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龍宿りし乙女  作者: 村井喜久
20/125

相談 その2

おかげさまで20部分目の投稿になりました。

引き続きお楽しみいただけたら嬉しいです。

「さて。」魔法について一通り説明した白銀の古龍エオストレはヒルデガルトに向き直った。

「向こうの世界に私の前身、アデルハイトの肉体は十中八九、存在しない。」確認するようにエオストレが続ける。

「こちらの世界では、残念ながら今の私の力では独りでアデルハイトの肉体を探すことは叶わないわ。だからこそ人間であるヒルデガルトの力を借りたいの。」そう言ってエオストレはヒルデガルトの膝に頭を乗せた。

「はい。私の力の及ぶ限り、お手伝いいたしますわ。でも、どうやって探せば良いのか・・・」


「そうねぇ。王宮内の情報、軍事機密、貴族たちの噂、魔導師の研究機関の研究内容、冒険者への依頼、武具・防具ギルドの情報。急に羽振りの良くなった貴族や商人、冒険者あたりがいれば、そこから繋がるかもしれないし。まずはそういう人間の間で話される情報を集めることかしらね。」エオストレはさらりと言うが、まだお披露目前の貴族の娘にはなかなかハードルが高いものが多い。


「私にできそうなのは、まずは城下に出て冒険者ギルドやそのほかの商人や職人のギルドを訪ねることくらいですわね。」

「ヒルデガルトはまだ社交界のお披露目とやらは済ませていないの?」エオストレは永年蓄えてきた知識と記憶の中にある人間の貴族たちの習慣について質問した。

「私はまだ社交界のお披露目はしておりませんの。そろそろそういう年頃だとは思うのですけれど。」少し恥ずかしそうにヒルデガルトは答えた。貴族の子女として、やはり社交界へのお披露目は憧れであり、自身なお披露目でどのようなドレスを着るのかや誰に介添えしてもらうのかなど色々と想いを馳せてしまう。


「お披露目を済ませていれば、貴族の集まりで噂話も聞けたかもしれないのに、少し残念ね。」ヒルデガルトの答えに少し落胆しつつ、エオストレは続けた。

「王宮内や貴族の噂や情報はアルテンシュタット辺境伯、ヒルデガルトのお父さんから聞けそう?」

「それは・・・お父様がお戻りになられたら伺ってみようとは思いますけれど、お父様はあまり家族の前では王宮でのお話はなさらないので。そのときはごめんなさい。」


「お父様以外には、やはり冒険者や商人、職人のギルドでお話を伺うことになるのだと思いますけれど、私、これまで、そうした所を訪れたことが無くて、どういうことを聞けば良いのでしょうか。」自信無さげにヒルデガルトは質問した。

「たとえば、さっきも言ったように、急に羽振りの良くなった人がいないかとか、龍鱗を探してほしいという依頼が増えていないかとか、あるいは龍鱗を使った武器や防具が売り出されていないか。そういった話を聞くことから始めれば良いんじゃないかしら?」

「なるほど、そういうものなのですね!」ヒルデガルトの顔がパッと明るくなる。彼女の友人であるミュールハイム侯爵令嬢エレオノーラがヒルデガルトのことを「根っからの箱入り娘」と評したが、それは大切に育てられたということと同時に世間知らずということでもあるだろう。

質問すれば誰でも答えてくれる屋敷の中の環境とは違って、嘘の情報を教えられたり、対価を求められることもあるだろうに、ヒルデガルトはそこまで考えが至っていないようだ。


「今日はもう外に出るには遅いから、明日の朝からさっそくお調べいたしますわ。」ヒルデガルトはもう白銀の古龍の肉体を見つけたかのようにニコニコとエオストレに微笑みかけた。


