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龍宿りし乙女  作者: 村井喜久
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帰路

今回もお読みくださり、ありがとうございます。


引き続き、頑張りますので、楽しんでいただけたら嬉しいです。

夕刻にシュネーベルクの街を馬で発ったヒルデガルトとデルマは、『点灯』の魔法で夜道を照らしながら、ひたすら街道を南へと駆けていく。


途中、何度か駅亭で軽い食事を取りつつ馬を乗り換え、馬車であれば10日かかるテルミッツまでの道程を丸2日で走破できたのは、デルマが持ってきていた『回復』の霊薬を何本も飲み干して疲労を抑えることができたためだろう。


「かなり無理な早駆けだったけど、ヒルダ、大丈夫?」

街に入ってデルマは馬を常歩でゆっくりと進ませながら、ヒルデガルトの横に並ぶと心配げに声を掛けた。

貴族、それも軍事貴族である辺境伯の令嬢であるから馬に乗れることに不思議はないが、さすがにこれだけの強行軍で走ったことはあるまい。


「お心遣い、ありがとうございます。慣れない騎乗で関節や筋肉が悲鳴を上げそうですが、まだ大丈夫ですわ。」

ヒルデガルトは少し疲れた様子だが、まだ笑顔を見せるだけの元気は残っていそうだ。


(これだけの強行軍でまだ余裕があるなんて・・・さすがは辺境伯の娘というべきか、それとも古龍の力が関係しているのかしら?)

引率者を自認して、ヒルデガルトを気遣ったデルマだったが、当のヒルデガルトよりもデルマ自身の方が疲労困憊といってよい状態だった。


「この街でまた馬を乗り換えるのですね?急ぎ王都に戻らなければ、お父様にご迷惑をかけてしまいます。」

逸る気持ちが抑えられず、馬を乗り換えてすぐにでも出発したそうなヒルデガルトだったが、隣で馬を歩かせるデルマの顔色が白を通り越して蒼白となり、目の下には濃いクマができているのを見て取って、はっとした。


「申し訳ありません、デルマ先生。私ったら、自分の都合ばかり申し上げて・・・」

自身のわがままがどれだけデルマを振り回しているかに思いが至り、恥じ入るようにヒルデガルトは小さくなって、詫びの言葉を口にした。


「良いのよ、ヒルダ。お家の大事ですもの。でも、ごめん、ちょっとだけ休ませて。」

ヒルデガルトの労りの言葉を聞いて、デルマが珍しく弱音を吐く。


「この街ではろくでもない目に遭ったから、ほんとは私も素通りしたいけど、もう限界・・・」

口にした途端、デルマは改めて自分が疲れていることを自覚したのか、一気に力が抜けていき、馬に跨がっていることさえつらくなってきた。


**********


「ふぅ、ようやく人心地ついたわ。」

前回この街に訪れた際に立ち寄った裏通りの料理屋で4杯目の赤葡萄酒を飲み干し、こんがりと焼かれた分厚い赤牛の肉を2枚平らげた後、少し赤くなった顔でデルマが独りごちた。


「それにしても、ヒルダ。あなた、箱入りなのに、これだけの強行軍で馬を駆れるなんて、大したものね。」

グラスに赤葡萄酒を注ぎながら、デルマはヒルデガルトに話しかけた。


「乗馬は幼い頃からお父様に教えていただきましたの。ですが、これほどの遠乗りはしたことが無くて・・・」

しずしずと上品に赤牛の肉をナイフで切りながら口に運んでいたヒルデガルトが、デルマの問いかけに応え、

「体の節々と、あと・・・お尻が痛いですわ。」少し声を落とし、恥ずかしそうに俯いた。


「あー、鞍擦れね。お尻の皮が剥けてしまうかも。」お酒が入って、少し口の滑りが良くなっているのか、デルマが大きな声でそう言うと、ヒルデガルトは益々小さくなってしまう。


「デルマ先生、あ、あんまり大きな声でおっしゃられると、恥ずかしいですわ。」消え入りそうな声でヒルデガルトはデルマに抗議するが、デルマには効かなさそうだ。


「まあまあ、皮膚用の軟膏も持ってきてるから、寝る前に塗っておくと良いわよ。黄檗が入っているから熱も取ってくれるし。」

そう言いながら、荷物袋に手を突っ込むと木製の軟膏入れを取り出して、ヒルデガルトの前に置いた

「はぁ、そうなのですね?」いきなり軟膏の成分を言われても、知識の無いヒルデガルトには判断のしようもなく、曖昧な返事をするしかない。

ヒルデガルトが恐る恐る手を伸ばし、蓋を回し開けると濃い黄色の軟膏が入っていて、お香のような独特の匂いが漂ってきた。


「今回は北の土地だったけど、いつか南にも行きたいわね。南のスラヴァ王国では珍しい香辛料が沢山あって、霊薬に使える物も多いみたいだし。」

雪山で凍える思いをしたからか、デルマは南の亜熱帯の国の名前を口に出し、ちょっと遠い目をした。


「デルマ先生は、本当にいつも霊薬のことを考えてらっしゃるのですね。」

常に考えが霊薬に結び付くデルマに、ヒルデガルトは素直に感心した。ヒルデガルト自身はそこまで真剣に向き合ったものが無く、日々漫然と生きていると無意識に自覚しているのかもしれない。


「そりゃあ、好きでやってる仕事だしね。」少し照れたように、えへへと笑うデルマ。お酒の力もあって、普段の鋭さが影を潜めて、随分と雰囲気が柔らかだ。


「ヒルダ、あなたも心から打ち込めるものに早く出会えると良いわね・・・」ヒルデガルトの迷いを見透かしたかのように呟きながら、デルマは寝息を立てていた。



今回もお付き合いくださり、ありがとうございました。

おかげさまで70回目に到達しました。

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