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龍宿りし乙女  作者: 村井喜久
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古龍の継承 その2

ブックマーク&評価、ありがとうございます。執筆の励みになります。


不定期の更新で恐縮ですが、引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。

「それにしても・・・大きいと言うより巨大ね。」ぺたぺたと白銀に輝く龍の体を撫でながら、デルマが感嘆の声を上げる。


「本当に大きいですわね。」そびえる壁のような巨体を見上げ、ヒルデガルトはデルマの言葉に頷いた。

「私でも抱えられたエオストレが本当にこんなに大きくなるのかしら?」


「さて、ヒルダ。」

邪魔な黒ずくめたちを洞窟の外に放り出してきたエオストレがヒルデガルトに話しかけてきた。


「これから儀式を始めるけど、手伝ってもらえるかしら。」

「私にできることでしたら何でもお手伝いいたしますわ。」

「ありがとう。」


「何?何?儀式?まさかこれを甦らせるつもり?ヒルダに危険が及ぶようなことはないでしょうね。」科学者的な好奇心とヒルデガルトの保護者として、興味と不安が入り交じった声でデルマが尋ねてきた。


「はぁ。デルマ、本当ならあなたも外に放り出したいところだけど。」

本来であれば部外者のデルマのそんな調子を見て、エオストレが嘆息する。

「屍龍化させるつもりもないし、ヒルダに危険は無いから大人しく見てなさい。」


「デルマ先生。ご心配ありがとうございます。でも、きっと大丈夫ですわ。」

そう言って落ち着いた様子で微笑みかけてくるヒルデガルトを、デルマは改めて見つめ返した。

(あの頼りなげなお嬢様がこうして古龍のもとに辿り着くとはねぇ。)


「そうだ、デルマ。」思い出したようにエオストレが声を上げた。

「アデルハイトの鱗や爪、牙、皮を先に取っておくと良いわ。」


「えーっ?そんなことをして良いの?」

「あなたみたいな人にとっては、古龍の素材は貴重でしょ。」

「でも、あなたやヒルダも古龍の素材を求めてここまで来たんでしょ?」


怪訝そうにエオストレとヒルデガルトを見るデルマにエオストレが応える。

「私に必要なのは鱗一枚だから。でも変な人間に渡すのは嫌だし。それにこれから儀式を終わらせるとアデルハイトの肉体にくっついたままの鱗や牙は魔力を失ってしまうわよ。」


「ヒルダ、あなたも持って帰りなさい。王家の宝物にもなる代物よ。」

「確かにお父様はお喜びになると思います。でも、私自身にとっては必要の無いものですわ。」

「それは違うわよ、ヒルダ。あなた、禁を破って王都を離れたんでしょ?それが王家に知られた際には伯爵家は取り潰されるかも知れない。そんなとき、龍の素材を王太后に献上すれば、家の存続に誰も異を唱えられないわ。何と言っても王家の宝物にも匹敵する素材だもの。」


まどろっこしいヒルデガルトとデルマにしびれを切らしたエオストレは、一つ溜め息をついた後、白銀の古龍の骸から自ら素材を切り取った。

その数、磨き抜かれた長剣のような牙が30本、槍の穂先のような爪が20本、白銀に輝く大きな鱗が100枚、一抱えもあるような角が2本、皮が鎧にして5着分、眼球から取り出した透明な玉が2つ、ガラスの器に詰められた龍の血が10本、牛一頭よりも大きな塊に切り出された肉、そして3クラフテル(約5メートル)にもなる尾の先。

「これだけあれば充分かしら?」


エオストレによって目の前置かれた古龍の素材にデルマは息を飲んだ。

「こ、こんなに!城どころか小国を丸々手に入れられるほどの価値があるわよ。」

王家の至宝とされる槍と盾を遥かに上回る素材を前にして、デルマが興奮を抑えきれない様子で素材を一つずつ手に取り、確認していく。


「エオストレ、古龍の素材は最高の武器や防具を作るのに使われると伺いましたが、こんなにも簡単に切り出せる物なのでしょうか?」

エオストレがあまりにも簡単にアデルハイトの骸から龍の素材を切り出してきたので、ヒルデガルトは不思議そうに尋ねた。

こんなに簡単に切り出せる物が例えば防具として役に立つのだろうか?


「触ってみれば分かると思うけど、決してそんなにヤワな物じゃないわ。簡単に切り出せたのは私がアデルハイトを引き継ぐ古龍だからよ。」


事も無げに言われたエオストレの言葉に、ヒルデガルトは改めてエオストレの白銀に輝く体を見つめ返した。

「やはり、そうなのですね。」そう呟くヒルデガルトの言葉には不安が入り交じっている。

伝説と呼ばれ、神とも崇められる古龍。

幼生とはいえ、その古龍と自身が契約を結び、義姉妹となっていることが信じられず、また、偉大な古龍に比べて卑小な自身の存在が飲み込まれてしまうのではないか。

あるいは持て余すような力を得て、自分自身がこれまでどおりの自分でいられるのかどうか。

これまで幼いエオストレを心のどこかで侮っていたのかもしれない。

そびえ立つ巨大な壁にしか見えない、かつての古龍アデルハイトの姿を目の前にしたヒルデガルトは改めて自身の置かれた状況に身震いした。


**********


デルマがアデルハイトの体を触ったり、拡大鏡で調べたりしているのを尻目に、エオストレとヒルデガルトは古龍の頭の前に立っていた。


エオストレによって頭部の後ろ側から生えていた二本の角が切り出され、また両の眼が抜かれているため厚い瞼を閉じたままになっているが、それでもなおただ眠っているだけに見えるくらい力を湛えた面構えをしている。


「アデルハイトはずいぶんと厳めしく、ゴツゴツとしたお顔をなさっているのですね。エオストレは滑らかでしなやかな姿ですのに。」

ヒルデガルトは恐る恐るアデルハイトの鼻先の辺りに触れながら、エオストレと見比べた。

「そうね。私と違って何千年もの間重ねてきた歳月もあるでしょうし、最初に得た血が雄性だったんでしょうね。」

「最初に得た血?」

「そう。私の場合、生を受けてすぐにあなたの指に噛みついて、血を舐めたでしょ。アデルハイトも同じように誰かの血を口にして、それが雄のものだったのよ。」

「はぁ。そういうものなのですね。」


いまいち腑に落ちない顔のヒルデガルトだったが、すぐに気を取り直した。

「それで、エオストレの継承の儀式をどのようにお手伝いすればよろしいのかしら?」

「まず、アデルハイトの頭部に一枚だけ色の異なる鱗があるはずだから、それを見つけて欲しいの。」

「色の違う鱗、ですか?」

「そうよ。アデルハイトのその鱗が何色かはしらないけれど、どの古龍も一枚だけ違う鱗を持っていて、それが継承の儀式に欠くべからざる物だということだけは覚えているの。ただ・・・」

「ただ?」

「その鱗をどう使うかは記憶に靄がかかったように思い出せないの。」

エオストレが申し訳なさそうにうなだれる。


「そうなのですね。でも、全てはその色違いの鱗を見つけてからですわ。」

うなだれたエオストレを励ますように明るい声を出し、ヒルデガルトは大きな白銀の古龍の頭を調べ始めた。



今回もお付き合いくださり、ありがとうございました。

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