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敵は公爵令嬢にあり?・改 1

 桜吹雪が舞う中、学園の入学式に参加するため、俺は学園の校門を潜っていた。


 正式名称、リントヴルム王立貴族学園。国内唯一の貴族用教育機関であり、15歳を迎えた全貴族に入学が義務付けられている。


 にしてもツッコミどころが満載だなこの状況。ヨーロッパが舞台なのに桜の木が植えられているわ、入学式が9月じゃなくて4月にあるわ。


 想定していたプレイ層が日本人だったからな。入学式と言えば桜! 桜と言えば4月! って感じで決まったのを思い出した。


 ―――そうなんですの? この国の新年度は4月から始まりますし、桜も昔から咲いていますから、変だと言われても分かりませんわ。


 ああ、うん。お嬢様はこの通り、また会話できる状態に復活したよ。あれから半年かかったけど。


 いやね、肉体は俺が動かしてるせいか、精神的引き込もりをするのに全然支障がなかったみたいなんだよね。昨晩、明日が入学式って段になってようやく話が出来るようになった。


 それにしてもこの半年、あっという間に過ぎ去ったな……。


 親父へのおねだりは無事成功して、ゴルディナー公爵家で懇意にしている騎乗士(キャバリエ)工場を紹介してもらえて。その後は俺のアイディアを元にドライコインの協力で設計書を書いたり、騎乗士の操縦訓練をしたり、作った機体や武器の動作テストをしたり、って感じでいたらこの日を迎えていた。


 実はかなり難航したんだよね。ガンさんが、ああ、ガンさんってのは工場長なんだけど、最初の頃は設計図見せても「こんなもんは聞いたことがねえ!」とか「うちは玩具を作ってるんじゃねえ!」とかで全然協力してくれないの。


 だけども既に金も払って契約も交わしちゃってるしで、しょうがないんで他のスタッフと作っていたら、開発施設の立入を禁止したり、資材の購入許可を出さなかったりって感じで妨害をしてきて、それに対して若いスタッフが一丸となってクーデター起こしたりとか、まー色々いざこざはあったけど最終的に和解というかガンさんの方から土下座で詫びを入れてきて、なんやかんやで今の開発主任の椅子にもガンさんが座ることになった。


感想(レビュー):当機の計算に寄れば、ガンデモニウス氏が最初から協力的ならば、入学式までに完成していたはずなのですが》


 しれっと歴史修正やめろよ。最初にお前が書かせた図面で仮組みしたら、致命的な欠陥が見つかって総ボツになったんじゃねえか。


反論(オブジェクション):あれは当機の計算に問題があったのではなく、当機の設計した機体を使いこなせない人類に問題があるのです》


 人類が使いこなせる技術レベルって前提で最初から計算しといてくれ。


《感想:ところで当機の計算に寄れば、ロールアウトまであと2ヶ月程度かかります》


 露骨に話題を変えてきたな。まぁ、ここは乗ってやろう。


 2ヶ月後となると、原作で悪役令嬢の専用機が出てきたタイミングには、ギリギリで間に合いそうだな。


 ―――それで、回想はもう終わりまして? 本来でしたら、この半年間で殿下を始めとした同期の方々とお茶会などして、事前に親睦を深めたりしておくべきなのでしたけれど。


 婚約破棄されるって知ってると、仲良くなったところで無駄だしなぁ。


 そもそもリギア第一王子が婚約破棄をしてくるのは、悪役令嬢()に問題があるからではなく、王子に理由があるからだ。こちらに原因がなくても、何だかんだと理屈をつけて婚約破棄を狙ってくる。


 ―――え、ちょっとそれ初耳ですのよ!? いったいどんな理由なんですの!?


