前は死んだんだぞ? 死んだ者が出てきては、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


『……なん、ですって?』


『父上は死んだよ。()()()()()。我が国の切り札たるフラウ将軍を無駄死にさせ、貴重な飛行型実験部隊も全滅させた。そのような愚王、首が挿げ替えられるのが当然であろう』


 スピーカーは、言葉を続けた。


『しかし、仮にも王族たるものが死亡発表を受け入れぬばかりか、反乱を行うとは。お前はどのような教育を受けてきたのだ?』


『お生憎さま。アンタらのせいで辺境地で戦ってたからね。王族としての勉強は途中までしかやってないわ。それよりもクソ兄貴。アンタが殺したのはクソ親父だけ? ……違うでしょう?』


『フン、その程度の頭は回るか。新王には()()()()()で反発するような、真の愚物共が現れる。そんな愚物共が、反乱の旗頭にするとも限らんからな』


 最後まで言わずとも、その言葉が意味するところは明白だ。


 つまり、残るグリプス王族は、フラウを除けばたったの一人しかいないということ。


『愚物はどっちだか……!』


『フン。ハンパ者には帝王学は理解できまい。フラウ、貴様は先程、国王を出せと言ったな。よかろう。この私、新王エルバ・ディア・グリプスが相手をしてやろう。……ただし、』


 そこで新王エルバが言葉を止めると、城から多数の騎乗士が出てくるのが見える。


 というか地味に名前が分からなかったので、自分から名乗ってくれて助かるわ。親切か?


『この王都アードラーブルクを守る闇夜獅子(ナハト・ローヴェ)隊。彼らを退けることが出来ればな』


 それは、黒い獅子(ローヴェ)型。


 背中に飛行用のユニットを取り付けた、闇夜獅子と呼ばれた機体が、俺たちの元へと殺到してくる。


 それを見て、俺は盛大にため息をついた。


『困りましたわね』


 と、俺は味方機への通信に向かって話しかける。


『こうも多くては、どれにニオスさんが乗っているのか分かりませんわ』


 どっかに分かりやすい目印でもないものか。


 そう思っていると、敵機の群れが途中で移動を止めた。


 そして、その中から一機が前に出てくる。


 お、もしかして、あの機体に乗ってるのがニオスか?


『我が名はガロッゾ・フォン・ユライデル!! マリア・フォン・ゴルディナー! 貴様に決闘を申し込む!!』


『は? 誰?』


 ―――素が出ておりますわよ。


 おっと思わず。ニオスかと期待した反動も込みで出てしまった。


 いや、でも、誰? 本当マジで。なんか聞いた覚えはあるような。


『ユライデルというと、アンタたちを襲った艦隊の総指揮官の名前よ。あのオッサンの一人息子が、確かガロッゾって名前だったはず』


 と、フラウから返事が来た。


 あ、あーなるほどね。だから聞き覚えがあったのかな。つっても総指揮官の名前なんて、いつ聞いたか思い出せんが。


 それはともかく、つまりは、


『御父上の復讐、というわけですか』


『そうだ! 貴様さえいなければ、我らが覇道は為されていた! 父上は死なず、その部下たちも無事で! 空賊風情に全滅したなどという不名誉を受けることもなく! 彼らの無念、貴様を下すことでこの私が晴らして見せる!!』


『なるほど、話は分かりましたわ。それでは、』


 俺は薔薇獅子(ローズ・ローヴェ)フィンガースナップ(指パッチン)をさせ、


『貴方もそのお仲間に入れて差し上げますわよ!!』


 その言葉と同時、薔薇獅子と砲撃獅子(パンツァー・ローヴェ)の両肩の砲が、薔薇燕・改が持つアサルトライフルが、追撃獅子(イェーガー・ローヴェ)が握る突撃槍(ランス)の機関銃が、一斉にガロッゾ機目掛けて攻撃を仕掛けた。


 ガロッゾ機は数発被弾しながらも、辛くも直撃を避け、俺たちから距離を取った。


『き、貴様! 決闘を受けずこのような……! 貴族としての矜持はないのか!?』


『戦争の最中に語る騎士道など、潰れた弾丸よりも役に立ちませんわ』


『貴様ーッ! ガッ……!?』


 すると突然、ガロッゾ機の胴体から()()()()()


 ガロッゾ機の後ろに、別の闇夜獅子が浮いている。その機体が、背後から剣を突き刺したのだ。


 剣が突き出た位置は、俺たちの獅子(ローヴェ)モデルではコクピットがある位置だ。


 闇夜獅子が機体構造を参考に作られたのなら、同じ位置にコクピットがある可能性は高い。


 事実、あれだけうるさかったガロッゾは、突き刺された直後に沈黙した。


 背後の機体が剣を引き抜くと、ガロッゾ機は地上へと落下していき、轟音と共に建物を砕いて停止した。やはり死んだのだろう。


 え、ていうかなんでガロッゾ刺されたの? ひょっとしてあの機体にはニオスが乗ってるの?


