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龍宿りし乙女  作者: 村井喜久
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父の悩み その2

ブックマーク&評価、ありがとうございます。執筆の励みになります。

おかげさまで30回目の投稿になりました。引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。

「それにしても・・・」ヨーゼフは愛娘と辺りに漂う白銀のきらめく粒を見ながら、娘に語りかけるでもなく呟いた。

「溢れた魔力が目に見える大きさにまで結晶化するのを見たのは初めてだ。普通はせいぜいうっすらと光が見える程度のはず・・・」

漂う光の粒を捕まえようと手を伸ばす父が何となく少年っぽくて微笑ましかったので、ヒルデガルトの顔が自然とほころんだ。


娘が自分を見て微笑んでいるのに気付いたヨーゼフは、光の粒を追う手を引っ込めて軽く咳払いをした。

「私が領地に帰っている間に、ヒルデガルトも日々成長しているということか。」娘の成長を喜びつつも自身の手の中から少しずつ離れていくような寂しさを感じるヨーゼフ。


「ミュールハイム侯爵嬢はお前の髪から魔力の粒が舞うのを見たようだが、それはいつのことだい?」

「昨日、王宮の図書室でお目にかかった時ですわ。帰りの馬車の中でエレオノーラ様から光の粒のことを伺って、私も初めて気が付きましたの。エレオノーラ様は森の妖精の悪戯ではないかとおっしゃったのですけれど。」

「ふむ。ミュールハイム侯爵嬢は魔力の実態にはあまり詳しくないのだな。まあ、このように結晶化した魔力を見るのは私も初めてだが。」


「お父様は魔術にはお詳しいのですか?」

「ああ、魔物の討伐では相手の魔法について知っておかねばならないし、こちら側の能力も把握しておく必要があるから知識としては詳しいが、私自身はそれほど魔術が得意ではないのだよ。」

愛娘のストレートな質問に少し苦笑しながらヨーゼフは応える。

「私はお前のように溢れ出すほどの魔力は持っていないし、通り一遍の魔法は使えるが、剣や槍で戦うのが10の力だとすると魔法で戦うのは6くらいの力しかないだろう。」

戦場での父を見たことがないヒルデガルトには、ピンと来なかったが、 勇猛をもって鳴るアルテンシュタットの領軍を率いる父だから武勇の面では人後に落ちないのだろう。その父の武勇の6割の力なら大したものだと感じるが、それを謙遜する父の念頭には誰か強力な魔術の使い手があるようだ。


「私は『点灯』や『清浄』のような簡単な魔法しか操れませんが、お父様や魔導師団の方たちはそれこそ英雄譚に出てくるような『火球』や『雷撃』のような魔法をお使いになるのでしょうか?」

「うむ。私は水や氷の属性が強いので『氷の矢』や『吹雪』のような魔法を操るが、魔導師団の中にはもっと強力な魔法を操る者も多い。」

「お父様が水や氷の属性をお持ちでしたら、その娘である私も同じように水や氷の魔法を操れるようになるのでしょうか?」

「そ、それは、まあ。」ヒルデガルトの素朴な問いかけに思わずヨーゼフは口ごもった。

「父さんの家系は水属性を持つ者が多いが、母さんの家系はどうだったかな。」娘にあまり魔術に深入りしてほしくないヨーゼフは、普段とは打って変わって歯切れが悪い。

「まあ、魔力を持っていることと、魔法を操ることは別の話だから。体力があっても剣術など戦いに向かない人もいるだろう?」


(あっ、お父様は私にあまり魔術に関わってほしくないのかもしれませんわね。)はぐらかすような父の答えにヒルデガルトはふとそう感じた。

そういえば、友人のエレオノーラは小さい頃に聖堂の大神官に属性を鑑定してもらった上で、今も魔法の訓練をしているようだが、ヒルデガルトはそのような記憶はなく、魔法にしても生活に便利な簡単なものを教わった以外は訓練と呼べるようなことはしていない。

もしかするとヒルデガルト自身に全然才能が無くて、父も諦めてしまったのかもしれないし、貴族でありながら魔法を満足に使う才能がない自分を傷つけないためにわざと魔術から遠ざけてくれているのかもしれない。


(でも、エオストレとの約束を果たすためにも、少しでも自分で自分の身を守れるようになりたい。)街に出て、己の無力さを痛感して帰ってきたヒルデガルトとしては、相手を倒せないまでも自身の身を守るための魔法を身に付けたかった。


「お父様。私も修練を積めば魔法を操れるようになるでしょうか?」表情を引き締めて、ヒルデガルトは父に尋ねた。

「修練か。う、うむ。修練をしないよりは、した方が操る力はつくだろうな。慣れということもあるし。しかしだな、私やレオンハルトのように戦いに出るわけでもないし、無理に苦労をせずとも・・・」どうにも歯切れが悪いヨーゼフにヒルデガルトの表情が曇る。

「やはり、私には魔術の素質が無いのでしょうか?」

「い、いや、才能云々ではなくてだな・・・」悲しげな愛娘の顔にヨーゼフが口ごもる。

「ヒルデガルトが自ら魔法を使う必要は少ないだろう?何かあればオットーやハンナが手伝ってくれるだろうし、もし危険なことがあっても私やレオンハルトが絶対にお前を守るから。」

どうしても魔法を使わない方へと話をそらしてしまう父にヒルデガルトは心が折れそうになるが、自らを奮い立たせて言葉を続ける。

「ミュールハイム家のエレオノーラ様は聖堂で大神官様に鑑定していただいて、魔法を操るための修練をなさっていると伺っております。私も貴族の娘である以上、それに相応しい力を身に付けとうございます。」


これまで両親の指示に素直に従っていたヒルデガルトが頑張って食い下がってくるのは、成長の証だろうか。

「分かった。お前がそこまで言うのであれば、近いうちに大神官様に引き合わせよう。ヒルデガルトも自らの足で立つ時が来たということか。」ヨーゼフはヒルデガルトの願いを聞き入れ、大神官の鑑定を受けさせることを承諾した。その声が少し寂しそうだったのは、愛娘が手の中から羽ばたこうとしているのを感じたからだろうか。


「ありがとうございます、お父様。わがままを聞いてくださって。もし、私が魔術の才能に劣っていたとしても、それを受け入れ、お父様の娘として恥ずかしくないように努力してまいります。」真剣な眼差しで父を見返すヒルデガルトは、少し前までののんびりふわふわした令嬢の殻を少しだけ破ったように見えた。



今回もお付き合いくださり、ありがとうございました。

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