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龍宿りし乙女  作者: 村井喜久
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査問 その2

「まさか、伝説の古龍!」

両公爵の感嘆の声に釣らるように他の貴族達も驚きの目を向ける。


「まだ、本物と証明された訳ではない。」抗うようにレムシャイト伯が声を上げる。

「この数百年、白銀のアデルハイトは姿を見せていない。それがこんな短期間で、しかも初めて王都を出たような素人に見つけられるはずがない。」


職務柄、王国内の様々な情報が集まってくる内務卿の言葉に貴族達も少し冷静になる。

「確かに内務卿のおっしゃるとおりかもしれぬ。王国の至宝「白銀の龍槍」と「銀鱗の盾」が二つとあろうはずもない。」

「そもそも王国の至宝を騙るとは、畏れ多きこと。」

「そうだ、ロストック魔導卿に鑑定していただけば、すぐにでも真偽が明らかになるのでは?」


王太后の御前でありながら、貴族達が礼に反して口々に言葉を発するのは、それだけ白銀の古龍の爪と鱗を目の前にした衝撃の大きさを裏返したものであろう。

もし、本物であれば献上した者が平民であっても伯爵に叙されてもおかしくない、それだけの代物であった。


「王太后陛下のお許しが得られれば、鑑定させていただきましょう。」名指しされたロストック辺境伯は痩せぎすの背を折って、王太后に向かって頭を垂れ、言葉を待った。


「よろしい。ロストック魔導卿。そこにある龍の爪と鱗を鑑定せよ。必要とあらば、白銀の龍槍と銀鱗の盾を見ることも許す。」

王太后が重々しい口調で命じると貴族達の間に声にならない衝撃が走る。

このような査問の場で王国の至宝が見られるのか、そこまでしてもし偽物であったならアルテンシュタット辺境伯爵家は断絶となるのか、そんな様々な思惑がさざ波のように貴族達の中で飛び交った。


王太后の言葉を受けて、侍従長が奥へと姿を消すと、謁見の間は異様な静寂に包まれた。ほんのわずかな間が永遠にも感じられるような、そんな時間が過ぎ去ると侍従長が武器庫を預かる侍従武官長が艶やかな白絹に包まれた白銀の龍槍と銀鱗の盾を捧げ持って戻ってきた。

本来、王国の至宝である武具をこれだけの短時間で武器庫から持ち出すことは不可能であることから、予め王太后が指示していたのだろう。

侍従長が盾を、侍従武官長が槍を持って、それぞれ王太后の左右に立ち、白絹の覆いを剥ぎ取ると王国の至宝「白銀の龍槍」と「銀鱗の盾」がその威容を現した。


「シュタイン王国万歳!」

感極まったレムシャイト伯が涙を浮かべながら王太后と王国の至宝である武具を向かって姿勢を正し、他の貴族達も感激とともに白銀の龍槍と銀鱗の盾に目を向けた。

白銀の龍槍と銀鱗の盾はシュタイン国王と共に数多の戦場にあり、勝利と栄光をもたらしてきた伝説の武具であり、王家の権威の象徴でもあった。


ロストック魔導卿は、王太后に一礼すると献上品の龍の爪と鱗を乗せた供物台に近づいてくると、供物台の前に膝を突いているヨーゼフとクリスティーネに緊張が走る。


「ヨーゼフ殿、ご息女の献上品、しかと鑑定させていただく。」

感情の籠らない硬質な声でそう告げると、魔導卿はまず白銀に輝く長い爪を手に取った。


ロストック魔導卿が押し戴くように両手で古龍の爪を持ち上げ、しばらくするとその長い爪が白銀の光を放ち始める。王国でも一二を争う魔導卿が鑑定のために流した魔力に古龍の爪が反応したのである。


王太后を含め、周りの貴族達や侍従長らもその輝きに目を細めた。間近にいるヨーゼフとクリスティーネは床に視線を落としているが、それでもなお眩しく感じるくらい、その輝きは力強い。


