新たなる、赤・改 3
楽しい修学旅行でしたね……。
ロボット作品なのに、取材してもいない土地の旅行描写を入れる価値があるのか……?
なんだっていい! 新しい機体を紹介するチャンスだ! うおおおおお!
楽しかったー! 修学旅行ー!!
というわけで、数日をミーンで過ごした後、今は帰りの便の真っ最中だ。
《広告:どのような観光名所があるかは、実際に旅行に行って御自分の目でお確かめください》
―――誰に言ってますの貴方?
時々不規則発言するよねこいつ。
《反論:マスターにだけは言われたくないのですが》
こ、こんなに真面目に生きている真人間が不規則発言なんてするわけないだろ! 尻の穴に腕突っ込んで奥歯ガタガタいわせたるからまず人間の姿になって出てこいやオラァ!
ちなみに俺やリギア、それと取り巻きたちが乗っているのは大食蜂鳥だ。他の生徒は行きと同じく旅客機に搭乗している。
―――……あの、反応に困るので急に正気に戻らないで貰えます?
俺はいつでも正気なんだが。
ああ、なんで俺たちだけ輸送艦に乗っているかというのはね、修学旅行を楽しんでいた最中も、技師の皆さんは作業に勤しんでくれていたわけですよこれが。
戦争はまだ先になるとはいえ、それとは別に、用意を急ぎたいものがあった。俺はその進捗確認に、リギア一行は取り巻き3人が新型の開発で意見交換をしに。リギアとニオスはその3人に巻き込まれた形になる。
ちなみにニオスは一応付いてきたものの、下手に艦内を歩くと『事故』が怖いとのことなので、即座に与えた部屋に引きこもっていた。
俺の要件はすぐに終わったので、食堂にいるのは、期せずして夏休みと同じメンバーだ。
話題は旅行の後、騎乗士のテストと2週間後の中間テストだ。
その最中に、
『緊急事態発生! 緊急事態発生! 所属不明の軍艦が接近! 数は5!』
おや?
おやおやおや?
修学旅行の帰り道に襲撃されるイベント。なんだかどこかで言った気がしますね?
《感想:どう考えても来年発生するはずのイベントですよね?》
『敵艦主砲、こちらに向いています! 打電受信、投降を呼びかけています!』
―――現実逃避している場合ではありませんのよーーー!?
うん、そうだね。そろそろ現実を見ようか。
なんで来年発生するはずのイベントが、1年も前倒しになってんの!?
●
俺とリギアは、大急ぎで艦橋へと向かった。残り3人は三馬鹿の元へだ。
「艦長!」
「姫様、王子とお友達にも騎乗士のコクピットに乗るよう伝えてください。こいつに乗ったままより安全です。蜂鳥は旅客船の盾にします」
「何言ってますの、出ますわよ」
「馬鹿言わんでください、いい的です! 輸送艦ならまだしも、戦艦相手に空が飛べるからって取り付くことも出来ませんよ!」
「敵艦の照合は出来ておりませんの?」
「マリア、3号機を貸してくれ。私も出る」
「話を聞きませんねアンタら!? 騎乗士の速度じゃ遅すぎるっていってるんですよ! 対空砲で足を止められてそこを狙われるだけです!」
「艦長! 敵艦から騎乗士の出撃を確認! ぜ、全機、飛行しています! 数は……24!」
「馬鹿を言うな! そんなに飛べる騎士がいるわけがないだろ!」
「誰でも飛べる方法を生み出した、ということでしょう。わたくしたちもやっていることですし。……望遠拡大を出してくださる?」
飛んでいる騎乗士を確認する。全て、灰色と青で構成された騎乗士だった。あぁー、うん。あれは確定だわ。やっぱこれ、1年後に発生するはずのイベントだ。
本当に、どういうことなの……?
《感想:マスターの記憶に齟齬があったのでは?》
いやいや、そんなわけないって!
