北へ その2
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おかげさまで50回目の節目を迎えることができました。
不定期の更新で恐縮ですが、引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
「さてと。」昼食の注文を終えたデルマは椅子に座り直し、ヒルデガルトを正面から見つめた。
「昨夜は不届き者の侵入を未然に教えてくれて助かったわ。」
「いえ。あの人たちは私を拐おうと企んでいたのにデルマ先生が退治してくださって、本当に感謝しておりますわ。」
「で、その時、ヒルダは言ったわよね、お友達が教えてくれたって。誰かご実家から着いてきているのかしら?」
デルマは笑顔で尋ねるが、その眼光は鋭かった。
「あっ、あの。」突然の質問に口ごもるヒルデガルトを見て、デルマがほんの一瞬だけ真顔になったがすぐに笑顔を取り戻した。
「家は黙って出てまいりましたので、誰も着いてきてはいないと思います。」
「ふーん。じゃあ、使い魔でも連れているの?まさか私たちが着替えているところとかお風呂に入っているところとか、覗いてないわよね?」
デルマは冗談めかして尋ねるが、その瞳は笑ってはいない。そもそもヒルデガルトの素性は何となく知ってはいるものの、付き合いも短く、分からないことも多い。
デルマとしては、伯爵令嬢の隠密旅のような厄介事に自ら飛び込んでいった自覚はあるが、だからこそ自らの置かれた状況と旅の道連れであるヒルデガルトの能力や状態は把握しておきたい。
「つ、使い魔だなんてとんでもありませんわ。」
明らかにうろたえているのが分かる口調と表情で否定するヒルデガルトをデルマはじっと見つめる。
「エオストレはお友達、そう、私の大切なお友達ですわ。」ヒルデガルトは気を取り直したように「友達」という言葉を強調する。
「友達ねぇ。で、そのエオストレとやらはどこにいるの?」そう言ってデルマはキョロキョロと辺りを見回した。わざとらしいこと、この上無いがヒルデガルトはあたふたしてしまって、それに気付く余裕も無い。
「き、きっと外にいると思いますわ。ええ、外に。」
「そう?さっきは見かけなかったけど。小鳥のように小さいのかしら?それにそもそも馬車の速さについてこられるの?」
「ええ。昨夜も声を掛けてくださったので、ついて来られているのは間違いないのですけれど。」
予想外のデルマの追求に、眉尻が下がり、困ったような表情になるヒルデガルト。実際にのところ、白銀の古龍がヒルデガルト自身の影の中に潜んでいるらしいことは理解しているものの、それがどのような原理なのか知らないし、古龍の力なのだろうと無理矢理納得している部分もあるのだ。
「ちなみに、その子は色白で、長い尻尾を持っているかしら?」
デルマは、荒野で灰色狼に襲われた時にヒルデガルトの影の中から白い鞭のような物が飛びかかってくる狼を叩き落としたのを思い出しながら尋ねた。
デルマがそれを目撃した時、魔法を使うことに必死で何も気付いていなかったヒルデガルトは、不意打ちを喰らった形でハッとしたようにデルマの顔を見つめる。
「デ、デルマ先生、どうしてご存知なのですか?」
「やっぱり。」デルマは一人で納得したように頷きながら、ヒルデガルトの瞳を覗き込む。
「で、そのお友達のために、龍、それも古龍の素材を探しているのね。」
「はい。先生のおっしゃるとおりです。」もう隠せないと悟ったヒルデガルトはデルマの言葉を肯定した。
「それにしても、まさかお友達が人間ではなく、魔物だか幻獣だったとはね。龍の素材を取り込んで強くしたいのかしら?」
「それは、分かりません。私はただ親友との約束を果たしたいだけなのです。その後、エオストレがどのような道を歩むかはエオストレの心のままですわ。」
「それはそれで無責任な話ね。もし、そのお友達が強大な力を得て、人類に敵対したら、ヒルデガルトはどうするつもりなのかしら?」
「エオストレは、私の親友は、そのようなことはなさいませんわ。気まぐれでいたずら好きなところはあると思いますけれど。」
「そう・・・。ヒルデガルトがそう言うのなら、それを信じましょう。で、私には紹介してくれないのかしら?」
デルマは、明るい口調に切り替えて、興味津々といった面持ちで尋ねた。
「それが・・・私もどうやって会えば良いのか分からないのです。いつもエオストレの方から会いに来てくださいますので。」
申し訳なさそうに視線を落とすヒルデガルト。
「エオストレはおそらく私のことやデルマ先生のことを観ているので、そのうち姿を見せてくれると思いますわ。」
そう言いながら、ヒルデガルトは、白銀の古龍エオストレが自らの力を取り戻す前に一攫千金を狙う輩から命を狙われることを警戒していたことを思い出していた。
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ヒルデガルトとデルマが話し込んでいるところに注文した麦粥が運ばれてきた。
一掴みの麦と二切れの干し肉、少しの乾燥野菜を入れて炊かれた麦粥が木をくりぬいて作ったお椀を満たしている。
ほかほかと湯気が立って、干し肉と野菜の香りが漂うが、麦入りのスープと言った方がしっくりくるくらいの薄さだ。
「これが麦粥なのですね。」ヒルデガルトは、これまで食べたことのない料理を興味深そうに眺めた。
「そうよ。王都の周りの農村だと朝に食べることが多いけれど、北に来るとお昼にも食べるみたいね。(こんなに薄いと麦粥じゃなくて、麦入りスープでしょう!これで銅貨8枚?)」
お椀に入った薄い粥に心の中で突っ込みを入れながらも、それをおくびにも出さずにデルマは解説する。
「それじゃあ、頂きましょうか。」そう言ってデルマは匙を手に取った。
「はい。デルマ先生。」ヒルデガルトはそう応えた後、麦粥に手を合わせ、「こうして無事に日々の糧を得られることに感謝します。」と小さな声で祈りを捧げた。
麦粥は干し肉の塩気と旨味がちょうど良く、麦入りスープだと心の中で突っ込んだデルマも美味しそうに頷きながら、食べ進んでいった。
「粒のままの麦を頂くのは初めてですが、パンと違って食感も面白いですし、美味しいものですね。」ヒルデガルトも素直に感想を述べながら上品に粥を口に運ぶ。
「お友達がヒルダに声を掛けてきたら、旅の道連れのデルマが会いたがっていたと伝えてね。」麦粥を食べながら、デルマは食事前の話を続けてきた。
「もちろんお伝えしますわ。私がこんなにもデルマ先生にお世話になっているのをエオストレも観ているでしょうから、想いは伝わっていると思います。」
とは言うものの、龍を含め、霊薬の素材を扱っているデルマに対する警戒心をエオストレがいつ解いてくれるかは、エオストレに任せるしかない。それは理解しているが、ヒルデガルトはエオストレに向けて「デルマ先生をが安心できる人物なら姿を見せてあげて。」と心の中で念じるのだった。
今回もお付き合いくださり、ありがとうございました。
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