 そりゃ聞かれてないし。


 あ、取り巻き令嬢ズを発見。


「ごきげんよう。お久しぶりですわね」


「マリア様!」「お会いしたく存じておりましたわ!」


質問(クエスチョン):何者ですか?》


 マリアの取り巻き令嬢だよ。


 ―――わたくしのご友人たちをそんな雑にまとめないでくださいまし! リリーナ・フォン・クリスタリア侯爵令嬢と、カタリナ・フォン・ネルランド辺境伯令嬢ですわ。家で交流がありまして、幼少の頃からの付き合いですの。


 ゲームだと名前も決められてないし専用グラもなかったけどな。


 あれ? でも見覚えあるぞこの二人。マリアのじゃなく俺の記憶の方で。


 ……あー、思い出した。たしかキャラエディットの時に使用できるキャラデザのやつだ。


 『騎乗士(キャバリエ)の胸に抱きしめて』は主人公と攻略対象の5人、つまり合計6機のロボットによる戦術パートがあるんだけど、この戦術パートにはこの6人以外に、自分で作ったマイキャラクターを量産機に乗せて出撃させることが出来る。


 それは同じ学園の生徒だったり、騎士団員だったり、傭兵だったりと言う感じで、シナリオが進むにつれてキャラデザに使用できる組織が増えていく。


 なお肝心の性能はお粗末。搭乗機は全員量産機で貧弱なうえに、パイロット性能も6人と比べると6割から8割程度のスペックしかない。


 まぁ主人公以外の5人は成長曲線が大器晩成型に加えて、パワーアップイベントが来るまで機体も量産機と大差ないので、中盤までならマイキャラが使えないこともなかったりするんだけど。


 ―――ちょっと。二人を蔑ろにしたら、ただじゃおきませんわよ?


 そのつもりはないよ。ないんだけど……。


 ―――ないんだけど、なんですの?


 実は入学すると、この二人が頻繁に主人公を貶めようと暴走して、最終的にその責任を取らされる形で婚約破棄だと三行半を下されるんだよな。


 ―――確かに、お二人はわたくしを妙に神聖視している節がありますわね……。


訂正提案(リビジョン):『三行半』とは夫から妻へ送る離縁状のことですので、先の使用方法は不適切です》


 ドライコインはそういう陰キャがやるみたいなツッコミはいらないから。


 兎も角、二人に対しては後でしっかりと言い聞かせておかねば。


「マリア様のお耳には入っておられますでしょうか? なんと今年は平民が特待生として入学してくるとか。前代未聞ですわ」


「本当に、一体どうなっているのでしょう? マリア様だけでなく、今年は第一王子殿下や宰相閣下の御子息、それに王宮騎士団長の御子息もご入学為されるというのに」


「……その特待生の扱いについて、後程わたくしの方からお話があります。軽挙妄動は慎むようにしてくださいまし」


 二人に対しては、後でしっっっかりと言い聞かせておかねば。


   ●


 入学式はサクッと終わった。


 学園長が話をして、国王陛下から届いた祝辞が朗読されて、それで終わり。


 王子や攻略対象の何人かは学園関係者に近い席に座るんじゃないかとか、王子から新入生代表の挨拶とかがあるんじゃないかとか思ってたけど、そんなこともなかった。


 おまけに席は男女別でブロックが分かれていたので、攻略対象達への接触はおろか、姿を見ることすら出来ていない。


 ―――建前としてですが、学園に通う間は地位という色眼鏡を通して相手を評価しないようにという名目で、爵位を始めとした外の関係は評価項目にはならない、ということになっていますわ。


《感想:王族や高級貴族であっても、学園は特別視をしないのですね》


 あくまで建前では、だけどね。だってここ、()()貴族学園だし。つまり王国の監督下にあるってことだから。


《感想:当機の予想より生徒数が多いですね。入学式に参加した生徒は、250人前後といったところでしょうか》


 お前の予想だと何人くらいだと思ってたんだ?


返答(アンサー):1学年につき、30人くらいかと》


 いくらなんでも少な過ぎる。やっぱポンコツなんじゃないかこいつ。


 ―――……一応補足させていただきますと、この国には一代限りの貴族、つまりヒラの騎士まで含めますと、貴族の数は2万人ほどになりますわ。ちなみに騎士当人が地位を返上するまでは、その扶養家族も貴族として扱われますので、それも含めて2万人ですわよ。そして60歳までに万遍なく年齢層が分かれていると仮定すると、同い年の貴族は300人余りいることになりますわ。実際に入学する生徒数は100人程度の誤差があるらしいですが。


確信(シュア):つまり250人とは順当な人数ということですね》


 俺としては30人しかいないって結果を出した過程が気になるんだが。


「マリア様、どうかなさいましたか?」


 おっと、取り巻き令嬢その1に話しかけられた。


 ―――取り巻き令嬢その1ではなくリリーナさんですわよ。


「いいえ、何でもありませんわ。わたくしたちも教室へ参りましょう」


 今年度の新入生クラスは3つあるが、俺たち3人、攻略対象の5人、そしてゲームの主人公は全員同じクラスだ。ようやくあの6人に接触することが出来る。


 ―――ところで、主人公さんのお名前は何と言いますの? そろそろ教えていただきたいのですけれど。


 ……分からん。というか知らん。


 ―――……はい?