そもそもだ。原作ゲームでグリプスの連中が空を飛べるようになるのは、ゲーム主人公が1年生の修学旅行後に生み出した技術を元に、飛行手段として転用される。これが学園にいるスパイ経由で流れて、ってはずなんだ。
現実でも、俺たちが開発しているこの飛行手法は試作中で、薔薇獅子に取り付けられたばかり。
情報が洩れるにしても、グリプス側の動きが余りに早過ぎる。本当にどういう理屈だ。
「地上から連絡は来ていないんだろう? ここが国境近くとはいえ、それより早く接敵するとなると、相当な高速艦だ。輸送艦では逃げきれないし、下手をすれば王都まで来てもおかしくはない」
「それに、あの小蠅もどうにかしなければなりませんわね。取り付かれては一巻の終わりですわよ」
「艦長、私の親衛隊であれを撃ち落とさせる。艦内に連絡を入れてくれ」
「旅客機の方、迎撃は無理ですわね。装備的にも、いえ、それ以前に、飛行中は騎乗士の固定を解除出来ませんわ」
「撃退する気満々なところ申し訳ありませんが、こちらとしては、飛べるお二人には逃げていただきたいんですけどね」
「無理ですわね。旅客機は人質入りの巨大な箱ですもの。見過ごせませんわ」
「少なくとも、敵の騎乗士だけはここで落としておく必要がある。砲撃だけでは無理だ。裏に回られたらどうしようもない」
「そういうわけです。いいですわね、艦長」
「ああ、もう! 分かりました! 騎乗士の迎撃だけです! くれぐれも敵艦には近付かないでくださいね! 本当に死にますよ!?」
「ええ、もちろんですわ。行きますわよ、リギア様」
「ああ」
艦橋を飛び出して廊下を駆ける。背中から、王宮へと緊急連絡を飛ばす怒鳴り声が聞こえてきた。
途中で更衣室に寄ってスーツに着替える。着替えている場合かと思わなくはないが、俺たちが乗っているのは輸送艦だ。緊急発進を想定して建造される空母や戦艦とは違う。騎乗士の出撃準備にもそれなりに時間がかかるのだ。
あとついでに、この身体はデカいものが2つついているので、スーツ無しで騎乗士を操るとめっちゃ揺れて普通に痛い。
某ロボットで大戦なゲームだと、一部パイロットの御自慢様がブルンブルンと躍動感溢れるカットインが入ることが多い。だが、実際に女の身体になった今になって思うと、あんなに派手に揺れられてはとても戦闘どころではない。
というわけで、俺が着ているパイロットスーツはガッチリしっかり固定されてる。もしス○ロボに俺が参戦することになっても、カットインで揺れることはないだろう。公式の仕様ということでご了承ください。
《反論:参戦するわけがないでしょう。人気が出て書籍化してアニメ化して、どれだけの壁があると思っているんですか》
―――何の話か全く分かりませんが、死んでしまっては夢を叶えることは出来ませんわよ。
《感想:マスターの故郷では、人の夢と書くことで儚いという意味になるそうですね》
うるせえよ馬鹿。ともあれ、マリアの言うことは確かに正しい。
「敵は24機。一人当たり12機ずつですわね」
「俺たちなら、倒すだけだったら問題は無い。厄介なのは敵の戦艦、それとこちらの旅客機だな」
―――勝てますの?