**********


屋敷の外で馬の嘶く声がした。ヒルデガルトの父、アルテンシュタット辺境伯ヨーゼフが帰宅したようだ。


しばらくすると、ヒルデガルトの部屋の扉を叩く音が響いた。

「ヒルデガルト、先に城から下がったとのことだが、体調はどうだ?もう気分は良くなったのか?」心配そうな父ヨーゼフの声にヒルデガルトは扉を開けた。


「お父様、おかえりなさいませ。お伝えもせずに先にお城から下がってしまって、ごめんなさい。書庫で気分が悪くなってしまって、ミュールハイム侯爵家のエレオノーラ様に送っていただきました。少し休みましたら気分も良くなりましたわ。」

「そうか。それは良かった。侯爵家には後ほど使者を送って礼を述べておこう。」ヨーゼフは勇名をもって鳴る軍事貴族とは思えないような優しい眼差しで娘を見た。

「急に根を詰めて、書庫で調べ物をしていたから、疲れが出たのかもしれないな。何を調べていたんだい?何なら代わりにオットーに調べてもらおうか?」ヨーゼフは愛娘に優しく尋ねた。

「いえ、忙しいオットーの手を煩わせる訳には参りませんわ。」

「そうか?では、ヴァルトブルク子爵にご助力くださるようお願いしておこうか?」

「お心遣い、本当にありがとうございます、お父様。」父の優しい言葉と心遣いにお礼を述べながら、ヒルデガルトは先ほど白銀のエオストレと話していたことを父に尋ねた。


「お父様。実は今、白銀の古龍について調べておりますの。」

「白銀の古龍?伝説のアデルハイトのことを調べているのか。」

娘の口から思わぬ単語が出てきたのを聞いて、ヨーゼフは使用人たちを下がらせ、ヒルデガルトの私室に入ると後ろ手に扉を閉めた。

ヒルデガルトはあっという表情で後ろを振り返ったが、そこに白銀の古龍の姿はない。文字通り、ヒルデガルトの影に隠れたのだろう。

そんな愛娘の様子に、部屋の中に鋭い視線を向けながらも、ヨーゼフは優しく尋ねる。

「なぜヒルデガルトは白銀の古龍のことを調べる気になったんだい?」

「実は聖フリューゲルの日に白銀のアデルハイトが夢に出てきましたの。」

「ふむ。白銀のアデルハイトが。」ヨーゼフは呟くように繰り返した。

「それで、夢の中で白銀のアデルハイトが自らの身体の一部、龍鱗や角や牙などが取引されていたら、取り戻してほしいと告げられたのです。」

(あら。ヒルデガルト、少しは知恵が回りそうね。)上手く言い訳をしたヒルデガルトの言葉にエオストレは少し感心した。


「白銀の古龍が私のような非力な娘の夢枕にお立ちになって、このようなことをお告げになるとは、よくよくのことかと思いまして、それで調べておりました。」

「白銀のアデルハイトが・・・」考えを巡らすようにヨーゼフは繰り返す。

「白銀の古龍の爪を刃とした槍と幾枚もの龍鱗を貼り合わせた盾が王家の秘宝として伝わっていることは、ヒルデガルト、お前も知っているだろう?」

「はい。存じ上げておりますわ。」

「取引、というからにはその秘宝ではなく、別にそうした貴重な品が出回っているということか・・・」

古龍の身体の一部、龍鱗の一枚であっても各国の王や元首が門外不出の秘宝として厳重に管理しており、冒険者などが闇市場に流した場合には龍鱗一枚で小さな家が建つほどの高値で取引されているという。

「ヒルデガルト、私以外の誰かにその話をしたか?」ヨーゼフは、顔は微笑みながらも目には鋭い眼光を宿らせながら確認した。

「いいえ、夢の話は誰にも。ただ、書庫長様や司書のシャウマン様は私が古龍について調べていることはご存じです。」

「そうか。では、お前が見た夢のことは、私とお前だけの秘密にしよう。決して誰にも言ってはいけないよ。」ヨーゼフは優しく、しかし釘を刺すようにヒルデガルトに念を押す。

「お父様がそうおっしゃるのでしたら、夢のことは誰にも話さないようにいたしますわ。」父の言葉に気圧されるようにヒルデガルトは返事をした。





今回もお付き合いくださり、ありがとうございました。

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