「ふむ。」納得したように頷くと魔導卿は古龍の爪を供物台に戻し、続いて龍鱗を手に取り、同じように魔力を流し込むと、爪の時と同様に鱗は強い輝きに包まれる。


ロストック魔導卿は龍鱗を供物台に戻すと踵を返し、王太后の前に二、三歩進むとマントのすそを翻しながら膝を突いた。

「王太后陛下に申し上げます。これらの品々は王国の至宝『白銀の龍槍』と『銀鱗の盾』と同質の魔力を帯びております。」


ロストック魔導卿の言葉に周りの貴族達は改めてアルテンシュタット辺境伯夫妻に視線を向けた。

王国の禁を破り、査問にかけられていた辺境伯が一転して、王国の至宝に匹敵する貴重な素材を献上し、多大な功績を上げた者として陞爵することもあり得るのではないか。


「そ、それで、それらの品は古龍のものなのか、それとも劣等種のものなのか?」震える声でレムシャイト伯が尋ねる。


「質、量ともに王家の至宝に勝るとも劣らぬ、すばらしいものです。古龍のものと考えてよろしいかと存じます。」

ロストック魔導卿はレムシャイト伯を一顧だにせず、王太后に言上した。


「ロストック魔導卿、大儀であった。」王太后は魔導卿を労うと、視線をヨーゼフ夫妻に移した。

「アルテンシュタット辺境伯、そなたの娘が手に入れたというそれらの品々は、我が王国の至宝に匹敵する貴重な物のようじゃ。王国の禁を犯した罪、王太后たる私を謀った罪を贖って余りある。」

頭を垂れているヨーゼフとクリスティーネを見下ろしながら、王太后は言葉を続けた。


「これまで武勲、そして此度の功績を讃え、此度の不始末は不問にとする。時に最大の功績者である我が孫娘ヒルデガルトはまだ御披露目前。褒美として何を与えれば良いか、何か考えはあるか?」

王太后から突然陞爵を告げられ、さらに娘への褒美の希望を尋ねられて、ヨーゼフは一瞬言葉に詰まったが、すぐに応えた。


「古龍の素材を得るためとは言え、王国の禁を犯した身に勿体無きお言葉。王太后陛下のありがたきお心遣いに、アルテンシュタット辺境伯ヨーゼフ、恐悦の極みにございます。」深々と頭を垂れ、ヨーゼフは礼の言葉を述べると顔を上げる。


「此度の手柄は全て我が娘ヒルデガルトに帰するもの。願わくばヒルデガルトに王都から出る自由を賜れれば、ありがたく存じます。我が領地を、広い世界を見せてやることができれば、これほどの喜びはございませぬ。」


「ほう。無欲なことじゃな。王都を出る自由だけで良いと。」

王太后の目が細められる。


「恐れながら、王太后陛下。籠の鳥は大空に恋い焦がれるものでありましょう。」

王太后の言葉に応えたのは、王太后の兄であるハルシュタット公だ。

「我が姪孫ゆえ贔屓目になり申すが、これだけの宝を手に入れるだけの力を持つ者を王都に閉じ込めておくのは勿体無いことと愚考いたす。」


「ふむ。ハルシュタット公の申すことももっともなこと。」

兄の言葉に頷きながら、王太后は自身の娘と婿に視線を戻す。

「いずれにせよ、次の叙爵式を楽しみにすることじゃ。アルテンシュタット辺境伯、その妻クリスティーネ、これからも忠義に励めよ。」


王太后のその言葉に周りの上級貴族達がざわめく。叙爵式を楽しみに、ということはアルテンシュタット辺境伯が侯爵に陞爵するということか。

そんな上級貴族たちを見て、王太后は羽扇で口許を覆い、そっと笑った。だれがどう動くのか、しばらく面白いドタバタ劇が見られそうだ、と。



今回もお付き合いくださり、ありがとうございました。

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