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龍宿りし乙女  作者: 村井喜久
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お披露目 その4

ブックマーク&評価、ありがとうございます。執筆の励みになります。


不定期の更新で恐縮ですが、引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。

アルテンシュタット新侯爵、ノルトキルヒェン新子爵の招待客への挨拶回りが一段落するといよいよお披露目の華、ダンスである。

まずお披露目の主役である令嬢がエスコート役の男性と二人だけで一曲踊った後、招待客も参加して、相手を替えながら3曲踊るのが慣例となっている。


「私と踊っていただけますか?」

貴族の子息たちが牽制しあって声を掛けそびれている中、流れるような動作でヒルデガルトに手を差し伸べたのは、第三騎士団長を務めるロートリンゲン公爵家のジークフリートであった。


「これはロートリンゲン団長様。謹んでお受けいたします。」

貴族の子息に知り合いなどほとんどいないヒルデガルトは、以前に言葉を交わしたことがあるジークフリートの申し出に少しはほっとした様子で軽く淑女の礼を執り、優雅な動作で差し出された手に自身の手を添えた。


ジークフリートはロートリンゲン公爵家の次男で今年28歳になる美丈夫だ。全ての貴族家の上に君臨する三公爵家の直系でありながら、王宮に詰める近衛騎士団ではなく、実戦部隊として国境紛争や魔物の討伐の最前線にも派遣される第三騎士団に入り、実力で団長にまで駆け上がった。

もちろん最初は家柄による配慮もあっただろうが、魔物の討伐では率先して先陣を切り、鷲獅子や地竜などの凶悪な魔物を打ち倒してきたことが、軍の上層部はもちろん部下や同僚の騎士団員からも認められたのである。


家柄も容姿も、さらに実績も申し分無いとはいえ、赤の他人の男性と愛娘が身体が触れ合う距離で踊る姿を睨み付けるような表情で見守るヨーゼフ。時折、ジークフリートがヒルデガルトを引き寄せる際には射殺しそうな視線をジークフリートに送る。

(こら、手の位置が低い!そんな所を触るんじゃない!顔が近すぎる!ヒルデガルトの瞳を間近で見つめて良いのは家族だけだ!)

ヨーゼフは心の中で一々注意せずにはいられない。


一方、ヒルデガルトの伯祖父であるハルシュタット公は複雑な表情で若い二人を眺めていた。

ジークフリートは最大のライバルであるロートリンゲン公の息子であり、上手く取り込むことができれば、ロートリンゲン家に対する牽制になり、あるいは二大公爵家の協力関係の礎になるかもしれない。

さらにジークフリートは次男であるが、もしその兄に何かあり、彼が公爵家を継げば、ヒルデガルトの子が将来の公爵になり、王家と二大公爵家にハルシュタット家の血が流れることになり、ハルシュタット家の力は盤石のものになるだろう。

逆にヒルデガルトがロートリンゲン家に取り込まれてしまえば、娘を溺愛しているアルテンシュタット侯がロートリンゲン家の側に付き、ハルシュタット家の力が削がれてしまうおそれがある。

今のヒルデガルトについては、良く言えば純真で素直、悪く言えば世間知らずで人を疑うことを知らない危うさがあると見ており、箱入りに育て過ぎではないか、もう少し高位貴族らしい駆け引きなども覚えさせておかねばならなかったのではないか、と公爵は不満を感じる。

下手に国内の貴族に娶せるくらいなら、いっそ、王家に連なる者として、他国の王族に嫁がせた方が王家やハルシュタット家にとってためになるのではないかとさえ思う。国内の貴族の子弟を婿に取ることにさえ難色を示すヨーゼフの想いとは別にハルシュタット公は姪孫の使い途を考えていた。


**********


アルテンシュタット家でのお披露目が無事に終わった三日後、ヒルデガルトは王太后から呼び出しを受けた。


「ノルトキルヒェン子爵ヒルデガルト、お召しにより参上いたしました。」

王太后の執務室に通されたヒルデガルトは深々と淑女の礼を執った。

「ノルトキルヒェン子爵、いえヒルデガルト、我が孫娘。よく来ました。そのように畏まらず、表を上げなさい。」

ソファに沈めていた身体をゆっくりと起こしながら王太后がヒルデガルトに視線を向ける。謁見の間など公式の場で並みいる貴族を睥睨する際の威圧感は無く、むしろ穏やかささえ感じさせる。


「王家の至宝に勝るとも劣らぬ献上品、改めて褒めて取らせます。ところで。」そう言って王太后は正面からヒルデガルトの瞳を覗き込むと言葉を続けた。

「先日のお披露目は大変盛会だったと聞いています。あなたもこれで一人前の淑女ですね。めでたいことです。」

「お祝いのお言葉を賜り恐悦に存じます。」

「あなたの母のクリスティーネは、あなたを私の孫として王宮でお披露目を開きたかったようですが、それはまあ、置いておきましょう。」

「も、申し訳ございません。」思いがけない祖母の言葉に、ヒルデガルトは恐縮して深く頭を下げる。辺境伯爵家に降嫁したのだから、第二王女であった母自身のお披露目のようなことはさすがにできないだろうと世間知らずのヒルデガルトでさえ理解できる。母として娘に精一杯のことをしてやりたいという親心は分かるが、君臣の別は付けなければならない。


「良いのですよ、ヒルデガルト。できる限りのことをしてやりたいとの親心は私も同じでしたから。」手にした扇をひらひらともてあそびながら、王太后は笑顔で応える。

「その代わりといっては何ですが、素晴らしい献上品を差し出した褒美として、ヨーゼフ殿の陞爵とあなた自身の叙爵を贈らせてもらいました。あなたの領地を用意できなかったのは申し訳なかったですが、ヨーゼフ殿も広大な領地をお持ちだし、子爵に相応しい領地を割譲してもらうのですよ。」

「領地のことは私には分かりかねますので、父のお考えのままに。」

「ふむ。よいでしょう。ヨーゼフ殿には私からよく言っておきます。ヨーゼフ殿の可愛い娘、私の可愛い孫にそれ相応の待遇を与えるようにね。」

「お心遣い、ありがたき幸せに存じます。」

王太后の言葉に当惑するヒルデガルトは膝を折って深々と淑女の礼を執り、頭を下げることでその表情を隠した。


王家による貴族領へのあからさまな介入が父や母、弟と自分の間に無用な不協和音を鳴らさなければ良いのだけれど・・・あるいは将来弟の妻となる女性の実家や自身の夫となる男性の実家も巻き込んでのお家騒動も心配・・・

原則として長男が単独で家督を相続することで、領地や権力の分散を防ぎ、貴族家が権勢を保ってきたのだ。にもかかわらず、王太后はアルテンシュタット家の領地を割き、あろうことか女性であるヒルデガルトに与えさせるという。

王太后はあえて波風を立てて、自身の娘であるクリスティーネ、ヒルデガルトの母の婚家の力を削りたいのだろうか。

それともアルテンシュタット家の後継者である弟レオンハルトだけでなく、同じ孫であるヒルデガルト自身にもアルテンシュタットの領地の一部なりとも継がせておくことで、将来、アルテンシュタット家に代わる辺境伯家を立てる布石にするつもりか。となれば、王太后の頭には定まった婿がねがあるということか。

いずれにせよ祖母の思惑に巻き込まれたことに、ヒルデガルトは心の中で溜め息をついた。

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