勝てますの、じゃない。勝たなきゃならないんだよ。
1年分の開発予定短縮なんて、明らかな異常事態だ。何が原因でこうなったか、調査するためにもここで勝たなきゃ話にならん。
出来れば敵の総指揮官を捕らえたい。……が、旅客機という足かせがある以上、贅沢を言う余裕もない。
そうだ、確かリギアは2学期が始まってから、大食蜂鳥の格納庫へと入ってないはずだ。道中、そのことに思い至り、
「リギア様、予定よりも早くなってしまいましたが、お渡しするものがございますわ」
「渡すもの?」
「はい。夏休みの間に、リギア様の運用データを十分に集めることが出来ましたからね」
格納庫に到着すれば、そこにはずらりと白い機体が並んでいた。
決闘で破壊された、リギアの専用機……というわけではない。
並んでいるのは、全て親衛隊の騎乗士だ。
通常なら、白は王族のみが使用できる色である。だが、親衛隊の場合は条件が異なり、主が使用できる機体色を使うことが出来るのだ。
そして多数の技師たちが、白い機体群にスナイパーライフルやバズーカ砲を大急ぎで配備していた。
近くには三馬鹿が自分たちも出撃させろと喚いている姿も見えたが、忙しいのであれは無視する。
その空間から離れた場所には、赤い騎乗士、俺の薔薇獅子が主の搭乗を待っていた。
そして、その隣。他の白い機体より巨大で、隣の薔薇獅子とはよく似ていた。しかし部分的に形状が異なり、そして何より、色が違う。白と金で彩られた騎乗士。
それは、
「―――不知恐怖。リギア様の運用特性に合わせて3号機を改修した、貴方の専用機ですわ」
●
不知恐怖。
薔薇獅子にも起用されている回転式武装腕部機構を続投しているのは変わりない。
ただし、搭載されているコンテナは、不知恐怖のために開発したものだ。
その名もプラズマ・パイル。
以前に使用していたパイルバンカーを大型化したものだ。杭は以前と異なり、コンテナには内蔵されておらず、外側に露出している。また、先端部は角ではなく、ハンマーのように平らな形状へと変更された。
そして、名前の表す通り、プラズマ発生機能が搭載されている。
ビーム兵器の研究、あるいは代用に使えないかと開発していたプラズマ兵器の試作機として、先端部からはプラズマ刃が発生するのだ。ただし研究途中なので、刃渡りは非常に短い。基本的に、殴った時のオマケのようなものではある。それでも、普通に殴るよりも遥かに大きな破壊効果をもたらすことは確かだった。
このプラズマ・パイルはマニピュレーター、つまり騎乗士の指の保護機能を兼用しており、殴る際には、杭部分が拳より先に当たるように配置を調整されている。
当初の予定では、グローブ型のパーツを指に直接装着することを想定していた。だが、リギアの機体運用の傾向を調べてみると、打撃以外にも、相手を掴むことが多いのだ。
だからマニピュレーターをそのままに、同時に殴る際に保護できることを考慮して開発された。このプラズマ・パイルは、両腕それぞれに3つずつ配備されている。空いた一つは二連装サブマシンガンだ。
脚部にも改修が施されており、膝にもプラズマ・パイルが1つ組み込まれた。これは膝蹴り用だ。パイルを内蔵する際、膝関節と脛周りにも強度の強化が施されている。元の姿に比べると、下半身周りは重量感のある見た目になっていた。
そして背中には、1号機と同性能・色違いの試作型ウイングスラスター。
これまでの雄型騎乗士には、背中に何かを取り付けるということが考慮されていない。これは薔薇獅子も同様だ。
雌型の中には、背部装備がいくつか存在する。長期間移動のため、水や食料を大量に詰め込んだキャンプ・ランドセル。あるいは医療品を急ぎ輸送するためのホスピタル・ランドセル。他に、レーダー探知機や大型通信機器などを搭載している機種もある。
これも騎乗士の従来の操縦方法の例により、背中に武装を取り付けても操作する方法がないことに端を欲する。
だが、薔薇獅子のマシン・インターフェースの前では問題にならない部分だ。ウイングスラスターを取り付けるため、1号機と共に背中にコネクターが増設されていた。
「まだ試作機ですので、飛ぶためには、騎乗士に発生させる浮力が主軸なのは変わりませんわ。ご注意くださいまし。ですが、機動力は以前に比べ、大幅に向上しております」
本体の改修について説明を終え、最後にウイングスラスターについて補足する。
「そいつはありがたい。俺の戦い方だと、どうしても接近するまでがネックになるからな」
「それはわたくしの薔薇獅子も大差ありませんわね。ああ、わたくしは今回、試作品の射撃武器を携行しますわ」
「わかった。背中を預ける」
「理解が早くて助かりますわ」
先に出る、と言う言葉を残し、コクピットハッチが閉じられた。
『ハッチ開けろ! リギア・リントヴルム、不知恐怖、出るぞ!』
そして、不知恐怖が艦外へと飛び出した。輸送艦なので、騎乗士の出撃リニアレールなんてかっこいいものはない。というか騎乗士の多くが空を飛べないため、そんなものは開発すらされていない。
あー、戦艦の設計もしなきゃならんのか、これ?