 2作目以降の主人公は固定の名前があるんだが、1作目だけは主人公の名前はプレイヤーが入力するタイプなんだ。デフォルト名もないんで、マジで名前が分からん。


 ―――ちょっと、大丈夫なんですの!?


 外見は分かってるから大丈夫だ。入学式の間にも探してたんだが、ちょっと数が多くて見つけきれなかった。


 それに、俺たちが教室に着くころには第一王子との会話イベント中のはず。そこで後々のためにも布石を打っておこう。


  ●


 教室に到着するなり、一目で分かった。


 茶髪に青い目。肩まで伸びたストレート。親の顔より見た顔グラ。


 ―――もっとご両親のお顔を見て差し上げて。


 うっおー! マジで主人公が生きて動いてる! 当時のスタッフ達にも見せてやりてーわ! 泣いてうらやましがるぞアイツら!


注意(ワーニング):マスター、当初の目的を忘れないでください》


 いやスマン。なんか20年振りに生き別れた娘と会えた気分になったんでつい。とりあえず、途中までは原作と同じ感じに会話を進めよう。


「御歓談中に失礼いたします、リギア殿下。御息災なようで何よりです」


「……マリアか。久しいな」


 リントヴルム王国第一王子、リギア・リントヴルム。金髪碧眼で無口無表情系。そして何よりも……美形だッ!!


 ―――それ強調する必要ありまして? いえ美形オブ美形なのは全くもって同意いたしますが。


「おー、マリア嬢! めっちゃ久々じゃん!」「ご無沙汰しています」「マリア様も、変わらずご健勝なようで」


「お三方とも、お久しぶりですわね」


 騎士団長の息子と宰相の息子と乳兄弟も話しかけてくるが、こいつらは軽く流していく。


《感想:扱いが雑》


 いいんだよこの3人については雑で。


 乙女ゲーもギャルゲーも、基本的な構造は同じだ。

 攻略対象は周りにとっては心の底からどうでもいいようなコンプレックスや問題を抱えていて、そいつを解決すれば結ばれるか、結ばれたらそいつが解決するってのが大抵のパターンだ。


《感想:身も蓋もないことを言っていませんか?》


 客観的事実だよ。そして放置していても世界が滅びるわけじゃない。


 というわけでそのパターンが該当するこの3人は雑に説明していくぞ!


 まずは騎士団長の息子! レオニス・フォン・ガーヒリテア! 王子には劣るが美形で父親に戦闘訓練で勝てる気がしないというのが悩みのトラブルメーカーだ!


 次に宰相の息子! ヴァイト・フォン・イーリッヒ! 王子には劣るが美形で時期宰相を期待する父からの重圧が苦しいというのが悩みのトラブルメーカーだ!


 最後に王子の乳兄弟! グレイ・フォン・アトライア! 王子には劣るが美形で将来王子の支えになる自信がないというのが悩みのトラブルメーカーだ!


《感想:トラブルメーカーが多過ぎませんか? こういうのはバランスを取って個性を分散させるべきなのでは?》


 それぞれ担当する範囲が違うんだよ。レオニスは騎士団担当のトラブルメーカー。ヴァイトは政治とか騎士以外の貴族担当のトラブルメーカー。グレイはその他担当のトラブルメーカー。


 ついでに放置しててもシナリオが進むと勝手に悩みが解決するから何もしなくていいまである。


「そちらのお二人は、初めましてですわね」


「あ、は、初めまして! あたし、特待生のアリス・アレスです!」


 ほうほう、主人公の名前はアリス・アレスと。よし、覚えた。


「お初にお目にかかります、マリア様。私はマリウス教の助祭をしております、ニオスと申します。以後、お見知りおきください」


《感想:彼が最後、5人目の攻略対象ですね。『王子には劣るが美形』以外に、何か説明などはありますか?》


 あー、こいつはちょっとややこしいから今はパス。機会が来たら解説する。


「ゴルディナー公爵家のマリアですわ。恐れ多くも、リギア殿下と婚約をさせていただいております」


「わぁ、婚約ですか! 素敵ですね……!」


 婚約者と聞いて、アリスがキラキラした目で見つめてくる。これがリアルイベントスチル回収か……!

