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龍宿りし乙女  作者: 村井喜久
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アルテンシュタット その1

アルテンシュタット侯爵の元々の領地である辺境伯爵領は、王都ゴルトベルクから西に馬車で15日ほど離れた国境地帯に位置する。

隣国ウプサラ王国とシュタイン王国の間には10年前に平和条約が結ばれ、平穏を保っているが、それ以前はしばしば小競り合いが起きていたこともあって、現在でも4個の騎士団、1個の魔導師団、10個の歩兵団からなる領軍を有しており、王国の中でも指折りの軍事力を誇る。

有事にはこれに加えて王都から国軍が派遣されることもあるが、国軍の司令官に王族が任ぜられる、国王直属の近衛騎士団が派遣されるなどの特別な事情がない限りは、辺境伯が王国の将軍としての立場で国軍も併せて指揮することとなっており、王国の軍事・外交面における辺境伯の発言力はかなり強いものとなっている。


アルテンシュタットの領内には、西のウプサラ王国との国境沿いと北の山岳地帯沿いにそれぞれ4ヶ所と2ヶ所の砦が築かれ、ウプサラ王国に対する防衛線を構築するとともに山岳地帯からの魔物の侵入に備えている。


アルテンシュタット侯の長女であるヒルデガルトがこの秋の叙爵式で子爵位を授けられた際、国王からアルテンシュタットの領内に城を持つことを許されたことから、6ヶ所の砦のいずれかを増改築することで、その居城とすることになった。

父のヨーゼフとしては新たに城を建てることも考えたが、出費のみ多くて戦略的な意味を持たないこと、築造に時間がかかりすぎることから増改築に収まった。

王太后としては、孫娘に新たな城を持たせたかったのかもしれないし、同時にアルテンシュタットの財力を幾ばくかでも弱めたかったのかもしれないが・・・

そこで問題となるのが、どの砦をヒルデガルトの居城として整備するか。

西の国境沿いは場合によっては外交交渉の場となったり、国境紛争の最前線となるため、うら若いヒルデガルトには荷が重い。他方、北の山岳地帯沿いは時折、魔物が山から下りてきたり、狼や熊などの獣が近隣の村を襲うことがある。

ヨーゼフは悩んだ末、領都から比較的近く、これまで強力な魔物の目撃情報が少ないメルツィヒ砦を選んだ。建前としてはヒルデガルトの居城であるが、領内ということもあり、普段はヒルデガルトを領都に住まわせ、ヨーゼフ自身の信頼できる部下を代官として派遣しても良いと考えていた。

ただ、そうは言っても、もしものとき、例えばヒルデガルト滞在中に中級以上の魔物が襲来した場合に備えて、援軍が到着するまで持ちこたえられるよう、城壁や堀などの防衛施設は強化するつもりだ。

また、今は武骨な純軍事施設だが、女性貴族の邸宅としての私的な空間や、ささやかだとしても祝宴が催せるような公的な空間も必要だろう。


**********


秋から冬にかけての社交シーズンが終わる頃、メルツィヒ砦は、ノルトキルヒェン城とその名を改め、城壁と堀の建設が始まった。

今後、城の本体の拡張工事を行うこともあって、東西と北側の壁と堀から手を着け、南側はまだ空けての作業だ。

魔物が巣食う山岳地帯を北に臨むことから、特に北側の堀は深く、大型の魔物であっても越えるのが困難な設計になっており、城壁についても将来、複数の側防塔を備え、死角を無くす計画になっている。

堅固な城に寄って油断を招いては本末転倒だが、それでも万全に万全を期したいと思うのが親心である。


**********


ヒルデガルトが晴れて貴族家の当主となり、辺境伯の令嬢という身分ではなくなったこともあり、ヨーゼフとしては早く彼女にアルテンシュタットの領地に連れてきたいと考えていた。


ヒルデガルトの居城を見せ、意見を聞きたいということもあるが、同時に、ヨーゼフ自身が新たな領地となったリンツ領の掌握と安定を図る必要が出てきたことから、アルテンシュタット領への目配りがどうしても減ってしまうため、ヒルデガルトに見込みがあれば、領地の経営を少し任せても良いと考えていた。

まだ領地を持っていないとはいえ、ヒルデガルトも貴族家の当主となったのだから、将来、自らの領地を持つこともあるだろうし、家臣の使い方や家産の運用について学ぶ必要があるだろう。

ヒルデガルトの弟であるレオンハルトは一足先にアルテンシュタットに戻り、騎士団で戦い方や指揮の仕方を学んでいる。女性であるヒルデガルトに危険なことはさせたくないが、魔導師団での訓練に参加させても良い。

いずれにせよ、これまで王都に縛り付けられていたためにできなかったことに色々と挑戦させて、ヒルデガルトが持つ可能性を拡げてやりたいと思っていた。

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