―――いいからわたくしたちも行きますわよー!!
それもそうだ。ヘイドライコイン、いつもの。
《了解》
『ガンさん、あれを持っていきますわ! ああ、それと例のアレ、今すぐ組み上げてくださるかしら』
《同期:開始》
『はぁ! 今すぐぅ!?』
《仮想空間:挿入》
『この戦い、最後に必要になりますわ』
《操作権限:同調》
『ああクソッ! 分かったよ! 嬢ちゃんの無茶振りはいつものことだ!』
《―――対滅抵抗:起動実行》
というわけで、
『マリア・フォン・ゴルディナー。薔薇獅子、パーティタイムですわよ!』
リギアを追い、俺も空へと飛びだした。
●
「どうやらハズレを引きましたな、艦長」
リントヴルムへと侵入したグリプス王国の5隻の軍艦、その一番後ろに位置する船の艦橋で、そんな言葉が投げかけられた。
この艦の副長だ。大食蜂鳥から赤と白、2機の騎乗士が出てきたのを確認し、出てきた言葉だった。
「ハズレ? 言葉はきちんと選びたまえ、副長。士気にも響く」
艦長は副長を大仰な身振りでたしなめ、
「大当たりが2つに、当たりが1つ、だ。私たちが引いたのは当たりだよ」
心の底から、勝利を確信した笑みを浮かべた。
リントヴルムの貴族が集まる学園、その3割以上が旅客機一つで国境近くまで飛んでくるのだ。旅行の日程を手に入れ、さらには新規に建造した高速航空戦艦による電撃奇襲作戦により、300人近い人質をまとめて手に入れるのが今回の作戦目的である。
行先は3つあり、まともな戦力が護衛についているのは、第一王子の親衛隊が付いてくる1つだけ。つまり、それ以外は大当たりだ。
残念ながら、王子がどこに行くかまでは判明しなかったが、仮に王子がどこを選んでも、襲撃できるルートはミーンから帰るこの一つだけだ。選り取り見取りとはいかなかった。
それに、王子がいようがいまいが作戦の遂行には支障がない。仮に第一王子の親衛隊というリントヴルム屈指の精鋭が相手だとしても、空を飛べる騎乗士を多数持つグリプス側は、圧倒的に有利だからだ。
「報告は私の耳にも入っている。あの機体、公爵家の娘と王子で間違いあるまい。それにしても忌々しい。王族があんな色の騎乗士に乗るとはな」
「捕らえますか?」
「……いや、殺せるなら殺せ。特に公爵令嬢は騎乗士開発の天才と聞く。万一にも生かして帰し、これ以上リントヴルムを強化させるわけにはいかん」
「そういう意味では、大当たりを引きましたな。この艦からも出撃させますか?」
「ふむ、馬鹿なガキが自棄になることも考えられるか。あの年ごろは碌なことを考えん。……アレ以外は全部出せ。1機ずつを各艦の直掩に当たらせろ」
「アイ・サー。ヒュイーナは5機とも出撃、各艦の直掩に当たれ。敵騎士の生け捕りは考えるな」
「前に出ている機体は旅客機にプレッシャーをかけさせろ。敵艦の下に潜り込め。艦砲射撃はまださせるなよ、人質をまとめて消しては、ここまで来た意味が無くなるぞ」
「騎乗士隊、有効戦闘距離まで、100を切ります!」
指示を出し、クルーから聞こえてくるのは騎乗士同士の接触が近いことを表す言葉だ。
「残り90……80……70……」
そして、
「っ……!? 最前線機、五番艦隊長機、信号途絶!」
「何……? 遠すぎるぞ!」
続けられた言葉は、想定していた射程距離よりもはるかに遠くから、味方機が撃墜された報告だった。
ノリと勢いで機体名を決めちゃったせいでまたもや命名規則ガン無視した公爵家令嬢がいるらしい
誰のことなんでしょうね(すっとぼけ)