 ドライコイーン! スクショ撮っといて!


《返答:そんな機能はありません》


「……マリア」


 脳内フォルダ保存の真っ最中、リギアがこちらに目を向けもせずに悪役令嬢()の名前を呼んだ。おっ。これは来るか……?


「……学園の中にまで、外の関係を持ち込むな」


 フィーーーッシュッッッ!!!


 ―――何故魚!?

《質問:何故魚?》


 ()()()ってことだよ! 原作と同じ応答を再現してもリギアのこの言葉が引き出せるか保証はなかったが……、最初の賭けには勝ったっ!


 原作だと、この言葉を投げつけられたマリアはショックの余り逃げ出し、その光景を見ていた取り巻き令嬢たちが主人公に原因があると思いこんで虐め始めるんだよな。


 ―――た、確かに。婚約破棄されると知っていても、凄く心が沈んでいますわ……。


 な~の~で~!


 ここは挑発して暴言のピッチャー返ししま~す!


 ―――は?


「驚きましたわ。まさか……」


 ヤバい。狙い通りに事が運んでニヤけそうだ。ショックを受けた体で口元を隠さねば。


「まさか、入学式当日に、()()()()()()()()()()()()()とは思いませんでしたわ」


 ―――ちょっとぉーーー!!?


「何を、言っている?」


 お、流石にリギアがこっちを見た。ヘイヘイ王子様、鉄面皮が剥がれてる~。


 ―――どういうおつもりですの!? 説明してくださいまし!


「だってそうではありませんか。『婚約者の立場をひけらかすな』などとわざわざ御注意なさるということは、わたくしがその立場で振舞うと殿下は困るということでしょう。それでは何故困るのか?」


 一息止め、半目で王子の目を見ながらもハッキリと伝える。


「それはつまり、女遊びをしたいと。滅多に人と話さない殿下が早速アレスさんと仲睦まじくしていたのが動かぬ証拠ですわ。殿下は、()()()()()()()()()()()()()()と、そういうことでしょう?」


 リギアの方が目を逸らし、


「……そんなつもりで言ったのでは、ない」


 弱々しく反論するも、


「おや、それではどういうおつもりだと? 『学院内では爵位は持ち込まない』という学園の理念はわたくしも存じておりますわ。ですが、それと交友関係は別のものでしょう? それとも、普段から無口な殿下が、わざわざ言及なさるほどの御大層な理由が他にあられるのですか?」


「……不敬だぞ」


「不敬? オッホホホ! 殿下の方から外の関係を持ち込まないよう言っておいて、困れば外の関係である地位を盾にする。殿下は女をひっかけることよりも、掌返しの方がお上手なようですわね」


《感想:煽り過ぎでは?》


 それほどでもない。それに後のことを考えると、やりすぎるくらいでちょうどいいし。


 ほら、見てみろあの三馬鹿の顔。


《質問:トラブルメーカーの3人のことですか?》


 ―――まぁ、お顔が真っ赤ですわね。


 三馬鹿は王子のシンパだからな。こっちの取り巻きを暴走させない分、王子の取り巻きに暴走してもらわないと困る。平和過ぎると学園内でのイベント発生の取っ掛かりすら無くなりかねないし。


 直情的なレオニスが突撃しそうになっているが、残りの2人はさすがに状況が分かっている。2人がかりでレオニスが何も言わないように止めていた。


 そして自分は果たしてこの場にいていいのだろうかと、青い顔で右往左往しているアリスの姿も目に付いた。


《質問:三馬鹿についてですが、この状況下で何も言ってこないのは何か理由が?》


 いい質問だドライコイン君。乙ポイントを1点あげよう。解説のマリアさーん。


 ―――誰が解説ですか! ……説明いたしますと、理由は2つ。一つは殿下がお話しているということと、二つ目は殿下の話し相手がわたくしであるということですわ。


 ―――一つ目。先ほど、シュージさんが後ろのお二人を紹介する前に、殿下からわたくしの名前が呼ばれましたわ。リリーナさんとカタリナさんを紹介した後に呼ばれていたら『多人数での会話中に一人を呼んだ》という状況になりましたが、この順番が逆になったので『トップ同士での対話。周囲はその見届け役』という形になっていますの。