『生きていると信じておりました、フラウ様!』


 あ、声が明らかにニオスじゃないわ。どう聞いても男の声だもん。


『ユリウスなの!?』


『は! 我ら四天空! 全員この場に居ります! しからば助太刀を!!』


 四天空というのは俺も知らないが、どうやらフラウの昔の部下らしい。


 そういや原作ゲームでフラウが出てくるステージ、他の雑魚より強いエリート雑魚が四人いた気がするが、ひょっとしてそいつらだろうか。


 ―――ですが、思わぬ力添えですわ。これで楽になりますわね。


 いや、そうはならないだろう。


 俺がそう思った瞬間、四体の夜闇獅子が爆散した。


 どこかから攻撃を受けたわけではない。それぞれの機体が、自ら爆発したのだ。


 そして、その爆発した中の一機は誰あろう、先ほどガロッゾを刺し殺した機体だった。


 やっぱり、自爆装置かぁ……。


 グリプス王国元第一王子、エルバ・グリプス。


 原作ゲームでは王都侵入の直前に出てくるマップボスだ。


 そして、原作ゲームでエルバが用いた戦術は、()()()()。文字通り、機体に自爆装置を取り付け、敵機に組み付き、自爆に巻き込むという戦い方だ。


『ユリウスーーー!!!』


 爆発に遅れ、フラウの叫び声が響いた。続けて、見知らぬ三人の名前を叫んでいる。


『フン。愚物がここにもいたか』


『クッソ兄貴ィーーー!!!』


感想(レビュー):さて、ほとんど何もしていないのに、いきなり敵戦力の四分の一ほどが削れたわけですが》


 ス(ピー)ロボだと割とよくある。


 フラウが感情に任せて突撃してしまったが、自爆装置は厄介だ。


『リギア様、レオニスさん! 組み付かれないようにご注意さないませ!』


 特に何が厄介かと言うと、ニオスの件だ。


 原作ゲームでは、裏切ったニオスは戦闘中、あるいは戦闘開始直前に味方として戻ってくる。


 だがご覧の通り、戦闘が始まってなお、ニオスが味方に戻るイベントが発生していない。


 そして、先程の自爆装置だ。原作ゲームでは自爆装置など搭載されていない。なんせ、その場合は自分たちで作成した機体に乗っているからな。


 だが、今は状況が異なる。現実世界ではニオスは自身の専用機を作成しておらず、代わりに夜闇獅子に搭乗しているのだ。


 もし仮に今、ニオスが仲間に戻ったとしても、自爆装置を遠隔操作されて吹き飛ぶだけだろう。


 ―――そもそも、この場にいるかも怪しいですわよ。エルバ王は先ほど、「王都を守る隊」だと言っていましたわ。マリウス教の聖職者たるニオスさんがこの中に含まれているとは、考えにくいのではなくて?


《感想:あけてみるまで分からない。チョコレートボックス(シュレディンガーの猫)というやつですね》


 こんなところで創作物三大名物の一つが出てくるとは思わなかったよ。ていうかなんだよそのルビ。箱を開けたらチョコ食って中毒死している猫が入っている未来しか見えないんだが。


 ―――箱を開けたら生きているニオスさんか、死んでいるニオスさんのどちらかが見られるという訳ですわね。


 いやニオスは一人しかいねーから! ニオスが入っている箱はこの中のどれか一個だけだから!


 阿呆なことをやっている間に混戦になってしまった。


 その中でも、敵機はフラウの機体、薔薇燕・改へと集中している。先ほどフラウが怒りのあまり突出したことと、こちらの勝ち筋がフラウだということが読まれているのだろう。そのフラウを狙うよう指示されていると見た。


 うん? 一機だけ明らかに動きがいいのがいるな。


 ていうか来た来た来た! こっち来た!


 俺に近付いてきた夜闇獅子は、右腕を大きく振り上げ、腕部コンテナからブレードが展開したのが見える。


 剣撃(シュナイダー)獅子(・ローヴェ)の折り畳み式ブレードと同じタイプの展開方法だ。サイズは明らかに小さいが。


 そして落下しながら、右腕を振り下ろしてくる。


 俺は左腕のコンテナを回転させ、レドームを内側へと退避。さらに甲側から内蔵式ブレードを展開し、その一撃を受け止めた。


『やりますね、マリア様!』


『……ニオスさんですわね!?』


 俺の質問への返答は、夜闇獅子の左手が左太もものホルスターから引き抜いた拳銃だった。


 拳銃程度では薔薇獅子の装甲は抜けないが、ってうおおおお顔顔顔! 狙いがメインカメラだ!


 機体を捻り、射線を外す。捻りを活かし、右手に持ったままのお嬢様(フロイライン)の嗜み(・アンシュタント)を振りかぶって叩きつけるが躱された。


『ちょっとニオスさん! 顔はおやめなさいまし、顔は!! やるなら目立たないようお腹を狙うんですのよ! ご存知ありませんの!?』


『言ってることがまるで手下に暴力を振るわせてるリーダーですよ!?』


 おっと、つい。


 とにかく、ニオスは見つけることが出来た。あとはどうにか無力化するだけだ。


 もしここで自爆させられてしまったら、この後30回以上、回想シーンでニオスが爆死する場面が流れることになりかねないからな。


《感想:どれだけ回想するつもりですか》


 そりゃもう事あるごとに。

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