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龍宿りし乙女  作者: 村井喜久
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自覚

ブックマーク&評価、ありがとうございます。執筆の励みになります。

引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。

結局、今回はヒルデガルトは何も得るもの無く、冒険者ギルドを後にした。仮に冒険者に依頼するにしても、どのような情報を、どのような範囲で、どれくらいの期間で収集するのか、そしてその報酬はどれくらいにするか、全く想定もしていなかったし、未成年のヒルデガルトが依頼主になり得なかったこともあるが、何よりヒルデガルト自身に十分な持ち合わせが無かったことが大きい。

ヒルデガルト自身の足で聞き込みをしようと意気込んで出てきたものの、有益な情報は無料ではなく、どこから情報を得れば良いのかという知識も乏しい。

物語や英雄譚では予言者や街の古老が素晴らしい手掛かりを教えてくれるが、現実はそのように甘くはない。


「残念だったけど、もう少し考えを整理して、お金の準備もして出直すしかないでしょうね。」帰り道、ヒルデガルトの隣を歩くデルマは慰めるように声をかける。

「デルマ先生、ありがとうございました。先生のお店でも大変失礼なことをしてしまいましたのに、こんなに親切にしていただいて。冒険者ギルドにつれていってくださったおかげで、自分がどれくらい世間知らずで甘い考えだったか、目が啓かれた思いです。」それは本心からの言葉だった。家族に守られ、執事や侍女が何でもしてくれる生活の中で、何も考えずに生きてきたことをヒルデガルトは痛感した。


「お恥ずかしい話ですけれど、私、本当に子どもで、物語のように何でもすぐに叶えられると思っておりました。現実には、噂話を一つ手に入れるだけでも人と人との関係やお金が必要になるのですね。」少し大人びた口調で話すヒルデガルトの横顔をデルマは少し驚いた目で見た。

デルマ自身とゲルト副長の厳しい洗礼を浴び、一度は涙を見せたものの心が折れることもなく、自身を見つめ直すことができるのは大したものだ。

それにしても、自分の店で涙を見せた時のヒルデガルトはまだまだあどけない顔をしていたが、今のヒルデガルトはどことなく凛とした気品さえ感じさせる。ほんの短時間でもこんなに人は変われるのかと、デルマは感心した。


「副長様をはじめ、ギルドにいらした冒険者の方たちは、皆さん、仲間の方に頼るのではなく、お互いを信じ、支え合っていらっしゃるようにお見受けいたしました。それに引き換え、私は家族にも執事たちにも一方的に頼るばかり。それこそ今日初めてお会いしたデルマ先生にもこうして甘えてしまって、お恥ずかしい限りですわ。」

「これは私が好きでやっていることだから、気にする必要はないわ。。それに、あなたはまだ子どもでしょ。子どもは人に頼るものよ。」デルマはそう言って、まっすぐなヒルデガルトに優しげな眼差しを投げ掛けた。

(このまま素直にまっすぐ成長してね。ドロドロとした貴族社会でそんな甘いことは通用しないかもしれないけど、それでもどうぞ清らかな心を失わないで。)デルマはそう願わずにはいられなかった。


**********


「それで、あなたはこれからどうするつもり?副長の言ったように冒険者に龍の情報を集めてもらうの?」一旦、デルマの店に戻り、デルマとヒルデガルトはテーブルで薬草茶を飲みながら話していた。薬草茶は甘い香りがして、飲むとほんのりと口の中に清涼感が広がる物で、デルマが植木鉢で育てた植物を乾燥させて作ったものだ。


「どうすれば良いか、まだ迷っておりますの。副長様は御自身なら自ら探すとおっしゃっていました。確かに副長様がおっしゃるとおりで、私のお友だちも人間は欲に目が眩むとすぐに裏切るから他の人間を巻き込むのは心配だとおっしゃっていましたし。」

「だからと言って、まさか、あなた自身で探すのは不可能でしょう?旅に出るには、色々な装備品を揃えたり、旅先で宿を取ったり、ご飯を食べるためのお金もたくさん必要よ。そもそも、あなたは自分で自分の身を守れるの?貴族なら強力な魔法が使えるのかもしれないけど。」

下手に冒険者ギルドに連れていったのは失敗だったかもしれないとデルマは心配になった。世間知らずのお嬢様は物語のように旅ができると簡単に考えてしまったのかもしれないが、実際の旅はそんなに甘いものではない。


シュタイン王国の中は比較的治安が良いとはいえ、街道には盗賊が出没することもあり、時折、冒険者ギルトに討伐の依頼が出ている時がある。また、魔物や危険な動物に襲われることもあり、商人も必ず護衛を連れて旅をしている。

ましてやヒルデガルトはまだ成人前の頼りない少女であり、それこそ人さらいに拐われて、売り飛ばされかねないし、護衛のつもりで雇った冒険者に乱暴されるかもしれない。ヒルデガルト自身は自覚していないようだが、まだ幼さを残しているものの、社交界に出れば求婚者が列をなすであろう美しい顔立ちをしており、男どもの邪な心に火を点けかねない。

デルマ自身でさえ貴重な薬草や素材を取りに行くときには、冒険者ギルドで護衛を雇うし、その際にも自分の店の常連で信頼のおける者にしか頼まないのだ。


「お父上にお願いして護衛の騎士を付けてもらったらどう?」父親が上級貴族であれば、何も冒険者を雇わずとも配下の騎士を何人か護衛に付けることは十分に考えられる。

デルマの言葉に、ヒルデガルトは少し困った顔をした。

「私は王都から離れることを許されておりません。身代わりを置いてこっそりと旅に出たとしてもお父様の騎士を連れていくことになれば、お父様に大変なご迷惑をかけてしまいかねません。」

「そうですか。貴族様は色々と制約があるのね。」デルマは深くは突っ込まず、あっさりと返事を返したが、その裏でヒルデガルトたち貴族の子弟が人質として王都に留まっていることを薄々理解した。


「私はまだ力不足で、満足に魔法も使えず、自分の身を守ることさえできません。少し時間はかかりますが、まずはお友だちにも教えていただきながら魔法を覚えようと考えておりますの。」

ヒルデガルトはエオストレに魔力の操作について習ったことを思い出しながら、せめて自分の身を守る程度の魔法は身に付けないと何も始まらないし、何よりもっと世間というものを知らなければいけないと感じていた。

一人で屋敷の外に出ただけで今日のような有り様で、もしデルマや副長に害意があれば、世間知らずで何の力も持たない自分などそれこそ赤子の手を捻るように有り金を巻き上げられ、売り飛ばされていたかもしれない。

冒険者を雇うにせよ、自ら探すにせよ、希少な龍の体を手に入れるためには、まず自身がもっと強く、賢くならなければ。今日一日の経験からヒルデガルトはそう痛感していた。


まずは魔法を学ぶという、思いのほか堅実なヒルデガルトの考えにデルマは少し安堵した。旅や冒険を物語のように簡単に考えているのではないか心配していたのは杞憂だったようだ。

これまで貴族などただの商売先で、どうなろうと知ったことではないと割り切っていたデルマだったが、この可憐な少女がどう成長するのかを見守りたいと思い始めていた。



今回もお付き合いくださり、ありがとうございました。

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