 ―――そして貴族社会では、上役同士の会話中に、下の者が発現するのは失礼な行為に当たりますわ。ですので、後ろに控える方々は殿下に何を言われても反論することが出来ませんの。今回は殿下の方から状況を作ったので、ここでフォローのために発言するということは、逆に殿下の顔に余計に泥を塗る、ということになりますわ。


 ―――ニオスさんが静観しているのも、このことを理解しているからでしょうね。彼は殿下とマリウス教の橋渡し役として入学してきたのでしょうから、初日から殿下たちの不況を買うわけにはいきませんわ。


 ―――そして二つ目。これは単純に、婚約者同士で話しているから。ここで介入するということは、両家に対してその婚約に不服であると表明することに他なりませんわ。つまり、『王家と公爵家に、当主でもない人間が家を代表して喧嘩を売った』ということになりますの。


 ―――もしこれをやってしまうと『我が家はそんなつもりはなかった。これで許してくれないか』と、下手すると廃嫡。場合によっては打首ですわね。


《感想:恐ろし過ぎませんか、貴族社会》


 ―――余談ですが、恐らくアレスさんは一つ目について御理解できておりません。これは平民なので致し方ありませんが。ですが周囲が何も言わないことで、これは婚約者間の話なので、周りの人たちも何も言わないんだろう、と察しているのだと思われますわ。


 ―――これでもしアレスさんが何か発言したら、それを皮切りに後ろの三馬鹿、……失礼。お三方も介入してくると思われますわ。


 以上、解説のマリアさんでしたー。


 しかし煽るだけ煽っといてなんだが、これでリギア本人にまで暴走されるとさすがに困るな……。ちょっとフォローも入れておこう。


「リギア殿下。発言にはご注意あそばし。貴族の世界では、この程度の揚げ足取りは日常茶飯事ですわ。殿下はただでさえ言葉少ななのですから、余計に些細な一言でも()()()()にさせられますわよ」


 一応忠言ですよという感じでリギアにだけ聞こえるように、耳元で囁いて身を離した。あとは退散するに限る。


「オーッホッホッホ! それでは、わたくしはこれで失礼させていただきますわ! 行きますわよ、リリーナさん! カタリナさん!」


 そして、


「―――アレスさん!」


「ひゃいっ! あ、あたしもですか!?」


 自分が呼ばれるとは思っていなかったのか、素っ頓狂な返事をアリスがする。


「このような方々の下に、貴女をお一人で残してなんていけませんわ」


 指をパチンと鳴らせば、取り巻き令嬢がアリスの後ろに回り、その背を押して俺の歩きに追従させる。


「あ、あの、すいません殿下! 皆さんも、これで失礼します~!」


 そのまま教室の端まで移動すれば、モーゼが海を割るように周囲のモブたちが道を開けてくれた。


 王子とお馬鹿な仲間たちと同じ教室内であることは変わりないが、ここは小さな教室ではなく、大学などの施設にあるような、100人以上が収容できる大講義室だ。中央から角までというだけでも、十分に離れることが出来る。


 そして、


「申し訳ありません、ゴルディナー様! あ、あたしのせいで殿下と喧嘩を」


 と開口一番、アリスに頭を下げられた。


「顔を上げなさい、アレスさん。貴女のせいではありませんわ」


「で、でも……」


「最初から、殿下にあのように言われたらこう言い返そうと決めておりましたの。将来の夫の女遊びに事前に釘を指すのも、婚約者としての務めですわ。むしろあなたがあの場にいたおかげでスムーズに事が進んだんですから、逆にお礼を言いたいくらいよ」


 そもそも三馬鹿がいるあんな環境に可愛いアリスを置いておけるか! このままマリアのグループに引き込むぞ!


 ―――過保護ですわね。


《感想:どちらかと言うと、親馬鹿というのが近いかと思われます》


 うるさいよお前ら。

次回ロボット(一応)登場予定

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